ランドローバー・レンジローバー イヴォークR-DYNAMIC HSE P300 MHEV(4WD/9AT)
“オフローダー”の血脈 2019.09.23 試乗記 大ヒットモデル「ランドローバー・レンジローバー イヴォーク」が2代目に進化した。今回、連れ出したのはコンパクトなハイブリッド機構を備えたガソリンモデルのトップグレード「R-DYNAMIC HSE P300 MHEV」。初代からの進化のほどと電動化されたパワートレインの出来栄えを確かめた。強気の価格設定による格上感
ランドローバーをいわゆるひとつの“プレミアムブランド”と定義するなら、全長が4.38mと印象的に短いイヴォークの直接的な競合車は、同じく全長4.3m台の「BMW X2」を筆頭に、その兄弟車である「X1」、イヴォークの親戚といえる「ジャガーEペース」、いまだに需要に供給が追いついていない「ボルボXC40」、そして初代モデルが長らく同クラスの先駆者として君臨してきた「アウディQ3」といったところだろう。これはすなわち“高級CセグメントSUV”である。
ただ、新型イヴォークの(ガソリン車の)最上級グレードとなる今回の試乗車は、ツルシの本体価格で800万円超。しかも、自慢のハイテク&安楽系のオプションを満載した試乗個体の合計価格は、じつに4ケタ万円(!)の大台に達する。これとは逆にもっとも手頃な新型イヴォーク(素の「P200」)は400万円台という戦略価格をうたうが、新型イヴォークの価格はCセグメントとしては全体的に高めである。
考えてみれば、その上の「X3」や「Fペース」、「Q5」に「ポルシェ・マカン」「メルセデス・ベンツGLC」らがそろう高級DセグメントSUVに相当する「レンジローバー ヴェラール」も、すべて4気筒なのに700万円台~1100万円台という強気の価格設定である。この英国高級SUV専業ブランドのなかでも、イヴォークを含めてレンジローバーを名乗るモデル群は、あえて同サイズの競合車よりも格上感を打ち出すのが基本戦略である。
そういう強気のビジネスは、少なくとも先代イヴォークでは見事に成功した。年間グローバル販売台数が40万台前後というランドローバーにあって、イヴォークは約8年間で累計80万台以上が売れた。そして日本でも、イヴォークは全盛期ではランドローバー全体の7~8割以上、モデル末期となった昨2018年ですら3割を占めるほどだったのだ。
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先代モデルの美点をすべて踏襲
そんなイヴォークの強気戦略を正当化できた最大の根拠が、だれがどう見ても斬新でカッコいいスポーツクーペルックのエクステリアである。その容姿にひと目ボレしてしまえば、もはや価格は二の次となるのが好事家心理というものだ(?)。しかも、コンパクトサイズで、サイズの割には高価でも絶対的には高すぎない……といった購入時における現実的なハードルの低さも、イヴォークの大きな売りといえた。
これら初代イヴォークのキモは、新型でもすべて受け継がれている。エクステリアもパッと見はオーナーでないと新旧の区別がつかない?……ほど意図的に似せられており、車体サイズも大きく変わらない。先代イヴォークがいかに成功商品だったかの証左だ。
兄貴分のヴェラールに基本意匠がそっくりなインテリアも、調度類の高級感は素直に素晴らしい。なんとも手ざわりのいいダッシュボードや分厚いレザーパッド、ガラスを思わせるセンターパネルなど、各部の素材づかいはヴェラールより巧妙にコストダウンされているものの、絶対的な質感レベルは他社Dセグメントに完全匹敵する印象だ。
ヴェラールと同様のピアノブラック調のタッチパネルとなるセンターパネルの意匠は、ステアリングスイッチにもリフレインされている。しかし、ステアリングのそれをタッチパネルではなく、あえてカチカチ押すタイプのハードスイッチとするなど、細かい人間工学も見識を感じさせる。
いずれにしても、相変わらず存在感バツグンのスタイリングに、これだけの高級感であれば、4ケタ万円という試乗車の価格も納得しそうになったり……いや、やっぱりならなかったりする。
気がつけばコマンドポジションに
新型イヴォークで感心……というか、うれしい驚きは、このクーペルックからは想像しづらい生真面目なパッケージレイアウトだ。運転席はまさしくランドローバー伝統の“コマンドポジション”そのもので、そこいらの中途半端なSUVを相手にしないほど小高く、操作系を見下ろすように見晴らしがいい。
フロントウィンドウが強く傾斜したクーペルックなので、最初は無意識にステアリングを低めに調整したストレートアーム風の姿勢を取ってしまうのだが、それではどうにもしっくりこない。走りながら調整を進めていくと、とくに私のような日本人体形では座面もステアリングもどんどん高くなり、それにつれてシートバック角度も立って……最後には、アップライトにピシッと背筋を伸ばした掛け値なしのコマンドポジションが完成する。
こうして正しいドラポジが決まると、フロントウィンドウが目前にせまってけっこうな圧迫感があるのだが、それでもコマンドポジションをゆずらないのがランドローバー。スモールキャビンのプロポーションなので気づきにくいものの、新型イヴォークの車体は天地方向のタッパがたっぷり確保されており、だから後席も閉所感はあるが空間そのものは広い。
クラムシェル型のフロントフードを開けると、エンジン吸気口がエンジンルーム内のもっとも高い位置に、しかも真上を向いて中空構造のフードに結合している。そんな設計のおかげもあって、新型イヴォークの最大渡河水深はじつに600mmを豪語。こういう本格的な悪路性能は適度に割り切るのが最近の潮流……と思ったら、逆に先代より100mmも増強されたというのだから恐れ入る。
こうした誇り高きSUV専業ブランドならではの商品表現は、乗り心地や操縦性にも徹底している。しつこいようだが、イヴォークの容姿はさしずめスポーツワゴンクーペと見まがうばかりであり、なかでも今回試乗したR-DYNAMICはその傾向をさらに強調するトリムグレードで、しかも標準よりもさらに偏平の21インチタイヤを履いていた。しかし、その乗り味は、見た目のイメージとは真逆の、おっとりゆったり、柔らか系である。
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ターボらしいターボ
ひとまず3種が用意される日本仕様のパワートレインで、このP300はもっともパワフルな選択肢だ。そしてMHEVの名のとおり、この300PSガソリン版のみ、48Vのベルト駆動スターター兼発電機(BISG)を備えたマイルドハイブリッドとなる。その電動機構はすべて居室床下に収納されるので、通常の実用面でその存在に気づかされることはない。
新型イヴォークのBISGに使われるモーターの出力は15PS。停止直前17km/hからエンジンストップするというトリッキーなシステムでも、再始動時のマナーに滑らかさを失わない点にこそBISGの恩恵をうかがわせるが、それ以外の部分でハイブリッドを乗り味として体感するのは、ご想像のとおりほぼ不可能だ。
考えてみれば2リッターで300PSとはけっこうなハイチューンエンジンである。それで約2tの重い車体を動かすのだから、加減速特性がそれなりにピーキーになってもしかたない……。という想像のとおり、新型イヴォークP300 MHEVの動力性能は、良くも悪くも迫力満点で、かつクセ強めである。
スロットルペダルを踏み込むと、P300 MHEVのパワートレインはだれもが看取できる比較的ハッキリとした“間”の直後に、いきなり目覚めたかのように爆発的に吹け上がる。最近ではめずらしい、ターボらしいターボだ。いったん過給が立ち上がればトルク特性はフラットだが、スロットルのオンオフ反応にクセがあるので、滑らかに走らせるにはコツを要する。
こういう内燃機関特有の谷間を、電気で埋められるのもハイブリッドの妙味でもある。ただ、少なくとも新型イヴォークのマイルドハイブリッドは、そういう味つけよりも燃費向上やピーク性能の後押しに特化しているようだ。まあ、300PSに対する15PSだから、どう使ったところで味わい面での効果は限定的だろうけど……。
上級好事家の皆さんに
さらに、新型イヴォークのR-DYNAMICはあくまでコスメチューンで、フットワークも前記のように基本的に柔らかい。また、現代のクルマらしくロール剛性は高めだが、前後方向のピッチングはあえて抑制しすぎず、ゆったり大きめに動かすランドローバー独特の調律である。そのためか、ピーキーなパワートレインの影響がクルマ全体の動きに波及しやすく、無造作なスロットルワークでは、車体が前後に大きく揺れてしまうのだ。
オプションの可変ダンパー(アダプティブダイナミクス)と統合制御の「テレインレスポンス2」(標準装備)をすべてオンロード/ダイナミックモードに設定すれば、上屋の動きや過給ラグも少しは抑制されるが、それでもピタリとはおさまらず、寸止めがきいている。高度な4WDもアンダーステアを維持する安定志向の制御に終始する。見た目には街中や舗装路が似合うしゃれ者イヴォークといえども、あくまで“オフローダー感”を消し切らない調律はいかにもランドローバーだ。
今回の試乗における燃費は6.3km/リッターと現代の電動車としては絶対的に優秀とはいえないが、もともとマイルドハイブリッドレスの数字は確認できないのでなんともいえない。取材日がこの夏最後の酷暑であり、数値から想像する以上のパワフルな走りを考えれば、こんなものなのか……とも思う。ジャガー・ランドローバーの主張によると、マイルドハイブリッドにはそれなしの仕様と比較して、約6%の燃費向上効果があるとか。
そういう現状の新型イヴォークにおいて、「P250」とは別格にパワフルなP300 MHEVは「とにかく速いイヴォークがほしい!」あるいは「なにがなんでも最新技術を試したい」という上級好事家向けグレードと見るべきだろう。
ただ、新型イヴォークそのものは、自慢のエクステリアデザインや文句なしの高級感、自慢の「クリアサイトグラウンドビュー」を筆頭にあらゆる方向に張りめぐらされたカメラ、そして“イザ!”というときに頼れる最高峰の走破性が大いに魅力である。これをディーゼルの「D180」やガソリン安価版の「P200」を核にうまく吟味して、好みの仕様を600万円台くらいでまとめられれば、いかにも好事家がソソられそうな存在となる。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー イヴォークR-DYNAMIC HSE P300 MHEV
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4380×1905×1650mm
ホイールベース:2680mm
車重:1950kg(車検証記載値)
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:300PS(221kW)/5500-6000rpm
エンジン最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/2000-4500rpm
モーター最高出力:15PS(11kW)
タイヤ:(前)245/45R21 104Y/(後)245/45R21 104Y(グッドイヤー・イーグルF1アシンメトリック3)
燃費:--km/リッター
価格:801万円/テスト車=1015万3000円
オプション装備:セキュアトラッカー(9万9000円)/空気イオン化テクノロジー(2万円)/Meridianサラウンドサウンドシステム(15万4000円)/アダプティブダイナミクス(17万2000円)/21インチ“スタイル5078”5スプリットスポークホイール<グロスブラックフィニッシュ>(8万5000円)/ステアリングホイール<ヒーター付き>(6万1000円)/ヘッドアップディスプレイ(15万1000円)/ウインドスクリーン<ヒーター付き>(3万1000円)/ウオッシャーノズル<ヒーター付き>(2万4000円)/固定式パノラミックルーフ(20万5000円)/プライバシーガラス(6万5000円)/電動調整ステアリングコラム(2万2000円)/フロントフォグランプ(3万円)/コンフィギュラブルアンビエントインテリアライティング(4万4000円)/マトリクスLEDヘッドライト(13万3000円)/アクティビティーキー(6万2000円)/ウェイドセンシング(0円)/プレミアムカーペットマット(3万7000円)/地上波デジタルテレビ(11万1000円)/コンフィギュラブルダイナミクス(4万7000円)/16ウェイフロントシート<ヒーター&クーラー、メモリー、マッサージ機能付き>&リアシート<ヒーター付き>(50万5000円)/ボディーカラー<フィレンツェレッド>(8万5000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:3202km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:301.3km
使用燃料:48.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.2km/リッター(満タン法)/6.3km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。