アルファ・ロメオ・ジュリア2.2ターボ ディーゼル スーパー(FR/8AT)
軽やかなディーゼル 2019.05.15 試乗記 イタリア生まれのセダン「アルファ・ロメオ・ジュリア」にクリーンディーゼル搭載車が登場。その走りは、このブランドの歴史と伝統を思い起こさせるほど、スポーティーなテイストに満ちていた。こんなアルファは日本初
年若いイノセントな自動車乗りが、アルファ・ロメオ・ジュリアに食指を動かすとは考えにくい。このクルマにだれよりも強く反応するのは、「155」から「156」、「159」へと続くアルファセダンを知っている世代だろう。耳元で「セレスピード」と囁かれると、ちょっと血圧が上がります、みたいな。
なつかしいジュリアの名を戴いて中型アルファセダンが復活してから4年。最新のニューカマーがこのディーゼルモデルである。クリーンディーゼルという言葉がまだないころから、アルファ・ロメオのディーゼルには定評があったが、日本に正規輸入されるのはこれが初めて。車検証の備考欄に「自動車重量税 免税」と記載される初のアルファである。
そのクリーンディーゼルは、SUVの「ステルヴィオ」にも搭載される2.2リッター4気筒ターボ。アルファのディーゼルとしては初めてアルミブロックを採用し、ZF製8段ATを含めても重さ155kg。にわかには信じられない軽さだが、この排気量クラスのディーゼルエンジンとしては最軽量と主張する。最高出力は190ps、最大トルクは450Nm(ステルヴィオは210ps/470Nm)。尿素SCRを含む2個の触媒、DPF(ディーゼル微粒子捕集フィルター)などを使って日本のポスト新長期規制をクリアする。
「2.2ターボ ディーゼル スーパー」の価格は556万円。ガソリンの「2.0ターボ スーパー」(200ps)より13万円高く、「2.0ターボ ヴェローチェ」(280ps)より31万円安い。売る気満々の価格設定にみえる。
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間違いなくスポーツセダン
運転席のドアを開けるとき、ふとリアフェンダーのほうを見ると、156がいた。その立ち位置からだと、腰から後ろの丸みが一世を風靡した156によく似ている。
ダッシュボードまわりにガソリンモデルとの差はない。ステアリングホイール裏側にはコラム固定のシフトパドルが付く。タコメーターのマックスは8000rpmから6000rpmに変わっているが、260km/hまでの速度計はガソリンの2.0ターボ スーパーと同じ。いずれもエンジンを止めても消えないリアルメーターだ。むやみに計器類をバーチャル化しないのは、アルファのいいところだ。
走り出して、スポーツセダンだ! と感じたのは、まずは乗り心地である。バネ下がギュッと締まっていて、舗装路でも短い振幅の揺れを感じる。そのかわり、低重心感がある。軽量な“スポーツディーゼルエンジン”の触れ込みどおり、たしかにノーズは軽やかだ。
新型ジュリアは1985年に登場した「75」以来のFRセダン。カーボン製プロペラシャフトで後輪を駆動する。しかし、早朝の冷間スタート後しばらくは、角を曲がるとき、なぜか機械式LSD付きFF車のようなメタリックな振動がフロントから出た。そういったことも含めて、このクルマは決してラグジュリーサルーンではない。ときにレーシーなほどのスポーツセダンである。
そんなキャラクターに新型クリーンディーゼルはマッチしている。
ディーゼルのよさが詰まっている
車重は1600kg。ガソリン2.0ターボ スーパーのプラス10kgにとどまる。ちょうど同時期に国内導入された欧州Dセグメントセダン「プジョー508」の2リッターディーゼルより30kg軽い。
実際、ジュリアは走りも軽い。とくに出足を含めて、町なかでの活発さは200psの2リッターモデルをしのぐ。5割増しのトルクのおかげで、日常加速というか、生活加速というか、ふだんの身のこなしが軽いのだ。
100km/h時のエンジン回転数は8段ATのトップで1300rpm。アダプティブ・クルーズコントロールを高めの速度にセットして、前方がクリアになると、自動加速を始める。大してエンジン回転は上がっていないのに、スピードのほうはグイグイ力強く上がってゆく。そんなときもディーゼルの胸板の厚さを感じる。
フルスロットルを踏むと、MTモードでも4300rpmで自動シフトアップするが、ドライブモードを「ダイナミック」にすれば4900rpmまでホールドで引っ張れる。エンジンはとくべつ快音ではないが、音や振動などのマナーになんら不満を抱かせないのは、もはや欧州クリーンディーゼルの常識といえる。
燃費もいい。今回、約330km区間で15.1km/リッターを記録した。1リッターの化石燃料でこれだけ走り、しかも燃料単価はレギュラーガソリンより1割以上安い。軽自動車並みの燃料コストで走れるミドルクラスセダンである。
ブランドの伝統を感じる
20年近く前、156が現役だったころ、アルファ・ロメオの取材でミラノに行き、156ディーゼルをふだんの足にするフェラーリカップのチャンピオンに会った。2匹のドーベルマンが見張りをする豪邸住まいの、絵に描いたようなお金持ちに、なぜ156の、しかもディーゼルなのかと聞いたら、「ターボだからだよ」とシンプルに答えた。
たしかにその当時、アルファのガソリンエンジンにターボ付きはなかった。いまはダウンサイジングターボの時代で、ガソリンモデルにも広くターボが採用されるようになったが、そもそもアルファのディーゼルはああいうスポルティーヴォなユーザーに愛され、育てられてきたのかと思うと、今度のジュリア・ディーゼルも理解しやすい。
多少粗削りなところはあるが、キュッと締まった足まわりと、レスポンスのいいディーゼルユニットのおかげで、運転していると「147」くらいのコンパクトさとファン・トゥ・ドライブを感じた。4ドアセダンのくせに、ワイシャツの2番目ボタンまで外したような、アルファ・ロメオ伝統のチョイワルな雰囲気もある。結論、ジュリアはDでも、Aだった。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
アルファ・ロメオ・ジュリア2.2ターボ ディーゼル スーパー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4645×1865×1435mm
ホイールベース:2820mm
車重:1600kg
駆動方式:FR
エンジン:2.2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:190ps(140kW)/3500rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/1750rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91Y/(後)255/40R18 95Y(グッドイヤー・イーグルF1アシメトリック3)
燃費:17.2km/リッター(WLTCモード)
価格:556万円/テスト車=561万4000円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット(4万1040円)/ETC車載器(1万2960円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1251km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:327.3km
使用燃料:21.7リッター(軽油)
参考燃費:15.1km/リッター(満タン法)/15.8km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。