トライアンフ・スピードツイン(MR/6MT)
甘く見てはいけない 2019.04.01 試乗記 クラシカルなスタイリングとスポーティーな走りが身上の「トライアンフ・スピードツイン」。往年の名車の名を冠する生粋のスポーツバイクは、その名に恥じない本格的なパフォーマンスと、オーナーの所有欲を満たす上質さを併せ持つ一台に仕上がっていた。80年の時を経て復活した伝説の車名
例えばどこかの試乗記に、「その鷹揚(おうよう)としたハンドリングに身をゆだね、まろやかに回るバーチカルツインの鼓動を感じながら……うんぬん」なんて書いてあったなら「なるほどそういうバイクか」と納得してしまいそうだが、トライアンフ・スピードツインの実態はまったく違う。
先ごろ日本へ導入されたこのモデルは生粋のスポーツバイクであり、エンジンもサスペンションもディメンションもそれにのっとったもの。「ネオクラシックとしては」という“ことわり”を必要としないほど明確にパワフルで、ツインショック以外のすべてが現代的なパーツで構成されている。
スピードツインという車名は、かつて存在したモデルの名を復活させたものである。“かつて”と言っても実に80年以上も昔の話で、1937年7月にロンドンで発表された499ccの「5Tスピードツイン」がそのオリジナルだ。当時のトライアンフは1929年に始まった大恐慌のあおりをまともに受け、業績不振の真っただ中にあった。1936年には四輪部門と二輪部門が切り分けられ、いよいよ末期かと思われたそのときに、起死回生の一台として市場に送り込まれたのである。
シングル(単気筒)が全盛だった時代に、ツイン(2気筒)というだけでも目立つ存在だったが、最高速は150km/hをうたうなどパフォーマンス面でも話題を呼び、大ヒット。結果的に窮地に陥っていたトライアンフを救うことになったのである。
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ライディングポジションに見る本気度
トライアンフが賢明だったのは、今に至るまでその名を性急に持ち出さなかったことだ。ネオクラシックが大きなカテゴリーに成長したのは同社の功績が大きく、他メーカーに先駆けて20年以上も前からリバイバルモデルをラインナップしてきた。つまり、現在のムーブメントの下地を整えてきたと言ってもよく、本来ならいの一番に歴史ある“スピードツイン”の名を復活させてもよかったはずだ。
しかしながら、オリジナルがそうであったように、出すからには相応のスペックを与えるべきと考えたに違いない。そのことは、新生スピードツインのスロットルをひと捻(ひね)りすればよく分かる。“癒やし”や“ゆとり”に重きを置くネオクラシックが大勢を占める中、力強い加速でそれらを圧倒。アベレージスピードを引き上げた時に本領を発揮するように仕立てられていたのである。
そもそもライディングポジションからして、のほほんとしたものではない。アップライトなバーハンドルが装着されているが、それはリラックスして乗るためのものではなく、積極的にフロントへ荷重を掛けるための備えだ。そのためにステップは後退し、シートにも傾斜がつけられているため、ごく自然にハンドルへ覆いかぶさるような前傾姿勢になる。
もちろんこれは、単にアグレッシブさを演出するものではない。既述の通り、スロットルを大きく開けた際のキック力はかなりのもので、猛然と車速を押し上げていく。その時に体を支えやすいポジションが与えられているのだ。
サスペンションに可変機構があってほしい
カタログスペック上の最高出力は97psを公称する。現代の技術と1200ccという排気量を踏まえると控えめといえる数値ながら、中回転域に振り分けられたトルクと3種あるエンジンモード(レイン/ロード/スポーツ)がそれをフォロー。とりわけ、最も鋭いスロットルレスポンスを発揮する「スポーツ」に切り替えた時の加速フィーリングは、ちょっとしたスーパースポーツを思わせるほどで、不用意にスロットルを開ければフロントタイヤはいとも簡単に路面から離れようとする。
反面、低回転域のトルクは希薄だ。ゼロ発進の状態からタイヤが数回転する合間に、燃調の薄い領域があり、時に半クラッチも要する。1200ccのツインと聞けば、無造作にクラッチをつないでもズドンと走りだしそうなイメージだが、スピードツインにそれは当てはまらない。日本の道路環境下では極低速での走行を強いられる場面が多いだけに、対策を望みたい部分だ。
加えて望みたいことがもうひとつ。サスペンションのセッティングはエンジンの出力特性に合わせ、やや強めに減衰が効いている。大きな不満はないものの、スポーティーなハンドリングと車体価格を照らし合わせると調整機構が備わっていてほしい。リアショックのプリロードが変更できるだけで、フロントフォークに至っては非調整式というのでは、せっかくのパフォーマンスに対していささかひ弱である。
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所有欲を満たす上質なアピアランス
とはいえ、あとはよくできている。トランスミッションは精度、タッチともに良好でアップもダウンもカツカツとスムーズに切り替わっていくため心地いい。質感に関しては期待以上だ。フェンダーやスロットルボディー、サイドカバー、フューエルキャップにはアルミパーツが効果的に配され、見た目のみならず、手触りにも気が配られている。また、ライトステーやサイドスタンドに至っては鍛造のアルミを採用。その上質さは申し分なく、所有欲を満たす演出が至るところにちりばめられている。70種類以上用意されるアクセサリーをそこに盛り込めば、カスタムを楽しみながら自分だけのスピードツインを作ることも可能だ。
デザインありきのネオクラシックが多い中、そのスポーツ性で他とは一線を画しているのがスピードツインだ。見た目の印象よりずっと手ごわいものの、突き放すほど冷淡でもない。最初から癒やされたいのなら、「ボンネビル」や「ストリートツイン」をどうぞ。それがトライアンフのスタンスである。
(文=伊丹孝裕/写真=三浦孝明/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×760×1110mm
ホイールベース:1430mm
シート高:807mm
重量:196kg
エンジン:1200cc 水冷4ストローク直列2気筒 SOHC 4バルブ
最高出力:97ps(72kW)/6750rpm
最大トルク:112Nm(11.4kgm)/4950rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:160万円

伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。