ボルボXC60 T6 AWD R-DESIGN(4WD/8AT)
味付けは刺激よりもコク 2019.01.04 試乗記 強化した足まわりや専用の内外装で独自性を表現している、ボルボのスポーティーグレード「R-DESIGN」。2017-2018のイヤーカーに輝いた人気の「XC60」にあって、遅れて販売が開始された「T6 AWD R-DESIGN」を実際に走らせ、そのレシピと味付けを確かめてみた。非電化ボルボのトップユニット
2017年に日本でも販売を開始したXC60のうち、遅れて2018年に導入されたのが、このT6 AWD R-DESIGN(以下T6)だ。ディーゼルエンジン/ガソリンエンジン/プラグインハイブリッドを合わせ、7グレードあるXC60のラインナップのうちの上から2番目。シリーズきってのスポーティーモデルという位置付けになる。
参考までに、トップモデルはツインエンジンと呼ばれる2リッター直4ガソリンエンジンにターボ+スーパーチャージャー+モーターの、過給機全部乗せとなるプラグインハイブリッド「T8 TWIN ENGINE AWD」で、こちらは最高出力が、エンジン:318ps/フロントモーター:34ps/リアモーター:65ps、最大トルクが、エンジン:400Nm/フロントモーター:160Nm/リアモーター:240Nmとなる。システム最高出力が公表されていないので厳密なことは言えないが、そのパワーが400ps級であることは間違いない。
いっぽうのT6はといえば、同じ2リッター直4ガソリンエンジンをベースにターボとスーパーチャージャーを加え、最高出力320ps、最大トルク400Nmというパワフルなパワーユニットを搭載する非電化(とはいえブレーキエネルギー回生システムは装備されている)最強モデルだ。特に最大トルクは、2200-5400rpmまでフラットに発生。「XC90」「V90」「S90」などボルボの「90系」でもおなじみとなった、完成度の高い8段ATと組み合わせられる。
これにシリーズ唯一となる21インチホイールを採用し、専用スポーツサスペンションやシート、シフトパドルなど、R-DESIGN専用アイテムを装備。XC60のスポーティーバージョンを考えている人はもちろんのこと、少しパワフルなSUVが欲しいというニーズにもフィットしそうだ。しかも、第38回2017-2018日本カー・オブ・ザ・イヤーにも輝いたモデルとくれば、まさに“つかみはOK”である。ちなみにR-DESIGNは、最高出力190psを発生する2リッター直4ディーゼル搭載車「D4」にも設定されているが、パワーユニットまでを含めるとこのT6のほうが特別感は一枚上手である。
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ルックスではなく中身で勝負
各年代で、多くのモデルに設定されていた過去のR-DESIGNラインナップを知る者としては、アグレッシブなエクステリアを期待したが、このT6に関しては21インチホイールが目を引く程度で、他のグレードとの違いは思ったほど多くはない。フロントグリルが専用デザインになり、よく見ればフロントスポイラーの形状やエキゾーストフィニッシャーなどが他のグレードとは異なっていることを発見できるものの、それらは微妙な差であり気付かない人も多いだろう。
ドアを開けた先のインテリアも、同様である。ホールド性の良いシートがR-DESIGN専用アイテムであり、ダッシュボードやセンターコンソールに用いられているメタルメッシュアルミニウムパネルがT6の持つスポーティーさを控えめに伝えてくる程度。エンジンをかけた際に、メーターに映し出される“R-DESIGN”のロゴが、唯一の遊び心で、それらを並べてみても、派手な演出は少なめと紹介できる。
つまり、見た目から分かりやすいスポーティーさを演じるのではなく、中身が勝負とでも言いたげなのが、現行XC60のT6である。料理でいえば、皿への盛り付けは大切だが、味付けはもっと重要。エアロパーツや大径ホイールの装備で“スポーツグレードの一丁上がり”とした安直なモデルとは違いますよ、と暗に言いたいわけだ(想像)。
その肝心の中身はと言えば、320psのエンジンに加え、フロント:ダブルウイッシュボーン、リア:マルチリンクとなるサスペンションや21インチタイヤを含むシャシーの強化が、R-DESIGNの主なメニューとなる。前後のスプリング(リアはリーフスプリングだ)は強化型に変更されており、バネレートはノーマルサスペンション比で30%のアップである。ショックアブソーバーが専用のモノチューブとなり、アンチロールバーの径も太くなっているほか、電動パワーステアリングのプログラムもスポーティーにチューンされているというのが、ボルボが公開しているR-DESIGNの仕様だ。
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過給機を意識させない走り
T6に採用されているのが、ターボに加えてスーパーチャージャーも付いた過給機二丁がけのパワーユニットだと聞いて、1980年代に登場した「日産マーチ スーパーターボ」を思い出す人はかなりのベテランだろう。その後、「ランチア・デルタS4」や「フォルクスワーゲン・ゴルフ」などにもツインチャージャーは採用されているが、市販車への搭載例はさほど多くはない。
じゃじゃ馬で鳴らしたマーチ スーパーターボは、限られた排気量でいかにパフォーマンスを追求するかが最大のテーマであったように記憶する。簡単にフロントタイヤをホイールスピンさせてしまうパワーは、凄(すさ)まじいと驚嘆したものだ。しかしこちらはフォルクスワーゲン系と同じように、21世紀の現代にマッチする環境性能や燃費向上も重視しながら、非電化系パワーユニットにふさわしいパフォーマンスを得ることが目的だと思える。
基本設計を同じとするこのエンジンからスーパーチャージャーを外した254psの最高出力を誇る「T5」でも十分感心したが、320psのこちらは当然ながらそれ以上の加速力を披露する。ほぼ15kmにわたって続く箱根ターンパイクの上りを、息継ぎもなくスムーズに駆け上がる様子は、“北欧テイスト”や“安全性”などという誰もがボルボに思う「人にやさしく、人に寄り添う」的なキーワードだけで、ボルボがつくられているわけではないことを再確認させる。
ターボとスーパーチャージャーが備わる直4エンジンは、しかし、どこでどんな風にどちらがいつ過給しているのかを一切悟らせない(本当は低回転域がスーパーチャージャーで高回転域がターボの担当)。出来のいい8段ATと共に、トルクをシームレスに4輪へと供給し続ける。べらぼうに速いわけではないが、きちんとパワフルなのだ。T6にだけ、シフトパドルが標準装備される理由も理解できる。
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21インチホイールも履きこなす
強化されたシャシーの採用という触れ込みから想像するよりも、ずっと快適な乗り心地を提供してくれるのがT6である。スポーティーなプログラムを持つという電動パワステの効果なのか、ステアリング操作とボディーの動きに違和感はなく、よりアシと上屋の一体感は増したようだ。標準サスペンション(「Four-C」と呼ばれるアクティブパフォーマンスシャシー車ではない)を持つモデルよりも、クルマがギュッと凝縮されたような印象さえある。
運転していて常に感じるこの挙動は、フラッグシップのXC90よりもずっと洗練されている。ボディーの大きさや、車高の高さだけがその原因ではないだろう。同じSPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)と呼ばれるプラットフォームを用いていても、出来は登場年次が新しくなるにしたがって良好になり、進化していることも分かる。
失礼を承知で言えば、そのハンドリングと乗り心地は、少しソフトな「BMW X4」といった趣だ。ボルボにそんな話をすれば、「ウチはBMWを気になどしてはおりません」と叱られそうだが、デザイン物件であり走りもイケてます的なベクトルは似ていると思えるのだ。ガッシリしたボディーがNVHをシッカリ抑え込み、路面追従性が高いサスペンションが21インチという大径ホイールと40偏平というタイヤを見事に使いこなすあたりも、いい勝負である。
デザインコンシャスでありながら、ゴリゴリのスポーティーさを前面に出すX4と明確に異なるのは、パワーユニットとエキゾーストサウンドだ。敵は直6ターボなのでなおさら分が悪い(もちろんかなり高価でもある)。このふたつがもたらすX4の走りは分かりやすくエモーショナルだが、T6はそこが希薄だ。当たり前である。ボルボは「駆けぬける歓び」を大声でうたってはいないのだから。
しかし、ルックスとインテリアの雰囲気や質感はT6に軍配を上げるし、T6の走る楽しさと満足度はXC60中トップである。走ってこそ楽しめるのが刺激タップリのX4なら、T6はコクが深く所有しているだけで幸せな気分にさせてくれそうだ。しかも業界屈指のADASが漏れなく付いてくるとあれば、もちろん文句はない。
(文=櫻井健一/写真=佐藤靖彦/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ボルボXC60 T6 AWD R-DESIGN
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1915×1660mm
ホイールベース:2865mm
車重:1890kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ+スーパーチャージャー
トランスミッション:8段AT
最高出力:320ps(235kW)/5700rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2200-5400rpm
タイヤ:(前)255/40R21 102V/(後)255/40R21 102V(ピレリPゼロ)
燃費:11.5km/リッター(JC08モード)
価格:724万円/テスト車=732万3000円
オプション装備:メタリックペイント(8万3000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:2987km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
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