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キーワードは“良品廉価”
ダイハツの未来を担う「DNGA」の真価に迫る

2019.06.17 デイリーコラム 堀田 剛資

まずは新型「タント」から

ダイハツから、新しいクルマづくりのコンセプト「DNGA」に基づいた次世代製品群の旗手として、新型「タント/タントカスタム」が登場する。

開発者インタビューでチーフエンジニアの南出氏も述べていた通り、この「DNGA」という言葉が最初に世に現れたのは、2016年のことだ。ダイハツ完全子会社化の記者会見にて、トヨタの豊田章男社長に耳打ちされたダイハツの三井正則社長(当時)が、困惑しつつも笑顔で「DNGA」と口にしていたのを思い出す。

実際に商品説明の場でこの言葉が初めて使われたのは、2017年登場の2代目「ミラ イース」からである。プレスリリースや技術資料にデカデカと書かれたDNGAの文字に、このクルマがブランニュー・ダイハツの第1号車かと思いきや、エンジニア氏は「新型ミラ イースは『DNGAの原点』となるモデルで~」と歯切れが悪い。ようするに「このクルマはDNGAじゃないよ」とのことでズッこけた。

あれからはや2年、ようやく、ホントに、DNGAが取り入れられた製品がお目見えとなったわけだ。

ところで、ダイハツが掲げるこのDNGAなる言葉は、実は特定の技術を指すものではない。商品企画から開発、設計、調達、製造にいたるまでの、クルマづくり全体の改革を指すものなのだ。……なんかどこかで聞いたことがある説明だが、本稿冒頭で「新しいクルマづくりのコンセプト」というフワッとした言葉を使ったのは、そのためである。

ただ、目指す目標や理想とするクルマの像は、他メーカーの「クルマづくり改革」とは大きく異なる。ダイハツが理想とするのは“良品廉価”。ブランドの地位向上や、100年に一度の変革に備えるためではなく、良質なクルマを手ごろな価格で提供することを目的としているのだ。製品に盛り込まれる技術をつぶさに見ても、メディアや自動車オタクが喜びそうな前代未聞のテクノロジーは見当たらず、どちらかというと既存の技術やノウハウにさらに磨きをかけたもの、という印象が強い。

“DNGA世代”の第1号車となる新型「ダイハツ・タント」(写真は「カスタムRS」)。2019年7月の発売が予定されている。(写真=荒川正幸)
“DNGA世代”の第1号車となる新型「ダイハツ・タント」(写真は「カスタムRS」)。2019年7月の発売が予定されている。(写真=荒川正幸)拡大
2017年5月に発売された2代目「ミラ イース」。経済性が重視されるベーシックモデルでありながら、動力性能や快適性などにも配慮。全グレードに「スマートアシストIII」を設定するなど、先進安全装備の採用にも積極的だった。
2017年5月に発売された2代目「ミラ イース」。経済性が重視されるベーシックモデルでありながら、動力性能や快適性などにも配慮。全グレードに「スマートアシストIII」を設定するなど、先進安全装備の採用にも積極的だった。拡大
2017年の東京モーターショーにおいて、「DNGA」について説明するダイハツの奥平総一郎社長。
2017年の東京モーターショーにおいて、「DNGA」について説明するダイハツの奥平総一郎社長。拡大
技術説明会の会場に展示されていた、新型「タント」のプラットフォーム。“良品廉価”を実現するため、各所にダイハツが培ってきたノウハウが取り入れられている。
技術説明会の会場に展示されていた、新型「タント」のプラットフォーム。“良品廉価”を実現するため、各所にダイハツが培ってきたノウハウが取り入れられている。拡大
ダイハツ の中古車

ネジ以外はすべて刷新

(※ここから先は、しばらく各技術の具体的な話が続きます。興味がない人は4ページ目まで読み飛ばしてください)

例えばパワーユニット。「ネジ以外はすべて新しくした」という刷新ぶりだが、今はやりのモーターアシストだとか、軽でもいっとき盛り上がった筒内直接燃料噴射といった技術は使われていない。とはいえ従来型エンジンとの違いは明白で、例えば吸気系では、流入効率を高めて燃焼室内でのタンブル流(縦渦)を強くするべく、2つの吸気バルブそれぞれにインテークポートを設けるデュアルポートを採用。インジェクターもポートや燃焼室への燃料の付着を減らすべく、渦状に噴射することでそれを霧状化するスワール噴霧を用いた上で、2本のポートそれぞれにインジェクターを配置するデュアルインジェクターとしている。

燃焼室についても、表面の凹凸をフラット化して表面積を下げるとともに、バルブ径を小さくするなどしてコンパクト化。燃焼速度のアップと耐ノッキング性の向上のために採用した「マルチスパーク」は、1度の点火で2度スパークを発する日本初の技術だそうだ。

燃焼効率の改善に加えて排ガスのクリーン化も追求しており、エキゾーストポートを集合ポート化するとともに触媒までの距離を短縮。さらにエキゾーストポートを水冷化することで、触媒の早期活性化と劣化の抑制を実現している。これにより、自然吸気エンジン車では軽自動車として初めて平成30年排ガス基準75%低減レベルを実現。さすがはダイハツ、ドイツの某社と並んで、社名に“発動機”と冠するメーカーである。

従来のものから「ボア×ストロークとボアピッチ以外のすべてをつくり替えた」という新エンジン。燃焼効率の改善と排出ガスのクリーン化が図られている。(写真は自然吸気エンジン)
従来のものから「ボア×ストロークとボアピッチ以外のすべてをつくり替えた」という新エンジン。燃焼効率の改善と排出ガスのクリーン化が図られている。(写真は自然吸気エンジン)拡大
新型エンジン(自然吸気)のインテークポート。燃焼室内でタンブル流が起きやすいよう、バルブに対して角度が寝かされている点も特徴。
新型エンジン(自然吸気)のインテークポート。燃焼室内でタンブル流が起きやすいよう、バルブに対して角度が寝かされている点も特徴。拡大
スパークプラグに電気を送るコイル。実は「マルチスパーク」に使われるプラグは一般的なもので、瞬時に2度のスパークを起させる充電と制御にこそ、独自の技術が用いられているとのこと。
スパークプラグに電気を送るコイル。実は「マルチスパーク」に使われるプラグは一般的なもので、瞬時に2度のスパークを起させる充電と制御にこそ、独自の技術が用いられているとのこと。拡大
ターボエンジンについては従来のものより全回転域でのトルクアップを実現。加速性能を向上させた。
ターボエンジンについては従来のものより全回転域でのトルクアップを実現。加速性能を向上させた。拡大

向こう10年を見据えたプラットフォーム

このエンジンと並んで興味深いのがトランスミッションで、ベルト式CVTに遊星ギアによる変速機構を組み合わせた「デュアルモードCVT(D-CVT)」を新開発した。“CVTとギアによる変速”というと、ジヤトコの副変速機付きCVTやトヨタの「ダイレクトシフトCVT」などが思い浮かぶが、D-CVTの構造はそのどちらとも全然違う。低速域ではベルト式CVTのみで変速し、車速が上がってくると遊星ギアとの協調制御に切り替わるのだ。

具体的には、クラッチとスプリットギアによってエンジンの回転を遊星ギアのプラネタリーキャリアに伝達(ベルト式CVTによる変速前の回転数と、プラネタリーキャリアの回転数が同じとなる)。この状態でCVTによる変速をローに戻し、出力プーリーとつながるサンギアの回転を低回転化すると、遊星ギアの働きによってドライブシャフトにつながるリングギアが高回転化し、変速比がさらにハイになるという仕組みだ。

利点は2つあり、まずは変速比の幅を大幅に拡大できる。従来型のCVTでは6段AT相当の5.3程度が限界だったというが、D-CVTでは8段AT相当の7.3を実現している(ただし、新型タントでは6.7で使用)。また、一般的なCVTでは欠点とされる中・高速域での伝達効率もよく、油圧系の改良などとも相まって8%の効率改善をみている。対応トルクは150Nm。今後は軽自動車はもちろん、A、Bセグメントの幅広い車種に搭載されていくことだろう。

プラットフォームも全面刷新しており、足まわりでは快適な乗り心地を実現すべく、ロールセンター高のダウンや、ロール剛性のアップ、ばね定数のダウンなどの要件に沿ってサスペンションジオメトリーを新設計。ボディー側もこれに合わせた設計とした上で、アンダーボディー骨格をスムーズな形状に変更。30%の曲げ剛性向上と、シャシー単体で10kgの軽量化を実現している。

ダイハツはこの新しいプラットフォームについて、10年先を見据えた安全、強度、NV性能を盛り込んでいるとアピール。もちろん将来の拡張性も考慮しており、パワートレイン電動化の要件もクリアしているという。

新開発の「デュアルモードCVT」。大きな変速比幅と中・高速域での伝達効率の高さが追求されている。
新開発の「デュアルモードCVT」。大きな変速比幅と中・高速域での伝達効率の高さが追求されている。拡大
「デュアルモードCVT」のカットモデルを上から見たところ。左側にベルト式CVTが、中央の手前側に遊星ギアが見える。
「デュアルモードCVT」のカットモデルを上から見たところ。左側にベルト式CVTが、中央の手前側に遊星ギアが見える。拡大
エンジンとベルト式CVTの間に位置するスプリットギア。車速が高くなるとクラッチがつながり、プラネタリーキャリアを回転させるギアに回転を伝達するようになる。
エンジンとベルト式CVTの間に位置するスプリットギア。車速が高くなるとクラッチがつながり、プラネタリーキャリアを回転させるギアに回転を伝達するようになる。拡大
アンダーボディーの骨格は、上から見ても、横から見ても、従来モデルより屈曲の少ない、スムーズな形状となった。
アンダーボディーの骨格は、上から見ても、横から見ても、従来モデルより屈曲の少ない、スムーズな形状となった。拡大
上屋についてもハイテン材や樹脂材の活用、外板などの薄板化などにより軽量化。装備の充実化による重量増はあったものの、車両全体では40kgの重量軽減を実現している。
上屋についてもハイテン材や樹脂材の活用、外板などの薄板化などにより軽量化。装備の充実化による重量増はあったものの、車両全体では40kgの重量軽減を実現している。拡大

新車投入のペースを1.5倍に

こうした、プロダクトの出来栄えに資する技術の進化はもちろんだが、グローバル生産台数170万台(2018年)の自動車メーカー、ダイハツにとっては、一括企画開発の導入とそれによるスピーディーな商品戦略の実現もDNGAの重要な成果だろう。

DNGAでは、要件の厳しい日本の軽自動車を開発の基点としつつも、その“やり方”がこれまでの「日本向け商品の技術を、後で海外にも」から、「日本向け・海外向け商品の開発を同時に、一緒くたに」という形に変わっている。

設計の共通化も今まで以上に推し進め、例えばシャシーでは、「全幅や全長に関わる箇所やエンジンコンパートメントはつくり分けつつ、基本となる骨格の流れは各車で共用」といった具合だ。クルマ全体で見ても、アッパーボディーや灯火類、シート、ブレーキ、エンジン、サスペンションなど、使い分けなければならない部品は専用化しつつ、その他の部品については、幅広い車種で使用できるよう品質を磨いて共用化。共用化率は軽自動車で75%、A、Bセグメント車で80%を目指すとしている。

これにより、DNGAの展開後はプラットフォームの数を現状の7種類から4種類に集約。フルモデルチェンジや新型車投入のペースは、これまでの1.5倍にあたる年間4車種にスピードアップし、2025年には15ボディータイプ、21車種のモデルを、世界90カ国で展開するとしている。目指すグローバル生産台数は、250万台だ。

技術説明会にて、DNGA導入後の商品開発の仕方や商品の展開予定などを説明する、ダイハツ工業取締役の松林 淳氏。
技術説明会にて、DNGA導入後の商品開発の仕方や商品の展開予定などを説明する、ダイハツ工業取締役の松林 淳氏。拡大

多事多端なダイハツにとっての最適解

こうしてまとめてみると、DNGAは今のダイハツにとって、つくづく必須の改革だったのだろう。なにせ、国内では新興勢力の台頭著しい軽カー市場で戦わねばならず、海外ではインドネシアやマレーシアなどの新興国市場が存在感を増し、しかもトヨタへ国内&新興国向けベーシックカーの供給まで担う多事多端なメーカーなのだ。おのおのの要望に個別に回答をこさえていたのでは切りがない。幅広い要望に同時に応えつつ、良質な製品を提供する上で、DNGAは最適解だったのだと思う。

そのスタートと、第1号車たる新型タントのデビューに、惜しみない拍手を送りたい。

思い起こすと、DNGAがこうしてカタチになった陰では、さまざまな取り組みが実を結ぶことなく消えていったわけである。軽規格の燃料電池車に、2気筒ターボエンジン、かつての東京モーターショーには「オロジック」(「BMW i3」にも採用されるブリヂストンの薄型タイヤ)を履いた軽ハッチバックも出展されていた。そうした取り組みがより分けられ、整理され、今必要とされるものを厳選したのがDNGAなのだ。日の目を見ずに終わっていった技術の分まで、DNGAには成功してほしいのである。

願わくば、新型タントは超スバラシイ出来栄えであってほしい。それこそ、記者のこのささやかなおセンチモードを跡形もなくぶっ飛ばすほどに。新型の正式発表は2019年7月、公道デビューはもうすぐだ。

(文=webCG ほった/写真=ダイハツ工業、荒川正幸、webCG/編集=堀田剛資)

軽乗用車の新型「タント」(上)と、東南アジアで販売されている「テリオス/アルス」(左下)。トールワゴンの「トール」(右下)はトヨタやスバルにもOEM供給されている。
軽乗用車の新型「タント」(上)と、東南アジアで販売されている「テリオス/アルス」(左下)。トールワゴンの「トール」(右下)はトヨタやスバルにもOEM供給されている。拡大
ダイハツが開発していた軽自動車用燃料電池システムは、水素ではなくヒドラジン一水和物を燃料(?)に採用。貴金属フリーを実現している点も特徴だった。
ダイハツが開発していた軽自動車用燃料電池システムは、水素ではなくヒドラジン一水和物を燃料(?)に採用。貴金属フリーを実現している点も特徴だった。拡大
軽自動車用の2気筒ターボエンジン。ひょっとしたらKF型に代わる主力エンジンになっていたかもしれない。
軽自動車用の2気筒ターボエンジン。ひょっとしたらKF型に代わる主力エンジンになっていたかもしれない。拡大
(写真=荒川正幸)
(写真=荒川正幸)拡大
堀田 剛資

堀田 剛資

猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。

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