ホンダCRF450L(MR/6MT)
ナンバーなんて飾りです 2018.12.28 試乗記 競技専用モデル「CRF450R」のロードバージョンとして登場した、ホンダのオフロードバイク「CRF450L」。普通の人でも楽しめる、公道も走れるモトクロッサーとして注目を集めているモデルだが、実際に走らせてみると、看過できない大きな課題を抱えていた。ライダーの意思と加速力が一致しない
ホンダから登場したモトクロッサーレプリカ、CRF450Lは、2018年に試乗した新型モデルの中で最も評価がむずかしかった。
なんのエクスキューズも前置きもなく、単に公道を走ったインプレッションを書き連ねていくとネガティブな言葉のオンパレードになる。ここで言う公道とはアスファルト上のことを指し、都内とその近郊を足かけ3日間乗った印象は次のようなものになった。
最大の問題はエンジンの出力特性だ。スロットル微開の領域では極端にレスポンスが敏感で、ある程度開度が大きくなれば今度はパワーが唐突にカットされる。それをギアに置き換えると、1速と2速では「バチンッ」と張り手を受けたかのように鋭くダッシュしながらもそれは一瞬で頭打ちをむかえ、加速を持続させようと3速以上のギアに入れるとキック力が物足りなくなるのである。
軽くタイヤを転がし、常歩(なみあし)程度にスタートさせたい時にはいきなり速歩(はやあし)になり、いざ襲歩(しゅうほ)に移ろうかと思えば今度は速歩か駈歩(かけあし)程度にしかついてこない。独特のギアレシオの影響もあって使える回転域が極端に狭く、乗り手が求める反応とエンジンの加速力が一致しないのだ。
その不一致は、スロットル開度が一定の時にも起こる。ギアが何速であれ、加速も減速もしていないのであれば速度が維持されてしかるべきだが、エンジン回転数が勝手に上下動し、それが速度や挙動の乱れを誘発するのだ。最近では久しく口にすることも文字にすることもなかった、いわゆる「ハンチング」と呼ばれる現象がCRF450Lでは頻繁に発生するのである。例えばスロットル全閉のまま、微速前進している時にエンジン回転の上昇タイミングが重なることもあり、そうなると当然車体は乗り手の意思に反して前に進もうとする。距離にすればわずか、時間にすれば一瞬ではあるが、安全面の点から看過できない。
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出自を免罪符にしてはならない
ハンチングは、かつて2ストロークエンジンでしばしば見られ、キャブレーションの良しあしの判断材料のひとつになっていた。反面、加速するか、減速するかさえしていればその領域を避けられたため、その中で身につけたスロットルワークが手だれであることの象徴になっていたのだ。
しかしながら、CRF450Lは2ストロークでもなければ80年代のモデルでもなく、2018年に登場した最新型である。振動が多いことや、エンジンからの放熱がかなりのものになることは許容できても、燃調の不出来はその範囲を超えている。煮詰め不足が招いたピーキーさを「スパルタン」や「アグレッシブ」という言葉に置き換え、それを乗りこなす醍醐味(だいごみ)のように歓迎してはいけない。
もちろんここまでの事柄は、このモデルの出自を理解した上で書いている。CRF450Lは競技専用のモトクロッサー、CRF450Rの公道バージョンであり、しかも外装だけ似せたレーサーレプリカとはまるで純度が異なるピュアスポーツとして開発されたモデルだ。
公道用の「L」とレース用の「R」は70%ものパーツを共有し、残りの30%はエンジンのデチューンと保安部品の追加、各種規制へ対応させることによって生じた小変更にすぎない。実際、エンジンの最高出力は半分以下に抑制されているとはいえ、その性能を維持するにはエンジンオイルは1000kmごと、ピストンやバルブ、クランクシャフトは3万kmで交換することを推奨。その頻度ひとつ取っても、いかに「R」寄りなのかが伝わる。
それらがピーキーさを許す免罪符になり、ちまたでは「さすがロードゴーイングレーサー!」という論調になっているのだが、それは違う。中身がレーシングマシンであればあるほど、リニアな反応を見せるべきだからだ。
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どこに行っても感じられる燃調の煮詰め不足
とはいえ、オフロードで生まれ育ったモデルをアスファルトの上だけで乗り、とやかく言うのも公平さに欠ける。オープン2シーターのクルマを選んでおいて「せまい」だの「荷物が載らない」だのと言いがかりをつけているような印象を与えかねず、後日あらためて1週間にわたって試乗。今度は林道や河川敷のダートを含めた本来のステージを中心に走らせてみた。
CRF450Lが土の上で見せた振る舞いは、アスファルトの上よりもはるかに生き生きとしていた。スロットル開度が小さい時に唐突だったレスポンスは、ある場面では土や泥が抵抗になって緩和され、またある場面ではホイールスピンによって駆動力が適度に逃がされ、その過渡特性がグッとコントローラブルなものになっていたからだ。
ただし、やはりハンチングは気になり、アスファルト上とは対称的にここでは回転の下降がそのままエンストにつながる場面が幾度かあった。極低速で石や木の根を越えるような場面でそれは起こりやすく、エンジンを粘らせるような走りには向いていない。また、その時外気温が低いとスターターボタンを何度か押さないとエンジンが再始動しないこともあり、このあたりからもやはり燃調の煮詰め不足が感じられた。
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それでもCRF450Lを楽しみたいなら……
結局のところ、CRF450Lのポテンシャルをフルに発揮させようとすれば保安部品を外し、大きくデチューンされた最高出力をなんらかの方法で取り戻し(日本仕様が24psなのに対し、北米仕様は40ps前後といわれている)、タイヤをモトクロス用かエンデューロ用に交換してクローズドコースに持ち込むのがふさわしい。
ふさわしいのだが、そこまでするならホンモノのCRF450Rか、エンデューロ用の競技マシンである「CRF450RX」を手に入れた方がポテンシャルは高く、なおかつ車体価格も安いというジレンマに陥ることになる。
反対に、ツーリングも含めて楽しもうとすると既述のメンテナンスサイクルの短さや振動の多さがアダとなり、快適に走れるステージはかなり少なくなることを覚悟しなければいけない。仮に使用環境が100%公道ならば、「CRF250L」や「CRF250ラリー」「CRF1000Lアフリカツイン」の方がはるかに快適で、懐も深い。
それでも、公道走行ができるというCRF450L最大のメリットを残し、なおかつそのポテンシャルに触れることを求めると、使い方は次のようなものになるだろう。それはトランスポーターに載せてどこかの山のふもとまで移動し、そこで車両を降ろして林道のトレールランを何本か楽しみ、再びトランスポーターに載せて帰宅する、というものだ。
レーシングマシンにナンバーを装着して走る。誰もが一度は思い描く理想だが、現実的にはその間口は狭い。少なくとも、現状のCRF450Lはそういうバイクである。
(文=伊丹孝裕/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2280×825×1240mm
ホイールベース:1500mm
シート高:895mm
重量:131kg
エンジン:449cc 水冷4ストローク単気筒OHC 4バルブ
最高出力:24ps(18kW)/7500rpm
最大トルク:32Nm(3.3kgm)/3500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:31.0km/リッター(国土交通省届出値)/25.7km/リッター(WMTCモード)
価格:129万6000円

伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。
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