第552回:ドライもいいけど雪上もね!
ミシュランのオールシーズンタイヤを北海道でテストした
2019.02.16
エディターから一言
2019年2月からミシュランが本格的に国内展開をスタートさせる、通年用の新製品「クロスクライメート」シリーズ。急な雪にも対応できるというオールラウンド性は確かなものか? 一面銀世界となったテストコースで検証した。
満を持しての本格展開
あえて「オールシーズン」という呼称は避け、「雪も走れる夏タイヤ」というユニークなキャッチフレーズを掲げて、冬タイヤ交換への習慣がない非降雪地域のユーザーに突然の雪道遭遇時の安心感をアピールする新コンセプトの製品――ザックリ言えば、それがクロスクライメートの概要だ。
欧州市場では2015年にローンチされ好評を博したというこのモデルが、日本ではオートバックスの店舗限定での1年間の実績を積んだ後、このほど全国のミシュランタイヤ取扱店でも販売されることになった。
このモデルが、なるほど“夏タイヤ”として十分満足できるポテンシャルの持ち主であることは、すでにテストコース上でのドライとウエット路面の経験から「間違いナシ!」といえる。そしてこのほど、ミシュランが冬タイヤ開発の日本の拠点とする北海道・士別のテストコースで、このタイヤの雪上の実力を試す機会を得ることができた。
ただしお断りしておきたいのは、このタイヤは“ヨーロッパ生まれのヨーロッパ工場製”であって、開発に際してこの地は活用されていないという事実。また、テストプログラムの中にはあえて氷上で“ピュアな夏タイヤ”との違いを体験するセッションも設定されていたものの、あくまでも「スタッドレスタイヤではない」と明示され、あらかじめ「凍結路には不向き」とプロモーションがなされているのも忘れてはならないポイントである。
夏タイヤで“のたうち回る”
こうして、スタッドレスタイヤとは異質なアイテムであることが強調された上で、ミシュランのスタンダードな夏タイヤである「エナジーセイバー プラス」との比較というカタチで始まったクロスクライメートのテストイベントは、まずは「日産ノートe-POWER」にその両製品を装着し雪道上での発進性をチェックするという、何とも分かりやすいプログラムからのスタートとなった。
この段階であらためて確認できたのは、「通常の夏タイヤのまま雪道に乗り出してはいけない」という、当然といえばごく当然な事柄。というのも、平たん路では注意深くアクセル操作を行うことで何とか動き出すことができたエナジーセイバー装着車両だったが、ごくわずかな登り勾配に差し掛かった時点でたちまちスタック。こうなると、トラクションコントロール機能をオンにしようがオフにしようが、二度とスタートすることはできなかったからだ。
「そんなことは分かっている!」と、大方の人はそんな声を発することになりそうだが。それでも、例えば東京などではひとたび路面に雪が積もり始めると、必ずこうしたクルマが現れて見事に道をふさいでしまう。
加えれば、アンダーパスにオーバーパス、さらには首都高速のランプ等々と、東京都心などは意外なほどに坂が多いのだ。つまり、たとえ駐車スペースからはなんとかスタートできたとしても、早晩こうしたところでスタックするのは目に見えている。兎(と)にも角にも、雪道に通常の夏タイヤで乗り出すのは“厳禁”なのである。
というわけで、こうして通常の夏タイヤで“のたうち回った”後の同じコースに、今度はクロスクライメート付き車両で挑んでみる。
と、こちらは「スイスイと」と感動できるほどではないものの、それでもエナジーセイバーの場合とは比べ物にならないほど自由に動き回ることが可能だった。端的に言って、一過性の新雪程度であれば、取りあえず急場をしのぐには十分という印象だ。
登坂能力も当然スタッドレスタイヤには見劣りするものの、それでも都市部のアンダーパス程度であれば慎重なアクセル操作でなんとかクリアできそう。突如出くわした雪道に対する安心感は、確かに通常の夏タイヤの比ではない実力を持つのがクロスクライメートである。
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不安はないけど過信は禁物
続いてのテストセッションは、「メルセデス・ベンツGLA」にクロスクライメートを装着しての、単独でのハンドリングチェック。こちらも、コースは前夜からの新雪が降り積もった状態で、凍結にまでは至っていない。
新雪が降り積もった平たん路面に4WDモデルというこの組み合わせでは、日常シーンで遭遇するであろう状況をクリアするのに、何の不安もないという状況だった。発進は特に気を遣う必要もなくDレンジでの通常のアクセルワークでスタートが可能。加速のイージーさやパイロンスラロームでも同様の印象である。
ただし、そんな様子にかまけて走りのペースが上がり、ひとたび滑り始めてしまうと、その滑り量は想像よりも大きくなりがちで、コントロールも楽ではない。コーナー入り口での進入速度に気をつけないと軌跡は大きく外側に膨らみ、かついったん滑り始めると、それはなかなか止まらないのだ。
ブレーキング時は特に要注意で、比較的自由の利いた加速のイメージに比べると、同じ縦方向へのグリップ力がはたらく場面でもこちらは早期にABSが介入することでブレーキ力が弱まり、制動距離がドンドンと伸びていってしまう。もちろん、グリップ力が限界に達して車輪がロック気味となるからABSが作動しているわけで、ここはマージンを大きくとってブレーキングポイントを早め早めとすることが重要と痛感させられた。
それなりに自由な加速やハンドリングが得られるとはいっても、やはりそこはスタッドレスタイヤとは非なる実力。「雪も走れる夏タイヤ」は偽りではないが、それはイコール「スタッドレスタイヤと同等」ということを意味しているわけではないのだ。
“夏”は満たすが“冬”は満たさず
そんなクロスクライメートのテストイベント最後のセッションは、メーカー自らが「苦手」と告白する凍結路面でのチェックだった。新雪が踏み固められ、さらに何台ものクルマが通過して氷盤が顔をのぞかせているような路面は、当然「歩くのも難しい」という状況。そうしたシチュエーションで人間の何十倍もの重量のクルマを走らせ、さらに曲げたり止めたりしようというのだから、そこでタイヤに求められる能力の大きさは、容易に想像ができようというものだ。
まずは無謀を承知でエナジーセイバー装着の「日産リーフ」でスタート……しようと思っても、さすがにこれは「ほとんど手も足も出ない」という状態だ。ジワリと微妙なトラクションのサジ加減は、本来はモーター駆動車の得意とするところ。それでもあまりのタイヤのグリップ力の低さに、前にも後ろにもほとんど進むことがままならない。そもそも、平たん路面ゆえに何とか止まっていることができている状態で、これでわずかでも傾斜がついた場合、4輪ロック状態のまま“下流”へと滑っていくことになるに違いない。
一方のクロスクライメート装着車両でも、さすがにこの状況では苦戦。なんとかスタートは切れても、その先思い通りのコントロールは行えず、下手をすればこちらもたちまちスタックの憂き目に遭って、スタッドレスタイヤの必要性を痛感させられることになった。
普通の夏タイヤより多少割高となるであろう価格面に目をつぶれば、遜色のないグリップ力や静粛性の高さが確認できているだけに「ピュアな夏タイヤの代替アイテム」として、一年を通して装着するという使い方は十分リーズナブルだといえる。
一方で、十分に“急場しのぎ”にはなるものの、やはり限定的な雪上での能力や、スタッドレスタイヤに対しては明確な差のある凍結路面上での性能からすれば、これを「冬タイヤ(スタッドレスタイヤ)の代替アイテム」として用いるのは推奨できない。
そうした特徴を踏まえた上で、自身の行動範囲と相談して用いるのであれば、確かにこれ1アイテムですべてのシーズンを安心して乗り切ることができそうではある。「雪も走れる夏タイヤ」は、なかなか言い得て妙なキャッチフレーズなのであった。
(文=河村康彦/写真=日本ミシュランタイヤ/編集=近藤 俊)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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