BMW 330i Mスポーツ(FR/8AT)
軽快一本やり 2019.03.28 試乗記 フルモデルチェンジで第7世代となった「BMW 3シリーズ セダン」に試乗。ずばり、新型は“買い”なのか? 先代「F30」型を日常の足とするモータージャーナリスト清水草一が、走りの印象を報告する。数値の割にはデカくない
BMW 3シリーズがフルモデルチェンジされ、わが愛車もめでたく旧型になった。そこで今回は、憎き新型3シリーズを徹底的にやり込めるべく、旧型で試乗会に乗り込んだ! ……というわけではなく、自家用車が旧型3シリーズなので、フツーにそれに乗って出掛けただけですが、新型3シリーズの第一印象はどんなものだったのか。
今回試乗したのは、「330i Mスポーツ」。BMWジャパンは日本の顧客のために、本社にかけあって「320i」に日本専用エンジンを用意させたそうだが、今回乗れたのは車両本体価格632万円の330i Mスポーツのみだった。思えば先代3シリーズが出た時も、当初は「328i」しか用意されていなかった。インプレする側としては、最初に乗るのが2リッター4気筒ターボのパワフル版搭載グレードという点で、条件は同じだ。
細かい説明は抜きにして、いきなり印象から入ろう。
まず見た目。パッと見は、あまり大きくなったようには感じない。寸法を見ると、全長が70mmも長くなっており、おかげで後席の足元は非常に広くなった。トレッドの拡大によって、全幅は25mm拡大され、ついに立体駐車場に入庫可能な目安である1800mmを超えてしまったのも話題だ。
それでも大きくなったという印象があまりないのは、第一に外観デザインがマイナーチェンジレベルに見えるから。第二に、他の主要モデルが3シリーズ以上の勢いで大きくなっているから、だろうか? なにせ現行「ホンダ・シビックセダン」の全長は、先代3シリーズより長いんですから。3シリーズも新型で、シビックの全長を抜き返したけど。
ひたすら軽い味付けに
今回は試乗会でのファーストインプレッションだったので、この大きさがどれくらいマイナスに感じられるか、実際の生活で使ってどうなのかはわからないが、取りあえず、「見た目の印象はマイナーチェンジレベル」ということを強調しておきたい。
で、見た目の方向性だが、あえて言えば「コテコテ方向」である。キドニーグリルの縁のメッキが太くなり、目の造作がハデになり、フロントバンパーが意味不明にうねっている。サイドはキャラクターラインが減ってスッキリしたが、サイドウィンドウ後端の「ホフマイスターキンク」が、無意味に引き延ばされているように見えるのもイマイチ。全体的にムダなディテールが増えたように感じる。実際、先代と並べて見ると、先代は控えめで実にバランスがよかったなぁと思ってしまう。これは先代オーナーのひいき目でしょうか。
運転席に乗り込む。近年の定番である大型ディスプレイには目もくれず、まずはドラポジを合わせてステアリングホイールを握る。太い! ステアリングがメチャ太い! もともとBMWのステアリングは太めだけれど、一段と太ったなぁ。
エンジンをかけて、シンプルになったATセレクトレバーをDレンジに入れて発進だ。おお、パワーステアリングが軽くなっている! 握りはぶっとく、パワステは軽く。これだけでクルマの印象は大きく変わる。先代3シリーズは、カルカルステアリング全盛の近年にあって、ステアリングが重めの筆頭クラスだった。この適度な重さが、先代3シリーズに大いなる重厚感を与えていた。高速巡行、本当にラクなんです。それでいて、ステアリングを切れば動きは実に正確かつシャープ。つまり重厚かつ軽快な乗り味だったのである。
一方新型3シリーズは、パワステがフツー程度に軽くなったことで、この重厚感が薄らいだ。ボディーのしっかり感は微妙に増したものの、先代比で55kgの軽量化を実現しているせいか、比重が軽くて硬いモノが動いていく印象もある。つまり、「重厚かつ軽快」から「どっちかっていうと軽快一本やり」への変化である。
BMWとしては、先代3シリーズがラグジュアリー方向へ流れたのを、スポーティー方向に引き戻したのが、新型3シリーズとのこと。う~ん、そうなのかなぁ。軽さ=スポーティーなのか。
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新型に新たな感動は……
試乗車はオプションの19インチホイールをおごられたMスポーツだったが、その割に乗り心地はしなやかだ。アダプティブMサスペンションは、ドライブモードが「コンフォート」ならば、懐深く路面の突き上げをいなす。ただ、「スポーツ」モードでははっきりと硬派に変わる。これが威力を発揮するのは、アウトバーンの速度領域か。日本で乗るには、フツーに乗る限りコンフォートモードが基本になる「アダプティブ」モード入れっぱなしが断然イイだろう。
スポーツモードに入れると、路面のジョイント部などで、「コツッ」と比重が軽い感じの振動がくる。これは大径ホイールに主な原因ありか。このボディーに18インチ、あるいは17インチを履けば、動きはもっとしっとりするはず。さらにMスポーツではないノーマルグレードならば、スポーティーという形容詞を特に意識するほどでもないのかもしれない。わかりませんが。
エンジンは、おなじみの2リッター4気筒ツインパワーターボ。性能的には十分だが、超フラットトルクということもあり、先代3シリーズ同様、回して特に気持ちイイという部分はない。最大トルク400Nmという数字は、わが「320d」(380Nm)をも上回っていてビックリするが、体感上はそれほどの性能は感じない。これはシャシーが速くなってるせい?
ということで、330i Mスポーツに乗っての第一印象は、「走りに関しては、先代に比べて特に勝る部分は感じなかった」という結論になった。もっとわかりやすく言うと、新たな感動がなかったのだ。
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リファインの域を出ていない
先代3シリーズには、登場と同時に感動させられた。なによりステキに感じたのは、重厚にして軽快なハンドリングだ。4気筒エンジンは実用一本やりではあったが、それを上回るハンドリングのすばらしさがあった。まさに駆けぬける歓び。「3シリーズはこんなにいいクルマになったのか!」と、ビリビリしびれたものです。結果、こうしてオーナーにもなりました(激安中古車ですが)。
それに比べると新型は、先代のリファイン版の域を出ていない。ステアリングの重厚感が消えた分、大事なものを失ったとも感じる。少なくとも先代3シリーズオーナーとしては、いまのところ買い替えたいと感じる部分は皆無である。
いや、あった。レーダーと3眼カメラを使った先進運転支援システム(ADAS)だ。こういう日進月歩の部分は、さすがに先代3シリーズとは大きく違う。アクティブクルーズコントロール(ACC)を作動させれば、わが愛機(もうすぐ5年落ち)とは雲泥の差。高速道路では「ほぼ自動運転」みたいなものだ。
しかし、ACCの性能差でクルマを買い替えたくなるほど、頼りきっているわけでもない。それは「オーケーBMW!」から入る音声認識システムも同様だ。そういうのはやっぱり、クルマ好きにとってはオマケの部分なので。もちろん新採用のリバースアシストも。便利だとは思ったけれど、果たして年に何回使う機会があるだろう。
端的に言って、新型3シリーズの実力はまだよくわからなかった。つまりこれからが楽しみってことでもある。なにせまだワングレード試しただけ。今後さまざまなエンジン&グレードが投入されるわけだし、個人的には、新型3シリーズはこれからなんだろうと思います。
(文=清水草一/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
BMW 330i Mスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4715×1825×1430mm
ホイールベース:2850mm
車重:1630kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:258ps(190kW)/5000rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1550-4400rpm
タイヤ:(前)225/40R19 93Y/(後)255/35R19 96Y(ブリヂストン・トランザT005)
燃費:13.2km/リッター(WLTCモード)/15.7km/リッター(JC08モード)
価格:632万円/テスト車=724万2000円
オプション装備:メタリックペイント<ポルティマオ・ブルー>(9万円)/イノベーションパッケージ<BMWレーザーライト+BMWヘッドアップディスプレイ+BMWジェスチャーコントロール>(22万3000円)/ハイラインパッケージ<運転席および助手席のランバーサポート+アッシュグレーブラウン・ファインウッド・インテリアトリム+ヴァーネスカ・レザーシート>(20万1000円)/コンフォートパッケージ<オートマチック・トランクリッド・オペレーション+ストレージパッケージ+パーキングアシストプラス>(12万5000円)/ファストトラックパッケージ<19インチMライトアロイホイール・ダブルスポーク・スタイリング791M+Mスポーツディファレンシャル+アダプティブMサスペンション>(28万3000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:4364km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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