これは現代の「ファミリア」か!?
「CX-30」に見るマツダのねらいとは?
2019.09.27
デイリーコラム
背の低さはアドバンテージ
マツダ「CX-30」といえば、2019年3月のジュネーブモーターショーでの初公開以降、好事家の間で「これは『CX-3』の後継モデルでは?」という議論がめぐらされてきた。もっとも、それについてはマツダが公式に否定しているし、CX-30がこうして国内正式デビューした現在も、CX-3の生産・販売は続いている。
まあ、CX-3に正統な次期型がほかに存在するかは現時点では明らかでなく、かりにCX-3が現世代で終了となれば、後の自動車史には「CX-30が事実上の後継車種となった」と記されるだろう。しかし、CX-30開発主産の佐賀尚人氏をはじめマツダ関係者のだれに聞いても、CX-30の商品企画がCX-3のそれとは別物として生まれたことは間違いないようだ。
好事家がどうしてもCX-30とCX-3を結びつけたくなる理由は、大きく2つある。ひとつは、両車とも現時点ではおおざっぱに“コンパクトSUV”と分類されることである。ただ、今なお世界的に市場拡大を続けているSUVやクロスオーバー業界では、明確なクラス分けがまだ定まっていない。ひと口にコンパクトSUVといっても、CX-3のような全長4.3m未満のBセグメントサイズをそう呼ぶのは、日本や欧州などのある意味で“枯れた市場”だけともいえる。
日欧とはスケール感が異なる北米を筆頭に、アジアや中南米などの新興勢力を含めたグローバル市場でコンパクトSUVというと、Cセグメントベースで全長4.4m前後のものが想起されることが多い。既存のクルマでいうと「トヨタC-HR」や「三菱エクリプス クロス」、「ジープ・コンパス」などがその代表格であり、CX-30もこれらとガチンコで競合するのがねらいだ。これらライバルに対して“日本市場のために”全グレードで立体駐車場に余裕で対応する全高1540mmとなるのがCX-30の特徴のひとつである。つまり、最新のグローバル基準でのコンパクトSUVに合致するのはCX-30のほうであり、CX-3はよりニッチな“スモールSUV”と理解したほうが実態に近い。
「マツダ3」とひとくくり
そして、もうひとつは、車名に使われる“30”と“3”が数字として似ている点である。実質的には後継機種でも、上級移行などでポジショニングを微調整するために「商品名をちょっとイジる」というケースは古今東西に多く存在する。ただ、誤解を恐れずにいえば、車名はしょせん商品名にすぎない。それがどんな商品かをお客に想像させるには、ある程度の規則性がある商品名にメリットはある。しかし、イメージの良し悪し、競合商品との関係、時代の変化、そのときどきの流行、もろもろの大人の事情……などで、そうした規則性が反故(ほご)にされた事例も数えきれないほどある。
考えてみると、CX-3という車名はもともと、旧世代の「CX-7」を根拠にした「CX-5」が先にあり、その弟分だから……という規則性から命名された。CX-3とCX-5の中間サイズとなるCX-30は、従来パターンでいうと「CX-4」になるが、残念ながら中国市場専用SUVクーペに「CX-4」の名はすでに使われている。
もっとも、今回のCX-30が企画された背景を考えると、その車名の理由は「本当はCX-3の後継商品だから」でも「CX-4に空きがなかったから」でもないように思える。
CX-30開発主査の佐賀氏は「『マツダ3ファストバック』、『同セダン』、そしてCX-30……でひとつのシリーズと考えていただきたい」と語る。マツダ3とCX-30のプロジェクト自体は別チームによるものだそうだが、マツダ3と、その“半歩遅れ”で追随したCX-30は、事実上は一体のシリーズ商品として緊密な連携のもとに開発された。「CX-30はマツダ3のクロスオーバーモデル」という事実もことさら隠されることなく、どちらかというと積極的にアピールしていく戦略であるらしい。このクルマにはとにかく“3”にまつわる車名が必要なのだ。
大黒柱になりうる存在
考えてみれば、マツダにおける“3”とは、昭和~平成初期に「ファミリア」が海外で「323」と名乗っていた時代から、同社Cセグメント主力商品のイメージが定着している伝統の数字である。今のCX-3という車名は、ハッチバックやセダンが保守本流でクロスオーバーやSUVがニッチ商品だった時代の規則性から導き出されたもので、この伝統にはのっとっていない。
「技術的にはCX-30はマツダ3の派生ですが、昨今の市場動向を考えると、今後はマツダ3よりCX-30のほうが売れる可能性も高い。居住性や荷室などに実用性を求めるお客さまにCX-30を用意したからこそ、マツダ3があそこまでデザイン優先に振り切れたともいえます」と明かすマツダ関係者もいる。
ちなみにマツダ3の先代にあたる「アクセラ」は、マツダ全体の売れ上げの約3割を占めた大量販商品だった(スカイアクティブ世代での世界最量販マツダはCX-5)。CX-30がアクセラに代わる……あるいはCX-5以上の大黒柱になるとすれば、それはまさに「令和のファミリア?」というべき存在になるかもしれない。CX-30にかかる期待はそれだけ大きい。
それはそうと、2019年秋現在におけるマツダ最新の命名ロジックにならうなら、旧「デミオ」=現「マツダ2」をベースとした現CX-3は「CX-2」あるいは「CX-20」になるべきだし、マツダ3のクロスオーバーというなら、CX-30はやはり純粋にCX-3と名乗るのがシンプルでカッコイイとも思う。しかし、いまさらすべてをシャッフルして、それなりに定着した車名をいきなり別のクルマに付け替えるわけにもいかないわけで……クルマにかぎらず、商品名ってむずかしいですね。
(文=佐野弘宗/写真=webCG/編集=関 顕也)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
空冷の「スポーツスター」が復活!? ハーレーダビッドソンの定番商品はどんなバイクとなるのかNEW 2026.6.5 ハーレーダビッドソンが、一度は廃止した空冷の「スポーツスター」の復活を発表! 伝統の一台はなぜ絶版の憂き目にあい、そしてよみがえることとなったのか? ファンに愛される定番車種を刷新する難しさと、新型に課せられた使命、そして課題を考察した。
-
気づけばすでに4モデル スバルのBEV戦略と水平対向エンジンの未来を考える 2026.6.4 「ソルテラ」に続き、「トレイルシーカー」「アンチャーテッド」「ゲッタウェイ」と、いつの間にか4モデルが顔をそろえたスバルのBEV。伝統的な水平対向エンジンやシンメトリカルAWDはこの先どうなるのか? スバルの未来戦略を探る。
-
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感 2026.6.3 「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。
-
新生アルピナは成功するか? その将来とBMWとの関係について考える 2026.6.1 具体的なデザインスタディーも公開され、いよいよ市場展開が見えてきた新生アルピナ。将来的な成功の“確度”やいかに? BMWによる新たなアルピナ像について、両ブランドに詳しい西川 淳が詳しく解説する。
-
つまずきを糧に成功をつかみ取れ! 新型「CX-5」に宿るマツダの変革と覚悟 2026.5.29 既存のマツダ車とは一線を画す乗り味で、メディアをおどろかせた新型「マツダCX-5」。マツダの最量販車種は、なぜ3代目で大転換を迫られたのか? 賛否両論を巻き起こした“あのクルマ”との関係は? 新しくなったCX-5に宿る、マツダの覚悟と変革に迫る。
-
NEW
ホンダ・インサイト(FWD)【試乗記】
2026.6.5試乗記「ホンダ・インサイト」が電気自動車(BEV)として復活! ……というよりは中国工場製BEVにその名が与えられて日本にやってきた。さまざまな事情により、国内で販売されるのはわずか3000台のみ。日本人は“限定”に弱いとされるが、果たしてこの場合はどうか。 -
NEW
KTM 990 RC R(6MT)
2026.6.5JAIA輸入二輪車試乗会2026今年も開催された「JAIA輸入二輪車試乗会」より、魅惑のバイクを一挙紹介! 先陣を切るのは、この4月に発売されたばかりの「KTM 990 RC R」だ。オーストリアの雄が放つ最新鋭のスーパースポーツは、意外や“速さ”以外にも見どころの多い一台だった。 -
NEW
空冷の「スポーツスター」が復活!? ハーレーダビッドソンの定番商品はどんなバイクとなるのか
2026.6.5デイリーコラムハーレーダビッドソンが、一度は廃止した空冷の「スポーツスター」の復活を発表! 伝統の一台はなぜ絶版の憂き目にあい、そしてよみがえることとなったのか? ファンに愛される定番車種を刷新する難しさと、新型に課せられた使命、そして課題を考察した。 -
第290回:商用バンで砂漠を行く親子が向かうのは天国か地獄か 『シラート』
2026.6.4読んでますカー、観てますカー失踪した娘を探して親子はモロッコの砂漠へ。砂漠で開催されていたレイブパーティーが最高潮に達した頃、軍隊がやってきて中止させられる。親子が乗るFFの商用バンは次のパーティー会場にたどり着けるのか……。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(前編)
2026.6.4あの多田哲哉の自動車放談ひさびさに日本市場に戻ってきた、ホンダを代表するSUV「CR-V」。最新世代の仕上がりを、トヨタの車両開発者だった多田哲哉さんはどう評価する? まずは、ワインディングロードを走らせた第一印象から。 -
第964回:フィアットグッズのコレクターから学ぶ人生訓
2026.6.4マッキナ あらモーダ!イタリア在住の大矢アキオが、トリノで著名なフィアットグッズのコレクターを取材。若き日の苦労を経て大成した人物が語る、人生で大切なものとは? フィアットやイタリアの歴史を物語る、貴重なコレクションの数々とともに紹介する。






































