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モト・グッツィV7 IIIラフ(MR/6MT)

滋味深いオールラウンダー 2019.10.26 試乗記 伊丹 孝裕 モト・グッツィの基幹モデル「V7」シリーズの中でも、適度なオフロードテイストが魅力の「V7 IIIラフ」。伝統のVツインエンジンとはやりのスクランブラースタイルを同時に楽しめる一台は、幅広いライダーにお薦めできる、多才で味わい深いマシンに仕上がっていた。

コンセプトは「アーバンカントリースタイル」

現在のモト・グッツィを支える基幹モデルが、2008年に登場したV7シリーズだ。2015年に「V7」から「V7 II」へ、2017年にV7 IIIへ車名を変えつつ、着実に進化。モデルイヤーごとに外装やライディングポジション、足まわりの設定が異なる派生モデルを追加しながら現在に至る。

2019年に導入が開始された「V7 IIIラフ」もその一台だ。エントリーの役割を担う「V7 IIIストーン」をベースに、ダートの雰囲気が与えられているのが特徴である。モト・グッツィはそのコンセプトを「アーバンカントリースタイル」としている。

V7 IIIストーンとの違いは次の通りだ。

  • ホイールのワイヤースポーク化
  • ブロックパターンタイヤの装着
  • 専用ステッチが施されたシート
  • 樹脂からクラシカルなアルミに換装されたフェンダー
  • 車名を追加したアルミサイドカバーの装着
  • クロスビームが装備されたハンドル

といったところで、エンジンスペックに変更はない。今回の撮影車両に備わるアロー製のハイエキゾーストは純正アクセサリーである。

シートをまたいで腰を落ち着け、ハンドルに手を添えて、ステップに足を載せる。ここまでの動作で気をつかう点はなにひとつなく、ポジションは安楽そのもの。ブレーキレバーに調整機構があり、クラッチレバーがあと少し軽ければベターだ。

サイドカバーに施された「V7 III Rough」のロゴ。同車は標準モデルとは異なるスタイルが魅力の特別仕様車として、2019年5月に導入された。
サイドカバーに施された「V7 III Rough」のロゴ。同車は標準モデルとは異なるスタイルが魅力の特別仕様車として、2019年5月に導入された。拡大
アルミ製の前後フェンダーやグラブストラップ付きのシートなど、オフロードテイストに加えてクラシカルな趣も加味されているのが「V7 IIIラフ」の特徴だ。
アルミ製の前後フェンダーやグラブストラップ付きのシートなど、オフロードテイストに加えてクラシカルな趣も加味されているのが「V7 IIIラフ」の特徴だ。拡大
2-1管のアロー製アップマフラーは純正アクセサリーとして用意されているもの。「V7」シリーズの他のモデルでも装着可能となっている。
2-1管のアロー製アップマフラーは純正アクセサリーとして用意されているもの。「V7」シリーズの他のモデルでも装着可能となっている。拡大
シート高は770mmで、(エンジンまわりを除くと)スリムな車体形状もあって足つき性は良好。取り回しはしやすく、着座姿勢も快適だ。
シート高は770mmで、(エンジンまわりを除くと)スリムな車体形状もあって足つき性は良好。取り回しはしやすく、着座姿勢も快適だ。拡大

半世紀にわたり受け継がれるモト・グッツィの魂

エンジンのスターターボタンを押すと、何度かのクランキングの後、ブルルンッと車体を身震いさせながらアイドリングが始まる。このブルルンッはモト・グッツィ慣れしているライダーならおなじみの、初体験のライダーなら「これが例のアレかぁ」とちょっと新鮮な気持ちになれる特有の挙動だ。

例のアレとは、縦置きエンジンがもたらすトルクリアクションのことをいう。スロットルをあおると、クランクシャフトの反力で車体が右側へ起きようとする挙動を指し、大半の二輪メーカーが採用する横置きエンジンでは見られないものだ。メリットもあればデメリットもあるわけだが、モト・グッツィは直進安定性のよさと、後輪の駆動をシャフト化しやすい利点に実を見いだした。事実、かれこれ半世紀以上にわたり、市販車は1台の例外もなくこのレイアウトを採用している。

例外がないのはシリンダーの数と冷却方法も同様で、空冷Vツインを堅持。縦置きエンジン+空冷Vツイン+シャフトドライブという組み合わせを守り続けるという行為は、モト・グッツィにとって譲れない美学であり、ファンもまたそれ以外を求めていない。

とはいえ、現代のバイクである。そのかたくななイメージとは裏腹に、極めて日常的なスポーツバイクに仕立てられている。52PSの最高出力は現代の基準から言えば、かなり控えめながら、213kgの車重に対してなんら不足はない。スロットルを大きく開ければ、トラクションコントロールを介入させるほどの鋭いキック力を披露してくれる。

エンジンは上までフラットに回るものの、中回転域まで回せば、ほとんどの場面で十分こと足りる。ここで中回転域などとぼんやりした表現になってしまうのは、V7 IIIがタコメーターを持たないからで、同仕様のエンジンを積むV7 IIの記憶をたどると、3500rpmあたりだろうか。体を包み込んでくれるような鼓動感と、力強いトラクションが得られる躍動感の境がその近辺にあり、ライダーは右手ひとつで自在にそこを行き来できるはずだ。

クラシカルな雰囲気の「V7 IIIラフ」だが、ABSなどの安全装備は十分に現代的。トラクションコントロールは介入度合いを2段階に調整可能で、機能をカットすることもできる。
クラシカルな雰囲気の「V7 IIIラフ」だが、ABSなどの安全装備は十分に現代的。トラクションコントロールは介入度合いを2段階に調整可能で、機能をカットすることもできる。拡大
最高出力52PS、最大トルク60N・mを発生するV型2気筒OHVエンジン。このブランドでは、すべてのモデルに縦置きVツインとシャフトドライブ式のドライブトレインが採用されている。
最高出力52PS、最大トルク60N・mを発生するV型2気筒OHVエンジン。このブランドでは、すべてのモデルに縦置きVツインとシャフトドライブ式のドライブトレインが採用されている。拡大
メーターは古式ゆかしき単眼の機械式。時間や走行距離、トラクションコントロールのモードなどを表示するディスプレイが備わる。
メーターは古式ゆかしき単眼の機械式。時間や走行距離、トラクションコントロールのモードなどを表示するディスプレイが備わる。拡大
サスペンションの仕様は、クラシカルなラバーブーツを含め、基本的にベースモデルの「V7 IIIストーン」と同じだ。
サスペンションの仕様は、クラシカルなラバーブーツを含め、基本的にベースモデルの「V7 IIIストーン」と同じだ。拡大
タイヤは前後で銘柄が異なり、フロントには110/80R18サイズの「ピレリMT60RS」が装着される。
タイヤは前後で銘柄が異なり、フロントには110/80R18サイズの「ピレリMT60RS」が装着される。拡大
リアタイヤは130/80-17サイズの「ピレリMT60」。フロントがラジアルタイヤなのに対し、こちらはバイアスタイヤである。
リアタイヤは130/80-17サイズの「ピレリMT60」。フロントがラジアルタイヤなのに対し、こちらはバイアスタイヤである。拡大
カラーリングはテスト車に採用されていた「グラファイトグレー」と、「ミメティコグリーン」の2色。ともにマットカラーとなっている。
カラーリングはテスト車に採用されていた「グラファイトグレー」と、「ミメティコグリーン」の2色。ともにマットカラーとなっている。拡大

ラインナップ随一の多用途性

ユニークなのがタイヤの選択だ。フロントにはピレリの「MT60RS」、リアに同「MT60」を装着。いずれも多少のダート走行を想定したブロックパターンを持つが、フロントのそれはラジアルで、リアはバイアスになっている。内部構造とコンパウンドの特性を踏まえると、アスファルト上での安定感とグリップ力をフロントに任せ、ダートでの軽快感とトラクションをリアに受け持たせる。そういう意図が見て取れる。

モト・グッツィは現在、いわゆるスクランブラーをラインナップしていないが、このV7 IIIラフがそれに最も近しい存在である。

気軽に扱え、走る場所もほとんど限定されないV7 IIIラフは、スクランブラーとしての資質に優れ、アドベンチャーモデルの「V85 TT」に次ぐ多用途性を持つ。それでいて、プライスタグは117万7000円に設定され、この排気量群の中で高い競争力がある。

普段使いもツーリングもこなし、扱いやすく、味わいがあり、カスタムパーツも豊富で、高い趣味性を持ち合わせるバイク。そんな一台を探しているなら、一考に値する。

(文=伊丹孝裕/写真=三浦孝明/編集=堀田剛資)

モト・グッツィV7 IIIラフ
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モト・グッツィV7 IIIラフ(MR/6MT)【レビュー】の画像拡大

【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2185×800×1100mm
ホイールベース:1463mm
シート高:770mm
重量:213kg
エンジン:744cc 空冷4ストロークV型2気筒 OHV 2バルブ
最高出力:52PS(38kW)/6200rpm
最大トルク:60N・m(6.1kgf・m)/4900rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:117万7000円

伊丹 孝裕

伊丹 孝裕

モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。

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