トヨタ・スープラSZ-R(FR/8AT)
和して同ぜず 2019.08.06 試乗記 新型「トヨタ・スープラ」の中でイチオシのグレードだと、開発テストドライバーが口をそろえる「スープラSZ-R」。ワインディングロードで試乗してみると、その評価に納得できる楽しさが伝わってきた。ビーエム任せにはしていない
新型スープラの開発でマスタードライバーをつとめたヘルフィ・ダーネンスさん、そして最近のシリーズ広告『トヨタイムズ』でおなじみのベテラン評価ドライバーの矢吹 久さんに「自分でスープラを買うなら?」とたずねたら、2人とも即座に「SZ-R」と答えた。今回試乗したスープラはそのSZ-Rである。
BMWとの共同開発で生まれたとされる新型スープラを「BMWにつくってもらっただけ」と切って捨てる口悪いネット民も少なくない。それはまるでウソではないが、実態はその言葉から受ける印象とはだいぶ異なる。
トヨタ側で実際にスープラの開発に従事したのはデザイナーとテストドライバー、そしてトヨタの社内呼称では“Z”と呼ばれる商品企画担当の人たちである。スープラ担当のZも大半が技術者出身であり、ありとあらゆる部分でトヨタの意向を実現する仕事をしたが、今回はトヨタ側では図面を引いておらず、設計の実作業はすべてBMW側が担当した。その意味では、新型スープラはたしかにBMWにつくってもらったクルマである。
ただし、実設計のスタート以前にトヨタ側のZたちは「直6エンジンでFR。仮想敵は『ポルシェ・ケイマン』。ホイールベース/トレッド比は1.55以下、重心高はこうで車体剛性は……」といった企画仕様のキモとパッケージレイアウト要件を提示して、それについては一切ゆずらなかったという。内外装デザインも基本は100%トヨタ製で、それを実際のカタチにするBMW側からは、たとえば「スチールのリアフェンダーをここまで絞るのなら外注の必要がある」といった条件がつけられることはあったものの、「できない」と跳ね返されることはほぼなかったそうだ。
そして性能開発の段階になると、スープラと「Z4」とは別チームとなり、開発作業はダーネンスさん率いるトヨタチームとBMW側スープラ担当で進められた。以降、Z4の動向はトヨタのあずかり知らないところとなる。
トータルで見たらこのグレード
ベルギー人のダーネンスさんはフォードで初代「フォーカス」などの開発に従事した後、2000年にトヨタに移籍。当時のトヨタのマスタードライバーだった成瀬 弘さん(故人)から薫陶を受けた。そんなダーネンスさんは「BMWはフィーリングを大切にします。トヨタではデータを使って定量的に提案しないと技術者に同意してもらえないことも多いですが、今回は自分が“こうしてほしい”といえば、特別なエビデンスがなくてもマスタードライバーの意見が尊重されます」と語っている。
もうひとりの矢吹さんはトヨタではダーネンスさんの先輩にして、より成瀬さんに近い兄弟子でもある。日本を拠点にする矢吹さんは欧州に足を運びながら、現地で開発するダーネンスさんのセカンドオピニオン役に徹した。
そんな2人がSZ-Rをイチオシする理由も、突き詰めればまったく同じ。SZ-Rは直6エンジンを積む最上級「RZ」と同じシャシーに、軽量な4気筒を積むから回頭性がより高く、エンジン単体では6気筒のほうがカリスマティックだが、いやいやSZ-Rも従来の4気筒イメージを覆す好エンジンだから……だそうである。
なるほど、今回のSZ-RはRZに対して車両重量で70kg、しかも前軸側だけで50~60kgも軽い。これだけ重量が変わればバネやダンパーの調律も完璧に同じではないだろうし、履かせられるホイールサイズもSR-Zが18インチでRZが19インチという差異はあるが、「ミシュラン・パイロットスーパースポーツ」というタイヤ銘柄とフロント255、リア275というタイヤ幅は共通である。さらに、トヨタでは「AVS」という商品名が与えられるモンロー社製の連続可変ダンパーや電子制御アクティブデフも、スープラではSZ-RとRZに標準装備となる。なるほど、絶対的なグリップ限界は両グレードで同等ということになる。
従来の基準じゃありえない
東京・渋谷区にある編集部で取材車を引き取った私は、はからずもスープラを初めて都内で走らせることになった。いやはや、その注目度がスゴい! 道ゆく人に指をさされたことは数知れず、スマホだけでなく本格的なデジカメを向けられることすらあった。
新型スープラは2019年5月中旬に国内発表されてすでに2200台以上を受注しているというが、6月末時点での国内の一般顧客への納車数はひとケタ台(!)にとどまるとか。私自身もいまだにメディア向け取材車以外のナンバー付きスープラは一度も見たことがない。なのに年初からこれだけ騒がれているのだから、クルマオタクならずとも「あれがウワサのっ!?」とめずらしがるのは当然だろう。
それにしても、これだけ視線をもらうと乗っている人間は死ぬほど恥ずかしい……とならなかったのは、すこぶる低い着座位置に鉄カブト的に覆いかぶさるルーフ形状のためか、路肩に立つ歩行者目線からは乗員の顔が意外に見えづらいからだ。そのおかげで、クルマばなれナニするものぞ……の今回の光景を客観的かつ素直に喜ぶことができた。
そんなルーフ形状に加えてサイドシルも異例に太いので、スープラの乗降性ははっきりと悪い部類に入る。ロータスでいうと「エリーゼ/エキシージ」なみとまではいわないが、「エヴォーラ」とは大差ない。この乗降性は本来のトヨタでは論外であり、聞けばBMWの基準でも完全NGのレベルだそうだ。
乗降性だけでなく、最低地上高に段差の乗り越え性、他社の輸入右ハンドル車と同じく左側にあるウインカーレバーなど、普段なら絶対であるトヨタ社内基準のいくつかを、スープラでは例外的にハズしているという。乗降性のみならず、いわゆる車高やタイヤの張り出し具合などの“たたずまい”でも、新型スープラに本物のスポーツカーオーラがただよう背景には、そんな理由もある。
驚きの固さとしなやかさ
いつもの走り慣れた道を転がすスープラでもっとも印象的だったのは、車体の剛性感である。ミシリともいわない……というありきたりな表現もバカらしくなるほどの、まるで岩石の上に座っているような感触だ。
当初は「86の5割増し」を目標値としてスタートしたというスープラの車体剛性も、前記ダーネンスさんらの「もっと、もっと」の要望を受けて開発しているうちに、最終的には86の2.5倍(!)にまで高まったのだとか。前記の極太サイドシルもその手段のひとつだろうが、いずれにしても非カーボン複合樹脂の骨格(スープラとZ4のそれは基本的にスチールとアルミとのハイブリッド構造)としては異例の剛性感といっていい。
SZ-Rは上級RZ同様に、ダンパー、パワステ、エンジン、変速機の各制御に「スタンダード」と「スポーツ」の2パターンが用意されており、それをセンターコンソール上のボタンで統合切り替えできる。エンジンと変速機の制御が「スポーツ+」を加えた3パターンとなるZ4より選択肢が少ないのはBMWとの差別化(とコストダウン?)のためだろう。コンソールにはそれとは別に「トラクション」というボタンもあるが、これはトラクションコントロールや横滑り防止装置の介入を制限制御するもので、BMWでおなじみの「DTC=ダイナミックトラクションコントロール」に相当する(が、制御はスープラ専用らしい)。
すべてをスタンダードにして走るスープラSZ-Rのフットワークと加減速マナーは、おそらく皆さんが想像するよりはるかに柔らかく上品だ。岩石級の車体に守られながら、足元だけがしゃなりしゃなりと凹凸を吸収してくれる。そういえば、以前の試乗会で乗った上級RZも乗り心地は望外に快適で「生きた道で徹底的に鍛えた。公道で気持ちいいのが最優先」が新型スープラの大きな売りである。
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コーナーのマナーがトヨタらしい
“1.55以下”という数字どおりの超ショート&ワイドなスタンスにもかかわらずスープラの高速直進性が感心するレベルなのは、車体剛性とサスペンションの横剛性に加えて、トヨタ担当者によると「空力と電子制御デフがメチャ効き」だからという。連続可変ダンパーはスタンダードモードでも速度が上がるにつれて締まっていくが、生き物のように積極的にストロークする柔らかなタッチは高速域まで維持される。
箱根に持ち込んだスープラは、路面グリップやコーナーの曲率にかかわらず、水を得た魚のようで楽しい。RZも直6とは思えないほど前後バランスがいいが、このSZ-Rはそれに輪をかけてハナが軽い。ホント、日本特有のせまい山坂道でこれだけ楽しめるのは、さすが日本メーカーの仕立てだからでもあろう。
ステアリングを切り込んでいくと、走行モードを問わずに、意外なほど明確にロールしながらグッと食い込むように曲がりはじめるスープラの独特感は、いかにもトヨタ味である。Z4はノーズの安定感がもう少し高く反応もマイルドだ。こうしたスープラとZ4の味わいの差は、発売当初の86と「スバルBRZ」のそれによく似る。やはりトヨタは伝統的にこういうのが好きなのだ。これぞ成瀬イズムか。
コーナーを真剣に攻略するような走りかたをすると、さすがに柔らかいスタンダードではターンインのタイミングが遅れ気味になる。そんなときはよりシャープなスポーツモードが重宝するが、それでもけっしてサーキット仕様のようなガキゴキの硬さでないのが、スープラの立ち位置を象徴している。
もっとも、山坂道でスタンダードモードが使いものにならないわけではない。それどころか、1速まで落とすようなコーナーが続く低速コースを、激しいブレーキングを避けながら腹八分目のペースで流すときには、じつに丸く滑らかに曲がるスタンダードのマナーは快感である。柔らかいスタンダードの守備範囲がこれほど広いのも、鼻先の軽いSZ-Rならではの美点といえる。
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4気筒でも“快”がある
2リッター4気筒といっても、このクルマの絶対動力性能は直6自然吸気時代の「M3」に勝るとも劣らないレベルであり、十二分に速い。すべてスポーツモード+トラクションスイッチ起動の“フルお楽しみモード”(?)にして、400Nmの最大トルクを解放しても、よほどの蛮行を働かなければきっちりと前に蹴り出す。この卓越したトラクション性能は、短いホイールベースと変哲のないFRレイアウトからはにわかに想像しづらいほど素晴らしい。
まさに空力とアクティブデフ、恐るべし……なのだが、いかに優秀なシャシーでも、さすがに3リッター直6ターボでは、アマチュアの私はここまで思い切って踏めない。そのあたりの爽快さもSZ-Rならではだ。
BMWだと「30i」と呼ばれるべき高出力型の4気筒は、3000rpm弱でグッと強力なトルクが立ち上がり、4000rpmほどで最大トルクに達すると、それ以降は見渡すようなフラットトルクとなる。しかし、7000rpm弱のリミットまで落ち込みも少なくきっちり使えるし、サウンドはトップエンドまでどんどん高まっていくので、8ATを駆使してぶん回す快感もなくはない。
単体の官能性で直6にゆずるところはあっても、これが4気筒としては屈指のスポーツエンジンなのも事実。アクセルオフに対するレスポンスも鋭く、盛大なブリッピングによるダウンシフトも気分を盛り上げる。昨今のスポーツカーサウンドはスピーカー込みで調律するのが一般的だが、トヨタ版の音づくりは、BMW版より良くも悪くも下品で盛大である。
唯一の弱点をあげるとすればトルコンATの変速機だろうか。大半のケースでは多くのDCTより小気味いいくらいで、耐久性でもDCTより有利だが、いよいよ……というレベルまでいくと、変速スピードがボトルネックになるケースがある。しかも、2速と3速を多用する日本の山坂道では、この2つのギアの落差が大きい欧州流儀のレシオではなおさら変速が遅れがちになる。
とはいえ、正味1.5日の試乗で気になったのはそれくらい。クルマのデキはお世辞ぬきで良好であり、なるほどケイマンに堂々と挑戦状をたたきつけるだけの価値はある。その強靭な基本フィジカルはBMWの血統ゆえもあろう。
さらにトヨタでは新型スープラを“ハブ”として、86同様のモータースポーツ業界やカスタマイズ市場だけでなく、今度はeスポーツやVRの世界で新たなシカケを用意しているという。トヨタゆえにクルマオタク間では賛否両論もそれだけ激しいが、かといって、こんな仕事はトヨタにしかできないのも事実だ。
(文=佐野弘宗/写真=宮門秀行/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
トヨタ・スープラSZ-R
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4380×1865×1295mm
ホイールベース:2470mm
車重:1450kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:258ps(190kW)/5000rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1550-4400rpm
タイヤ:(前)255/40ZR18 95Y/(後)275/40ZR18 99Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:12.7km/リッター(WLTCモード)
価格:590万円/テスト車=594万6030円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション カメラ一体型ドライブレコーダー(2万1125円)/ETC 2.0ユニット(2万4905円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1804km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(5)/山岳路(4)
テスト距離:381.0km
使用燃料:51.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.3km/リッター(満タン法)/7.8km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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