ジャガーFペースSVR(4WD/8AT)
余裕のスーパーSUV 2019.09.17 試乗記 ジャガー・ランドローバーのビスポーク部門「スペシャルヴィークルオペレーションズ(SVO)」が手がけた、「ジャガーFペース」のトップモデル「SVR」に試乗。驚異の加速力と快適さを併せ持った走りは、SUVの皮をかぶったジャガー製スポーツカーのそれだった。下品にならない程よい主張
とっくに慣れっこになってしまったからか、不感症に見舞われる年まわりになったからかは定かじゃないが、今ではすんなり受け入れられるようになっているものの、僕はある頃まで良質で魅力的なセダンづくりを伝統のようにしてきたメーカーやスポーツカーメーカーがこしらえるSUVに、違和感を抱きがちなクルマ好きだった。
いや、いずれもクルマの出来栄えとしては“ソツなく”以上で、乗ってみた印象は悪くなかったのだけれど、何と言えばいいのか……そう、それらのクルマの存在感がそれぞれのブランドの持つ固有のイメージにマッチしていないように感じられて、そこに引っ掛かりを感じていた……という方が正しいのかもしれない。つまり、古いタイプの人間なのだ。
それを上手に覆してくれたのが、ジャガーFペースだった。「XE」や「XF」の快適性と実用性に加え、スポーティーなフットワークを絶妙にバランスさせている乗り味だったことも大きかったが、骨太な野性味と繊細なエレガンスがミックスされたモダン・ジャガーのルックスを、全く無理なくSUVのフォルムで表現しているところも魅力といえた。違和感はなく、むしろ好感を覚えたほどだった。
そんなFペースの高性能版であるSVRをひと目見てうれしくなったのは、パフォーマンスを大きく引き上げたモデルにありがちな、声高な主張が浮いた感じで伝わってくるようなところがほとんど見受けられなかったからだ。
確かに22インチのホイールが車体の中で占めている割合は大きいし、リアスポイラーがエクステで延長されバンパー下のディフューザーが深くなっていたり、エンジンフードやフェンダーの後ろ側に穴がうがたれていたりはするが、それらのアレンジがもともとの持ち前の雰囲気を崩すようなところにまでは至っていない。
とても大人っぽいその風体に、オヤジだけど中身がお子ちゃまみたいな僕は、軽い嫉妬と羨望(せんぼう)を感じてしまったりもする。
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スマートに「速い!」
とはいえ、ジャガー・ランドローバーのビスポーク部門にしてハイパフォーマンスモデル開発部門といえるSVOが仕立て上げたFペースSVRのスペックは、とても控えめであるとはいえない。
ハイパフォーマンススポーツカーである「Fタイプ」のSVR仕様と同じ5リッターV8スーパーチャージャーを、ディチューンというよりSUVとしての使い勝手に合わせて調整したという方が正しいであろうパワーユニットは、最高出力550PS/6000-6500rpmに最大トルク680N・m/2500-5500pmというスペック。そのパワーとトルクをZF製の8段ATとオンデマンド式AWDを介して路面に伝達し、サンルーフ装着車で2090kgという決して軽いとはいえない車体を静止状態から100km/hまで4.3秒で到達させ、アクセルを踏み込み続ければ乗員を283km/hの世界にまで連れていく(らしい)。
そして言うまでもなくシャシーまわりにも手は入っている。アダプティブサスペンションやブレーキを利用するトルクベクタリング、スタビリティーコントロール、AWDシステムなどの制御系は専用のチューニングを受けているほか、そのサスペンションは標準モデル比でフロント30%、リア10%ほどスプリングレートが高められている。リアにはアクティブデフを追加しブレーキも強化するなど、その改良のほとんどがスピードと走りの質を上げる方向へと向いている。紛(まが)うことなきスーパーSUV、なのだ。
けれど走らせてみて、僕は軽く驚いた。ここまで丹念なパフォーマンス志向の成り立ちでありながら、FペースSVRは過激だったり粗野だったりするような振る舞いを一切見せなかったからだ。
いや、期待ハズレだったとかパフォーマンスに不満があるということじゃない。実際問題、このクルマを全開で加速させてみたら誰もが「速い!」と感嘆符付きでクチにするだろうし、どう猛とすらいえるV8サウンドのドラマチックな盛り上がりに比例してメキメキとスピードを上げていく様子には、思わず口元が緩むはずだ。
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アジリティーよりもスタビリティー
ライバルといえるアルファ・ロメオの「ステルヴィオ クアドリフォリオ」と比べれば、車重が150kg以上も重いことなどが影響してか、0-100km/h加速タイムで0.5秒ほど差をつけられているけれど、その差を体感できる能力のある人などまずいないだろう。
逆に2500rpmから、パワーのピークが訪れるたった500rpm手前の5500rpmまで、延々と強大なトルクのピークが続くキャラクターはあらゆる場面で頼もしい。ラグが皆無なスーパーチャージャーという過給器の特性が生むレスポンスのよさも手伝って、どんなコーナーからの立ち上がりでも豪快な加速を約束してくれる。
それは同時にめっぽう扱いやすいということにもつながっていて、例えば高速道路を走っていてキックダウンの必要を感じることなど、危険なほど自分を激しく解放させたいとき以外にはないだろうとさえ思えるくらいだ。加速力はどんなシチュエーションでも力強い。その気になればどう猛ともいえる力を発散させることができるけれど、その気にならないときには穏やかに余裕たっぷりの走りが味わえる。つまり、とてもいいエンジンだな、と思う。
ワインディングロードに入っても、FペースSVRがSUV離れした素晴らしい速さを見せてくれるのは確かだ。コーナリングスピードも、立派にスポーツカーの部類に入るといえるだろう。ステアリングの手応えは自然で、レスポンスも悪くない。
ただし基本的な性格としては、例えば攻撃的とすらいえるクイックさとシャープさを持ち味にするステルヴィオ辺りと比べるなら、誤解を恐れずに言えば穏やかな部類といえるかもしれない。他のライバルたちと比べてフロントの駆動を重視しているように感じられたAWDの性格もそうだし、路面にきれいに追従し続ける足の動きもそうだし、どちらかといえばわずかにアンダーステア気味だったり、リアのグリップを失うことのまずない姿勢づくりもそうなのだが、機敏であることよりもスタビリティーを重視している印象。
だから安心感とともに気持ちよくワインディングロードを楽しむことができた。ライバルたちと比べるとコーナリング中のロールも大きめに感じられたが、その動きはしっかりとコントロールされていて、挙動がつかみやすいから怖さもない。ブレーキもめったなことでは音を上げない。そういうところも安心感につながっている。
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上がりの一台にふさわしい
こうしたスピードと操る楽しさ、そしてドライバーを奈落に突き落とすことなどないと思える安心感の見事なバランス。それこそがスポーティーなジャガーの中にあってさらに際立ってスポーティーなモデルの、ひとつの大きな特徴なのだと思う。子供っぽさがどこにもなく、徹頭徹尾、大人なのだ。
ふと考える。後ろめたさよりも欲望がまさってカツカツに攻めて走ることへの関心は、年齢や経験とともに、次第に薄れはじめていくものであるように思う。もうたっぷりとやったし、飽きたわけじゃないからたまには元気よく走りたいし多分走るのだろうけれど、昔みたいにいつも……じゃなくていいや、みたいな感覚といえばいいだろうか。
僕はまだその領域には達していないようにも感じているけれど、徐々にそういう感覚が理解できるようにはなってきている。もう少ししてそれが逆転したら……?
1台のSUVとしての使い勝手も素晴らしく優れていて、低速域で大きな凹凸を踏み越えたときにはタイヤの薄さを意識させられるけど基本的に乗り心地は快適で、その気になれば怒濤(どとう)の速さと気持ちよさを味わえる。加えて普段は穏やかな力強さに守られたように感じられて、どこもかしこも上質なテイストで統一されている。このクルマは、自分のマインドと年齢の変化とともに、きっとより魅力的に感じられるようになっていくに違いない。
そこに気づいたとき、FペースSVRは僕の“上がりの一台”リストに突如としてランクインした。問題はいい年の重ね方ができるかどうかということと、ふがいない自分の経済力だけ……である。
(文=嶋田智之/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ジャガーFペースSVR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4740×1960×1670mm
ホイールベース:2875mm
車重:2090kg
駆動方式:4WD
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ スーパーチャージャー
トランスミッション:8段AT
最高出力:550PS(405kW)/6000-6500rpm
最大トルク:680N・m(69.4kgf・m)/2500-5500pm
タイヤ:(前)265/40ZR22 106Y/(後)295/35ZR22 108Y(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター
価格:1282万円/テスト車=1475万5600円
オプション装備:アルミニウムウィーブカーボンファイバートリムフィニッシャー(19万5000円)/セキュアトラッカー(9万7000円)/プラクティカリティパック(6万5000円)/ドライバーアシストパック(28万9600円)/4ゾーンクライメートコントロール (15万7000円)/イオン空気清浄テクノロジー(1万9000)/Meridianサラウンドサウンドシステム(24万2000円)/22インチ5スプリットスポーク“スタイル5081”<グロスブラックフィニッシュ>(22万6000円)/スライディングパノラミックルーフ(24万3000円)/プライバシーガラス(8万1000円)/イルミネーテッドアルミニウムフロントトレッドプレート(0円)/イルミネーテッドメタルスカッフプレート<ラゲッジスペース>(7万5000円)/12V電源ソケット×2<2列目>(0円)/コンフィギュラブルアンビエントインテリアライティング(4万7000円)/アクティビティキー(4万2000円)/Touch Proデュアルビュー(12万6000円)/アダプティブサーフェスレスポンス<AdSR>(3万1000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1820km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:304.7km
使用燃料:45.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.7km/リッター(満タン法)/6.8km/リッター(車載燃費計計測値)

嶋田 智之
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