【F1 2019 続報】第4戦アゼルバイジャンGP「1年ぶりの雪辱、4度目の1-2」
2019.04.29 自動車ニュース![]() |
2019年4月28日、アゼルバイジャンのバクー・シティ・サーキットで行われたF1世界選手権第4戦アゼルバイジャンGP。今季なかなか勝てないフェラーリはまたしても勝てず、昨年勝利目前で悪夢のようなタイヤバーストを経験したメルセデスのバルテリ・ボッタスが、1年ぶりに雪辱を果たした。
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フェラーリが相手取るもの
開幕戦オーストラリアGPから前戦中国GPまで、今季全戦で1-2フィニッシュと好発進を決めたメルセデスと対照的なのが、プレシーズンテストでは他を圧倒するパフォーマンスを披露していたフェラーリだ。これまでの3戦で、信頼性に劣り、マシンのセッティングの幅が狭いなどの問題が露呈し、最高位は3位と残念な戦績を記録。最大のライバルであるシルバーアローの一軍に57点もの大差をつけられた。またドライバーズチャンピオンシップでも、メルセデスの2人はおろか、レッドブルのマックス・フェルスタッペンにも先を越され、セバスチャン・ベッテルが4位、シャルル・ルクレールは5位に沈んでいた。
こうした状況になると、イタリアのメディアからは手厳しいフェラーリ批判が続出することになる。イタリア人は、赤いマシンが勝てば国をあげて狂喜乱舞し、失敗すれば完膚なきまでにこき下ろすことで知られているが、今回もかの地のスポーツ紙『La Gazzetta dello Sport』は、第2戦バーレーンGPでルイス・ハミルトンとのポジション争い中、悪癖のスピンを喫し勝利をつかみ損ねたベッテルを口撃し、パワーユニットの不調で惜しくも初優勝を逃したルクレールこそ“チームのナンバー1”とするなど、相変わらずの痛烈な論調をぶちまけていた。
フェラーリが最後にチャンピオンを輩出したのは、キミ・ライコネンが1点差で栄冠を勝ち取った2007年。最後のコンストラクターズチャンピオンシップタイトルは2008年に取っている。つまり10年以上、スクーデリアには批判ばかりが注がれていたと言っても過言ではない。
最古参チームならではの地元メディアの厳しい目は、マラネロにはびこる“批判文化”の一因となっていると見ることもできる。ミハエル・シューマッハーらとともに2000年から5連覇を達成、フェラーリに黄金期をもたらしたロス・ブラウンは、ウィリアムズの元会長アダム・パーとの共著『TOTAL COMPETITION』の中で、「フェラーリには失敗したものを批判する文化があった」という旨を述べている。メディアが失敗を責め立てるあまり、チーム内で“犯人探し”が横行し、マネジメント層がひたすら保身に走る。そんなあしき風潮を改革した結果が成功につながったということである。
ここ3年、王者メルセデスに比肩するパフォーマンスのマシンを送り出しているフェラーリに必要なのは、騒々しい外野に惑わされず、責任は自ら取ると明言できるリーダーであり、個人を責めるのではなく、チームとして失敗から学ぼうとする組織の風土。つまり、いずれも、メルセデスの強さの根源にあるものなのだ。
中国GPでは、最前列からスタートしたシルバーアローの2台を追撃すべく、チームオーダーによりルクレールがベッテルに3位を譲ったものの、ベッテルはメルセデスを追えずに3位。さらにルクレールは4位の座をフェルスタッペンにも奪われ5位でゴールする羽目となった。ルクレールには不満が、そして「3-4」フィニッシュを「3-5」で終えざるを得なかったチームには反省すべき点が残った。フェラーリを指揮するマッティア・ビノット代表がまず相手にしなければならないのは、メルセデスやレッドブルといった競合するチームではなく、マラネロの組織そのものである。
フェラーリは、アゼルバイジャンGPで今季初優勝を飾るべく、バージボードまわりを改良したマシンを持ち込んできた。その成果はフリー走行でこそ花開いたかに見えたが、しかし、肝心要のレースで最良の結果には結びつかなかった。
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予選でメルセデス最前列独占、好調フェラーリに暗雲
アゼルバイジャンの首都バクーの市街地コースを舞台としたF1は今年で4回目。全長6kmとカレンダーで2番目に長いコースには、2.2kmもの全開区間に加え、90度ターンが連続するセクターや、ランドマークである世界遺産の城壁をかすめるようなツイスティーなセクションもあり、マシンセッティングを難しいものにしている。
1回目のフリー走行は、開始早々にマンホールのふたが外れ、ウィリアムズのジョージ・ラッセルがマシンを壊したことでセッションは中止に。2回目、3回目になると、フェラーリが1-2と好走、いずれでもルクレールがトップタイムをマークした。フェラーリは、強力なパワーユニットがもたらすストレートスピードに加えて、コーナーでも速さを見せた。バーレーンGP同様、赤いマシンがフロントローを独占するかに思えたのだが、予選に入るとフェラーリに暗雲が垂れ込めはじめた。
狭い旧市街にあるターン8で、ルクレールが単独クラッシュ。マシンがめり込んだウオール修復のため赤旗が出された。くしくもQ1でウィリアムズのロバート・クビサが衝突したのと同じ場所での事故。ルクレールはQ3進出に十分なタイムを記録していたもののその後は出走不能となり、続くQ3でスクーデリアは孤軍奮闘を強いられた。だが、クビサとルクレールの事故による2度の中断により、すっかり日が陰り気温も路面温度も下がったコンディションで、ベッテルはマシンのバランスをつかみきれなかった。
ポールポジションを獲得したのはバルテリ・ボッタス。2戦連続、通算8回目の予選P1である。0.059秒という僅差でルイス・ハミルトンが2位となり、温度低下を味方につけたメルセデスが今季3回目、通算60回目の最前列独占に成功した。あれだけ好調だったフェラーリは、ベッテルを3位につかせるのがやっと。レッドブルのフェルスタッペン4位、バクーを得意とするレーシングポイントのセルジオ・ペレスが5位と好位置につけた。
トロロッソのダニール・クビアトが今季最高の6位、マクラーレンのルーキー、ランド・ノリスは自己ベストの7位からのスタート。アルファ・ロメオが初めて2台そろってQ3に進出したものの、8位につけたアントニオ・ジョビナッツィはパワーユニットのエレメント交換により10グリッド降格、僚友キミ・ライコネンもフロントウイングのテストをパスできず予選失格となり、ピットレーンスタートとなった。アルファ・ロメオの脱落で、ノータイムのルクレールは8番グリッドにおさまり、マクラーレンのカルロス・サインツJr.、ルノーのダニエル・リカルドがその後ろに続いた。
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ハミルトンが並びかけるも、ボッタスが首位堅持
壁に囲まれた市街地コースということで、バクーでのレースは例年荒れ気味となるのだが、波乱を予想していた向きには、今年はいささかつまらない展開となったはずである。
51周レースのスタートでは、メルセデスの2台が並んでターン1、2に進入するも、双方十分な距離をあけており接触は起こらず、結局ボッタスが首位をキープ、2位ハミルトン、3位にベッテルが続いた。その後方、ペレスが4位に上がり、フェルスタッペンは5位に落ちたものの、6周したところで4位の座を奪還。とはいえこの日のレッドブルには表彰台を狙えるほどの速さはなかった。
ルクレールは出だしで2つポジションダウンし10位。それでも7周もすると5位まで挽回し、さらに10周目にはフェルスタッペンをもオーバーテイクすることに成功。この時点で1位ボッタス、2位ハミルトンのメルセデス勢、トップから8秒遅れで3位ベッテル、4位ルクレールのフェラーリ勢が上位4台に並んだ。
これらの中で最初にタイヤを替えたのはベッテルで、12周目にソフトタイヤからミディアムに交換。翌周首位のボッタス、続いてハミルトン、フェルスタッペンもピットに入り、この動きにならった。この間、スタートタイヤをミディアムとしていたルクレールがノンストップのまま走行を続け、2位ボッタス、3位ハミルトンらを後ろに従えて1位に居座ることになる。
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メルセデス、4戦連続1-2の快挙
当初10秒あったルクレールのリードタイムは徐々に減り、23周を過ぎる頃には5秒をきった。30周もするとルクレール、ボッタス、ハミルトンがそれぞれ1秒以下の間隔で数珠つなぎとなり、首位交代は時間の問題に。そして32周目のターン1で、満を持してボッタスがルクレールをオーバーテイクしていった。その1周後にハミルトン、そして34周目にベッテルにも抜かれたルクレールはようやくピットに入り、ソフトタイヤを履いて5位でコースに復帰した。
レースは終盤に差し掛かり、ボッタス、ハミルトン、ベッテルのトップ3台は1.5~2秒程度のギャップで周回。39周目、タイヤ無交換で6位を走っていたピットレーンスタートのピエール・ガスリーがトラブルでストップ、2周ほどバーチャルセーフティーカー(VSC)の指示が出たのだが、トップランナーがピットに入ることはなかった。
ゴールが近づくと、「ファステストラップ(FL)のボーナス1点」に注目が集まりはじめる。ボッタスが持っていたFLを2位ハミルトンが奪い、再びボッタスが最速タイムを記録。いつの間にか2台のメルセデスの差は1秒以下となり、にわかに状況が緊迫したものの、同士打ちのような事態にはならないのが今のメルセデスの安定感。ボッタスは、FLこそ終盤フレッシュなタイヤを履いたルクレールに明け渡すも、トップの座は守り切り、開幕戦に次ぐ今季2勝目をあげた。昨年のアゼルバイジャンGPでは優勝まであと一歩のところでタイヤバーストという憂き目にあったボッタスにとって、1年ぶりに果たした雪辱である。
ボッタスから1.5秒遅れてハミルトンは2位となり、メルセデスは今季4戦すべてで1-2フィニッシュを達成。これは1992年にウィリアムズ・ルノーが成し遂げた3戦連続を超える快挙である。
フェラーリはまたしても勝てず、中国GPと同じ3位と5位という結果に終わった。スイートスポットに当たれば速く、しかし肝心な時には帳尻が合わない今年のスクーデリア。次戦は、各陣営がマシン開発の一里塚とするヨーロッパラウンドの初戦。冬のテストの舞台としても使われたバルセロナが舞台だ。フェラーリは開幕前の勢いを取り戻すことができるのだろうか? 第5戦スペインGP決勝は、5月12日に行われる。
(文=bg)