【F1 2019 続報】荒れたレースでフェルスタッペン完勝 ホンダは1991年以来の1-2フィニッシュ
2019.11.18 自動車ニュース![]() |
2019年11月17日、ブラジルはサンパウロにあるアウトドローモ・ホセ・カルロス・パーチェで行われたF1世界選手権第20戦ブラジルGP。2度のセーフティーカー、2台のフェラーリのクラッシュ、そしてホンダによる1-2。──目まぐるしく様相が変わったレースを制したのは、ちょうど1年前に悔しい思いを味わったマックス・フェルスタッペンだった。
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フェラーリは遅くなったのか?
メルセデスが第17戦日本GPで、ルイス・ハミルトンは前戦アメリカGPでそれぞれタイトルを確定させたことで、2戦を残した2019年シーズンもすっかり落ち着いてしまったかに思えたのだが、パワーユニットを巡っての“不正疑惑”というきな臭い話で思わぬ注目が集まることとなった。
ここ2年の間にF1随一の強心臓となったフェラーリのパワーユニットについては、特にストレートでの別格の速さから「ルールの裏をかいて、何か特別なことをしているのではないか」と度々うわさになっていた。ライバルチームの見立ては、「フェラーリは内燃機関たるV6エンジン内に、何らかの方法でインタークーラーのオイルを混入させて燃焼、さらなるパワーを生み出しているのではないか」というものだった。
アメリカGPでは、レッドブルがF1のルールメーカーであるFIA(国際自動車連盟)に質問状を送り、レギュレーションで上限が決められている燃料流量に関していくつかのシナリオを立て、それらは合法か違法かを問いただした。「フェラーリがやっていることではないか?」という疑いをもとにしていたことは想像に難くないこれらのシナリオに、技術指示書を通じたFIAからの回答は、「すべて違法」というものだった。
この指示書のおかげで、結果的にルール上のグレーゾーンが封じられることになったのだが、そのアメリカGPで、シーズン後半6戦でポールポジションを連取していたフェラーリがメルセデスにポールを奪われ、レースでもシャルル・ルクレールが50秒以上離され4位となったことで、赤いチームの“黒いうわさ”が余計に目立つことになってしまった。3位表彰台にあがったレッドブルのマックス・フェルスタッペンが「フェラーリが遅かったのは“不正”をやめたからだ」と発言したと伝わるや、マラネロの一軍を指揮するマッティア・ビノットは毅然(きぜん)たる態度で反論。アメリカでペースが遅かった理由を「ダウンフォースのセッティングを試していたから」とし、またルクレールはトラブルの影響で旧型パワーユニットを使っていたことも明らかにした。
ブラジルGPを前に、ルール徹底を図ろうと再びFIAから指示書が提出された。空気力学から化学まで、科学技術を総動員した複雑なメカニズムを使っている以上、ルールの徹底や明確化が難しい部分がどうしても出てきてしまうのはモータースポーツの常。こうした目に見えないグレーゾーンを巡り、各陣営が政治的な駆け引きを行うというところも、その最高峰たるF1ならではの出来事である。
長期にわたりくすぶり続けているフェラーリ不正疑惑には、まだどのチームも正式な抗議をしておらず、「単に遅くなった」という状況証拠だけでフェラーリを“黒”とすることは間違っている。とはいえ、今回のFIAの指示書により見解がクリアになったことは事実だ。来季に向けたマシン開発を含め、レギュレーションを順守する上ではいい結果をもたらしたのではないだろうか。
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フェルスタッペンが2度目のポールポジション フェラーリも最前列に並ぶ
騒がしいライバルたちを黙らせるには、フェラーリが速さを取り戻せばいい。1周4.3kmと短いサンパウロのコースには、ターン12からターン1まで1kmを優に超える上り坂の全開区間があり、パワーを武器に戦える見せ場となるはずだった。だがこの区間を力強く駆け抜けたのは、ホンダのパワーユニットを搭載するレッドブルのフェルスタッペンだった。
予選Q1、Q2、Q3すべてでトップタイムをマークしたフェルスタッペンが、第12戦ハンガリーGPに次ぐ自身2度目のポールポジションを獲得。短いゆえにタイム差もつきにくいサンパウロで、後続に0.123秒というギャップを築いて予選P1を決めた。フェラーリはベッテルが2位となり、フロントローの一角に食い込んだことでなんとか面目を保つことに。3位は「パワーがなかった」とメルセデスの力不足を認めたハミルトンだった。
4番手タイムはルクレールが記録したものの、アメリカGPでのトラブルの余波でパワーユニット交換を受け10グリッド降格。代わりにメルセデスのバルテリ・ボッタスが4番グリッド、レッドブルのアレクサンダー・アルボンは5番グリッドからスタートすることとなった。
激しい中団チーム勢の争いから抜け出し、3強に続いたのはトロロッソのピエール・ガスリーで6番グリッド。今季不調のハースは2台ともQ3進出を果たし、ロメ・グロジャン7番グリッド、ケビン・マグヌッセンは9番グリッド。そしてアルファ・ロメオのキミ・ライコネンは8番グリッド、マクラーレンのランド・ノリスは10番グリッドからスタートすることとなった。
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ピットストップで順位逆転 直後にフェルスタッペンが首位奪還
過去6年間のブラジルGPでポール・トゥ・ウィンは5回を数えている。統計的にも有利なポジションから71周レースをスタートすることとなったフェルスタッペンが1位をキープ。その後ろではハミルトンが2位に上がり、ベッテルは3位に落ちるという順位変動があり、ボッタス4位、アルボン5位、ガスリー6位と続いた。
序盤に元気が良かったのが、14番手スタートのルクレール。ソフトタイヤを履くトップ集団とは異なるミディアムタイヤで、早くも3周目にトップ10に追いつき、その後も次々と前車をオーバーテイク、10周目には6位に。一方、ソフトを装着した上位陣はコンサバティブなラップでタイヤをいたわりつつ、トップのフェルスタッペン、2位ハミルトン、3位ベッテルいずれも2秒半程度のギャップで周回を重ねていたのだが、このうちベッテルが徐々に遅れはじめた。
21周目、トップランナーで真っ先にピットに入ったのは2位ハミルトン。ソフトからソフトにつなぎ、2ストップを選択したことが明らかとなる。これにレッドブルが反応し、翌周フェルスタッペンをピットに呼ぶも、ピットレーン上でウィリアムズに前を行かれてしまい、結果ハミルトンが前、フェルスタッペンが後ろと順位が逆転してしまった。
しかし、フェルスタッペンはこれで終わるようなドライバーではなかった。次のラップのターン1、レッドブルのエースがメルセデスのチャンピオンをすかさずかわし、再びハミルトンの前に。「(後方からレッドブルが迫っていると)ちゃんと情報をよこせ!」とチームに迫るハミルトンは、再びフェルスタッペンに2秒以上のリードを許すことになった。
タイヤ交換が一巡すると、1位フェルスタッペン、2位ハミルトンはソフトタイヤ組で2ストッパー確定。3位ベッテルはミディアム、4位ボッタスはハードへと変更し、各車タイヤを巡る戦略が分かれた。
42周目にボッタスが2度目のピットストップを行い、ハードからミディアムに換装。44周目にはハミルトンが、翌周にはフェルスタッペンがミディアムに変えたが、今回は順位変動が起きなかった。ベッテルが50周目にミディアムからソフトを選んだことで、順位は1位フェルスタッペン、1秒半差で2位ハミルトン、3位ベッテル、4位ルクレール、5位ボッタス、6位アルボンとなった。
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フェラーリまさかの同士打ちでレースは劇的な幕切れへ
52周目に、3強の一角が崩れた。僅差でルクレールを追っていた5位ボッタスのマシンから白煙があがり、ボッタスは「パワーがなくなった」と言い残しリタイア。程なくしてこの日最初のセーフティーカーが導入された。
この徐行中にピットに入ったのが、先頭を走っていたフェルスタッペン。順位は2位に落ちたが、フレッシュなソフトタイヤでトップ奪還を狙おうという作戦だった。ハミルトンはポジション重視でトップに居座り、ミディアムのまま走りきることに賭けたものの、2位フェルスタッペンのみならず3位ベッテル、4位アルボン、5位ルクレールら後続は速いソフトタイヤを履いており、不利な状況に置かれた。
60周目にレース再開。今度もフェルスタッペンが鋭い走りでハミルトンに並びかけ、この日2回目のオーバーテイクに成功し首位奪還。アルボンもベッテルを抜いたことで3位に上がり、レッドブルの2台が表彰台圏内に入ってきた。
しかしその後3位アルボンは防戦に追われ、4位ベッテル、5位ルクレールまでが数珠つなぎとなる。そんな折、赤いマシン同士が接触するというショッキングな出来事が起きた。ルクレールがベッテルを抜き、またベッテルがルクレールから4位を奪い返そうとしている最中に2台はクラッシュ。最古参チームの最悪の結末で、2度目のセーフティーカーがコースに入った。
この隙に、タイヤに不安を抱えていたハミルトンがピットイン。これでオーダーは、1位フェルスタッペン、2位アルボンのレッドブル1-2、3位には、なんとトロロッソのガスリーが入り、ホンダ勢1-2-3という、誰もが予想しなかった展開となっていた。
残り2周でレースが再開すると、ハミルトンが難なくガスリーをかわし3位に上昇。チャンピオンはすぐさま照準を2位アルボンに合わせたが、弘法にも筆の誤りか、強引な追い抜きでアルボンをはじき出してしまう。初表彰台を惜しくも逃したアルボンはポイント圏外にまで脱落、14位でレースを終えることになった。
マシンにダメージを負ったハミルトンは、諦めずに2位ガスリーを追走。ファイナルラップに入り、フィニッシュラインまでのドラッグレースとなるも、あと半車身というところでチェッカードフラッグが振られてしまった。
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1年前の雪辱を果たしたフェルスタッペン ホンダ久々の1-2フィニッシュ
ポディウムの頂点には、今季3勝目、通算8勝目を飾ったフェルスタッペンが立った。昨年のブラジルGPでは、今回同様トップを快走しながら周回遅れのエステバン・オコンと接触し勝利を逃していただけに、その悔しさを晴らす1勝となった。
自身最高の2位を記録したガスリーはうれしい初表彰台。シーズン前半は、フェルスタッペンをチームメイトにレッドブルで苦しい戦いを強いられたものの、後半にトロロッソに戻ると、水を得た魚のように堂々とした走りを披露。環境が整えば上位を狙えるポテンシャルがあることを証明してみせた。
初表彰台のドライバーは他にもいた。3位でチェッカードフラッグを受けたハミルトンに、レース後、アルボンとの接触による5秒加算のペナルティーが科されると、4位だったマクラーレンのサインツJr.が繰り上がって3位に。2015年にトロロッソでGPデビューを果たしたF1歴5年目のサインツJr.は、自身最高位記録を更新したのだった。
しかし今回一番喜んでいたのは、ひょっとしたらホンダのスタッフだったのかもしれない。ホンダ通算75勝目は、2015年にF1に復帰して以来初の1-2フィニッシュ。最後の記録は1991年の日本GPまでさかのぼらなければならないという久方ぶりの快挙となる。さらにダニール・クビアトも10位に入ったことで、アルボンを除く3台が入賞。くしくも本田宗一郎の誕生日に、素晴らしい結果を残した。
そして、たくさんの笑顔に満ちあふれていた表彰台の裏側では、ドライバーマネジメントという問題を突きつけられたフェラーリが、張り詰めた空気の中でブリーフィングを行っていたことだろう。
いよいよ次は2019年シーズンの最終戦。第21戦アブダビGP決勝は、12月1日に行われる。
(文=bg)