「人とくるまのテクノロジー展」の会場から
クルマ“以外”の気になる展示を紹介する
2019.06.03
デイリーコラム
脱着式バッテリーに秘められた可能性
先行リポートでも紹介したとおり、ホンダブースの目玉となったのは「Honda Mobile Power Pack(ホンダモバイルパワーパック、以下HMPP)」と名付けられた持ち運び可能な脱着式バッテリーだ。
ブースではHMPPを使用したプロダクトや運用実績の報告、そしてHMPPを活用するための新しいシステムなどが紹介されていた。ホンダはバッテリーそのものの開発を進めると同時に、それが使用できるプロダクトや環境を広げることで、その普及とさらなる進化を追求するという姿勢なのだ。
電動スクーターである「PCXエレクトリック」は、HMPPを使用した最初のプロダクトだ。2018年11月末より企業や個人事業主、そして官公庁を対象にリース販売をスタート。2019年春からは、一般ユーザーを対象としたリースモニターも始まっている。シート下にはHMPPを2個積むスペースが設けられており、それを搭載したまま車体にコンセントを差し込むことで、あるいはHMPPを車体から取り外し、専用充電器にセットすることで充電が可能だ。
今回ホンダは、そのPCXエレクトリックに続く新しいプロダクトを提案した。それが「Charge & Supply(チャージ&サプライ)」コンセプトと、「ESMO(エスモ)」コンセプトだ。前者は、要するにモバイルパワーパックとセットで使用する“蓄電機”である。すでに充電型リチウムイオン電池搭載の蓄電機「LiB-AID(リベイド)E500」を発売しているホンダだけに、すぐにでも市販化できるプロダクトではないかと考えられる。
すでに充電ステーションの実証実験も
一方のESMOは、ホンダの「セニアカー」に代表される電動車いすの新しいカタチを提案したもの。ESMOという名はElectric Smart Mobilityの頭文字を取ったものだ。セニアカーを利用することに抵抗があるユーザーでも乗りたくなるようなデザインや機能、また新しいモビリティーとしての電動カートのカタチを追求した。あえてフロント2輪、リア1輪としたことや、二輪の製造開発で培ったノウハウを投入することで、軽快さとともにアクティブなビジュアルを実現し、同時にリアホイールに内蔵したDCブラシレスモーターやラバーコーン式のリアサスペンションなどの採用により、コストダウンも実現できるという。
さらにホンダのブースでは、HMPPの“充電ステーション”ともいえる「Honda Mobile Power Pack Exchanger(ホンダモバイルパワーパックエクスチェンジャー)」も披露された。HMPP 6個を内蔵しており、充電切れのHMPPと充電済みのHMPPを交換することができる。すでにインドネシアやフィリピンで実証実験が行われているこのステーションが普及すれば、長い充電待ちの問題が解消され、HMPP搭載製品の使用環境が改善できるとともに、さらなるアイテム開発の可能性も広がるに違いない。
バイクに装備できる車高調整システムが登場
サスペンションブランド「SHOWA(ショーワ)」のブースでは、二輪および四輪向けに開発しているさまざまな技術が展示されていた。
中でも、今回注目したのは、二輪用電子制御サスペンション技術「EERA(イーラ)」を応用した「HEIGHTFLEX(ハイトフレックス)」だ。これはブレーキ操作や速度低下などによって停車を事前に感知し、停車直前に自動的に前後サスペンションを縮めて車高を下げ、足着き性を向上させるというもの。再発進後は前後サスペンションの動きを利用してダンパーをポンプとして作動させ、指定の車高に戻る。主に、前後サスペンションが長く車高が高い、アドベンチャーモデルでの装着を想定し、開発を進めているという。
このシステムは2018年11月にイタリア・ミラノで開催されたモーターサイクルショー「EICMA(エイクマ)」で世界初公開されたものだ。EICMAの会場では、同システムを組み込んだ車両を持ち込み、実際にライダーがまたがった状態で車高を上げ下げするデモンストレーションが行われたが、日本初公開となった今回の“人テク展”では、リアサスペンション本体の展示と映像での解説のみとなった。
実車では、前後サスを連動させることで、安定感を損なうことなく自然な車高の上下が可能になっているという。これを実現する重要なポイントが、ショーワが電子制御サスペンション用に自社開発したECUと、サスペンションに内蔵したストロークセンサーだ。バイク特有のサスペンションの動きを理解し、その動きを正確にモニターするストロークセンサーとECUが、この技術を可能にしている。また、このシステムではモーターやポンプなどといった、追加のシステムやパーツがほとんど不要なため、低コストおよび省スペースで実現できるというのも大きなメリットとなっている。現在のところ市販車搭載時期は未定とのことだが、今後の展開にぜひ期待したい。
スマートフォンの便利機能を車載のモニターで
自動車やバイク用ディスプレイのトップブランドである日本精機は、SDL Coreを利用した二輪車向けの廉価なスマートフォン連携プラットフォーム「SIMPLE MOTO PLATFORM(シンプル・モト・プラットフォーム)」を発表した。
このプラットフォームは、2.5インチと4.5インチの小型TFTデジタルディスプレイを内蔵した針式スピードメーターと、ハンドルなどにセットするリモートコントローラー、そして通信ユニットによって構成される。この通信ユニットがBluetoothでスマートフォンと連携。リモートコントローラーで通話や音楽再生などの操作が可能になるほか、SDLアプリに対応したアプリケーションも利用可能で、TFTデジタルディスプレイにさまざまな情報を表示することができる。地図アプリを用いれば、シンプルなナビゲーションシステムをディスプレイに表示することも可能だ。
小排気量モデルへの搭載を前提に開発を続けており、現時点では通信ユニットの小型化やさらなる低コスト化などが克服すべき課題となっている。今もスマートフォンを車体に装着して使用するライダーは多いが、この技術が市販化されれば、もうそれをポケットやカバンから出す必要はなくなるだろう。
モビリティーの枠を越えた「ILY-Ai」
最後に紹介するのは、アイシン精機が2017年末から各地で実証実験を続けているパーソナルモビリティー「ILY-Ai(アイリー・エーアイ)」である。空港職員の港内移動に加え、リゾート施設では来場者を対象としたガイドツアーや試乗体験会なども開催している。
ILY-Aiは電動三輪スクーターを基本としながら、車体やシートを折りたたむことが可能で、持ち運び移動ができる「キャリーモード」、立ち乗りスタイルの「スタンディングモード」、着座して乗る「ビークルモード」、荷物を積んでカートのように押し歩きできる「カートモード」に変形する。
さらに、車体前方にカメラやセンサーを内蔵することで個人を認識し、自律走行による追従も可能。また障害物を感知して自動で回避や停車も行うという。
さまざまな用途に応えるILY-Aiは、モビリティー(乗りもの)という枠を越えた、これまでのジャンル分けではくくることのできないプロダクトだ。こういった製品の登場が既存の類別をあいまいなものとし、新しい移動・運搬の世界が構築されていくものと考えられる。
(文と写真=河野正士/編集=堀田剛資)

河野 正士
フリーランスライター。二輪専門誌の編集部において編集スタッフとして従事した後、フリーランスに。ファッション誌や情報誌などで編集者およびライターとして記事製作を行いながら、さまざまな二輪専門誌にも記事製作および契約編集スタッフとして携わる。海外モーターサイクルショーやカスタムバイク取材にも出掛け、世界の二輪市場もウオッチしている。
-
開幕まで1週間! ジャパンモビリティショー2025の歩き方NEW 2025.10.22 「ジャパンモビリティショー2025」の開幕が間近に迫っている。広大な会場にたくさんの展示物が並んでいるため、「見逃しがあったら……」と、今から夜も眠れない日々をお過ごしの方もおられるに違いない。ずばりショーの見どころをお伝えしよう。
-
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える 2025.10.20 “ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る!
-
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する 2025.10.17 改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。
-
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか? 2025.10.16 季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。
-
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか? 2025.10.15 ハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。