「マツダ・アクセラ」改め「マツダ3」!?
車名に発露したグローバル化という“言い訳”
2019.01.16
デイリーコラム
オートサロンに展示されたのは「マツダ3」
「次期『マツダ・アクセラ』の車名は、日本でも海外と同じ『マツダ3』になるらしい」といううわさがある。一部の新聞などでも報道された。
2019年1月11日から13日にかけて開催された「東京オートサロン2019」にも、アクセラがマツダ3の名称で出品されたが、これは左ハンドル仕様だ。つまり海外向けだから、日本でもマツダ3になるとは限らない。
マツダの販売店によると「次期アクセラの発売時期は、現時点(2019年1月中旬)では、メーカーから伝えられていない。マツダ3は海外向けの名前だから、日本国内ではアクセラを踏襲すると思う。ただし詳細は聞いていない」という。
車名をアクセラのような単語にするか、あるいは数字とアルファベットの組み合わせにするかは、メーカーによって異なる。アメリカのメーカーは、単語を使うことが多い。「シボレー・カマロ」「フォード・マスタング」「ジープ・ラングラー」という具合だ。
欧州車は、「メルセデス・ベンツE250」「BMW 320i」「アウディA4」というように、英数字による表記が目立つ。
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日本メーカーの品ぞろえはアメリカ的
今の輸入車では、メルセデス・ベンツやBMWのような欧州車が人気だが、日本の自動車産業が軌道に乗るまでは、アメリカ車を手本にしていた。第2次世界大戦前には、横浜にフォードの工場があり、アメリカ車は今よりも身近な存在だった。
戦後、日本の自動車産業が上り調子になると、日本のメーカーはさまざまな商品をそろえた。トヨタや日産は、排気量が1リッター以下のコンパクトな車種から、V型8気筒エンジンを搭載する大型の高級車までをラインナップした。
このほかにも2人乗りのスポーツカーや悪路を走破できる4輪駆動車、トラックまで含めて、ファミリーレストランのように何でもそろうメーカーを目指した。
この考え方と戦略もアメリカ的だ。かつてのアメリカの自動車メーカーは、主にゼネラルモーターズ(GM)とフォード、クライスラーに分類された。そしてGMは、キャデラックやオールズモビルなど、複数のメーカーを買収しながら発展していく。その結果、基本部分を合理的に共通化しながらも、キャデラックとビュイックは高級車、オールズモビルはスポーティー、シボレーは低価格車とつくり分ける商品開発を行った。
日本には「大きなシボレーよりも小さなキャデラックの方が高級」というようなクラス分けの概念はないが、ひとつのメーカーが大小さまざまな車種をつくるという大規模な商品展開は、アメリカのメーカーから受け継いだ。
ちなみに前述したようなクラスを分けるという概念がないのは、クルマに限らず日本の貴重な特徴だろう。大会社の社長でも、豪華な社長室の椅子におさまらず、大部屋で新入社員と「同じ釜の飯を食う」人が多い。活発に伸びている会社は、概して大部屋的な形態だ。日産のカルロス・ゴーン前会長も、日産にやってきた当初はそういう人で、工場などへも頻繁に出掛けたが、いつの間にか社長室(会長室)におさまるようになってしまった。
話を元に戻すと、日本はアメリカ型で商品の種類が多く、車名には単語を用いることが多い。欧州メーカーは、例えばメルセデス・ベンツはトラックなども手がけているものの、乗用車には高級車が多く、車名は数字とアルファベットによる構成が中心だった。
今のフォルクスワーゲンは「ゴルフ」や「ポロ」といった車名を用いているが、その前は「タイプI」(ビートル)や「タイプII」(ワンボックスの商用車や多人数乗車の可能なワゴン)、「タイプIII」(タイプIをベースにしたセダンやワゴン)という具合であった。
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「全世界共通」という言い訳
仮にアクセラが日本でもマツダ3を名乗れば、それは日本のユーザーを従来以上に軽く見るようになった証しだろう。日本のユーザーの気持ちや国内市場の性格などを考えれば、やはりアクセラがふさわしいからだ。
最近よく聞かれる言葉に「商品開発や販売のグローバル化」というものがある。ハンドルの位置は右側だが、足まわりのセッティングなど、主だったクルマの機能は世界共通にする。車名もマツダ3のように海外と同じにして「どこの国にも等しい価値を提供する」などという。
これは都合のいい言い訳だろう。国や地域によって道路環境や走行速度、ユーザーの好みが異なるから、エンジンや足まわりの設定もつくり分けて当然だ。「全世界共通」にするのは、手間を省くための口実にしか聞こえない。
「マツダCX-5」の足まわりは、先代は基本的に世界共通のセッティングとされていたが、現行型は日本と欧州でつくり分けている。先代モデルは、日本では硬いといわれ、欧州では雑誌のテストなどで安定性が低いと指摘されていた。そこで現行CX-5は、日本仕様と欧州仕様をつくり分けているという経緯がある。
このように開発するのが、お客さま本位の姿勢だと思う。クルマの機能とは直接関係のないが、車名にもそれは当てはまる。
先日試乗した新型「トヨタ・スープラ」のプロトタイプにも驚かされた。方向指示機の操作レバーは、欧州車と同じくハンドルの左側に付く。「BMW Z4」と基本部分を共通化したからだ。開発者に「日本車なのになぜ左側なのか」と尋ねると「右側へ移すには多額のコストを要する」と返答された。つまり左側が基本で、日本は「移される」立場なのだ。
1955年に発売された初代「トヨタ・クラウン」は、1957年に対米輸出を開始した。ほとんど売れなかったが、輸出されたのは左ハンドル仕様だ。この時代からお客さまに合わせる商品開発を行っていた。
そしてクルマでは空調スイッチの使いにくさが交通事故を誘発することもあるから、慎重にベストな開発をせねばならない。
販売する市場を入念に研究して「購入していただく」という謙虚な気持ちを持つことにより、「世界の日本車」は、さまざまな国と地域のユーザーに愛用されている。日本でマツダ3を名乗ったり、日本車なのに方向指示機レバーを左側に付けたりするのは、些細(ささい)な話では済まされないものだ。商売をする市場を敬う気持ちが薄れている発露だと思う。
(文=渡辺陽一郎/写真=トヨタ自動車、マツダ、webCG/編集=藤沢 勝)
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渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。 1985年に出版社に入社して、担当した雑誌が自動車の購入ガイド誌であった。そのために、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、車買取、カーリースなどの取材・編集経験は、約40年間に及ぶ。また編集長を約10年間務めた自動車雑誌も、購入ガイド誌であった。その過程では新車販売店、中古車販売店などの取材も行っており、新車、中古車を問わず、自動車販売に関する沿革も把握している。 クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。
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