第588回:大矢アキオが「東京オートサロン」に初参戦!
ダイハツ技術研究会の愛すべきムードに大感激
2019.01.18
マッキナ あらモーダ!
実は初めてなんです
日本で1月といえば「新春福袋」と「東京オートサロン(以下、オートサロン)」になって久しい。2019年1月11日から13日にかけて開催された第37回は、前年から微増し3日間で33万0666名もの入場者を記録した。
いっぽう2017年の第45回東京モーターショーの記録を確認すると10日間の開催で約77万1000人だ。つまり、1日あたりに換算すると、オートサロンのほうが3万3000人以上も多いことになる。
そう記しながらも、実はこれまでオートサロンに一度も足を踏み入れたことがなかった。ボクが東京にいた1990年代のオートサロンは今日のようにメーカーやインポーターが積極的に出展する前夜で、まだチューニングカーの祭典といった印象が強かった。
イタリアに移り住んでからは、航空券が高騰する年末年始に訪日しなかったため、ついぞ今日までオートサロンを訪れるチャンスがなかったのである。
しかしながら関係諸氏に会うたび、「好き嫌いは別にして、これも日本の自動車カルチャーの一面。一度は見ておいたほうがいい」という強いリコメンドをたびたび頂いてきた。
というわけで今回、ついに初オートサロンへと赴くことになった。
自戒の念からコンパニオン撮影中止
オートサロンといえば東京モーターショー以上に華やかで、時にあでやかなコンパニオンである。しかしながら、どうも撮影する意欲が起きない。なぜか。
ジュネーブしかり、パリしかり、そして上海しかり。日ごろ海外のショーで、当地のコンパニオンは、こちらがカメラを向けてもぼうぜんと立っていることがままある。
最近では本人の意思、またはブランドの意向でコンパニオン撮影が許されないこともままある。そのたびに意気消沈するが、そこでくじけてはダメだ。
OKな場合、彼女たちにまず目を合わせ、次に声を掛ける。そして相手がやや緊張したり、高飛車な顔をしたりしている場合は、リラックスした表情をつくってくれるよう、こちらもあらん限りのスマイルを投げかける。いわばコンパニオン撮影は、彼女たちと数秒で交わす、熱い戦いなのである。
対してオートサロンのコンパニオンは、言葉を交わすこともなく、こちらがカメラを向けたかどうかのうちに笑顔をつくってくれる。そればかりか東京モーターショーではあまり見られない、決めポーズまでつくってくれるではないか。
そう、もうファインダーをのぞいたときには、“できあがってしまっている”のである。この撮り手を受動的にさせてしまう状態がどうも苦手だ。お任せ状態に慣れてしまったら、海外ショーで撮るのに必要なテンションがなえてしまう。そんな自戒に似た気持ちが生じて、彼女たちを追うことはやめた。
キャブレターラブ!
北ホールをぶらついていると、あるスタンドから中国語が聞こえてきた。聞けば、2019年10月に東莞・広東で開催される「中国国際自動車カスタマイズおよびチューニング展覧会」のスタンドだった。参加の目的は「出展・来場双方の呼びかけ」という。
聞けば彼らのイベントは今年で8回目。来場者は3日で20万人というから、東京オートサロンより少ないが、中国の人口からして、いつか追い越す日が来るかもしれない。
彼らによると、来場者の多くは、やはり若者という。中国のチューニングカーショーというだけで、どんなものかそそられる。取りあえず彼らに「当地で好評のベース車は?」と聞くと、「ホンダとスバル」と即座に答えが帰ってきた。さらに「特に『シビック タイプR』は一番人気です」と教えてくれた。
やがて、本サイトでもおなじみの知識派ライター、沼田 亨氏とばったり会った。彼はイタリアからやってきたボクに、「『ランチア・ストラトス』と『アバルト207Aスパイダー』を展示しているブースを見た」と教えてくれた。
カスタムカーやチューニングカーが主役のオートサロンだ。異色ともいえる古いイタリア車を展示したスタンドは、すぐに見つかるだろうとボクは高をくくっていた。会場図を確認して「埼玉トヨペットの隣、埼玉トヨペットの隣……」とつぶやきながら、周辺を歩き回る。しかし、そうしたクルマは見当たらない。
埼玉トヨペットのブースを2回ぐるぐる回って、ボクは驚いた。そのブースでは、なんとバイオリン&チェロによるアコースティックバンドが華やかな演奏を繰り広げていた。さらに、脇ではひときわ派手なコンパニオンたちが、カメラを持った来場者に取り囲まれていた。まさかその奥に、古いイタリア車2台があるとは。
出展したスクーデリア46は撮影用車両レンタルや音楽アーティスト出演のコーディネートなど、さまざまな事業を手がける会社という。
アバルト207Aスパイダーは1955年型である。日本のヒストリックカーファンの方なら、数年前に「ラ・フェスタ・ミッレミリア」に参加した車両といえば、思い出される方もいるだろう。『supercars.net』によれば、アバルトにとってカロッツェリア・ボアーノによるボディーは、やや重量級であったことから、実際のレースではロータスの「9」や「11」に対して不利だった。しかし、アバルトの中ではとりわけ上品なスタイルであり、何より最初期にシリーズ生産されたコンペティションカーという史実がある。
出展者は、イタリア車とともにベントレーなど英国のヒストリックカーもそろえているという。同社で働く熟練メカニックは、イタリア車の機嫌を保つ秘訣(ひけつ)は「最低でも2~3日に1回はエンジンを掛けてやることです」と話す。そして「イタリア車は、飾ってばかりでは意味がない」として積極的に乗ることを勧める。
ボクの相手を引き継いでくれたのは、若きメカニックの後藤信也さんだった。彼いわく、「最低でも2~3日に1回」の最大の理由は、キャブレターだ。ただし、キャブレターはイタリア車の楽しみであるとも後藤さんは語る。「細かい調整や季節、そして天候によって調子が変わる」ことが深い愛着につながると説く。
しかしながら、彼はメカニック歴5年。インジェクションが当たり前の世代である。なぜキャブを溺愛するように? その答えは「初めてバイクを買おうとしたら、キャブレター式しか買えなかったのがきっかけ」だそうだ。キャブレターは、まるで生き物ですねとボクが言うと、後藤さんはしっかりとうなずいた。
あちこちでLEDライトがきらめくショーで、このような若者に出会うとは。キャブレターという自動車用語は、もはやクレイジーケンバンドの歌詞の中のものだけかと思っていたボクにとって、彼の語りは実に新鮮だった。
初音ミクと日本GPレーサー
メーカーの出展するブースも見学する。そのひとつ、ダイハツのモットーは、「カスタマイズの楽しみは、特別な人のものじゃない」だ。特別な人の解釈は、それを読む人に委ねられているが、大変明快なコンセプトである。
と格好よく記したものの、ボクがダイハツを目指した本当の理由は、「ムーヴ キャンバス 初音ミク リミテッドパッケージ ビーチクルージンVer.」を、ひと目見たかったからである。軽自動車であるベース車両といい、その初音ミクコラボといい、ボクの場合、実車を見られるのは東京しかないのだ。
コンパニオンたちがキュートであることもあろう、ショータイムになると、ステージには簡単に近づけないほどの人だかりができた。そのさまは、隣のメルセデス・ベンツブースがかすむほどであった。
そうしたダイハツブースの一角に1台のヒストリックレーサーが展示されていた。「P-5」は、1968年の第3回日本グランプリレースにおけるクラス優勝車である。
スタッフが2名立っていたので声を掛けてみる。第1エンジン開発室の渋谷茂伸さんと第2デザイン室の若林道之さんだった。
P-5はFRPボディー+鋼管スペースフレームという構成だ。エンジンは「コンパーノ」の1リッターを1.3リッターまで拡大。オリジナルの100ps足らずから140psまで上昇させている。
本稿でたびたびボクは、ダイハツは“イタリア度”が最も高い日本ブランドであると説いてきた。数々使用されてきたイタリア語の車名やかつてのデ・トマソ/イノチェンティへのエンジン供給とその副産物である「シャレード デトマソ ターボ」、そしてピアッジョとの提携による「ハイゼット」の姉妹車などなど、である。
今回P-5を語るなら、そのコンセプトである「小さなボディー+既存のエンジンをベースに最大のパワー」は、まさに日本版アバルトといえまいか。
新入社員もレストアもえ
P-5のレストア作業を実際に行ったのは、社内クラブのダイハツ技術研究会だ。メンバーは35名。「20代の若い新入社員もいます」と渋谷さんは教えてくれた。
2人はすでにレストア済みの車両だけでなく、これからレストアを手がける、いわば“宿題”の写真入りリストを見せてくれた。そこには緑色の初代「シャレード」や赤い初代「ミラクオーレ」など懐かしいモデルが並んでいた。写真で紹介できないのが残念だが、「東京五輪の聖火リレーに走ったものでした」という1964年「コンパーノ ベルリーナ」も含まれている。
前述のイタリア車ブースしかり、このダイハツ技術研究会しかり。興味のアンテナを敏感にして臨み、積極的に人々に接すれば、既成概念とは異なる、オートサロンへの新しい視野が開ける。
ちなみに後日読んだダイハツのプレスリリースには、技術研究会に関する説明もあった。「レストア作業は、ベテランから若手までが一体となって作業を行うことで、ダイハツならではの小さなクルマづくりへのチャレンジングスピリットと技術を継承することを目的に行われた」と記されている。
ただし、実際のお二方が話す研究会のムードは、もっと和やかであった。前述の新入社員にもかかわらず研究会に加わった熱心なメンバーに話がおよんだときだ。渋谷さんによると「彼らは研究会が終わって『帰れ』と注意しても帰らない。本当の仕事のときは『帰るな!』と言っても帰るんですけど」。
いやはや、話の“落ち”まで頂けるとは。これだからダイハツは、世界にあまたある自動車メーカーの中で、ボクが最も親近感を抱くブランドなのである。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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