「数字で呼ぼう」はアリなのか?
マツダの改名戦略について考える
2019.07.26
デイリーコラム
バブル期の記憶がよみがえる
車名の記号化、数値化というのはそもそも欧州のブランドに多く見られるものです。典型的なのはメルセデス・ベンツ、BMW、アウディのドイツ御三家、あとはプジョーやボルボといったところでしょうか。
対して日本の自動車メーカーはその歴史上アメリカとの関係が深いこともあって、車名はアメリカ流に単語というのが常套(じょうとう)でした。時には「ハイラックス」のように2つの単語をくっつけてみたり、「カムリ」のように日本語(冠=かんむり)を強引に英語風にもっていってみたりと、あの手この手で固有名詞化を試みたものです。
マツダが先ごろ、「アクセラ」改め「マツダ3」を日本市場に投入したのはご存じの通り。それを皮切りに「アテンザ」を「マツダ6」に、そして「デミオ」も「マツダ2」にと、あっという間に改名してしまいました。現在、日本のマツダのオフィシャルサイトを見ても、カタカナネームの乗用車は「ロードスター」だけです。それもいつの間にかマツダ専有車名のようになっていますが、本来は車体形態を指す一般名詞でして、海外では「MX-5」と呼ばれています。が、固有名詞好きなアメリカでは「ミアータ」のペットネームも健在。マツダUSAのオフィシャルサイトでは「MX-5 MIATA」と記されていたりと、なかなか厄介です。
思えばマツダは以前もこういうことがありました。バブル華やかなりし頃の5チャンネル体制時、アンフィニブランドで供されたクルマたちは「MX-6」だの「MS-8」だのと名乗ってましたよね。まぁ関わられた方は大真面目だったんでしょうけど、はたから見ているとあの時は“ガイジンごっこ”の感は拭えませんでした。
果たして、車名の記号化のメリットは何なのか? 何はともあれ趣旨や車格が明瞭に伝わることが挙げられます。数字は大きい方が車体も大きくて、“X”が付いていればSUV系と、まぁなんとなく直感的理解が働きますよね。
また、世界的に語彙(ごい)がどうした、商標がうんぬんなどと余計な調整の手間から解放されるとか、細かいことをいえばエンブレムの作り分けの必要がなく配置の場所や専有面積が統一できるというメリットもあるかもしれません。
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ユーザー心理にも配慮が必要
あるいは2つの名前が混在していると、時にややこしい話も生じます。日産がインフィニティのエンブレムを冠した「スカイライン」を売っていた時、海外から日本にやってきた「Q50」ユーザーから「なんで俺のクルマに違う名前が付いてるんだ?」と問い合わせがあったそうです。名前が世界的に同じだと、こういった変な誤解も生まれないかもしれません。
マツダが今回、一気に改名を試みたのは、必達事項であるブランドロイヤルティー向上のために、名前の統一性が不可欠と考えたからでしょう。いま、各地で販売店が続々と“黒マツダ化”していることかと思いますが、そこで売るデミオがかつてのように「決算大特価99万8000円」では元も子もありません。かれこれ20年マツダを持ち続けていると、彼らの安売り王脱却にまつわる苦労も、届き続けるDMの変遷を通してひしひしと感じていました。もうあの時代には戻りたくない、その思いが車名変更に至らせたという見方も間違いではないはずです。
とはいえ、です。アテンザ、アクセラは15年以上、デミオは20年以上と、いずれも市場で親しまれてきた名前です。物心ついて初めて認識した家のマイカーがアクセラだったという若人もいれば、免許を取って初めて買ったクルマがデミオだったというオッサンもいらっしゃることでしょう。そういう人の思い出と墓までご一緒する覚悟はさすがにメーカーには求められませんが、まるで昨日までのことはなかったように振る舞われるのも寂しいものです。あるいは古い名前のクルマたちの二次価格は担保されるのか、マツダにおいてはこういったユーザーマインドをどうケアしていくかも、それこそブランドロイヤルティーを高める上で必須の項目です。
折しもスカイラインは紆余(うよ)曲折の末、インフィニティの地下鉄マークを捨てて日本の日産のスカイラインを再び前面に打ち出してきました(関連記事)。果たしてマツダの改名は吉と出るのか。自分のクルマはちょうど来週車検なので、その際に担当のセールスさんにお客さんの評判でも聞いてみようと思います。
(文=渡辺敏史/写真=マツダ、日産自動車/編集=関 顕也)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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