アウディA7スポーツバック 3.0TFSIクワトロ(4WD/7AT)【試乗記】
活動的な芸術家に 2011.06.27 試乗記 アウディA7スポーツバック 3.0TFSIクワトロ(4WD/7AT)……1014万円
“4ドアクーペ”を名乗る、大きなボディの新型アウディ「A7スポーツバック」は、どんなクルマなのか? 高速から峠まで、その実力を試した。
興味をそそるプロフィール
「A6」ベースの大型4ドアクーペが「A7スポーツバック」である。ひと足先に出た「A5スポーツバック」の兄貴分だ。
このシリーズは、「耽美(たんび)派高級5ドア・ハッチバック」とも言うべきアウディの“スポーツバック・コンセプト”を製品化したものである。かなりのニッチ商品に思えるのに、最初からこんなに品ぞろえを広げて大丈夫なんだろうか。この先、「A9スポーツバック」も出るのだろうか。なんて野次馬的興味も沸くが、とにかく最近のアウディのバイタリティには目を見張る。
A6ベースとはいっても、A7スポーツバックのボディは堂々たるフルサイズである。全長は5m。全幅も1.9mを超す。デカさではA6よりも「A8」に近く、A5スポーツバック(全長4710mm、全幅1855mm)と間違われる心配はなさそうだ。
クワトロ・システムと組み合わされるパワーユニットは、スーパーチャージャー付きの3リッターV6+7段Sトロニック。本国でもガソリンモデルはこのエンジンがいちばん大きい。
“スポーツバック”という、若々しくて軽快なサブネームを持ちながら、ボディは5m級のフルサイズ。しかし、エンジンはフォルクスワーゲングループのトレンドに従った“ダウンサイジング済”の3リッター。意外性に満ちた新型アウディの“走り”やいかにと路上に出ると、背筋がゾクゾクッとした。
大きくたって、軽やか、滑らか
走り出すなり、まず印象的だったのはシルクのような“滑らかさ”である。エンジン、変速機、足まわり、その他もろもろの可動部品におよそフリクションってものが存在しない。とくに動き出しから加速してゆくときの高級なスムーズさは、V8のA8以上だと思った。
かといって、静穏一方のオジンぐるまかというとまったく違う。肌合いはモデル名のとおりスポーティである。一部アルミを使ったスチールボディは車重1.9t。軽くはないが、直噴の3リッターV6もパワーは300psある。しかも、スーパーチャージャー・ユニットらしく、2000rpm以下の低回転域から厚みのあるトルクを生産するから、およそ動力性能に不満を覚えることはない。一方、トップエンドまで衰えない回転の軽やかさは、3リッター6気筒という、ほどほどに小さいエンジンならではだろう。穏やかな加速も速い加速も両方キモチいい。
箱根の集合時間に遅れそうになったおかげで、ワインディングロードでのキモチよさも堪能できた。サスペンションはしなやかに動き、ズデンとした鈍重さとは無縁だ。全長5mの重量級四駆セダンとは思えないほど、身のこなしが軽い。操縦性能はスポーツセダンのレベルにある。
ただし、そういうところで調子に乗って飛ばしすぎたためか、箱根往復ワンデイ・ツーリングの燃費は7km/リッターに届かなかった。
威張らない高級車
A7スポーツバックにはアイドリング・ストップ機構が備わる。「A1」のそれは再始動時の“ブルン”が気になって、頻繁に止まる都内ではキャンセルボタンに手が伸びかけたが、さすがにこのクラスともなると、エンジン停止/始動のマナーも洗練されている。掛け値なく“使える”アイドリング・ストップ機構である。
メーカー自ら「4ドアクーペ」とうたうとおり、後席はフルサイズ・セダンのようには広くない。膝まわりや足元のスペースは広大だが、後方へ向けてスロープしてゆくルーフのおかげで、天井には圧迫感があるし、前方視界も広々というわけにはいかない。このサイズで、リアシート優先ではないのだから、実にぜいたくなクルマである。
そのかわり、荷物の積載能力は大型ハッチバックの面目躍如だ。平常時でも120cm近くある荷室奥行きは、後席を畳むと180cmに広がる。前席背もたれまで押しこめば、2mの長尺モノが積める。問題は、そんなに積んでどこへ行くかである。
このクルマに試乗したころ、佐渡 裕がベルリン・フィルを指揮したというニュースが話題になっていた。A7スポーツバックは、たとえば彼のような活動的な芸術家のアシに好適ではないか。高級車なのに、イバリンボな傲慢さはみじんもない。流麗な外観だけでなく、シルキーな走行感覚もアート的な洗練を感じさせる。しかも、広い荷室には コントラバスでもトロンボーンでも積めそうだ。アウディジャパンは有名人にクルマを提供するのが好きだけど、A7スポーツバックは佐渡 裕さんでどうでしょうか。
(文=下野康史/写真=峰昌宏)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。