アウディA8 55 TFSIクワトロ(4WD/7AT)
和みのハイテクサルーン 2018.12.11 試乗記 フルモデルチェンジで4世代目となった、アウディのフラッグシップサルーン「A8」に試乗。その走りは、隙のない技術的完成度を感じさせながらも、乗り手を和やかな気持ちにもさせてくれた。見た目からしてSFチック
アウディの旗艦A8の第4世代となる新型は昨2017年9月にバルセロナで発表された。「技術による先進」を看板に掲げるメーカーの頂点にふさわしいハイテクを満載すると同時に、インゴルシュタットの新しいデザイン言語によるカタチが与えられてもいる。
カタチに関しては好き嫌いがあるかもしれない。六角形のグリルは、とりわけ写真だとクロームが目立ってタラコくちびるみたいで、う~む、という感じである。実物は全然違うのに、フロントマスクは『スター・ウォーズ』のストーム・トルーパーを思わせる。スター・ウォーズの公開は1977年(日本では翌年)。「アウディ・クワトロ」の登場は1980年だから、ダース・ベイダーを含むあのデザインが当時の少年少女にして、こんにちの自動車デザイナー諸氏に与えたインパクトはいかばかりであったか……。
とはいえ、基本的には抑制が利いていて地味である。テスト車がブルーのメタリックというアウディらしからぬボディー色をまとっていたせいかもしれない。ラグジュアリーカーで控えめなのは悪いことではない。
自動運転の分野では、法制度さえ整えば、技術的にはレベル3(条件付き運転自動化)を実現しているともいう。新型A8はまさに技術が現実を超えた、未来の高級車なのだ。
四半世紀の円熟
1988年に登場した「アウディV8」からおよそ30年、6年後にA8と改名して再デビューを飾った初代から数えても、24年の歳月が流れた。フルタイム4WDをヨーロッパのフルサイズサルーンの世界にまで持ち込み、雨天や降雪時ともなれば、「Sクラス」や「7シリーズ」らのライバルを、時には「ポルシェ911」だってアウトバーンで軽くぶち抜いたりして、その実力を満天下に示した。
実際、筆者はその昔、997型911をかの地で試乗していてA8にあっさり抜き去られ、悔しい思いをしたことがある。言いたかないけど、ドライ路面だった……(涙)。突出した超高速巡航能力一本やりでもって下克上をなしとげたアウディにとって多大な貢献をしてきたモデルである。それが、初代から数えて、はや24年。歳月の積み重ねというのはやっぱり重い、というべきだろう。数字と理論のみで構築されていたようなところが魅力でもあったA8だけれど、第4世代に乗って筆者が抱いた印象は次のようなものだった。
なるほどハイテクの塊ではあるけれど、丸みというか円熟というか、人肌のような温かみがある!
試乗したのが、今回から“55”と呼ばれるようになったV6モデルだったことも幸いしたかもしれない。正直に申し上げて、“60”と命名されたV8には乗っていないけれど、バランスという面では2気筒少ない方が鼻先が軽いし、一般にパワーは小さい方が快適性は確保しやすい。どんな分野であれ、パワーというのは控えめに使う方が好ましい、ということはいえるのではあるまいか。
とはいえ55 TFSIクワトロのV6はボア×ストローク=84.5×89.0mm、排気量2994ccにターボチャージャーが装着されて、最高出力340ps/5000-6400rpm、最大トルク500Nm /1370-4500rpmという、絶対的には大した出力&トルクを発生する。
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静と動をあわせもつ
数値はスゴいのに、このエンジン、あまりスゴい印象を与えないのは、マイルドハイブリッドシステム(MHEV)を組み合わせていることもある。信号の停止ではエンジンが停止する。信号待ちでドコドコ鼓動を感じさせるところが内燃機関の醍醐味(だいごみ)のひとつだったと思うけれど、それがまるでない。
ラゲッジルームの床下に小型リチウムイオン電池が積んであって、ドライバーがスロットルを再び開ければ、即座にクランクシャフトに連結されたベルト駆動のオルタネータースターター(BAS)がエンジンをたたき起こす、というような表現ではなくて、やさしくそっと起こす。55~160km/hの範囲でドライバーがスロットルペダルを戻すと、エンジンを停止してコースティング(惰性走行)し、最大40秒間走行する。これらによってMHEVは実走行において燃料消費を100kmあたり最大0.7リッター減らす効果があるという。
ただし全開にすると、それなりに快音を発することもまた確かである。そのサウンドからして、大型スポーティーサルーンとして仕立てられている。フルタイム4WDながら、最近のアウディの高性能モデル同様、通常の前後トルク配分は40:60を基本としていることも、クルマ全体の動きの自然さというか、滑らかさにつながっているのかもしれない。
試乗車はオプションの「ダイナミックオールホイールステアリング」という名前の、アウディ初の4WSを装備していた。低速では前輪と逆位相に最大5度、中速から高速では同位相で最大2度、後輪を自動的に動かすこのシステムのおかげで、全長5m、ホイールベース3mの巨体を、とりわけ山道ではひとまわり小さな「A6」ぐらいの大きさのクルマに乗っているような気にさせる。
アウディドライブセレクトという名称のドライブモードをオートにしていると、ロールは深々とする。全然それが嫌ではない。しなやかに深々とするからエレガントで上品に感じられる。車検証には前輪荷重1140kg、後輪荷重950kg、車重2090kgとある。前後重量配分は54.5:45.5で、V6の軽さとリアにリチウム電池を搭載していることによって、フロントのみが重すぎないのだろう。8段のトルクコンバーター付きATはその存在をほとんど感じさせない。終始、スムーズな変速に徹して、出しゃばらない。
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技術のすごみが伝わってくる
乗り心地は模範的だ。アルミニウムとスチールにマグネシウム、それにカーボン素材を適材適所で使うアウディご自慢のスペースフレームによって軽量かつ堅固なボディーを実現していることがひとつには効いているのだろう。しっかりした土台に電子制御のエアサスペンションがいい仕事をしている。タイヤは前後ともに255/45R19という大きなサイズの「ミシュラン・パイロットスポーツ4」で、あたりはさすがに硬めではあるけれど、しなやかに足が動く。
ちなみに、2019年以降に「アウディAIアクティブサスペンション」なる新しいサスペンションが出番を待っている。最大1100Nmを発生する電動式モーターによって車両の姿勢変化をアクティブかつ最適に制御するのだという。
繰り返しになるけれど、こんなにハイテクの塊なのに、新型A8は和める大型スポーティーサルーンである。それこそが「技術による先進」である。これって人間が運転しないとわからないことなのに、アウディは自動運転に向かってまい進している。それってモッタイナイ、ムダなことをしているような気もするけれど、人間とは矛盾したことをやりたがるものなのだからして、それはそれ、これはこれと考えるべきなのだろう。完全自動運転のロボットカー、ぜひ見てみたいではありませんか。
日本市場で一番安いA8である今回の試乗車の車両本体価格は1140万円。これに4WS(28万円)やら、フロントのシートベンチレーションマッサージ機能や4ゾーンデラックスオートマチックエアコンディショナー、パワークロージングドアなどがセットになった「コンフォートパッケージ」(84万円)やら、「HDマトリクスLEDヘッドライト アウディレーザーライトパッケージ」(46万円)、さらに23スピーカーの「Bang & Olufsen 3Dアドバンストサウンドシステム」(81万円)やらのオプションが装着されていて、全部で1411万円に達している。
価格的に「メルセデス・ベンツS450」(ISG搭載モデル)の1147万円が近く、Sクラスには「S400d」という1116万円のディーゼルもある。BMWの旗艦、7シリーズの最廉価モデルは意外やプラグインハイブリッドの「740e iパフォーマンス」で1093万円である。そういう中、日本では依然いちばんリスクのある、アウディA8を選ぶようなひとに私もなりたい。既成の権威や価値観にとらわれない、自由で進歩的でオシャレな精神の持ち主ということだから。
(文=今尾直樹/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
アウディA8 55 TFSIクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5170×1945×1470mm
ホイールベース:3000mm
車重:2090kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:340ps(250kW)/5000-6400rpm
最大トルク:500Nm(51.0kgm)/1370-4500rpm
タイヤ:(前)255/45R19 104Y/(後)255/45R19 104Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:10.5km/リッター(JC08モード)
価格:1140万円/テスト車=1411万円
オプション装備:ダイナミックオールホイールステアリング(28万円)/コンフォートパッケージ<インディビジュアル電動シート[リア]+コンフォートヘッドレスト[リア]+シートヒーター[リア]+サイドシートランバーサポート[リア]+シートベンチレーション&マッサージ機能[フロント]+4ゾーンデラックスオートマチックエアコンディショナー+トランクスルー機能+パワークロージングドア+マトリクスLEDインテリアライト+リアシートリモート+リアシートUSB>(84万円)/アシスタンスパッケージ<フロントクロストラフィックアシスト+アダプティブウィンドウスクリーンワイパー+センターエアバッグ>(23万円)/HDマトリクスLEDヘッドライト アウディレーザーライトパッケージ<アウディレーザーライト+OLEDリアライト>(46万円)/Bang & Olufsen 3Dアドバンストサウンドシステム<23スピーカー>(81万円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:3779km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:312.3km
使用燃料:40.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.7km/リッター(満タン法)/7.7km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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