第29回:笑っちゃうくらいスゴイ
レクサスの「LM」は「LS」を超えた新アジア高級車だ!
2019.04.27
小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ
「LS」比1.5倍のデカ顔レクサス!
勢いまかせ再び! 久々に笑っちゃうくらいの衝撃ですわ。それは上海オートショーで突如発表されたレクサス初のゴージャスミニバン「LM」。ネットで話題だから知ってる人も多いかと思いますが、一瞬「トヨタ・アルファード/ヴェルファイア」の顔違いと思いきや中身は別物。
フロントグリルは「レクサスLS」比でタテに約1.5倍の大きさなのはもちろん、「L」字マークがセンターピラーにプレスされている。中身も基本骨格はアルヴェルと同じだけど、足まわりには「レクサスES」で使ったスイングバルブショックアブソーバーが、シートスポンジには世界初の粘弾性ウレタンパッドが使われているのだ。なかでも注目は初のパーティション付き4人乗り仕様で、リアシートをダイナミックダンパーを介してフロアに取り付けているだけでなく、アームレストはフロアにじか付け! 結果、シートに入る振動量はアルヴェルの3分の1に抑え込まれているのだとか。
さらなるポイントはパーティションそのもので、単なる前後の仕切り板と思うことなかれ。中には鉄製フレームが入り、ボディーのねじり剛性が大幅アップ。ミニバン特有のマッチ箱ボディーの変形を抑え込み、剛性感はもちろん、乗り心地のプルプル感も大幅に低減しているそうだ。
ってなわけでハードの出来栄えも気になるが、生まれた背景にもビックリ。上海で発表されただけあって、そこには日本人が驚く中国スーパーリッチの存在があったのだ。ってなわけでLMのチーフエンジニアに上海ショーの会場で直撃取材!
日本でも絶対売るべきでしょう!
小沢:あれ? どなたが来るかと思ったらアルファード/ヴェルファイアのチーフエンジニア、吉岡憲一さんじゃないですか。
吉岡さん(以下、吉岡):ご無沙汰しております。レクサスの吉岡です(笑)。
小沢:考えてみれば当たり前か。LMのベースはアルファード/ヴェルファイアなんだから。しかし、これはどこで売るんですか?
吉岡:中国と東南アジアです。
小沢:ってことはタイで右ハンドル車が造られるから、ソイツを日本に入れる計画とか?
吉岡:いまのところございません。技術的には可能だと思うんですけど。
小沢:ええ! もったいない。アルファード/ヴェルファイアは日本で合わせて月9000台は売れる日本一の高級車。しかもLMの中身を聞いたら驚きで、アルヴェルの単なる顔違いかと思ったら性能がメチャクチャ上がってるじゃないですか。アジア生まれの今までにない高級車になる可能性があるような。
吉岡:僕はそう思ってます。
小沢:やっぱり中国からのリクエストが多かったんですか。
吉岡:ものすごく強かったです。こういう、メンツとかプレステージ性がアルファードよりもう少し上のレクサスが欲しかったと。
小沢:しかしなぜこのタイミングで。
吉岡:これまでもレクサス版の話はずっとあったんですが、数年前にカンパニー制が導入されて、それが影響したってのもあります。
小沢:レクサスインターナショナルができて、よりレクサスらしい商品が早くつくれるようになったと。ところで以前、“走るビジネスクラス”と言われたアルヴェルの「エグゼクティブラウンジ」は新幹線のグランクラスとシート骨格が同じって話がありましたが、今回の“走るファーストクラス”のシートはどこがスゴイんでしょう。
吉岡:サイズが大きくなってるのはもちろん、マッサージ機能もありますし、空調機能も付いてます。
静粛性はLS並み!?
小沢:中国ならではの装備ってありますか?
吉岡:用品の方で対応させてもらっていて、後席に特化したPM2.5モニターみたいなものをいま検討中です。
小沢:なんとPM2.5モニター! それからビルトインの冷蔵庫ってホントに付いてるんですか。シャンパンを冷やすみたいな?
吉岡:パーティションに付いている後席専用の26インチモニターが標準で、その下に冷蔵庫も付いてます。あとパーティションのガラスは昇降タイプになっているだけでなく、液晶の調光シェードがあって、透明から曇りまで一瞬で切り替えられるんです。
小沢:それだけでクルマ1台分くらいの値段はしそうですね(笑)。
吉岡:それからマークレビンソンのオーディオは19スピーカーです。
小沢:ということは静粛性はLS並み?
吉岡:LSは上回らないまでも頑張ろうと。車内への騒音はいろんなところから入ってくるんですが、このパーティションは前からの音を完全にシャットアウトできているんで、かなり静かです。そもそも人間の耳は前側を向いてますし。
小沢:部分的にはLSを超える?
吉岡:えーそれは……。
小沢:立場的に言えないと(笑)。
エグゼクティブラウンジの比率が約4割
吉岡:中国は最近、急激にショーファードリブン(専門の運転手付きのクルマ)先進国になったと思うんですよ。日本でも著名人に乗っていただいて火がついたところもあるんですけど、中国・東南アジアでもイッキに火がついてきて、こういうパッケージがどうしてもやめられない。
小沢:走る麻薬ですよね。セダンのほうがカッコいいと分かっていても乗り心地から居心地まで絶対的にラクで、ゴージャス。中国でも芸能人がひとり買うと、まわりがそれをマネして買ってるって話で。一体何台ぐらい売れてるんですか?
吉岡:中国はアルファードだけのラインナップで、しかも現地生産ではなく輸入ですが、月に1000台ぐらい。日本の9分の1ですが、最上級のエグゼグティブラウンジの比率が高くて、日本では10%ぐらいのところを40%ぐらい。
小沢:約半分だ! リアがボックスシートの走るビジネスクラスが。
吉岡:こちらではプレミアムがついて約100万元(1600万円以上)で売られていて、メルセデスの「Sクラス」とほぼ同じなのですが。
小沢:メチャクチャ高いですね。
吉岡:正直に申し上げて、乗り心地やハンドリング、静粛性を含めて、まだまだセダンに追い付いてないところもありますけども、それ以上に空間の価値というところに、お客さまにお金を出していただいているのが、中国であり東南アジア。日本のVIPの方々もそちらに流れつつあります。
小沢:一度乗ったら離れられないと。
ケタ違い! アジアンスーパーリッチの要望
吉岡:私も数年前、何人かのVIPユーザーにお会いしたんですが、(その方々の)そもそもの要望がアルファードにピタッと合っていて、4人乗りを入れたら、さらにウケるんじゃないのかと思いまして。
小沢:今回のLMはやはり従来通りの7人乗りに加えて、“走るファーストクラス”とも言うべき4人乗りができたのがポイント?
吉岡:7人乗りは運転席と後席が空間でつながっていますし、あれがどうしてもイヤで、「運転席から見られたくないし、話を聞かれたくない」って言われます。
小沢:まさにアジアのお金持ちが言いそうですね。総資産はどれくらいの人たち?
吉岡:個人情報なので詳しく言えませんが、10億、100億というオーダー。ケタが違いますね。
小沢:クルーザーを買うような人たちですね。
吉岡:特に重要なのがパーティションで、車内で大事な話をされたり、一声で信じられないほどのお金が動くようなディシジョンがあったりするようです。
小沢:僕も香港で中国本土とのダブルナンバーが付いたアルファードを見たことがあって、しかもロールス・ロイスの「ファントム」やフェラーリと並んで置いてあった。今までLSがメルセデスと比べられることはあっても、ロールスやベントレーと比べられることはなかったんですが。
吉岡:そうかもしれません。
小沢:今後、アルヴェルの顔違いなんかじゃなく、専用ボディーのスーパーレクサスLMをつくられてはどうですか? そこで量・質ともにロールスやベントレーを超える!?
吉岡:やりたいですね。夢は限りなく、進化は続きます。
小沢:実際、セダンで欧州車を超えるより、ミニバンで欧州車を超えるほうがよっぽど話が早いと思うんです。先駆者アドバンテージもあるし。とにかくぶっちぎりで広くて快適で速い世界一のミニバンをつくる。そしてLSを超えるレクサスのフラッグシップになる!
吉岡:そこにはひとつの壁があって、僕はヨーロッパの人たちにも受け入れられるカタチが欲しいんです。技術進化で静粛性や乗り心地、ボディー剛性はどんどん上げられると思うんですが、カタチとパッケージが受け入れられなくては意味がない。そこを両立するストラクチャーにできるかどうか。私も50代、残りの人生これに賭けてますので(笑)。
小沢:ほとんど同い年じゃないですか(笑)。期待してます!
(文と写真=小沢コージ/編集=藤沢 勝)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 ホームページ:『小沢コージでDON!』