第204回:秋の夜長に観たい! 肩のこらないクルマ映画DVD3選
2019.10.04 読んでますカー、観てますカー『60セカンズ』オマージュ
「トロント都市圏においては97秒ごとにクルマの盗難が発生している」
冒頭に流されるテロップである。深刻な被害が広がっているというアピールなのだろうが、1日に900台弱が盗まれているという計算だ。さすがに社会問題になるような気がするが、『スピード・スティール』はそういう世界観の映画なのだろう。敏腕クルマ泥棒の青年が主人公である。
そう聞くと『60セカンズ』を想起する人も多いだろう。ニコラス・ケイジとアンジェリーナ・ジョリーという今では考えられない組み合わせの共演が実現した自動車窃盗犯罪映画である。今作の主人公マイキーは、この映画を観てクルマ泥棒を志したという設定だ。あの怪作が古典扱いになっているのは驚いた。2000年の公開だから、マイキーはDVDで観たのだろうか。
手っ取り早く稼ぐには高価なクルマを狙うのが常道だ。フェラーリ、ランボルギーニ、マクラーレンなどのスーパーカーがスクリーンを埋め尽くす。南アフリカで高級車の需要が増えているが、正規ディーラーが少ないことから盗難車を輸入するしかないという話になっている。筋は通っているが、本当かどうかはわからない。
自信にあふれたマイキーはクルマを盗みまくるが、あえなく逮捕されることに。一獲千金のつもりでターゲットにした「シェルビー・コブラ」のオーナーが刑事だったのだ。終身刑を逃れるためには、警察に協力して潜入捜査をするしかない。最新技術のリレーアタックにも習熟したマイキーはクルマ窃盗集団のボスに気に入られ、組織の内情を探っていく。
マイキーの趣味はドリフトである。ドリフト文化の根付いていないアメリカでは珍しいこと。やはりここは日本車の出番だ。サーキットで「日産フェアレディZ」や「ホンダS2000」に乗って華麗な舞を見せる。スーパーカー好きにも日本車好きにも楽しめる映画だ。
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『マッドマックス』と『マッドマックス2』の間
舞台は近未来。世界は滅亡しようとしていて、人々は壁に囲まれたコミュニティーでようやく生きながらえている。健康な人間はいない。大気汚染がひどく、死に至る病が広がっている。世界はもうすぐ滅亡するのだろう。壁の外は無法地帯で、ジャックスと呼ばれる暴力集団が支配している。
既視感のある設定だ。『マッドマックス』である。世界観としては、1と2の中間ぐらいだろうか。『マッドマックス』ではまだ警察組織が辛うじて機能していたが、『マッドマックス2』では完全に秩序が崩壊してしまっていた。『ワイルドクラッシュ』 も荒野は無法状態だが、いきなり襲われることは少ない。通貨は役に立たないので、清潔な水を渡せば交渉次第で解放してもらえる。
主人公の兄弟は、世界の運命を変えるとされるものをコミュニティーに持ち帰る仕事を依頼される。命がけのミッションに違いない。なんとなく『マッドマックス 怒りのデス・ロード』に似ている。“行きて帰りし物語”は神話に淵源(えんげん)を持つ原初的な構造なので、これはパクリではない。
彼らに与えられたのは、装甲をまとった改造SUVだ。フロントフードを開けると、搭載されているのはトリウム電池。化石燃料は枯渇しているから、給油の必要のないエネルギーは長旅にはありがたい。ただ、クルマが走りだすとなぜかエンジン音が聞こえる。無音だと迫力に欠けると考えての演出なのだろうか。このあたりは『マッドマックス』とのはっきりとした“差別化”がなされている。
“斬新”なハイウェイ銃撃戦
「48分ごとに銀行が襲われる都市ロサンゼルス」
『ザ・アウトロー』は『スピード・スティール』と同様に、あおりテロップから始まる。銀行強盗と警察との対決を描いたクライムサスペンスだ。主人公はアウトロー刑事のニック。『300』でペルシャの大軍と戦ったジェラルド・バトラーが演じるから、乱暴者でめっぽう強い。警官としては少々問題のある行動もあるが、それも犯罪撲滅のためである。
銀行強盗のメリーメン(パブロ・シュレイバー)に雇われたのは、バーテンダーのドニー(オシェア・ジャクソン・Jr.)。彼はかつてトランザムシリーズで走っていたことがあり、すご腕を買われてゲッタウェイドライバーとして仲間に入ることになった。『ドライヴ』や『ベイビー・ドライバー』のようなカーチェイスが期待できる展開である。
ドニーが腕前を見せるシーンがある。「フォード・マスタング」を自在に操り、トラックが行き交う操車場で華麗なテクニックを披露する。犯行に使われるのはゴミ収集車だが、首尾よく現金を手に入れた後は速いクルマに積み替えてパトカーの追跡を逃れようとする。しかし、逃走劇はすぐに終わってしまった。犯人も警察も、渋滞にハマってしまったのだ。
かくして、ハイウェイの止まった車列の中で銃撃戦が行われることになる。それはそれで斬新な映像になっていたが、肩透かしにあった気分だ。考えてみれば、クルマ社会のロサンゼルスでは渋滞を想定しないほうがおかしい。カーチェイスは見たかったが、これはリアリティーのある展開なのである。
(文=鈴木真人)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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