BMW 330i Mスポーツ(FR/8AT)
こんなに立派になっちゃって 2019.03.02 試乗記 BMWが誇るスポーツセダンのベンチマーク「3シリーズ」が、7代目にフルモデルチェンジ。ブランドの“伝統芸”ともいえるミズスマシ的ドライブフィールと、隔世の進化を遂げた強力なドライビングアシストに触れ、リポーターが感じたこととは?ディーゼルやPHEV、直6モデルのラインナップも
国内では2019年の1月末に正式発表となった新型3シリーズは、エンジンがひとまず2リッターの4気筒ガソリンターボのみで、手ごろな「320i」と高出力版「330i」の2機種でスタートした。
そんな間にも、本国での新型3シリーズのラインナップはどんどん拡大中だ。日本でも売れ筋となりそうなディーゼルは、現時点ですでに「320d」に加えて「318d」や「330d」などがある。そしてプラグインハイブリッドの「330e」、さらには“非「M3」で最速の「3」”となりそうな、直列6気筒ガソリンターボの「M340i xDrive」も姿をあらわしている。
聞くところでは、少なくとも320dと330eは日本発売も遠くない……とのウワサだが、今回のテーマはいち早く上陸した330iである。ちなみに、弟分となる320iもすでに受注が開始されているが、充実装備の「スタンダード」と「Mスポーツ」が春ごろ、廉価版「SE」は2019年中旬の上陸予定だとか。
新型3シリーズの購入を真面目に検討中の向きはご承知のように、日本における330iは現時点で「Mスポーツ」のみの設定となる。ホールド性の高いシートを含めた内外装スポーツ系コスメを筆頭に、18インチホイール(標準グレードは16インチ)と10mmローダウンのスポーツサスペンション、走行状況に応じてレシオが可変する「バリアブルスポーツステアリング」を標準装備することが、Mスポーツならではの主たる特徴といえる。
また、日本上陸第1号となる今回の試乗車には、あいさつがわり(?)とばかりに、新型3シリーズで注目されるべきパッケージオプションがいくつか装備されていた。中でも大径19インチホイール、連続可変ダンパー「アダプティブMサスペンション」や電子制御LSD「Mスポーツディファレンシャル」など走行性能に少なからず影響する(はずの)装備・装置をセットにした「ファストトラックパッケージ」が追加されていることは、とくに念頭に置いておくべきだろう。
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日本市場の要望が生んだユニークな新機能
さて、新型3シリーズをひと足先に海外で試乗した西川 淳さんも指摘していたとおり、3シリーズは大きくなった。
とくに“重要市場たる日本のため”と、先代ではドアハンドルを削ってまで1800mmにおさめられていた全幅は1825mmまで広がってしまい、全長も日本でひとつのボーダーラインである4.7mを超えた。結果として「アウディA4」よりはまだ小さいが、「メルセデス・ベンツCクラス」と比較するとスリーサイズはすべて3シリーズのほうが大きくなった。
つまり、これまで御三家でもっとも小さかったのが真ん中になったわけだが、これをどう判断するかは人それぞれだろう。そのサイズアップをあえて擁護するなら、新型3シリーズのセンターコンソールは驚くほど立派になったうえに肩まわりの広々感も増して、明確に高級車っぽくなった。そして、身のこなしでも、これまでわずかにあったツマ先だったナロー感がほぼ消えた。
ただ、“それでも大切な日本市場のため”と(廉価な320i SE以外の)全車に新しく標準装備された「リバースアシスト」は、なかなかオツな技術である。具体的には、36km/h以下の車速で走った直近50mまでのステアリング操作を自動的に記憶しておいて、バック走行時にそれを忠実に再現する機能だ。たとえば、アタマから突っ込んだパーキングスペースから退出するとき、あるいは狭い道で対向車と“お見合い”になったときなどに、まるで動画を巻き戻すように、いま来た軌跡をトレースしながらバックする。
まあ、バック走行になんらストレスを感じない運転に自信のあるドライバーにはほぼ無用の長物だろうが、その実際の所作はじつに見事なものである。自動運転技術にはこういう使い道もあるのか……と素直に感心したのも事実。それに、駐車時に起動するアラウンドビューカメラの画面に、4枚のドアを開けた軌跡が表示されるのも“駐車ベタ”のみなさんが重宝するであろう親切心だ。
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基本性能の向上がうかがえる
オプションの可変ダンパーを装備した新型3シリーズは、今回の試乗車が総走行距離3000kmにも満たない“まだまだこれから”の個体だったことを差し引いても、上屋の動きが明確に抑制されているのが印象的である。
クルマ全体を統合制御するドライブモードは全部で4つあるが、ダンパー制御にかぎると、基本的には柔らかめの「コンフォート」と硬めの「スポーツ」があり、中間の「アダプティブ」ではコンフォートからスポーツまでのレンジを状況に応じて使い分けるようだ。
柔らかいコンフォートモードでも“意外に締まっているな”というのが正直な印象で、高速道でも以前のようなフワリ系の上下動が影をひそめたのと同時に、路面からのアタリは少し鋭くなった。いっぽうで、硬いはずのスポーツモードでの低速時のアタリが明確に優しくなったのも事実で、全体としては“どっちもどっち”の感が強まった。
……と書くと、新型3シリーズのシャシーがなんだかさえないように思われるかもしれないが、実際はその逆だ。シャシー技術の最終目的は“モード切り替えなどせずとも、あらゆる場面でドンピシャに動かす”であり、その意味ではモードによる激変がなくなった新型のほうが、可変ダンパー本来の理想に近いともいえる。また、その背景にはトレッドやホイールベースなどのディメンションの絶対的余裕、車体剛性、重心高、シャシー周辺のフリクション……といったクルマの基本フィジカル能力の向上があるのも間違いない。
実際、新しい330i Mスポーツは制御モードを問わずに、路面にベタっと水平に低くへばりついた姿勢をくずさない。ピッチングやロールは最小限なのに、わずかな荷重移動によるグリップ変化はけっこう明確に伝達してくれるのも好印象。そしてなにより、クイックなのに手応えがじつに滑らか、かつ一定したステアリングフィールが素晴らしい。この良質なミズスマシ感覚がBMWのいう“スポーツセダンの再定義”だとすればそうなのかもしれないし、世界のマニアがいだく典型的なBMW像に忠実ともいえる。
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エンジン屋の面目躍如
2リッター4気筒ターボの“30i”ユニットは、従来型の同名モデル比で6ps高、50Nm増となったが、感覚的には数値以上で、かけ値なしにパワフルでモリモリ、かつ声色も悪くないステキな味わいのエンジンだ。
しかも、2リッターからこれだけのパンチを絞り出しているのに、過給ラグのたぐいがほとんど看取できないのは素晴らしい。スロットル操作とトルク供給にズレがなく、リニアな爽快感は自然吸気っぽい……とかいいつつ、これほどずぶといトルクを地平線のようにフラットに供給する特性は、とても自然吸気ではありえない。
BMWならではの8段スポーツATをマニュアルモードにすると、7000rpm弱のカットオフポイントまできっちり回す。意地悪に観察すると5000rpmあたりでパワーのアタマ打ち感はある。しかし、数ある過給エンジンのようにそこから盛り下がるわけでもなく、トップエンドまでスパッと突き抜けるように回り切るのはさすがBMWエンジンである。
BMWのスポーツATといえば、伝統的なトルコンATとしては屈指のキレ味を誇る。この新型330iでも、走行モードを引き上げるにともなって変速スピードが切り詰められていくが、パワートレインを最上の「スポーツプラス」にしても変速はなんとも滑らかで、演出過多のブリッピングをかますわけでもない。ただ、今回はときおり、クルマ全体の走りのリズムに対して、ATが足を引っ張っているように感じられたが、こんなことはこれまでのBMWスポーツATではあまり経験のなかったことだ。これは果たして、彼らのスポーツATが宗旨替えしてしまったのか、あるいは自慢のスポーツATでも追いつかないほど、シャシーとエンジンが速くなったのか……。
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大幅な進化を遂げたADAS
古典的な運転好き御用達ブランドであるBMWだが、いっぽうで、いわゆる自動運転にもつながる先進運転支援システム(ADAS)方面にもとくに積極的である。そんなBMWの姿勢は、2017年発売の「5シリーズ」であからさまに本格化して、今回の新型3シリーズではさらに拍車がかかっている。
新型3シリーズのADASは、イスラエルのモービルアイ社と共同開発したものだという。各種レーダーと3眼カメラを使ったシステムは、現時点で実用化されているものでは世界最先端といっていい。日本仕様の新型3シリーズでも、320i SE以外の全車でフルシステムが標準装備される。
その制御や運用もこれまでよりさらに一歩踏み込んでおり、ステアリングホイール上のボタンを1回押すだけで、セミ自動運転の「アシステッドドライブモード」か、全車速対応アダプティブクルーズコントロールの「アクティブクルーズコントロール」が即座に作動する。ちなみに前者の「アシステッド~」は車線や前走車をモニターして、より積極的にレーン中央をキープする……という、より自動運転に近いモードである。
いずれにしても、以前のようにメインスイッチでまずスタンバイ状態にしてから、あらためてセットボタンを押す……という回りくどい二度手間ではなく、ボタン一発で起動できるようにされたあたりに、この種のセミ自動運転を“使えるときは、短時間でもガンガン使うのが大前提”の日常的な機能に格上げしたBMWの思想がうかがえる。
誤解を恐れずいうと、ここまでくると、運転中にちょっと電話する、簡単なナビ設定をする、あるいは同乗者とコミュニケーションする……といった“完全によそ見をするわけではないけど、一瞬だけクルマに運転を任せたい”という使いかたもできそうな気がする。もちろん、こうした行為は現状では明確な交通違反だし、技術的に解決しなければならない部分も残るが、これを手がける技術者たちはそんなシーンを想定しているのかも……と思ってしまうレベルに、それは達していた。
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これまでとは一線を画す、強力なアシスト機構
新型3シリーズのADASは従来にないほど気軽に使えるインターフェイスに加えて、ステアリングを筆頭とした介入動作もこれまでとは比較にならないほど積極的、かつ強力なものになっている。
車線をキープさせるステアリング制御は車速60km/h以上で働くが、それは以前の“肩たたき”のような奥ゆかしいものではなく“巨人に首根っこを押さえつけられた”とでも錯覚するほど強引なものになった。また、あるときは周囲にクルマがないことをいいことに、高速カーブでクリッピングよろしく車線のキワキワを攻めすぎたら、まるで巨大なゴム製の壁にぶつかったかのように、レーン中央にはじき返されてしまった。
さらに興味深いことには、この種のステアリング制御にはいまだに違和感をいだくドライバーも多く、即座にキャンセルできるボタンがステアリングやインパネに設けられるのが一般的だが、新型3シリーズにはそれがない。もちろん、センターディスプレイの車両設定メニューに入り込めばキャンセル可能なのだが、頻繁なオン/オフを想定していないのは明白。これほど強引なアシストなのに緊急回避的にキャンセルする場面も
……とはいっても、ADASの手のひらの上で遊ぶ新型3シリーズは、なるほど快感たっぷりのスポーツセダンだ。水平基調の俊敏なコーナリングに加えて、すべての運転操作が決まったときのテールをジワリと沈めたコーナーの脱出姿勢は、まさにFRの快感というほかない。その強力なキック力にはMスポーツディファレンシャルの効果も絶大っぽい。
いっぽうで、走行中に刻々とレシオを変えるバリアブルスポーツステアリングは、運転の労力を明確に減じてくれる反面、いまだになじめない不自然さもなくはない。しかし、新型3シリーズに仕込まれた自動運転やADASの世界観を実現するには、この種のアクティブステアリングは、もはや“ありき”というほかない不可欠な技術なのだろう。
あらゆる装備テンコ盛りの今回の試乗車で、新型3シリーズのすべてが分かるはずもない。まあ、走りのある一面にいつもの伝統芸が確実に感じられたのはうれしかったが、車体サイズやADASなど、別の一面では新型3シリーズがわれわれの考える3シリーズやBMW像の向こう側にいってしまった気もする。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
BMW 330i Mスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4715×1825×1430mm
ホイールベース:2850mm
車重:1630kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:258ps(190kW)/5000rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1550-4400rpm
タイヤ:(前)225/40R19 93Y/(後)255/35R19 96Yランフラットタイヤ(ブリヂストン・トランザT005)
燃費:13.2km/リッター(WLTCモード)/15.7km/リッター(JC08モード)
価格:632万円/テスト車=724万2000円
オプション装備:メタリックペイント<ポルティマオ・ブルー>(9万円)/イノベーションパッケージ(22万3000円)/ハイラインパッケージ(20万1000円)/コンフォートパッケージ(12万5000円)/ファストトラックパッケージ(28万3000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:2292km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:632.6km
使用燃料:56.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.2km/リッター(満タン法)/11.4 km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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