第553回:「デリカD:5」の走破性恐るべし!
三菱自動車の雪上試乗会に参加して
2019.02.21
エディターから一言
北海道の新千歳モーターランドに特設された雪上コースを走行する三菱自動車の試乗会は、冬の恒例取材イベントだ。今回試乗したのは、「デリカD:5」「アウトランダーPHEV」「エクリプス クロス」という同社の売れ筋3モデル。中でも注目は取材時点で発売目前であり、2019年2月15日に発売されたばかりの改良型デリカD:5だ。コースを監修した増岡 浩さんがいつも通りニコニコした表情で見守る中で試した、D:5の雪上での印象をお伝えしたい。
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“ビッグマイナーチェンジ”とされた事情
インプレッションの前に“5代目のデリカ”を意味するD:5をさらっとおさらい。D:5は2007年に発売され、実に12年が経過した。それでも2015~2018年の直近4年間の平均年間販売台数は1万2098台、月平均では1008台と細く長く売れている。ただし2リッター~2.5リッター級の売れ筋国産ミニバンとなると大体その5~9倍も売れているため、D:5は悪路走破性の高い特殊なミニバンという位置づけとはいえ、三菱としては決して満足できない。しかし逆に月販約1000台のクルマをフルモデルチェンジするための開発費もなかなか捻出できない。
というわけで、プラットフォームを手直しして流用し、エンジンの効率を上げ、ATを6段から8段へと刷新して、顔つきを中心にデザインを変更するというこの度の“ビッグマイナーチェンジ”に落ち着いた。なお大きく変わったのはディーゼル版のみで、ガソリン版は従来型が継続販売される。
ステアリングを切ったとおりに曲がれる
では乗った印象を報告したい。ボタンを押してエンジンを始動すると、カラカラというディーゼルエンジン特有の音はするものの、その音量は非常に小さい。このところ追加された「アウディQ5」や「アルファ・ロメオ・ステルヴィオ」のディーゼル、とりわけQ5のそれは、車内ではほとんどガソリンエンジンと聞き分けられないような音と振動しか発しないが、D:5はそこまでではなく、ディーゼルだとはわかるもの。しかし特段気にはならないレベルで、直噴ガソリンでもこのような音と振動を発するエンジンはけっこうある。
圧雪されたコースの、まずは凹凸があえて残された部分を走らせる。車高が高いため、凸部分を乗り越えるたびにそれなりに車体は揺れるが、乗員に伝わる揺れは角が取れたマイルドなもので、不快指数は低い。改良前よりも乗り心地がはっきりとよくなった。ボディーの剛性がしっかりあって、そのボディーにしっかりと取り付けられたサスペンションがスムーズに動いているのが感じられる挙動だ。
続いて入り組んだコーナーが続くセクションへと移る。このあたりの路面は圧雪というよりも、ザクザクとややシャーベット状となった雪だ。車輪が3分の1程度埋もれるほど雪深い部分もあった。そこをD:5はグイグイと雪をかき分けるように進む。そして思った以上に舵が利くのが印象的だった。スピードを出してコーナーへ入り、そのまま回り込んでいってもクルマが外に膨らむ気配はなく、ステアリングホイールを切ったなりに曲がってくれる。試乗車に装着されていたブリヂストンの最新スタッドレスタイヤの性能もあるのだろうが、D:5が採用する4WDシステム「AWC(オール・ホイール・コントロール)」も効果を発揮しているはずだ。
十分なロードクリアランスがあればこそ
AWCでは、ドライバーは「2WD」「オート」「ロック」の3つのモードを選択できる。ドライ路面での高速巡航で2WDを選べば燃費をやや稼ぐことができ、スタックしがちなぬかるんだ場所を走らせる場合にロックを選べば、脱出能力が高まるが、ほとんどの人の場合、状況に応じて前後のトルク配分を最適化してくれるオートモードに入れておけば、買ってから手放すまで何の問題も起きないだろう。
歴代デリカが“雪上を含む悪路に強い”という定評は、4WDシステムだけで獲得したものではない。誰でも適切なドライビングポジションを得られるシートやステアリングの調整範囲や前後左右の視界のよさ、ふぶいても十分なワイパーの拭き取り能力といった運転環境、さらに十分なロードクリアランス(最低地上高)だ。ちなみに改良型の場合は185mmと、従来型の200mmに対して数値上スペックダウンしたように見えるが、エンジニアによると、底部の一部に取り付けたカバーの分だけ数値が減少しているものの、その位置は干渉のおそれが低い場所のため、事実上ロードクリアランスは変わっていないという。200mmというのは悪路走破におけるひとつの基準。新型でもその数値をクリアしていると主張するのは、彼らにとっては重要な部分なのだろう。
取材時にはまだ登録されてナンバープレートが付いた改良型D:5が存在していなかったため、一般道での印象をお伝えできないのが残念だが、話を聞いてクローズドコースで試乗した限り、D:5はフルモデルチェンジといって差し支えない仕上がりだった。
あなたはどのタイプ?
ところでD:5の顔つきについては発売前から散々話題になって、発売日にはもう沈静化した気配さえ感じるので、いまさら多くを語るのは避けたいが、ここまで話題になった時点で大成功といえるのではないだろうか。話題にならずにスルーされるよりよほどいい。
細分化すればキリがないが、あの顔つきを見た人のスタンスは以下のパターンに分類できるのではないか。
- A:本心からナシと思う人
- B:本心ではアリと思うが、立場や自らの過去の発言との整合性からそう言えない人
- C:本心からナシと思うが、世間のアリが意外に多くアリと思いはじめた人
- D:本心ではナシと思うが、ここはひとつイチかバチかアリと言ってみることにした人
- E:本心からアリと思う人
ちなみに私はEだ。いや正確に言えば当初Dだったが、途中でEに変わった。SNSでEだと発信し続けたことでわずかでもCを増やせたとしたら光栄だ。Aの人は『webCG』の読み過ぎ(正統派クルマ好き過ぎ)。ある時期の私ならBだったかもしれないが、今思えばあの頃は少々窮屈だった。
ともあれ、市販車デザインの成否のひとつの尺度がヒットするかどうかだとしたら、まだ答えは出ていない。2月頭の取材時点で4000台以上を受注したそうだから幸先はいいようだ。売れれば成功だが、それによって定着するブランドイメージが将来(の路線変更などの際に)邪魔になる可能性もある。今回、三菱がバットをフルスイングしたことをたたえたい。私にたたえられても仕方のないことだが。蛇足ながら、すでに出回っている(スパイショット!?)、三菱の新型軽自動車の顔つきもこのまんまだった。未確認情報なのでまだ感想を述べるのを控えたい。
(文=塩見 智/写真=三菱自動車/編集=藤沢 勝)

塩見 智
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