第579回:クルー本社でベントレーの100周年イベント開催
英国伝統のブランドの“現在”と“未来”を見た!
2019.07.20
エディターから一言
2019年7月に記念すべき創業100周年を迎えたベントレーが、英国チェシャー州クルーにある本社でアニバーサリーイベントを開催した。そこでは栄光ある過去を振り返りながらも未来に重点が置かれ、ベントレーが考える次世代のグランドツアラー像が披露された。
ベントレーの“故郷”を訪ねて
イギリスを代表する高級車ブランドのひとつ、ベントレーにとってこの2019年が記念すべき創業100周年となることは、周知の事実であろう。
近年のベントレーは“EXTRAORDINARY(並外れた)”をスローガンのごとく掲げている。確かに、世界各国に自動車ブランドがあまた林立する中でも、100年を超える歴史を誇るものは数えるほど。間違いなくEXTRAORDINARYな存在である。
しかし100周年を迎えたベントレーは“過去”へのリスペクトだけにとどまらず“現在”、そして“未来”にあってもEXTRAORDINARYであろうとしている。その強い意志を如実に感じさせてくれるイベントが、先ごろ英国チェシャー州クルーのベントレー本社にて開催された。
現代のベントレー モーターズ社が“100周年”の期日として規定しているのは、2019年7月10日との由。その前日に当たる7月9日に、ベントレー本社においてプレス向けのシークレットイベントが行われるとのことで、われわれは70年以上にわたってベントレーの“故郷”であり続けている、クルー本社工場を訪ねる機会に恵まれた。
ベントレー愛にあふれた従業員
この直前の週末、同じ英国内にて開催された自動車イベント「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」では、新型「フライングスパー」が公衆の面前に初めて姿を見せたほか、創業から現代に至るベントレーの歴史的名作たちが続々と登場。大きな話題を呼んだことは記憶に新しい。このことから、今回のプレスイベントでもクラシックモデルとともにベントレーの“ヘリテージ”をアピールする内容になるかと思いきや、その予想はまったくの見当違いだったようだ。
7月9日の朝、世界各国からクルー本社に集まった報道陣がまず案内されたのは、第2次大戦中からの基礎に当代最新の改装を施した、極めて美しいファクトリーである。
ツアーは、ほぼ完全なハンドメイドで製作されるフラッグシップモデル「ミュルザンヌ」専門の区画からスタート。その後は別棟に移動し、ほとんど不動に見えてしまうほどゆったりとしたペースで流れるスポーツクーペ「コンチネンタルGT」およびプレミアムSUV「ベンテイガ」の生産ラインへと進むことになった。
このファクトリーでは、1台1台の組み付け状況を計測する高度な電子機器や、組み立て用のロボットなど、最新のテクノロジーがふんだんに投入されている。またベントレーの真骨頂であるインテリアについては、英国製高級車が長らく伝統としてきた天然素材に加えて、上質ながらサステイナブルな新素材なども使用されるようになってきていることがよく分かった。でも、その製作過程を支えるのは、あくまで伝統的なクラフトマンシップであることも実感することになった。
今回の見学で何より感銘を受けたのは、ベントレーが今なお“人の創るクルマ”であること。説明役を引き受けた各パートの責任者たちは、自身の部門の仕事を誇りとともに語ってくれる。また、ロールス・ロイス傘下の時代から、長らくハンドメイドに携わってきたベテランのマイスター的職人から、同社の次世代を担うであろう若きアプレンティス(見習い工)まで年代を問わず。あるいは性別や人種も問わず、ただベントレーへの愛情とともにそれぞれの職務に当たる姿は、なんとも感動的なものだったのだ。
“2035年のグランドツアラー”とは?
そしてこの日のクライマックスとなったのが、先日webCGでも第1報をお伝えしたコンセプトカー「ベントレーEXP 100 GT」のワールドプレミアである。
工場の近くに設けられた特設会場にて、ベントレー モーターズの会長兼CEO、エイドリアン・ホールマーク氏が自らプレゼンターとなってお披露目されたこのコンセプトカーは、ベントレーが考える“2035年のグランドツアラーの姿”を体現。詳しくは前述の第1報に明るいので割愛するが、パワートレインの電動化や自動運転、あるいはAIの導入に対して、これからの16年でベントレーが構築可能とするテクノロジーを示したものと説明された。
しかもその一方で、クラシカルなラインを未来に昇華した優美なボディーやインテリアには、廃材を用いたサステイナブルなマテリアルを多用。インテリジェントなテクノロジーを大胆に組み合わせることで“未来のクラフトマンシップ像”も表現しているというのだ。
輝かしいストーリーの数々に彩られてきたベントレーは、それゆえに過去のヘリテージをとても大切にしてきたことは、これまでの同社の活動を見てきた者ならば誰しもが感じることだろう。
しかし、100周年という重要な節目を祝う場で、自社の現状を力強くアピールしたこと、そして、これからの100年を占うがごとき先鋭的なコンセプトカーを発表したことは、ベントレーが次世代プレステージカーのカテゴリーにおける覇権を本気で狙いにいこうとしている“証し”のように感じられたのである。
(文と写真=武田広実/写真=ベントレー モーターズ/編集=櫻井健一)

武田 公実
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