ボルボXC90 D5 AWDインスクリプション(4WD/8AT)/ボルボV60クロスカントリーT5 AWDプロ(4WD/8AT)
分かった人ほどよく分かる 2019.07.15 試乗記 ボルボ車のパフォーマンスを高めるというディーラーオプション「ポールスターパフォーマンスソフトウエア」をご存じだろうか。新車装着のみならず、既販車への搭載も可能なこのシステムの効能を、装着車と非装着車を同時に試乗して確かめた。パワートレインを総合的にチューニング
ボルボで、知る人ぞ知る……的な隠れた人気オプションとなっているのが“ポールスターチューン”である。同オプションについては、その登場時からwebCGでも何度か試乗記事を掲載しているので、ボルボ所有歴のない好事家の皆さんにもご存じの向きはおられると思う。早いハナシが、それはパワートレイン用の純正コンピューターチューンである。
ポールスターといえばボルボ直系の高性能車ブランドであり、その名を冠したチューニングソフトウエアも本国がダイレクトに開発した由緒正しきオプションだが、提供は正規ディーラーの整備工場で専用ソフトウエアをダウンロードするスタイルなので、販売店オプションあつかいとなる。もちろん、装着してもクルマの保証内容になんら影響を与えない。
同種のソフトウエアは、日本では2012年10月に「ポールスター・パフォーマンスパッケージ」の名称で「T6」(当時は3リッター直6ターボ)専用のエンジンマネジメントプログラムとして初登場。以降、その対象を直列4気筒ターボや同ディーゼルにも広げていった。
そんなポールスターソフトウエアは現時点で、グローバルで15万ダウンロード超、国内でも9400ダウンロード以上の累計実績があるそうで「対象車種のおおよそ1割のお客さまが購入しています」とはボルボの担当氏の弁だ。
最新ボルボを対象とした現行ポールスターソフトウエアは、その改変範囲をエンジンに加えて、変速機や(AWDモデルの場合は)その4WDシステムの制御まで広げたパワートレイン総合チューンというべき内容となっており、商品名も「ポールスターエンジニアード」に変わっている。対象車種は「V40」から「XC90」まで、対象パワートレインも「D4」や「T5」「D5」のFFやAWDなど多岐にわたるが、価格は一律で18万8000円。たかが1割されど1割(笑)。目に見えないソフトウエアに約20万円……という価格設定を考えると、1割という装着比率はけっこうな人気といえるだろう。
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先日乗ったばかりのあのクルマに
最新ポールスターエンジニアードのエンジン部分の内容については以前の「~パフォーマンスパッケージ」の正常進化といっていい。最高出力や最大トルクなどのピーク性能の向上はあえて小幅にとどめつつ(というか、大幅な性能アップでは排ガスや燃費性能も変わってしまい、保証や認証にも影響する)、中速域トルクやスロットルレスポンスといった実体感しやすい領域を増強している。また、最近はアクセルを戻した際のオフスロットルレスポンスにも配慮しているというあたりは「さすが分かっていらっしゃる」である。
変速機については減速Gに応じてギアホールド機能を強めるなど、キモとなる中速トルクを生かして気持ちよく走ることに配慮したシフトスケジュールとなるほか、変速スピードそのものも短縮されているという。4WDシステムでは後輪トルク配分におけるレスポンスや配分量が強化されるのだそうだ。
そんなポールスターの効果をハッキリ体感できるように……と、今回の試乗会では、まったく同仕様のボルボで、ポールスター装着車と非装着車が1台ずつ同時に貸し出された。
われわれwebCGチームにあてがわれた試乗車は「XC90 D5 AWDインスクリプション」と「V60クロスカントリーT5 AWDプロ」の2車種、4台である。
ちょっと驚いた……というか笑ってしまったのは、このうちのXC90のポールスター装着車が、先日の山形でのリポートをwebCGで書かせていただいた試乗個体そのものだった点だ。山形の試乗時点ではもちろんノーマルだったXC90に、その後ソフトウエアがダウンロードされたわけだ。最新ポールスターエンジニアードを含む一連のソフトウエアは、このように対象機種であれば購入後でもレトロフィット可能なのが大きなメリットである。
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ガソリンモデルのほうが効果が如実
ポールスターエンジニアードを導入すると、もともとのダイナミックモードが専用の「ポールスターエンジニアード」モードに書き換えられる。
実際に試乗した率直な印象は、直接乗り比べれば明確に分かるくらいには、ありがたみがある……というものだった。最初に乗ったXC90のD5では追い越しをかけたときの中間加速でのキック力がわずかだが確実に増しているし、その後の箱根のターンパイクの上り勾配でも少し力強かった。それ以上にちがいが体感できたのはATである。変速のキレが増しているのは走りだしてすぐに気づいた。
ただ、その性能アップをより如実に体感しやすいのは、今回でいうとV60クロスカントリー……つまりガソリンのほうだった。ポールスター装着のT5はその排気音の演出も明らかに勇ましくなっていた。また、中間加速の増強もそれなりに体感できたが、それ以上にダウンシフトのたびに聞こえるブリッピング音も明らかに盛大になっており、実際の動力性能以上に気分が高揚させられた。
4WDの所作については、どちらでも目立った変化が正直なところ感じ取れなかったのは、ベース車のシャシー性能がもとから余裕たっぷりであることに加えて、今回の試乗コースが好条件だったせいもあろう。
……というわけで、ポールスターのソフトウエアは良くも悪くも、あくまで燃費や環境性能を悪化させない範囲内でのチューンである。なので、単独で乗るだけで即座に気づくほど大げさなものではないが、ノーマル状態を知り尽くした個体であれば、確実にその効果は体感できるだろう。
この種のソフトウエアを選ぶユーザーはもともと好事家なので、新車購入と同時装着するケースが多いという。そのほうが支払いもまとめられるのでお得でもある。
ただ、もともとの性能を知り尽くした人ほどありがたい……という同ソフトウエアの特性からいくと、最初にベース車とある程度まで連れ添ってから、マンネリ解消(?)のためにダウンロードするのが効果的と思われる。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
ボルボXC90 D5 AWDインスクリプション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4950×1960×1760mm
ホイールベース:2985mm
車重:2110kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:240ps(177kW)/4000rpm
最大トルク:500Nm(51.0kgm)/1500-2500rpm
タイヤ:(前)275/45R20/(後)275/45R20(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:13.6km/リッター(WLTCモード)
価格:944万円/テスト車=1048万4000円
オプション装備:チルトアップ機構付き電動パノラマガラスサンルーフ(20万6000円)/Bowers&Wilkinsプレミアムサウンドオーディオシステム<1400W、19スピーカー、サブウーファー付き>(35万円)/電子制御式4輪エアサスペンション+ドライビングモード選択式FOUR-Cアクティブパフォーマンスシャシー(30万円) 以下、販売店オプション ポールスターパフォーマンスソフトウエア(18万8000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:6141km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
ボルボV60クロスカントリーT5 AWDプロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4785×1895×1505mm
ホイールベース:2875mm
車重:1830kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:261ps(192kW)/5700rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2000-4500rpm
タイヤ:(前)235/45R19 99V XL/(後)235/45R19 99V XL(コンチネンタル・プレミアムコンタクト6)
燃費:11.6km/リッター(JC08モード)
価格:649万円/テスト車=728万7000円
オプション装備:メタリックペイント<バーチライトメタリック>(8万3000円)/チルトアップ機構付き電動パノラマガラスサンルーフ(20万6000円)/Bowers&Wilkinsプレミアムサウンドオーディオシステム<1100W、15スピーカー、サブウーファー付き>(32万円) 以下、販売店オプション ポールスターパフォーマンスソフトウエア(18万8000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:4093km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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