第555回:トヨタが……タナックが速すぎる!
世界ラリー選手権 第2戦の様子を現地からお届け
2019.02.23
エディターから一言
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世界ラリー選手権(WRC)の中でも、唯一のフルスノーラリーとして知られるラリー・スウェーデン。トヨタ有利との前評判が流れていたが、その結果はどうなったのか? 他のイベントにはない“見どころ”とともに、雪のラリーの醍醐味(だいごみ)を現地からお届けする。
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雪の林間コースで行われる超高速ラリー
WRCの第2戦、ラリー・スウェーデンがトーシュビュー近郊で開催されました。トーシュビューなんて地名、それこそWRCに関心がある人にしかなじみがないと思うので簡単に場所の説明から。首都ストックホルムから西に約400km。お隣ノルウェーのオスロの方が近くて、一部のステージは国境を越えてノルウェー国内にも設定されています。スタートはスウェーデン、途中ノルウェーを走ってフィニッシュはスウェーデン、なんてステージもあるぐらい。島国に住んでいるとあまりなじみのない国境越えだけど、こちらではごくごく普通のことなのです。
WRC唯一のフルスノーラリーで、見た目に極悪なスタッドタイヤ(日本で言うところのスパイクタイヤ)を使用することはご存じの通り。スウェーデンでワークスチームが使用するスタッドタイヤは、タイヤ1本につき384本のスタッドが装着され、普通のタイヤでグラベル路面……はおろか、舗装路を走ってるとき並みのグリップを発揮します。コースの特性も相まって平均速度がやたらと高く、それゆえ馬力やダウンフォースがものをいうラリーです。実際、コース脇で撮影していても、あまりの速さに恐怖を覚えることも。
このスタッドタイヤ、以前はトレッドの細いものが使われていましたが、今はグラベル用の15インチホイールを使えるように、195/65R15サイズのタイヤになりました。ちなみに、このサイズのスタッドタイヤはFIAのコントロール下におかれているため市販されていませんが、以前の細いスタッドタイヤは今でも北欧の国内戦で使用されていますし、市販もされています。その気になれば日本でも買えますが、あくまでも競技用。北海道で盛んな氷上トライアルではおなじみのタイヤでもあります。
盤石の強さを見せたオット・タナック
昨年(2018年)は例年以上の積雪量で、いかにも北欧の冬っぽい景色の中でのラリーとなったのだけど、今年は雪が少なくて、僕が滞在していた期間は、昼間の気温が8度もありました。ちょっと寒い日の東京と変わらんがな。とはいえ、夜は気温が氷点下に下がるので、溶けた雪がまた凍って……の繰り返しで、路面はできそこないのスケートリンクのようなありさま。ステージに使われる道は交通量が少なかったり、雪を残していたりするので、一般道ほどひどくはないものの、出走が後半になると雪がなくなって砂利が出てくるような状況。こうなると、せっかくのスタッドが抜けたりタイヤが傷んだりするので、タイヤマネジメントがとても大事になります。
以前は北欧出身のドライバーが圧倒的に有利だったこのラリーですが、最近はそうでもなくて、セバスチャン・ローブやセバスチャン・オジェなど、北欧以外の出身者が勝つことも多くなりました。そんなラリー・スウェーデンですが、今年はエストニアのオット・タナック(トヨタ)が序盤から圧倒的な速さを披露。DAY2を2位で終えると、DAY3のオープニングステージで早々にトップに立ち、その後もラリーをリードしました。
そもそも復帰初年度にヤリ-マティ・ラトバラが勝利を飾るなど、トヨタの「ヤリス」はスウェーデンとの相性が良く、今年も好成績が予想されていたのですが……。結局、タナックはDAY3で2位以下に50秒以上の大差をつけ、そのはるか後方でヒュンダイのアンドレアス・ミケルセンとティエリー・ヌービル、シトロエンのエサペッカ・ラッピが熾烈(しれつ)な2位争いを繰り広げる展開に。個人的にはノルウェー出身のイケてる男、ミケルセンが久々に上位争いをしているのがうれしくて、応援していたのだけど、結局は脱落。とはいえ、持ち前の派手な走りでギャラリー受けは最高でした。そういうのって、大事ですね。
このまま一方的な展開となってしまうのか?
一方、ラリーの結果は盤石の走りでタナックがそのまま優勝。ステージの脇で見ていても全く危なげない走りで、抑えているようにさえ見えました。ラリー後の会見でタナック自身も「全開では走っていない」とコメント。調子がいいときっていうのは、すべてがうまくまわるんでしょうねえ。野球で例えると「ボールが止まって見える」ようなもんかしら? この勝利でタナックは自身初の選手権リーダーに。そしてトヨタもマニュファクチャラー争いのトップに立ちました。たった2戦を終えただけなので今後を占うにはまだ早いけど、タナックとヤリス、無敵な気がしてきました。とはいえ独走なんてつまらんから、他のチーム、他のドライバーにも奮起していただいて、もっと引っかき回してほしいもんですね。
最後に、ちょっと余談なのですが、ラリー・スウェーデンでは毎年ヒストリック部門が設けられていて、「ボルボ・アマゾン」や「サーブ96」(しかも2スト!)といった北欧のヒストリックカーはもちろん、「マツダ323」(日本名:ファミリア)やトヨタの「AE86」、さらには初代「スズキ・カルタス」なんて、もはや日本でもめったに見ない日本車も参戦。みんな本気で走っています。かつてスバルで活躍したペター・ソルベルクも、奥さんをコドライバーに毎年参戦。今年も「フォード・エスコートMK II」でちゃっかり優勝してました。ちょっとおっちゃんになってたけど、相変わらず爽やかオーラ全開のペターでありました。
(文と写真=山本佳吾/編集=堀田剛資)

山本 佳吾
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