第187回:巨大ハリケーン襲来! 立ち向かえるクルマとは?
『ワイルド・ストーム』
2019.01.04
読んでますカー、観てますカー
混乱に乗じて6億ドル強奪
ハリケーン映画である。『ワイルド・ストーム』は日本でつけられたタイトルで、原題は『Hurricane Heist』。直訳すれば「ハリケーン強盗」だ。超大型ハリケーンの襲来が引き起こしたパニックを利用して大金を盗み出そうとする話だから、タイトルがネタバレである。
始まりは1992年。ハリケーン・アンドリューがアメリカ西海岸のガルフポートを襲う。ウィルとブリーズの幼い兄弟は父の運転する「シボレーC-30」に乗っていた時に天候が激変。強風で倒れてきた木を避けるために道を外れたクルマはそのままスタックしてしまう。兄弟は近くの家に逃れたが、父はクルマを動かそうとしているうちに吹き飛ばされてしまう。
25年後、同じ街が再び災害に見舞われる。最大規模とされるカテゴリー5のハリケーン・タミーが近づいていたのだ。成長したウィル(トビー・ケベル)は気象学者、ブリーズ(ライアン・クワンテン)は修理屋になっていた。ガルフポートには財務省の施設があり、古いお札の裁断を行っている。ハリケーンが迫る中、セキュリティーを担当するケーシー(マギー・グレイス)が運転するトラックが巨額の現金を運んできた。
裁断を始めようとするとシュレッダーが故障。発電機も止まり、ケーシーがブリーズを呼びにいく。彼女がいない間に施設に入り込んだのはハッカー集団。彼らはシュレッダーを止めるウイルスを仕込み、ハリケーン襲来の混乱に乗じて現金6億ドルを奪い取る計画を立てていた。
竜巻系映画は何でもアリ
ハリケーンや竜巻を扱ったハリウッド作品は多い。アメリカ人は、強大なパワーで襲いかかる災害に立ち向かうヒロイックなストーリーが好きなのだろうか。日本には相米慎二監督の名作『台風クラブ』があるが、嵐は少年少女たちが内に秘める心象のメタファーとして描かれた。迎え撃つべき災厄ではない。
アメリカでは大自然は克服すべき対象だ。よく知られている災害パニック映画に1996年の『ツイスター』がある。主人公はストームチェイサーと呼ばれる竜巻研究者だった。観測用のクルマに乗り、予報をたよりに竜巻の中に突っ込んでいくのだ。妙な職業があるものだと感心したのは覚えているが、ストーリーは忘れてしまった。
2014年の『イントゥ・ザ・ストーム』もストームチェイサーの話だった。2017年の『ジオストーム』は恐ろしくスケールが大きい。気候変動の対策として運用されていた気象コントロール衛星が暴走し、世界中に大災害をもたらす。巨大竜巻やハリケーンが襲いかかり、急激な気温上昇や気温低下が各地で続発する。東京には巨大な雹(ひょう)が降ってきて銀座が壊滅した。
2013年の『シャークネード』はシャークとトルネードの合体である。竜巻に吸い込まれたサメが空から降ってくるのでどこにいても危険だ。シリーズ6作まで作られている。製作会社は『リンカーンvsゾンビ』などで知られるアサイラムである。
竜巻系映画は何でもアリなので、ハリケーンに乗じて強盗する悪人がいても驚くにはあたらない。
悲惨な事故がもたらした破局
ケーシーはウィルの「ドミネーター」に同乗し、現金強奪を阻止しようとする。住民は全員避難しているし通信は途絶していて、応援は期待できない。ハリケーンが迫る中では誰も助けに来てはくれないのだ。頼りになるのは発電機修理で財務省施設の中にいるブリーズだけである。
街の中では残されたクルマが風にあおられて横倒しになっている。2018年の日本では台風21号の強風でトラックが横転したが、あれと同じ状況だ。アメリカでは2005年のカトリーナが1800人以上の犠牲者を出し、ニューオーリンズが壊滅的な被害を受けた。それ以来、毎年のように強大な勢力のハリケーンが発生している。気候変動の影響なのかどうかは専門家に聞かなければならないが、日本でも「台風が来たからコロッケ食べよう」などと気楽なことを言っていられる時代は終わった。
気象観測車のドミネーターは悪天候でも活動できる特別な仕様で、頑丈な装甲に覆われている。映画のために作られたクルマで市販されていないが、なかなかカッコいい。さまざまな観測装置を積み込み、強力な照明装置とウインチを装備。ありがたいのはボディーの下から飛び出すスパイクだ。地面に打ち込めば突風が吹いてもクルマは倒れない。
正月公開というのはちょっと時期はずれだが、災害は季節を問わないもの。2018年は各地で豪雪が相次いだ。東京では20センチほどの積雪で交通がマヒ状態になっている。おとそ気分で緩みきった心を引き締めるには、ちょうどいい映画かもしれない。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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