第118回:対決はタイムマシンに乗って
2019.01.08 カーマニア人間国宝への道あの時代へタイムスリップ
パンパカパーン! R32「スカイラインGT-R」と、「フェラーリ328GTS」が、加速対決を行いま~~~す!
そう聞いても、カーマニアの皆さまは、「へえ~。どのくらい差がつくの?」としか思いませんよね。328がどんぐらいブッちぎられるんだろう、と。
私も当然負けるものと覚悟してました。でも、86年製の“赤い玉号”こと我が328GTSと、89年に登場したR32 GT-Rが加速対決する! と思っただけで、なんだかとってもうれしくなって、ゾクゾクしたのです。
思えばかつて0-400m(ゼロヨン)対決は、自動車メディアの超定番。花形ですらあった。今じゃほとんどまったく見なくなったけど。
自動車メディアがゼロヨンをやらなくなったのは、ニーズがなくなったからだろう。実際、現代のクルマ同士の加速対決は、特に見たいと思わない。現代のスーパーカーがゼロヨン10秒台だろうが9秒台だろうが、「へぇ~、速いねぇ」でおしまいだ。
でも、スピードへの情熱が燃え盛っていたあの時代のクルマ同士の加速対決となると、話は別。タイムマシンに乗って事実を確かめたるぜ! みたいな感じで、それを自分がやると思っただけで、ゾワゾワッとするくらいコーフンしてきたのだ。
対決してくれるR32 GT-Rは、93年製の「VスペックII」。オーナーはミウラさん。「ランボルギーニ・ミウラ」とは関係のない、埼玉県在住の学校の先生(55歳)です。
GT-Rの中身は、「中古で買ったままなのでよくわからないけど、ノーマル+αくらい」とのことであります!
カーマニアのかがみ、ミウラさん
このミウラさんのカーマニア歴がすごい。
「AE86」を振り出しに、「RX-7」(FC)を経て、94年にR32スカイラインGT-R(ガンメタ)を新車で購入。そこから「ポルシェ911」(930系のターボルック)→初代「NSX」→「フェラーリF355」と、世界の名車を総ナメなのだ! どれも値落ちが小さいクルマだったからこその快挙ですなぁ。
結局AE86は、これまでに3台購入。そして7年前、若い頃の憧れをもう一度ということで、白いR32 GT-R VスペックIIを増車! 現在もGT-RとAE86、F355、プラス家族の足の「シエンタ」(先代)の4台持ちの公務員でいらっしゃる。まさにカーマニアのかがみ! ご家族の絶大なご理解(諦め)なくしては成し得ない偉業であります。
この白いVスペックll、7年前、120万円で購入したそうです。今だったらいくらするんだろう。400マンエンくらいですか? 恐るべし絶版スポーツカー人気。
ちなみにミウラさんが買った中古NSXは、おいくらだったのか。
ミウラ(以下 ミ):95年登録のものを、08年に560万円で購入しました。走行距離は3万kmでした。
私は98年式のフェラーリF355を、09年に900万円で購入しております。その後ミウラさんもその道へ進んだわけですが、NSXかフェラーリかというのは、カーマニアにとって“運命の選択” の王道なのですね。
ミ:実は、ポルシェがノンパワステだったので、それが苦になって(笑)、今まで乗ったことのないメーカーのクルマにしようと思い、パワステがついている130型のNSXにしました。当初はGT-Rのライバルとして取り上げられることが多かったので、それで一度乗ってみようと思って探したら、予算内で見つけることができました。
R32 GT-Rは普段乗りもイイ!
初代NSX、実際にオーナーになってみて、ミウラさんはどう思ったのか。
ミ:普通にしか走らなかったので、操縦性などはよくわかりません(笑)。とにかく、ドライブ・バイ・ワイヤ化されたアクセルのフィーリングがしっくりこなくて、足の裏にアクセルワークのインフォメーションが伝わりにくくて、坂道発進は苦労しました。それと、車庫の大きさがギリギリで、乗るのが面倒くさくて(笑)、しょっちゅうバッテリーを上げてました。
なんという淡泊さ……。ミウラさん、いい味出してるなぁ。
ミ:自分はどちらかというと、所有することで満足するタイプの人間で、走るよりも洗車して、ピカピカのお姿を楽しむことが多かったです。結局、4年間で4000km走って売却しました。ちなみに売値は460万円でした。これを頭金にしてF355にしました!
そのF355も、めったに乗っていないそうな。フェラーリこそ、所有するだけで満足できるクルマの最右翼。乗らないのも当然か。
ただ、GT-Rはかなりの頻度で乗ってらっしゃる。
ミ:R32はすべてがしっくりくるし、普段も乗りたくなります。R32は本当に良いです。
こうして、25年落ち9万km走行のR32 GT-R VスペックIIと、32年落ち4万7000km走行の我が328GTSが、激突する時がやってきた!
場所は大磯ロングビーチ大駐車場。距離はよくわかんないけど250mくらい? お互いご老体同士、スタンディングスタートだとクラッチがカワイソーなので、時速10kmくらいからのローリングスタートで勝負を決めます。
以下次号!
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第317回:「いつかはクラウン」はいつか 2025.8.25 清水草一の話題の連載。1955年に「トヨペット・クラウン」が誕生してから2025年で70周年を迎えた。16代目となる最新モデルはグローバルカーとなり、4タイプが出そろう。そんな日本を代表するモデルをカーマニアはどうみる?
-
第316回:本国より100万円安いんです 2025.8.11 清水草一の話題の連載。夜の首都高にマイルドハイブリッドシステムを搭載した「アルファ・ロメオ・ジュニア」で出撃した。かつて「155」と「147」を所有したカーマニアは、最新のイタリアンコンパクトSUVになにを感じた?
-
第315回:北極と南極 2025.7.28 清水草一の話題の連載。10年半ぶりにフルモデルチェンジした新型「ダイハツ・ムーヴ」で首都高に出撃。「フェラーリ328GTS」と「ダイハツ・タント」という自動車界の対極に位置する2台をガレージに並べるベテランカーマニアの印象は?
-
第314回:カーマニアの奇遇 2025.7.14 清水草一の話題の連載。ある夏の休日、「アウディA5」の試乗をしつつ首都高・辰巳PAに向かうと、そこには愛車「フェラーリ328」を車両火災から救ってくれた恩人の姿が! 再会の奇跡を喜びつつ、あらためて感謝を伝えることができた。
-
第313回:最高の敵役 2025.6.30 清水草一の話題の連載。間もなく生産終了となるR35型「日産GT-R」のフェアウェル試乗を行った。進化し、熟成された「GT-RプレミアムエディションT-spec」の走りを味わいながら、18年に及ぶその歴史に思いをはせた。
-
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
NEW
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。