ベントレー・ベンテイガ スピード(4WD/8AT)
全能感マシマシ! 2019.06.20 試乗記 2015年のデビュー以来、超高級SUVとして存在感を示してきた「ベントレー・ベンテイガ」。その高性能版となるニューモデル「ベンテイガ スピード」が得たものとは? 母国イギリスのサーキットでチェックしてみた。エアロパーツも効果大
ベントレーのハイパフォーマンスモデルであることを示す「スピード」の名が与えられたベンテイガが登場した。しかも、国際試乗会の舞台がサーキットだけと聞けば、かなりの武闘派を想像するだろう。では、実際はどうだったのか?
ベンテイガ スピードはベースとなったW12エンジン搭載のスタンダードモデルより最高出力が27ps引き上げられて635psとなった。最大トルクは900Nmで変わらないが、これまでよりも広い回転域でピークトルクを発生するという。パフォーマンスの向上はターボ過給圧の向上と燃料噴射量の増量によって達成したとのことで、ハードウエア自体はスタンダードモデルと同一。にもかかわらず最高速度は5km/hも伸びて306km/hとなり、「世界最速のSUV」の称号を得たという。
200km/h以下の領域ならいざしらず、300km/hを越える速度域で最高速度を5km/h高めるのは容易なことではなく、常識的に考えて最高出力を27ps高めただけで達成できるとは到底、思えない。しかし、ベンテイガ スピードを目の当たりにすれば、謎の一部が解けるはず。というのも、いかにも効果がありそうなエアロパーツがテールゲートに取り付けられているからだ。つまり、306km/hの最高速度はエンジン出力とエアロダイナミクスの相乗効果で成し遂げたと考えられるのである。
ちなみに、従来の“世界最速SUV”ホールダーは同じフォルクスワーゲン・グループの「ランボルギーニ・ウルス」。いわば同門同士で争い合っていることについて、ベンテイガ スピードのプロジェクトマネージャーは「友好的にコンペティションを行っています」と語った。なかなか含みのある言葉だ。
パワーの違いはわからずとも……
ハードウエアが変更されたのはシャシーも同様。48Vシステムを使った電動式アクティブロールコントロールの「ベントレーダイナミックライド」、エアサスペンション、ブッシュ類などはタイヤを含めてスタンダードのベンテイガと共通。ただし、ソフトウエアの変更によりスポーツモードのみダンピングレートとロール剛性を高めたという。
果たして、これだけの変更でどれくらいベンテイガの走りは変わるのだろうか?
試乗会の舞台となったのはイギリス・北ウェールズのアングルシー・サーキット。全長は3.4kmで基本的には短いストレートとタイトコーナーの連続だが、一部に高速コーナーや複合コーナーを含む走りがいのあるサーキットだ。
ここをまずはベントレーの“おすすめドライビングモード”であるBモードで走る。27psの出力差は明確には感じられないものの、サーキットを走っても一向にパワー不足に思えないあたりは600psオーバーのパフォーマンスを誇るW12エンジンの面目躍如といったところだ。
コーナーをいくつかクリアしてみると、ベントレーダイナミックライドの働きで懸命に踏ん張ってはいるのだろうが、それでもサーキット走行を楽しむにはいささかロール量が大きい。不快な振動をシャットアウトした足まわりのためステアリングに伝わる状態からタイヤの接地状態を推測するのも難しく、タイヤを限界まで使って攻め込むにはちょっとした慣れが必要なように思われた。
見どころはコーナーでの安定感
それでも、ステアリング特性は軽いアンダーステアのまま一定で、タイトコーナーの進入でも過大なアンダーステアは発生しない。コーナーの出口で意図的に早くスロットルペダルを踏み込んでもエンジンパワーは4輪を通じて路面に伝達されるために挙動を乱すことなく、力強く加速していく。
その安定した走りは想像を超えたもので、「これはスタビリティーコントロールの介入がよほど巧妙なのだろう」と思ってその旨を助手席のインストラクターに伝えたところ、2周目にはスタビリティーコントロールはオフにしたとの答えが返ってきた。そのことに気付かないで走っている私もこの道のプロとしてどうかと思うが、ベンテイガのポテンシャルがそれだけ高いことは間違いないと思う。
2セッション目は待望のスポーツモードを試すことになった。走り始めると、Bモードよりもロール量が格段に小さく、ステアリングを通じてフロントの接地感がほのかに伝わってくるようになった。その差は、驚くほど大きいとはいえないものの、サーキットで限界走行を試みるときにはこのわずかな差が大きな違いとなって表れる。実際、スポーツモードに切り替えてからは、それまでよりも自信を持ってコーナーを攻められるようになり、コーナリング中はタイヤのスキール音が連続して聞こえるレベルまでペースを上げられた。
守備範囲が広がっている
といっても、ベンテイガ スピードのコーナリングフォームは安定しきったもので、スロットルの微妙な操作で走行ラインを調整できるレベルまでには至らない。
「やはり、ラグジュアリーSUVなのだから、いくらスポーティーといってもこの程度か……」と思っていたのだが、その後、インストラクターに運転席を譲ったところ、彼は私の20%増しに近いスピードでコーナーへ進入すると、微妙なスロットルワークで走行ラインをアジャストしてみせた。この状態でもステアリングは順目に切ったままで、基本的には軽微なアンダーステアと見受けられたが、車重が2.5tに迫る豪華なSUVでここまでの走りができることは驚き以外のなにものでもなかった。
聞けば、今回の試乗会をサーキットで行ったのは高いコーナリング性能を安全に試すチャンスを設けるのが目的であって、サーキット走行のために開発されたモデルではないという。つまり、ベンテイガ スピードはあくまでもロードカーという位置づけなのだ。
それにしても、サーキットであれだけのポテンシャルを示したのだから、ワインディングロードでその性能をフルに引き出すのはかなり難しいはず。そのいっぽうでコンフォートモードやBモードの乗り心地はスタンダードモデルと変わらないのだから、これまで以上に守備範囲の広いラグジュアリーSUVがベンテイガ スピードと捉えて間違いないだろう。
ベンテイガ スピードのデリバリーは2019年後半に開始される予定。価格は税込み2945万4545円だが、日本では20台の限定販売となるので、興味をお持ちの方は早めにディーラーを訪れることをおすすめしておく。
(文=大谷達也<Little Wing>/写真=ベントレー モーターズ/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
ベントレー・ベンテイガ スピード
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:--mm
車重:2491kg
駆動方式:4WD
エンジン:6リッターW12 DOHC 48バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:635ps(467kW)/5000-5750rpm
最大トルク:900Nm(91.8kgm)/1500-5000rpm
タイヤ:(前)285/40ZR22/(後)285/40ZR22(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター
価格:2945万4545円/テスト車=--円
オプション装備:--
(※価格は日本市場でのもの)
テスト車の年式:2019年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。
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