第185回:ゲーセンから飛び出したお菓子レーサーの運命は?
『シュガー・ラッシュ:オンライン』
2018.12.21
読んでますカー、観てますカー
ケーキのボディーにチョコミントのタイヤ
《『ズートピア』のディズニーが贈る、夢の《ネットの世界》へ!》
『シュガー・ラッシュ:オンライン』のキャッチコピーである。なるほど、前作の『シュガー・ラッシュ』ではまったくネットとはつながっていなかったわけだ。2012年の作品なので、インターネットが世界中に普及していたのはもちろん、iPhoneが発売されてからでも5年たっていた。だから、あえてレトロなアーケードゲームを舞台にしていたということを思い出した。
かつて繁華街に乱立していたゲームセンターは、近頃ではすっかり見なくなってしまった。「スペースインベーダー」が登場したのは1978年のこと。40年も前である。1980年代末からは「ストリートファイター」などの格闘ゲームが全盛期を迎え、ゲーセンには「昇龍拳!」というかけ声が響きわたっていた。駅ビル地下のゲーセンは、さぼリーマンがたむろする定番の隠れ家だったのだ。
映画に登場するゲームは、もっと牧歌的である。ヒロインのヴァネロペはすご腕レーシングドライバーだが、彼女が参戦するレースで使われているマシンはお菓子でできている。ボディーの素材はケーキやキャンディーだし、タイヤはチョコミントやバニラアイスがモチーフ。「シュガー・ラッシュ」というゲーム名の由来だ。コースはピンクやブルー、イエローでカラフルに彩られていて、ファンシー感にあふれている。
ヴァネロペの親友ラルフは、「フィックス・イット・フェリックス」というゲームの悪役。毎日ひたすらビルを破壊し続けている大男だ。キャラクターたちはゲームの中では決められた役割を演じているが、閉店後には自分の意思で行動して互いに交流を深める。
Wi-Fiに乗って広い世界へ
前作から6年たってもヴァネロペたちは元気にゲームキャラの仕事に励んでいた。いつまでも同じ生活が続くように思えたが、事件が発生する。「シュガー・ラッシュ」のゲーム機が壊れたのだ。ハンドルが取れてしまい、もう遊ぶことができない。古い機械だから修理用のパーツが供給されなくなっていて、デッドストックを買おうとするとべらぼうな高値だ。とても採算に合わないので、ゲーム機ごと廃棄処分にするしかない。
絶望的な状況だが、チャンスが訪れる。店にWi-Fiを飛ばす装置が取り付けられたのだ。これまではゲーセンの中だけで暮らしてきたが、ネットにつながれば広い世界に飛び出すことができる。ヴァネロペとラルフは高速光回線に乗って巨大都市へとやって来た。高層ビルが乱立し、ハイウェイを絶え間なく情報が行き交っている。
ネットの世界をアニメの舞台に移し替えたわけだ。これは簡単なことではない。映画には、どう演出してもダサくなってしまうシーンがある。ダンス、セックス、そしてネットだ。カッコよく見せようとすればするほど、痛ましくていたたまれない映像ができあがる。
最近は特にネットを描くシーンでガッカリすることが多い。野木亜紀子脚本のNHKドラマ『フェイクニュース』はいい作品だったが、リツイートでデマが広がっていく様子を視覚化するところは凡庸な演出だった。もっとひどかったのが今年2月に公開された日本映画。女性を監禁している様子をネット中継すると画面に「キタコレしちゃえよ!」などというコメントが流れるというあり得ない安っぽさに辟易(へきえき)した。今年のワーストである。
10月に公開された映画『サーチ/search』は逆転の発想で難関をクリアした。全編をPC画面で構成するという驚くべき手法を使ったのだ。現実世界は直接的には描かれずネットだけが作品世界となるのだから、ダサくなりようがない。
ディズニーの歴代プリンセスが私服で登場
『シュガー・ラッシュ:オンライン』も、ネット描写の新たなソリューションを編み出した。ネットの中のさまざまな要素を擬人化するだけでなく、ネガティブな評価もキャラ仕立てにして笑いの要素を付け加える。ネットの有名サイトがそのまま登場していて、扱いの距離感がいい。Google、eBay、LINE、Yahoo!などのロゴが街のあちこちに見えていて、木にとまった青い小鳥たちは何かをつぶやき続けている。
ネットにはびこる危ないサイトも擬人化され、JP・スパムリーという名のキャラとして登場する。いかがわしさ満点だが、完全な悪役ではない。ネットの世界では裏情報にアクセスすることが、時として必要になる。スパムリーの導きでヴァネロペが見つけたのが「スローターレース」だ。ネット対戦型の自動車レースゲームなのだろう。そこで最強の名をほしいままにしているのがシャンク。クールで超美人、しかも優しさを兼ね備えているパーフェクトな女性で、声をあてているのは『ワンダーウーマン』のガル・ガドット。ほぼそのままのキャラである。日本語吹き替え版が菜々緒というのはどうなんだろう。
シャンクが乗る無双のマシンには誰も勝てない。お菓子でできた「シュガー・ラッシュ」のレーシングカーとは大違いのリアルな造形である。ちょっと「ミツオカ・オロチ」っぽい形をしているが、多分無関係だ。ヴァネロペはゲーセンのお花畑よりはるかに刺激的な世界に興奮を覚えている。ラルフは欲望むき出しでシビアなネットの流儀に馴染(なじ)めない。親友であっても、生き方は正反対なのだ。
ディズニー作品とあって、歴代の人気キャラクターが多数登場する。ベイマックス、ダンボ、バズ・ライトイヤー、アイアンマンなどの豪華メンバーだ。プリンセスも勢ぞろい。シンデレラ、白雪姫、アリエル、ポカホンタス、ラプンツェル、そして『アナと雪の女王』のアナとエルサも顔を見せる。普段と違ってプリンセスたちが私服姿を披露するのも見どころだ。
ゲームオタクが楽しめる上に、ディズニーのお姫様映画で育った女子も満足できる。『シュガー・ラッシュ:オンライン』は、カップルが2人とも楽しめる理想的なデート映画なのだ。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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