第584回:“オフロード感”を高めた新タイヤ
ヨコハマの「GEOLANDAR X-AT」でオフロードを走る
2019.08.11
エディターから一言
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ヨコハマのSUV向けタイヤ「GEOLANDAR(ジオランダー)」シリーズに、新たに「X-AT」がラインナップされた。マッドテレインとオールテレインとの中間に位置付けられるという、“オフロード感”を高めた新タイヤの実力とは!?
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“ホビータイヤ”って何?
クルマを走らせるのになくてはならないアイテムといえば、真っ先に思い浮かぶのがタイヤである。必要不可欠なパーツであるばかりか、走りそのものを大きく左右するだけに、どれを選んだらよいか、いつも迷ってしまう。しかも、タイヤは消耗品だから、同じクルマに乗り続ければ、タイヤ交換がつきまとい、それにまつわる出費は、正直なところあまりうれしくない。
しかし、タイヤの中には、積極的に買い替えたいと思うものもある。それが、ヨコハマタイヤが“ホビータイヤ”と呼ぶ商品群だ。一般的なサマータイヤやウインタータイヤに対して、ホビータイヤには、サーキット走行用の競技用タイヤをはじめ、スポーツカー向けのハイパフォーマンスタイヤやヒストリックカー向けに当時のデザインを復刻したクラシックタイヤ、そして、クロスカントリー車のドレスアップに適したSUVタイヤがある。
一般向けのサマータイヤやウインタータイヤに比べたら販売量は少ないが、私を含めて、クルマが趣味という人にとっては、この部分の商品の充実はうれしいし、ブランドのファンを増やすという意味でも重要だと思う。そのあたりはヨコハマタイヤもよく理解していて、「GD2020」と呼ばれる成長戦略のひとつとして「ホビータイヤ戦略」を掲げているのだ。
ワイルドな見た目と快適さを両立
そんなホビータイヤの中から、今回試乗したのが、オフロードタイヤのGEOLANDAR X-ATだ。このところ日本でも販売台数が伸びているSUV。その多くは乗用車ベースのクロスオーバータイプだが、フレーム付きのクロスカントリーSUVやピックアップトラックの販売も増えているという。後者のなかにはオフロード性の高さを前面に押し出してカスタマイズを楽しむユーザーが少なくない。ただ、実際にオフロードを走行することはあまりなく、見た目重視のドレスアップがメイン。そうなると、オフロード性能や見た目に加えて、オンロードでの快適性が重要になってくる。
そんなわがままに対応するのがこのX-ATで、オフロード性能を重視したマッドテレインタイヤの「M/T G003」と、オンロード志向の「A/T G015」の“いいとこどり”の製品だという。
それはデザインによく表れており、乗用車用のサマータイヤを見慣れている者にとってはかなりゴツイ。トレッドパターンがアグレッシブなうえ、サイドのブロックデザインもとても力強い。しかも、このX-ATでは1本のタイヤに“大型ブロックタイプ”と“ラグタイプ”の2種類のデザインを採用。自分のクルマや好みにあうデザインをアウト側にすることで、個性をアピールできるというのだ。どちらのパターンを外側にしても、走りには影響しないそうで、この一見無駄な性能も、ホビータイヤとして見ればうれしい遊び心といえる。
しっかり走り、意外に快適
これだけゴツいデザインだと、オンロードの快適さが心配になるが、実際に舗装路を試乗した印象は、意外にロードノイズが低めで、乗り心地もスムーズだった。もちろん、オンロード専用タイヤやオンロード重視のタイプに比べればザラついた感触はあるが、ふだん使いでも十分に許容できるレベルの仕上がりである。
一方、オフロード性能は見た目どおりというか、期待どおり。この日は、かつて「浅間火山レース」が行われた浅間サーキット(浅間高原自動車テストコース)の跡地で、クロスカントリー車やピックアップトラックを走らせたが、雨上がりということもあって、コースの大部分はぬかるんでおり、ところどころに水たまりもある絶好の(!?)コンディション。しかし、X-ATを履いた“ヨンク”たちは、自分が思った以上にしっかりと路面を捉え、コーナーではオーバーランすることはなかったし、急な登り斜面でもほとんどタイヤを空転させることなく、グイグイと前に進んでいった。
正直、オフロード走行に慣れているわけではないので、クルマを振り回すまではいかなかったが、普通に運転しているかぎりは、安心してステアリングを握っていられたのは確か。押しの強いデザインに加えて、オフロードの確かな走破性とオンロードの快適性を両立したX-ATは、ふだんの走りを犠牲にせずにドレスアップを楽しみたい人にはぴったりのタイヤといえそうだ。
(文=生方 聡/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。