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自動運転の時代はホントにくるの? 実現可能性と課題について考える

2019.11.01 デイリーコラム 桃田 健史

かつての勢いはどこへ?

2019年10月の中旬から下旬にかけて、トヨタとBMWが、特定条件下においてすべての運転タスクをシステムが行う「レベル4の自動運転」に関するアナウンスを相次いで行った。いわく、それぞれのメーカーはこのレベルの自動運転実現に精力的に取り組んでおり、一般向けの同乗試乗の機会も設けるというのだ。

振り返れば、「グーグルやアップル、そして家電メーカーのダイソンが自動運転や電気自動車(EV)の事業に本格参入」というニュースが増えてきたのは、2010年代の半ばごろだった。

同じ時期、日本国内でも各地で自動運転の実証試験が始まり「2020年半ばには完全自動運転が実現可能」などといった学識者のコメントがローカルニュースに流れるようになった。

一方、自動車の大手メーカーや、ボッシュ、コンチネンタル、デンソーといった自動車部品製造大手は、自動運転の各レベルに応じた量産予測のロードマップを示しているのだが、ここにきて、そのスケジュールをかなり先へとずらすという修正を余儀なくされている。

例えばアウディは「2018年秋には、ドイツ国内の高速道路において60km/h以下で“レベル3”の自動運転(システムが運転タスクを実施するが、その介入要求にドライバーも応じる必要がある)ができるクルマを量産する」と宣言したが、その実施時期を遅らせた。また、2019年9月に開催されたIAA(通称:フランクフルトモーターショー)でも、ダイムラー、BMW、フォルクスワーゲン グループは、自動運転技術に関わるニューモデルを積極的にアピールしていない。同年10月末に開幕した東京モーターショー2019でも同様。自動車メーカーによる実現を視野に入れた自動運転車の出展は、トヨタの「eパレット」などの一部を除き、ほとんど見ることができない。

いったい今、自動運転の分野で何が起こっているのか?

トヨタの自動運転実験車両「TRI-P4」。現在は米国ミシガン州のテストコースで使用されている。
トヨタの自動運転実験車両「TRI-P4」。現在は米国ミシガン州のテストコースで使用されている。拡大
2020年夏には、「TRI-P4」を使ったレベル4相当の自動運転デモンストレーションが一般向けに行われる。その舞台は、交通量が多く、渋滞も頻繁に起きる東京・お台場地区になる見込み。
2020年夏には、「TRI-P4」を使ったレベル4相当の自動運転デモンストレーションが一般向けに行われる。その舞台は、交通量が多く、渋滞も頻繁に起きる東京・お台場地区になる見込み。拡大
こちらはトヨタが開発した「eパレット(東京2020オリンピック・パラリンピック仕様)」。同社が専用開発した自動運転システムが採用されており、2020年に開催されるオリンピック・パラリンピックでは、選手村で自動運転にて運行される。
こちらはトヨタが開発した「eパレット(東京2020オリンピック・パラリンピック仕様)」。同社が専用開発した自動運転システムが採用されており、2020年に開催されるオリンピック・パラリンピックでは、選手村で自動運転にて運行される。拡大

ネックになるのは個人のマイカー

自動運転を語るうえで、まずは頭の中を整理していただきたい。

それは、自動運転には大きく2つの領域があるということ。そして、そのそれぞれが当面、技術的な進化の点で別々の道を進むということだ。

領域のひとつは「オーナーカー」。つまり、個人が所有する乗用車を指す。もうひとつは「サービスカー」と呼ばれる、公共交通機関や物流向けの商用車である。

わが国の経済産業省、国土交通省、警察庁などが示す自動運転の普及ロードマップでは、後者のサービスカーは最初からレベル3以上の自動運転を想定としていて、2020年にはレベル4のシステムを社会的に実装すると示されている。そして実際、日本国内の特定地域においてレベル4実現に向けての最終調整に入っている。

サービスカーでは、走行する場所や時間を限定することが可能で、自動運転の主体がクルマのシステム側となるレベル3以上での量産化のハードルが、オーナーカーに比べると低い。 

オーナーカーの場合は、自動運転に対応していないクルマや、自動運転レベル1(自動ブレーキやACC、車線逸脱防止などの運転支援のみ対応)、または自動運転レベル2(車線をキープしながらの前車追従、高速道路での自動合流などが可能)のクルマと混走するため、高速道路と一般道路のいずれにおいても、もらい事故のリスクが高くなる。結果として、レベル3以上のオーナーカーでは製造者側の責任(PL:Product Liability)が問われることになり、自動車メーカーにとっては大きなリスクになるのである。

BMWは2019年10月25日、国内で「7シリーズ」ベースの自動運転プロトタイプ(写真)を披露した。
BMWは2019年10月25日、国内で「7シリーズ」ベースの自動運転プロトタイプ(写真)を披露した。拡大
この「7シリーズ」自動運転プロトタイプは、前後3つのレーダーと5つのLiDAR、11個のカメラを搭載するが、こうした機器の数は開発車両により異なる。
この「7シリーズ」自動運転プロトタイプは、前後3つのレーダーと5つのLiDAR、11個のカメラを搭載するが、こうした機器の数は開発車両により異なる。拡大
トランクルームにはデータ解析用とおぼしき機器がぎっしりと積み込まれている。
トランクルームにはデータ解析用とおぼしき機器がぎっしりと積み込まれている。拡大

立ちはだかる、ヒトとカネの問題

そうしたリスクを、オーナーカーでの実証試験を進める過程で、自動車メーカー各社は再認識するようになったといえる。

これまで、自動車メーカーは、画像認識技術、人工知能(AI)、レーザーレーダー(通称:LiDAR)、衛星測位、そして自動運転に適した運転席のデザインなど、技術を優先した自動運転車開発を進めてきた。

そして今、自動車メーカーが直面している課題が、自動運転に対する社会の受容性とマネタイズ(事業化)の問題なのだ。

社会受容性とは、つまりは人々が自動運転を受け入れるかどうか、ということ。前述のように自動運転と非自動運転が混走すると、自動的に法定速度を順守する自動運転車に対して、非自動運転車、またはレベル1~2の自動運転車では、法定速度を守るための自制心・道徳観念が一段と問われることになる。そうした共生は、可能なのか。

またオーナーカーにしろサービスカーにしろ、車載の専用機器や路側の通信インフラの導入コストを誰が負担するのか、という経済的な問題について、さらに踏み込んだ議論が必要になってくる。

技術は進んでも、人と社会がそれに追いついていない。それが、自動運転の現状である。

自動運転は決して、今の交通事情を一気に解決してくれる「打ち出の小づち」ではない。交通は“ローカルベスト”であるべきなのだ。つまり、20○○年になったらすべてのクルマが完全自動運転になるという考え方は、通用しないのだと思う。自動運転が本当に世のため、人のためになるのかは、国や地域で大きな違いがあり、われわれは今後、それぞれの地域での最適解を考えなければならない。

(文=桃田健史/写真=トヨタ自動車、webCG/編集=関 顕也)

BMWのテスト風景。これはレベル4の自動運転シーンを記録したもので、運転席にドライバーがいない状態でクルマがパッセンジャーを乗せて走行している。
BMWのテスト風景。これはレベル4の自動運転シーンを記録したもので、運転席にドライバーがいない状態でクルマがパッセンジャーを乗せて走行している。拡大
BMWでは現在、レベル4の自動運転実現に向けて、ミュンヘン郊外で1800人の専門スタッフが鋭意開発を進めているという。
BMWでは現在、レベル4の自動運転実現に向けて、ミュンヘン郊外で1800人の専門スタッフが鋭意開発を進めているという。拡大
桃田 健史

桃田 健史

東京生まれ横浜育ち米テキサス州在住。 大学の専攻は機械工学。インディ500 、NASCAR 、 パイクスピークなどのアメリカンレースにドライバーとしての参戦経験を持つ。 現在、日本テレビのIRL番組ピットリポーター、 NASCAR番組解説などを務める。スポーツ新聞、自動車雑誌にも寄稿中。

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