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第17回:アウディA8(前編)

2018.12.19 カーデザイナー明照寺彰の直言 明照寺 彰
「アウディA8」
「アウディA8」拡大

アウディのフラッグシップセダン「A8」。常に時代に先んじてきた超精緻な大型セダンは、新型でどういうデザインの世界を切り開こうとしているのか。それとも、デザイン面では行き詰まっているのか。

4代目となる新しい「A8」は、2017年7月に世界初公開された。
4代目となる新しい「A8」は、2017年7月に世界初公開された。拡大
六角形の巨大なフロントグリルが目を引くフロントマスク。この意匠は、同じタイミングで日本で発表された「A7スポーツバック」や、新型「A6」にも取り入れられている。
六角形の巨大なフロントグリルが目を引くフロントマスク。この意匠は、同じタイミングで日本で発表された「A7スポーツバック」や、新型「A6」にも取り入れられている。拡大
2014年2月にアウディのデザイン統括責任者に就任したマーク・リヒテ氏。
2014年2月にアウディのデザイン統括責任者に就任したマーク・リヒテ氏。拡大
2014年のロサンゼルスモーターショーで発表されたコンセプトカー「アウディ・プロローグ」。フェンダーまわりの造形で4輪を強調したデザインが特徴だった。
2014年のロサンゼルスモーターショーで発表されたコンセプトカー「アウディ・プロローグ」。フェンダーまわりの造形で4輪を強調したデザインが特徴だった。拡大

キレイな形はしているのだが

明照寺彰(以下、明照寺):新型A8のシルエットを見て思うのは、このクラスのセダンとしては、リアのカタマリ感をはじめとして全体にシンプルで、とてもキレイだということです。

永福ランプ(以下、永福):そうですか?

明照寺:ただフロントは、グラフィック的でリアの強さと合ってないんですよね。

永福:あんまり立体的じゃなく、“お絵描き的”だということですね。

明照寺:その理由を考えてみたんですけど、アウディは2014年にデザイン部長が代わってるんです。

ほった:元フォルクスワーゲンの、マーク・リヒテさんでしたっけ?

明照寺:そのリヒテさんが最初にやらせたのが「プロローグ」というコンセプトカーで、「これからアウディはこれを目指すぞ」という意味合いのモデルだったんです(写真を示す)。

永福:ものすごくスタイリッシュですね。いかにもアウディ的だ。

明照寺:フロントグリルは六角形で、フロント、リアともにブリスターフェンダーにしている部分が特徴的ですよね。

ほった:FR車ではリアタイヤを強調するところを、前後すべてのタイヤを強調しているんですね。

明照寺:これはたぶん、アウディのアイデンティティーであるフルタイム4WD「クワトロ」を、視覚的に表現しようとしたんだと思います。FRらしさを強調するBMWやメルセデスに対抗して、こちらも大衆車と差別化するために「デザイン的にもクワトロで攻めよう」ということなのかなと。

永福:見た目もクワトロを大盛りにしようって感じですかね。

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新型はオッサンくさくなった?

明照寺:ただ、アウディはこのプロローグに倣って「A5」「A7」「A8」、そして新型の「A6」と造っているはずなんですけど、実際にはかなり違いますよね。

永福:A8はこんなにグラマラスには感じません。

明照寺:グリルの輪郭自体はそんなに変わらないんですけど、でもそのまわりの面のボリューム感がかなり違う。たぶんA8はフロントマスクの内部にビームが通っていて、コンセプトカーのように彫りを深くはできないんでしょう。結果的にグラフィック的になってしまった。フェンダーの盛り上がりも同様です。

永福:プロローグのフェンダー、これは全幅が2mはないとできないんじゃ?

ほった:いえ、全幅は1950mmで、A8とほぼ同じです。

永福:じゃ、2ドアクーペだからキャビンを小さくして実現したんだ。僕の印象としては、新型A8は「オッサンくさくなったなぁ」なんですよ。先代も先々代も、もっとスポーティーなイメージだったけれど、新型はかなり格式張ってきたな、という。

明照寺:グラフィックはそうかもしれないですね。

永福:いや、フォルム全体のイメージも。メッキの縁取りがすごく増えたせいかもしれないけど……。

明照寺:「BMW 7シリーズ」も、メッキの使い方は大体こんな感じですよ。

永福:そう言われればそうですねぇ。

ヘッドランプの長さや角度、バンパーの両サイドに備わる、エアインテークまわりの“彫りの深さ”に注目。「アウディ・プロローグ」のフロントまわりは、非常に立体的な形状となっていた。
ヘッドランプの長さや角度、バンパーの両サイドに備わる、エアインテークまわりの“彫りの深さ”に注目。「アウディ・プロローグ」のフロントまわりは、非常に立体的な形状となっていた。拡大
一方、「A8」の顔まわりは凹凸がなく、“のぺっ”とした面にランプ類やグリルなどが張り付いているような印象を受ける。
一方、「A8」の顔まわりは凹凸がなく、“のぺっ”とした面にランプ類やグリルなどが張り付いているような印象を受ける。拡大
「A8」のライバルにあたるBMWのフラッグシップセダン「7シリーズ」。現行型は2015年にデビューした。
「A8」のライバルにあたるBMWのフラッグシップセダン「7シリーズ」。現行型は2015年にデビューした。拡大
永福:「A8」がなんだかオッサンくさく見えるんだよ。メッキの縁取りのせいかなあ。
明照寺:メッキの使い方はBMWも同じようなものですよ。
ほった:同じ車種であっても、装飾類はグレードや仕様によって全然違ってきますしねえ……。
永福:「A8」がなんだかオッサンくさく見えるんだよ。メッキの縁取りのせいかなあ。
	明照寺:メッキの使い方はBMWも同じようなものですよ。
	ほった:同じ車種であっても、装飾類はグレードや仕様によって全然違ってきますしねえ……。拡大

“ドイツ御三家”のインテリ枠だったのに……

永福:でも、アウディA8はもともと、7シリーズや「Sクラス」よりもっともっとハイブロウな、超然たるスーパーエリートだったと思うんです。でも新型A8には「やっぱり、もうちょっと売らなきゃ」みたいなニオイを感じる。その分ダサくなってしまった。リアのメッキ、確かに7シリーズにもありますけど、A8はこういうことはやらなかったはずなのに、って思うんです。

ほった:永福さんが言う「スーパーエリートなA8」って、和田 智さんが途中からシングルフレームにしたA8ですよね?

永福:そうそう。2代目A8だね。

ほった:マイナーチェンジでシングルフレームになって、W12気筒が載ったんですよね。『トランスポーター』っていう映画にも出てきましたけど、あのクルマは本当に「すげぇ」って思いました。

永福:完全に浮世離れしてて、すっごいゼータクだったよね。下取り価格のハンパない下落も浮世離れしてた(笑)。

ほった:メチャメチャ安くなってましたもんね。

永福:そういうところもハイブロウだったと思うんだ。そこから比べると、新型は明らかにオッサンになってきてる。

明照寺:わかります。なんか「高級に見せたい」感じが出てきちゃってますね。

永福:ショルダーにエッジをいっぱい入れたりとか。

初採用のシングルフレームグリルが目を引く2代目「A8」の後期モデル。2代目、3代目のA8はライバルとは趣を異にするスマートなフラッグシップセダンだった。
初採用のシングルフレームグリルが目を引く2代目「A8」の後期モデル。2代目、3代目のA8はライバルとは趣を異にするスマートなフラッグシップセダンだった。拡大
永福氏が「どうしても許せない」という、リアまわりのメッキ装飾。
永福氏が「どうしても許せない」という、リアまわりのメッキ装飾。拡大
タッチパネル式のコントローラーやフルデジタルのメーターパネルなどが目を引く「A8」のインテリア。
永福:「新しいA8、クルマの中は超ハイブロウなんだけどなあ……」
タッチパネル式のコントローラーやフルデジタルのメーターパネルなどが目を引く「A8」のインテリア。
	永福:「新しいA8、クルマの中は超ハイブロウなんだけどなあ……」拡大
「A8」のショルダーまわりを見ると、まずドアウィンドウのすぐ下に1本のプレスラインがあり、前後のドアハンドルとリアコンビランプをつなぐラインに1本、さらに前後のフェンダー上部にも、ふくらみを強調するようにプレスラインが走っている。場所によっては、狭い範囲に3本ものプレスラインが重なっているのだ。
「A8」のショルダーまわりを見ると、まずドアウィンドウのすぐ下に1本のプレスラインがあり、前後のドアハンドルとリアコンビランプをつなぐラインに1本、さらに前後のフェンダー上部にも、ふくらみを強調するようにプレスラインが走っている。場所によっては、狭い範囲に3本ものプレスラインが重なっているのだ。拡大

プレスラインで高級に見せる時代は終わった

ほった:ただ、「この狭いところにプレスラインを入れるのってすごく大変なんだぞ」とか、「エッジをこれだけ立たせるのってすごい技術なんだぞ」ってプレスリリースには書いてあるけど、実物見たら「そのライン本当に必要だった?」と感じることが、最近のアウディでは多いような気がしませんか?

明照寺:フォルクスワーゲンもそうなんですよ。エッジが立っているように見せるために、わざわざちょっと返しを作ってるんです。フォルクスワーゲンやアウディはプレスの成形技術がすごいので、他社にはマネできないような角のRも実現できる。でも、それが筋張って見えるようになってきて、最近ではあんまり造形の魅力に還元してないような気はしています。ちょっとやり過ぎになっている。

永福:当初は、確かに誰もマネできないって感じでしたけど、今はもう「ダイハツ・ミラ イース」もプレスラインがビンビンですからね。僕は「ミラ イースがついにアウディに追いついた!」って思ったんですけど(笑)、その時点でもう、“そっち路線”での高級感の追求は終わったんじゃないかと。エッジで高級に見せるって考え方じゃ、もう未来は見えない。

明照寺:コンセプトカーのアウディ・プロローグは、全然そんな感じじゃないんですけどね。なぜA8はこうなったのかな、という気はします。

(文=永福ランプ<清水草一>)

自動車メーカーの中でも一頭地を抜く成形技術を誇るアウディ。プレスラインの鋭さやパネルとパネルの間の“チリ”の狭さ、複数のパネルをまたいで通るプレスラインの“段つき”のなさなどは、他メーカーにはマネできないアウディの特徴となっている。
自動車メーカーの中でも一頭地を抜く成形技術を誇るアウディ。プレスラインの鋭さやパネルとパネルの間の“チリ”の狭さ、複数のパネルをまたいで通るプレスラインの“段つき”のなさなどは、他メーカーにはマネできないアウディの特徴となっている。拡大
アウディの親会社であるフォルクスワーゲンの「ポロ」。やはりショルダーラインには複雑極まるプレス加工が施されている。図面を見せられたプレス工程の担当者は、血の気がうせたに違いない。
アウディの親会社であるフォルクスワーゲンの「ポロ」。やはりショルダーラインには複雑極まるプレス加工が施されている。図面を見せられたプレス工程の担当者は、血の気がうせたに違いない。拡大
永福:「『ダイハツ・ミラ イース』までプレスラインがビンビンなんだから、エッジでクルマを高級に見せる時代は終わったんだ!」
ほった:「そんな極端な」
永福:「『ダイハツ・ミラ イース』までプレスラインがビンビンなんだから、エッジでクルマを高級に見せる時代は終わったんだ!」
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明照寺 彰

明照寺 彰

さまざまな自動車のデザインにおいて辣腕を振るう、現役のカーデザイナー。理想のデザインのクルマは「ポルシェ911(901型)」。

永福ランプ(えいふく らんぷ)
大乗フェラーリ教の教祖にして、今日の自動車デザインに心を痛める憂国の士。その美を最も愛するクルマは「フェラーリ328」。

webCGほった(うぇぶしーじー ほった)
当連載の茶々入れ&編集担当。デザインに関してはとんと疎いが、とりあえず憧れのクルマは「シェルビー・コブラ デイトナクーペ」。

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