第557回:「AMG GT 4ドアクーペ」日本デビュー
AMGはヒーローのようなクルマをつくる
2019.02.26
エディターから一言
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メルセデス・ベンツ日本が、世界初のAMG専売店「AMG東京世田谷」で発表した「AMG GT 4ドアクーペ」。このローンチイベントに出席したメルセデスAMG社の商品企画統括サイモン・トムス氏に同車開発の背景を聞いた。
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AMG独自モデル初の4ドア
2018年3月のジュネーブモーターショーでワールドプレミアされたメルセデスAMG GT 4ドアクーペは、AMG独自開発モデルで初となる4ドア車。2ドアクーペとして登場した「AMG GT」と、そのオープンカー版「AMG GTロードスター」に続く、現行GTシリーズの第3弾である。
車両詳細は、発表時のリポートに明るいので割愛するが、4枚のドアを持つボディーとその全長が5mを超える堂々たるサイズ、そして大きく開くテールゲートを採用したファストバックのアピアランスは、これまでのAMGにはないキャラクターだといえる。このモデルの開発経緯を「AMG東京世田谷」で行われたAMG GT 4ドアクーペの日本発表イベントに出席した、メルセデスAMGの商品企画統括サイモン・トムス氏に直接尋ねることができた。
「開発の目的はシンプルです。大人4人が快適に移動できる、実用性にも富んだスポーツカーを提案したかった、ということです。もちろん4ドアスポーツカーとして、先行するライバルがいることも承知しています。私たちは、『ポルシェ・パナメーラ』『マセラティ・クアトロポルテ』などが、ライバルになると考えています。ただ、そうしたモデルを意識して開発を行ったのではありません。AMGとして(ふさわしいパフォーマンスを持ちながら)快適に移動できる空間を持つ、4ドアのスポーツカーを開発するということが目的でした。どの4ドアスポーツカーを選ぶのかはカスタマー次第で、皆さんそれぞれが嗜好(しこう)にフィットするものを選ぶでしょう。ただ、想定されるライバルよりもAMG GT 4ドアクーペのほうが魅力的であるということは間違いありません」
AMGにとって“GT”はスポーツカーの証し
ライバル車の想定に関しては、トムス氏が言うことも理解できる一方で、他ブランドよりもむしろ「S63」や「E63」といった同社が擁する他の4ドアモデルとのすみ分けが気になった。
しかし、世界初のAMG専売ディーラーとして誕生した「AMG東京世田谷」に置かれた実車には、想像以上に“AMG独自開発モデル”のオーラがあった。ちまたで言われているような“ちょっと大きな「CLS」”などではない。既存のメルセデス・ベンツのラインナップをAMG化したモデルとは異なる“特別なAMG”を感じることができた。
「普通のベンツじゃ嫌だ」というユーザーがAMGを指名するのだと思っていたが、どうやら顧客の欲求はすでにその先に進み、「普通の(メルセデスがベースの)AMGではつまらない」になっているようだ。そうしたところに、このクルマの特別感が光る。確かにありそうでなかった隙間を埋めるモデルだ。ベースを持たない独自開発モデルというだけでも、好事家は食指を動かしそうだ。
AMG GTクーペ(2ドア)とともにこのモデルも同じ“AMG GTクーペ”を名乗るが、2ドアクーペがトランスアクスルレイアウトを採用するのに対して、4ドアクーペではエンジン直後にトランスミッションを置く。同じ車名、シリーズと言ってもいいラインナップなのに、AMG GTクーペ(2ドア)のメカニズムをそのまま単純に移植したわけではない。
「車名の“GT”は、私たちのブランドではスポーツカーに与えられるネーミングです。したがって、メカニズムが異なっていても、そのカテゴリーでトップとなるモデルであれば、“GT”を名乗ります。将来的には他のカテゴリーの新たなる“GT”が誕生するかもしれません(笑)」
車名の“GT”から、どうしても派生モデルや姉妹車といったイメージを持ちがちだが、たとえメカニズムが異なっていてもAMG独自のスポーツカー、すなわちそのクラスを代表するモデルにはドアの枚数に関係なく、トップであることを示すために“GT”という車名が使われると解釈すれば、腑(ふ)に落ちる。
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時間をかけたボディー開発
これまで1ボディーに1エンジンの搭載を基本としていた車種体系のセオリーから外れ、直6とV8の2本立てとなるラインナップも、AMGの独自開発モデルでは初となる。
「スポーツカーを構成する要素は、エンジンだけではありません。さまざま技術でスポーツカーらしさを表現する必要があります。このモデルはAMGのDNAによって構築されたスポーツカーとして、(ユーザーの)期待に応えるパフォーマンスを有しています。一方で後席を備える利便性や日常性があるのも、このクルマの特徴です。したがって従来のAMGユーザーとは異なる幅広い層に対しては、エントリーレベルのラインナップも必要だと考えました」
その結果、AMG GT 4ドアクーペの日本でのバリエーションは最高出力639ps、最大トルク900Nmを発生する4リッターV8直噴ツインターボエンジン搭載の「AMG GT63 S 4MATIC+」を筆頭に、3リッター直列6気筒エンジンとインテグレーテッドスタータージェネレーター(ISG)を搭載する435ps、520Nmモデルの「AMG GT53 4MATIC+」、367ps、500Nmモデルの「AMG GT43 4MATIC+」の3モデル設定とされた。AMG GT63 S 4MATIC+には限定車の「エディション1」も用意されている。
大きなリアハッチを持つ、特徴的な4ドアクーペフォルムのボディー開発にも、十分な時間をかけたという。
「このクルマで本当にサーキットを走る人は少ないと思いますが、一般道を走っていても、サーキットを走ったような気分にさせてくれるクルマに仕上げています。AMG GT 4ドアクーペはEクラスなどでも使用しているMRA(メルセデス・リアホイール・アーキテクチャー)プラットフォームを基に開発していますが、4ドアのAMG製スポーツカーを名乗るにふさわしいボディー剛性を確保するために、多くのブレース(補強用の構造材)を用いました。さらにボディーでは、部位によって使用素材を変更しています。軽さが必要なフロントセクションにはアルミを、センター部分には高張力鋼板を、そしてリアのトランク部分にはカーボンを使用しています。ボディーの開発には3年半という時間がかかりました」
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ルイス・ハミルトンも評価
一方で、AMG GTクーペ(2ドア)の技術をAMG GT 4ドアクーペに移植したパートもある。「AMGリアアクスルステアリング」と呼ばれる後輪操舵システムがそれだ。100km/h以下の速度では前輪と逆方向に後輪が最大1.3度操舵され、100km/hを超えるとリアホイールをフロントホイールと同じ方向に最大0.5度操舵される。従来の4ドアモデルでは採用例がなく、「2ドアからこの技術を4ドアに移行するのは大変でした」とトムス氏は語った。
発表イベントでは、メルセデスAMGのF1パイロットであるルイス・ハミルトンがAMG GT 4ドアクーペをドライブするコミカルな映像が流された。こうしたメルセデスのワークスドライバーも開発に関与しているのだろうか。
「もちろんです。メルセデスAMGの新型車開発には、ワークスドライバーが何らかのかかわりを持っています。スポーツカーはどのようにドライバーの操作に反応するべきなのか、また逆に車両側からは、走行中のどんな情報を優先してドライバーに伝えるべきかを一番理解しているのがレーシングドライバーです。AMG GT 4ドアクーペの開発にあたっては、実際にドイツの有名な2つのサーキットでステアリングを握りテストしてもらいました。残念ながら私はいつも同行できるわけではないですが、非常にポジティブなフィードバックをもらえました。ドライビングダイナミクス面では、とても感心したという答えが返ってきました」
こうした現役のプロドライバーたちに加えて、メルセデスAMGには、5度のDTMシリーズチャンピオンに輝いたベルント・シュナイダー率いる、元プロレースドライバーたちから成るテスト部隊が存在する。彼らがAMG GT 4ドアクーペはもちろんのこと、すべてのAMGモデルの開発に関与している。
「私たちは、もっと多くのメルセデスAMGを公道で目にしてほしいと思っています。53シリーズ、43シリーズ、そして35シリーズとラインナップを拡充している理由はそこにあります。同時に、競合他社にはないオーラを持つヒーローのようなクルマをつくりたいとも考えています。そのひとつがメルセデスAMG GTシリーズであり、メルセデスAMGプロジェクトONEから生み出される公道走行が可能なF1マシン『メルセデスAMG ONE』なのです」
(文と写真と編集=櫻井健一)
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櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
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