選ぶならやっぱりMT仕様?
“マニア車”「メガーヌR.S.」の販売事情
2019.03.08
デイリーコラム
100台限りの武闘派フレンチ
『webCG』のメールマガジン『月刊webCG通信』でアンケートを行ったところ、「ルノー・メガーヌ ルノースポール(R.S.)」に乗るならATよりもMTを選びたいと答えた人が83.1%にのぼった。驚異的な数字である。第3世代のメガーヌR.S.は2018年8月に日本での販売が開始されていたが、トランスミッションはデュアルクラッチのEDCしか選べなかった。2019年3月22日に発売されるハイパフォーマンスバージョンの「メガーヌR.S.カップ」は、6段MTのみが設定されている待望のモデルである。
カタログに載るわけではなく、わずか100台の限定販売。おそらく即完売となるだろう。要望が多いのであればラインナップに入れればいいように思えるが、そうもいかないらしい。MTで乗りたいという日本のルノーユーザーがいるのは確かだが、数は限定的。発売当初はファンが殺到しても、継続的に売り続けるのは難しいのだ。2ペダルモデルで数をこなさなければ商売にならない。
そんなファンより一足先に、サーキットで開かれた試乗会に参加した。袖ヶ浦フォレストレースウェイに用意されていたのは3台。いずれもボディーカラーは白だった。R.S.カップで選べるのは白、黒、グレーの3色で、ノーマルR.S.のイメージカラーとなっているオレンジメタリックは設定がない。本国ではオレンジメタリックのR.S.カップも販売されているが、日本では限定販売なのでカラーを絞る必要がある。もちろん、「硬派なイメージの無彩色で統一する」という意図も隠されている。
あいにくの雨でウエットコンディション。残念なことである。R.S.カップはノーマルのR.S.とはシャシーが異なるのだ。スプリングレートをフロント23%、リア35%高めたことなどでグリップ性能が大幅に向上しているはずなのに、路面ミューが低い状況では強化シャシーの効果が表れる前に滑ってしまう。
つくり手は「カップ」がおすすめ?
ルノー・スポールのテストドライバーを務めるロラン・ウルゴン氏の助手席で同乗試乗した。コーナーの手前からクルマを斜めに向け、スライドを巧みにコントロールしながら勢いよく加速していく。思わず足を突っ張って体を振られないように耐えていると、うれしそうに笑顔を向けるのだ。楽しませようとしてわざとやっているのだろうが、おちゃめすぎる。
これまで何度もテストドライバーが運転するクルマの助手席に乗ってきたが、こういうタイプは初めてである。普通はしっかりとタイヤをグリップさせ、安全のマージンをとって走るものだ。市販車にはどういう人が乗るのかわからないのだから、運転スキルのレベルによらずドライブを楽しめるように仕上げることが求められる。テールを流しながら華麗に舞うような走りを誰もができるわけではない。
テストドライバーはごく普通の走りで問題点を洗い出すのが仕事なのだ。だから、通常はメディアの人間を乗せて運転する時もその姿勢を崩さないが、ウルゴン氏は「どうです? 楽しいでしょう!」とでも言いたげにアピールしてくる。どうやら、彼は自分が楽しめるハンドリングを追求してメガーヌR.S.の方向性を定めたようだ。会場に同席したシャシー開発のフィリップ・メリメ氏とのコンビで、妥協のないスポーツモデルを作り上げた。
ならば、ノーマルのR.S.とR.S.カップでは、どちらがオススメなのか。メリメ氏は「お客さんを増やすには、EDCモデルが必要です。誰にでもR.S.を運転してほしいと思っています」と話した。自分たちが開発した商品なのだから優劣をつけることができないのは当然だが、言外にR.S.カップを推しているように聞こえたことは否定できない。
ただし、走りを最優先しているのだからデメリットも生じる。サーキットの滑らかな路面では問題はなかったが、市街地では事情が変わってくるだろう。その点、ウルゴン氏は「日常では使えない、というほどではないけれど……」と微妙な表現をした。ある程度の覚悟は必要だと思われる。
本国よりもマニアック
R.S.カップにはトルセンLSDやバイマテリアルフロントブレーキが装着されている。さらに、ダンパー内にセカンダリーダンパーを組み込んだ「4輪ハイドロリックコンプレッションコントロール」の長さを10%伸ばし、路面追従性が高められている。これだけスペシャルなモデルに仕立てているのに、ノーマルのメガーヌR.S.と比べてわずか10万円高の450万円である。バーゲンプライスではないか。
「もともと別のモデルとして設計されていて、追加のパーツを与えたわけではないからこの価格になった」という説明だった。理屈はわかるけれど、もう少し価格を上げても手に入れたい人は減らないはずだ。本国にはノーマルR.S.のMTバージョンもあるが、日本ではメガーヌR.S.をMTで運転したいならばR.S.カップが唯一の選択肢なのである。
フランス人はMTを好むので、メガーヌR.S.全体でみてもMTが半数を超えているそうだ。日本ではMT需要が限られているので、限定モデルとして販売するしかない。しかも、サーキット走行に最適化されたハードなシャシーが漏れなく付いてくる。結果としてマニアック度はさらに増してしまう。
ルノーには、定期的に限定カラーをまとった特別仕様車が発売されるモデルがある。「カングー」だ。毎回150台とか200台が売り出されて、すぐに完売する。もともと日本で人気のあるモデルだが、限定カラーが出るのを待ち構えているカングーファンが多いらしい。彼らはメガーヌR.S.には興味がないだろうし、逆も同じことが言える。ルノーには両極端の熱狂的なマニアが存在しているのだ。商売的には“真ん中あたり”のお客をつかむほうがいいのだろうけれど、とんがったモデルが注目されるブランドというのは、すてきだと思う。
(文=鈴木真人/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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