第619回:【Movie】クールなクルマの熱い思い出!
大矢アキオとスマートのファンイベントとの切っても切れない関係
2019.08.30
マッキナ あらモーダ!
イベントをきっかけに広がるネットワーク
アメリカのロックミュージック史に数々の伝説を残した「ウッドストック・フェスティバル」が、2019年は中止となった。第1回から50周年の節目だったが、資金難が主催者を断念させた。ウッドストックといえば「ヒッピー」だ。近年、ファッション界で「ヒッピー風」がキーワードとして再び脚光を浴びるようになったことを考えると、何とも複雑である。
いっぽうヨーロッパにおける自動車イベント界でも、昨2018年をもって事実上終了となり、ファンたちが惜しんでいるイベントがある。ダイムラーによるスマートのための国際ファンイベント「スマートタイムズ」である。
2001年にオーストリアで有志によってスタートしたこのイベントは、後年現地インポーターの協賛を得るようになり、続いてメーカー主催に昇格した。2006年からは同国ザルツブルク州のツェル・アム・ゼー/カプルンを開催地とした。
2011年からはヨーロッパ各国を回るツアー方式がとられ、2016年のドイツ・ハンブルク大会では過去最高の2053台・3167人が集結した。
気がつけば筆者は2009年から2018年まで、通算10回にわたってスマートタイムズを訪れた。仕事以上に楽しかったのは、愛すべき“スマーティスタ”たちとの交流である。
バルセロナ編のとき、郊外のカタルーニャ・サーキットまで行くシャトルバスを逃し、途方に暮れていたときだ。「スマート・ロードスター」が路肩に寄ってきたかと思うと、見知らぬ参加者が窓を下ろして「乗ってきな」と声をかけてくれた。彼との交流はその後も続いている。
「俺の愛車に乗って、乗って!」は、ベルギーのアントワープでも。ただし、そのときはいきなり「クロスブレード」に乗せられた。フロントウィンドウがないため、2時間以上もの間、冷風と雨に全身をさらされた。スイス人オーナー氏は、ひたすら操縦を楽しんでいたが、筆者はといえば途中からトイレに無性に行きたくなり、あのときは本当に「ダメか」と思った。同時にこんなワイルドなクルマを造ったメーカーを恨んだ。
普段なかなか出会うことができない、特に東欧圏の人々とも知り合うことができた。例えば、ポーランド人ファンと知己になったのを縁に、以来筆者はワルシャワを3回も訪れている。
愛好家クラブが縁で結婚したカップルは、少なくとも3組確認した。「会期中に会場で出産した女性がいた」というウッドストック伝説には及ばないが、スマートがキューピッド役を果たしたことは確かだ。
2011年から2018年までダイムラーでスマートブランドの責任者を務めたアネッテ・ヴィンクラー氏に、一番印象的だった地はどこか聞いた。
彼女はどの地でも熱心なファンに恵まれたことに感謝するとともに、地元の人々との出会いも振り返る。一例として「ルツェルン大会で、大雨の中にも関わらず、山の家の軒先でパレード車に手を振り続けてくれた皆さんには感動した」と話してくれた。
ちなみにヴィンクラー氏は2011年のリッチョーネ大会以来、常にステージを仕切り、パレードでは先頭を走り、ファンたちと食事を共にした。とかく堅い印象があったダイムラーのイメージの若返りに大いに貢献したといえる。
ところで、2018年にダイムラーはスマートを電気自動車(EV)専用ブランドにすることを明らかにした。そして2019年3月には中国の浙江吉利控股集団(ジーリー)と、スマートブランドの次期型EV開発に向けて合弁会社を設立することを発表した。
内燃機関版でサービスが開始されて久しいカーシェアリング「car2go」に、これからはスマートのEV版「スマートEQ」がより多く導入されることになろう。近い将来スマートは、クールな都市型モビリティーとして別次元での役割を担うことなるということだ。
それを街で見かけるたびに筆者は、スマートタイムズの10年で出会った愛すべき人々を思い出すに違いない。
(文と写真と動画=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=藤沢 勝)
【大矢アキオと振り返るスマートタイムズ】
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
最終回:人それぞれに「最後のアルファ・ロメオ」 2026.8.27 イタリア・シエナで開催された「アルファ・ロメオ・スパイダー/GTV」のささやかなオーナーミーティングを、地元在住の大矢アキオが取材。あなたにとって最後で最高のアルファ・ロメオは、いつの世代のどのモデルですか?
-
第975回:ホンダ&スバルのTシャツがイタリアを席巻中 2026.8.20 イタリアで、ホンダやスバルをモチーフにした“日本車Tシャツ”が人気に。自動車をモチーフにしたアパレルの世界で、日本車や日本のブランドがもてはやされる理由とは? 素直に喜べないその背景を、現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第974回:「民生用」と「軍用」をまたぐクルマたち――ルノーの最新戦術車両に思う 2026.8.13 ルノーのクロスオーバーSUV「ラファール」がまさかの軍用車に? ルノーと軍需との第1次大戦にまでさかのぼるつながりと、彼らが今ふたたび防衛産業と距離を詰め始めた理由、世界的に見られる軍用と民生用の垣根を超えたクルマの歴史を、大矢アキオが解説する。
-
第973回:静かになりすぎたクルマと「聴かせて、聴かせて隊」に思うこと 2026.8.6 最近イタリアでよく見かけるという、道行くスポーツカーやスーパーカーのドライバーに、豪快なエキゾーストサウンドをせがむ若者の姿。彼らの存在は静かになりすぎた四輪車に対するアンチテーゼか? 現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第972回:黒船来襲も! イタリア自動車販売店は戦国時代 2026.7.30 イタリアで急速に進む、自動車販売店の統廃合と巨大グループの伸長。その背景にはどんな理由があり、私たちにどんな変化をもたらすのか? 現地在住の大矢アキオが、変わりゆく自動車販売のあり方を考察するとともに、消えゆく街かど自動車文化に思いをはせた。
-
NEW
北米産の800万円級SUV「トヨタ・ハイランダー」「日産ムラーノ」「ホンダ・パスポート」で一番“買い”なのはどれか?
2026.9.4デイリーコラム特例により国内導入されることになった北米生産のジャパニーズSUVは、3車種ともにサイズと価格帯が接近している。では、そのなかで最も“買い”なのは? それぞれの仕様を見比べてみた。 -
ホンダがコンセプトモデル「アキュラ・ネクセラ ビジョン」を発表 次世代デザインを読み解く
2026.9.3デイリーコラム本田技研工業の米国現地法人アメリカン・ホンダモーターが、アキュラブランドの次世代デザインを示すというコンセプトモデル「ネクセラ ビジョン」を初公開した。バタフライドアを採用するこのスポーツカーは、次世代アキュラの何を表現しているのか。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(後編)
2026.9.3あの多田哲哉の自動車放談ワインディングロードで新型「BMW iX3」のステアリングを握った多田哲哉さんは、その走りに感心した様子。どんなところが優れているのか、トヨタのエンジニアの視点で語ってもらおう。 -
新型「三菱パジェロ」の外装・内装を写真でチェックする
2026.9.2画像・写真5年間のブランクを経て、三菱のフラッグシップSUV「パジェロ」がついに復活! 「グランドカリスマ -泰然自若-」をコンセプトにデザインされた本格クロスカントリーモデルは、どのような姿をしているのか? 内外装の詳細を、写真で紹介する。 -
復活の決め手はこっくりさん!? 新生「三菱パジェロ」誕生の経緯とその狙い
2026.9.2デイリーコラム5年間の沈黙を経て、ついに登場した新型「三菱パジェロ」。スリーダイヤモンドが誇る荒野のフラッグシップは、いかにして復活を遂げたのか? 開発の経緯や内外装デザインの詳細、パワートレインに見るクルマの“狙い”をリポートする。 -
第127回:新型BMW X5(後編) ―迷走するBMW 結局アナタは“ノイエクラッセ”でなにがしたかったの?―
2026.9.2カーデザイン曼荼羅その姿が明らかとなるや、賛否両論を巻き起こしている新型「BMW X5」。このクルマは既存のBMW製SUVとはなにがちがうのか? そもそもBMWは“ノイエクラッセ・デザイン”になにを託していたのか? カーデザインの識者と、迷走するBMWの明日を探った。






