第586回:ブランド初のEVは0-100km/h加速2.8秒!
「ポルシェ・タイカン」のメカニズムを知る
2019.09.06
エディターから一言
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いよいよベールを脱いだポルシェ初の電気自動車(EV)「タイカン」。ポルシェならではの一切の妥協を許さないスペックと、それを支える精緻なメカニズムについて詳しく解説する。
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「パナメーラ」と「911」の中間サイズ
独ポルシェは2019年9月4日、同社初のEV「Taycan(タイカン)」をワールドプレミアした。それに先駆けて行われたワークショップにて知り得たタイカンのメカニズムの一部を、ここで紹介していく。
タイカンは4ドア、4シーターのピュアEVスポーツカーだ。ボディーサイズは、全長×全幅×全高=4963×1966×1378mmと、「パナメーラ」よりも全長は短く、全幅が広く、全高は低い。ディメンションは「911」とパナメーラの間にあたるもので、シートポジションは911に非常に近く、重心高も低い。車両重量(DIN)は2295~2305kgで、グレード(後述)によって異なる。
エクステリアデザインは、2015年に発表されたコンセプトカー「ミッションE」を市販車として限りなく再現したものだ。特徴的なヘッドライトまわりの形状をそのまま量産化しており、911やパナメーラ、そして「カイエン」とも違う、新たなポルシェの顔であることを示している。
ボディーについては、冷間や熱間圧延鋼板のスチールを63%、アルミニウム約37%を用いた複合素材を、溶接や接着、リベット留め、圧入などさまざまな接合技術を組み合わせることで形成。ボディー下部には強靱(きょうじん)なフレームに覆われたバッテリーが、28のスクリューによって結合されている。このバッテリーはあらゆる角度からの衝突実験が行われており、内部を衝撃吸収構造とした設計となっている。シミュレーションの結果によれば、安全性ではパナメーラを大きく上回るという。ちなみにルーフは全面がガラス構造となる。100%UVカットに加えて、夏は涼しく冬は暖かいエコ商品として近年は住宅やマンション、オフィスビルに使われているLow-Eコーティングガラスなどを採用した5層構造によって、ロールスクリーンの不要な開放感のある空間を実現している。
「Hey Porsche!」で起動する音声認識機能も
インテリアデザインは初代911をモチーフに、最新のデバイスによって現代的な解釈が加えられたもの。先に発表された992型911よりも、EVらしくよりデジタル感が強いものだ。ステアリングの奥に見えるメーターパネルは、湾曲した16.8インチディスプレイで構成。メーターナセルが省略されたことでよりモダンな印象を与えている。日差しや反射が気になるところだが、ガラスに蒸着偏光フィルターコーティングを施すことで反射を防いでいるという。メーター表示はポルシェ特有の丸型メーターを並べたクラシックモードをはじめ、フルマップモードなど4種類から選択可能となっている。
インパネ中央部分は、上部に10.9インチのインフォテインメントディスプレイを、下部には空調等を操作する8.4インチのタッチパネルをレイアウト。オプションのパッセンジャーディスプレイを組み合わせれば、一体化されたガラスの画面がインパネ一面に広がる空間になる。エアコンも最新の空力制御が取り入れられており、吹き出し口に細かなルーバーが存在しないシンプルなデザインとなっている。しっかりと冷風を浴びたい場合には操作メニューから「フォーカス」を、風を直接感じたくない場合は「ディフューズド」を選択できるなど、ほとんどのドライバーのニーズをかなえることができるという。またオプションでエネルギー効率を高めるヒートポンプ式のエアコンも用意される。EVにとってエアコンはエネルギーを消費する重要項目だけに、開発には相当に力を入れたようだ。さらにメルセデスやBMWなどにも見られる最新の音声認識機能も搭載。「Hey Porsche!」のコマンドに応答するようになっている。
EVでありながらグレード名には“ターボ”
タイカンには「ターボ」と「ターボS」という2グレードが用意されている。パワートレインとして永久磁石シンクロナスモーター(PSM)を前後軸に1つずつの計2基と93.4kWhのバッテリーを搭載し、4輪を駆動。トランスミッションはポルシェ独自開発のものでフロントアクスルに1段の、リアアクスルに2段のものをそれぞれ搭載。1速は主に「スポーツ」や「スポーツ+」モードで使用。「コンフォート」モードなどでは2速へとシフトすることでモーターの負担を軽減し、EVでありながら最高速260km/hを実現している。
ターボの最高出力は625PS、ローンチコントロール使用時には680PSにまで高まる。最大トルクは850N・m。一方のターボSの最高出力は、通常時はターボと同じ625PSだが、ローンチコントロール使用時には761PSに、最大トルクは1050N・mにまで到達する。
またタイカンは、史上初の800VシステムによるEVだ。従来の一般的なEVが400Vシステムであるのに対して倍の電圧とすることで、パフォーマンスを安定的に発揮することができ、またケーブル類などを細くすることが可能で、軽量化にも大きく貢献するという。
一充電あたりの航続可能距離は最長450km
充電に関しては、11kWのACチャージングをはじめ、最大270kWのDCチャージングにも対応。後者を使用した場合には5分の充電で(ターボSは5.5分)で100km(WLTPモード)の走行が可能で、空の状態から80%までの充電時間は22.5分とされている。CHAdeMO(チャデモ)規格にも対応しているが、日本にはまだ欧州レベルの高速充電施設は存在しておらず、ポルシェ ジャパンではタイカンの国内導入に向けて、2020年半ばからのABB製の急速充電器を全国のポルシェセンターと公共施設への設置を計画。150kWでの急速充電が可能な次世代CHAdeMOは、タイカンの80%充電を30分以内に済ませる能力を備えるという。WLTPモードにおける満充電からの航続可能距離は、ターボで381~450km、ターボSでは388~412kmとなっている。
気になる動力性能については、0-100km/h加速のタイムはターボが3.2秒、ターボSでは2.8秒と3秒切りを達成。0-200km/h加速はそれぞれ10.6秒/9.8秒となる。既存のEVには一発のタイムは速いが、連続走行はできないという課題があった。しかし、タイカンのプロトタイプでは0-200km/h加速を26回連続で実施できたほか、その平均所要時間は10秒以下、一番速いタイムと遅いタイムとの差はわずか0.8秒だったという。また、24時間連続の走行テストも敢行し、ドライバー交代および充電時にストップする以外は走行を続け、一切のトラブルなく3425kmを走破。そしてニュルブルクリンクのノルドシュライフェ(北コース)において7分42秒のラップタイムを記録している。
スペックとしては、この市場で先行する「テスラ・モデルS」を打倒する準備は整ったように見える。果たしてステアリングを通してどれほど“ポルシェ”を感じることができるのか。それが多くのポルシェファンにとって最大の関心事だろう。来年の上陸を楽しみにして待つことにしよう。
(文=藤野太一/写真=ポルシェ/編集=藤沢 勝)
