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アルピーヌA110S(MR/7AT)

よくぞここまで 2019.11.23 試乗記 石井 昌道 フランスのミドシップスポーツモデル「アルピーヌA110」に、ハイパフォーマンスグレードの「A110S」が追加された。よりパワフルなエンジンと引き締められた足まわりで、その走りはどう変わったのか? ポルトガルのエストリルサーキットから報告する。

思い出される3年前の記憶

今年(2019年)の東京モーターショーに出展した、数少ないインポートブランドのひとつであるアルピーヌ。そこで披露されたA110Sに早速ポルトガルのエストリルサーキットで試乗してきたのだが、思わず目元がウルッとくるような感動を覚えた。

というのも、A110には縁あって開発テストのときから乗っており、よくぞここまで仕上がったという感慨があったからだ。

ここで時計の針を戻させていただくと、A110のデリバリーが開始される約1年前の2016年12月、フランスのアルピーヌから電話があり、「開発テストに参加しないか?」と打診を受けた。そんなチャンスはめったにないので二つ返事でOK。メーカーの意図は、最終仕上げの段階で外部の人間に乗ってもらい、意見を聞こうというもので、フランス、ドイツ、イギリス、日本から1人ずつモータージャーナリストが招かれていた。日本は“オリジナル”のA110の現存率が高く、「ルノースポール」もよく売れている。東京モーターショーへの出展からもわかる通り、重要視されている市場なのだ。

テストは、スペイン・バルセロナ近郊の一般道とサーキットで、2日間にわたって行われた。冬でも比較的暖かく、IDIADAのブルーピンググラウンド(エンジニアリング会社のテストコース)が近いこと、そして開発に格好のワインディングロードがあることなどで、多くの自動車メーカーがテストに使う場所となっているようだ。

EU統合の理念のなかに“Trans-European Networks(TENs)”というものがあり、欧州地域全体の経済成長、競争力促進のために、かの地では1990年代から積極的にインフラが整備されてきた。スペインとポルトガルにも道路整備のために多額の補助金が支出され、そのおかげで良質なワインディングロードが数多く存在しているのだ。

2019年6月にルマン24時間レースの会場で発表された「A110S」。より高出力なエンジンや専用チューニングのシャシーを備えた「A110」の高性能モデルだ。
2019年6月にルマン24時間レースの会場で発表された「A110S」。より高出力なエンジンや専用チューニングのシャシーを備えた「A110」の高性能モデルだ。拡大
各所にマイクロファイバー素材「ダイナミカ」が用いられたインテリア。ステアリングホイールのセンターマークや各部のステッチなど、黒の内装色にオレンジのアクセントが映える。
各所にマイクロファイバー素材「ダイナミカ」が用いられたインテリア。ステアリングホイールのセンターマークや各部のステッチなど、黒の内装色にオレンジのアクセントが映える。拡大
サベルト製の軽量モノコックバケットシート。ホールド性のよさや表皮の質感の高さに加え、1脚につき13.1kgという軽さも特徴となっている。
サベルト製の軽量モノコックバケットシート。ホールド性のよさや表皮の質感の高さに加え、1脚につき13.1kgという軽さも特徴となっている。拡大
試乗はポルトガルの首都、リスボンの郊外に位置するエストリルサーキットと、その付近のワインディングロードで行われた。
試乗はポルトガルの首都、リスボンの郊外に位置するエストリルサーキットと、その付近のワインディングロードで行われた。拡大
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“よく曲がるシャシー”誕生のいきさつ

国際試乗会などで欧州のめぼしいワインディングは何度も走ってはいるが、もちろん「勝手知ったる」というほどではなく、いつもどれぐらいまでペースを上げてもいいものかわからず、ソコソコに抑えてきた。ところが、さすがは開発チームは熟知している。さまざまなバリエーションのコーナーが連続し、しかもほとんど他のクルマに遭遇しない。先導されながらのテストではあったものの、このときは思い切って走れた。

驚いたのは、A110のシャシーがこの時点でほぼ完成されていたこと、ハンドリングが予想をはるかに超えて素晴らしく、コーナリングスピードが猛烈に速かったことだ。バックアップカーとして後方からついてきた「メガーヌ ルノースポール トロフィーR」(先代モデル)が、コーナーを3つクリアした頃にはバックミラーから消えていた。開発ドライバーが乗るFF最速マシンをいとも簡単にちぎったのである。

シャシーについてはサスペンションの仕様違いが2種類用意され、比較テストが行われた。ひとつはニュートラルステアに近いよく曲がる仕様、もうひとつは少しリアのロール剛性を高めて安定感を増した仕様。後者はたしかにテールが滑り出すのが抑えられており、万人向けに思えたが、アンダーステア傾向が気になり、いざ滑り出すと動きが速くて修正も難しい。参加した開発陣もモータージャーナリストも全員が前者を推し、晴れてそれが市販車に採用された。

一般的に、ミドシップ車はテールスライドしてからの立て直しが難しいので、アンダーステア気味にセッティングすることが多い。だが、A110はサスペンションがストロークしてもタイヤの接地変化が少ない4輪ダブルウイッシュボーンを採用している。それにより、ニュートラルに近いハンドリングであってもコントローラブルであるという特性を実現できた。また車両安定装置が進化し、それをONにしたままでもドライビングを阻害しないので攻めたセッティングが施せるようになったという面もある。

ボディーカラーには受注生産の「グリ トネール マット」(写真)に、「ブルー アルピーヌM」「ブラン イリゼM」の全3色が用意される。
ボディーカラーには受注生産の「グリ トネール マット」(写真)に、「ブルー アルピーヌM」「ブラン イリゼM」の全3色が用意される。拡大
標準車ではトリコロールカラーだったCピラーのバッジは、ブラックのカーボン柄とオレンジを組み合わせたデザインに変更された。
標準車ではトリコロールカラーだったCピラーのバッジは、ブラックのカーボン柄とオレンジを組み合わせたデザインに変更された。拡大
メッキからブラックに変更されたエンブレムも、外装における「A110S」の特徴だ。
メッキからブラックに変更されたエンブレムも、外装における「A110S」の特徴だ。拡大

実は高回転が苦手だったエンジン

デリバリー1年前の段階でシャシーはほぼ出来上がっていたが、パワートレインはまだまだだった。搭載される1.8リッターターボは、ルノー・日産アライアンスの幅広い車種に使われる新規エンジンで、A110が初出だったため基本的な部分でも開発途上だったからだ。

その時点でも、いまどきのターボエンジンらしく低・中回転域のトルクは充実していて、実用車用ユニットとしては悪くはなかった。だが、5000rpmを超えてからは回転上昇にいまひとつ鋭さがなく、トップエンドは明らかに頭打ち感がある。ショートシフトで早めにアップしていったほうが速いぐらいで、また高回転を多用するとクーリングが追いつかないという熱の問題もあった。そうした課題も、2017年6月に実施された2回目のテストではほぼ解決。中・高回転域がシャープになり、補機類を見直したことで熱の問題もクリア。スポーツカーのそれとして、満足のいくエンジンになった。

ただし、まだゲトラグ製7段DCTの変速クオリティーには課題があった。DCTなのに反応が鈍く、リズミカルな走りを阻害する。参加したドライバーの皆が訴えているのに、エンジニアがデータを解析すると問題は検出されなかった。この問題は2回目のテスト時にも改善されていなかったが、2日にわたり一般道とサーキットを走り込んでいくうちに、原因が判明した。シフトパドルまわりの剛性が不足しており、操作してからトランスミッションが反応するまでにタイムラグが生じていたのだ。至極単純な問題だったが、エンジンに課題を抱えていたときはそちらに気を取られて気付かなかった。細部の完成度は、基礎が出来上がっていなければ高めるのが難しいということを知った。

いささか昔話が長くなってしまったので、そろそろエストリルサーキットに用意された2台のA110Sに話を戻したい。1台はボディーカラーが「ブラン イリゼM」(ホワイト)の個体。光が強くあたる部分にほのかにブルーの光沢が浮き出て美しい。もう1台はマット仕様のグレー「グリ トネール マット」で、硬派な雰囲気を放っていた。

外観で新しいのはカーボンルーフだ。これだけで1.9kgの軽量化に寄与する。またオレンジとカーボン柄を組み合わせたBピラーのバッジ、オレンジのブレーキキャリパー、ブラックのロゴやレタリングなども既存のA110にはない特徴で、チタニウムグレーの鍛造ホイールも、このクルマにしか用意されない。インテリアは、スタンダードではブルーだったステッチがオレンジになり、ルーフの裏地、サンバイザー、ドアパネルはブラックの「ダイナミカ」となる。

コーナリング性能を高めるデバイスとしては、標準車と同じくコーナーで内輪にブレーキをかけてアンダーステアを抑制するトルクベクタリング機構が装備される。
コーナリング性能を高めるデバイスとしては、標準車と同じくコーナーで内輪にブレーキをかけてアンダーステアを抑制するトルクベクタリング機構が装備される。拡大
センターコンソールに備わるボタン式のシフトセレクター。トランスミッションは標準車と同じ、ゲトラグ製の7段デュアルクラッチ式ATが搭載される。
センターコンソールに備わるボタン式のシフトセレクター。トランスミッションは標準車と同じ、ゲトラグ製の7段デュアルクラッチ式ATが搭載される。拡大
タイヤサイズは前が215/40R18、後ろが245/40R18と、前後ともに幅が10mm拡大。鍛造ホイールのデザインは「ピュア」と同じだが、カラーリングがチタングレーとなっている。
タイヤサイズは前が215/40R18、後ろが245/40R18と、前後ともに幅が10mm拡大。鍛造ホイールのデザインは「ピュア」と同じだが、カラーリングがチタングレーとなっている。拡大
ボディーカラーが「グリ トネール マット」の個体には、「A110S」専用の鍛造アルミホイール「GT RACE」が装備される。
ボディーカラーが「グリ トネール マット」の個体には、「A110S」専用の鍛造アルミホイール「GT RACE」が装備される。拡大

“速さ”より“気持ちよさ”が印象に残る

A110Sはたしかに速くなっているが、それ以上に高回転域の気持ちよさが印象的だった。5000rpmを超えてからの回転上昇に勢いがあり、トップエンドめがけて突き抜けていくように吹け上がる。A110に対してブースト圧を0.4bar高めて40PSのパワーアップを実現。最大トルクはA110と同じ320N・mだが、発生回転数は2000-5000rpmだったところが6400rpmまで持続するようになった。最高出力発生回転数も400rpm高まっている。これらの数字からもわかる通り、頭打ち感なんてまるでなく7000rpmまで気持ちよく回っていくのだ。

DCTの制御も、より成熟したように思う。当初はレブリミッターとの兼ね合いで瞬間的に迷うようなそぶりも見受けられたが、A110Sはサーキットでの全開走行でもドライバーの意思に忠実で、DCTらしい切れ味の鋭さが光っている。パワートレインはA110の市販車でも満足いくものにはなっていたが、A110Sはそれを超える官能性を実現したのだ。

サスペンションのスプリングレートは、フロントが30N/mmから46N/mmへ、リアが60N/mmから90N/mmへといずれも約1.5倍に引き上げられ、合わせてショックアブソーバー、スタビライザーも強化。車高は4mm下げられた。新たに専用開発された「ミシュラン・パイロットスポーツ4」は、前後ともベース車より10mm幅が広い。全体的にグリップ志向になっている。

そもそもA110のサスペンションはストローク感がたっぷりとあって、スポーツカーとしてはソフトタッチな部類だ。それでも接地性の変化が少ないので、路面が荒れたワインディングロードなどではめっぽう強いという、ラリーカーのようなセッティングとなっている。もちろんサーキットでも十分に楽しめるが、「少し締め上げてやればラップタイムは簡単に縮められるだろうな」という感触はあった。ロールやピッチングを程よく抑えたA110Sは、まさにそうしたセッティングとなっているのだ。

パワートレインに関してはエンジンの高出力化、高回転化が図られ、標準車より40PS高い292PSの最高出力を、6400rpmで発生するようになった。
パワートレインに関してはエンジンの高出力化、高回転化が図られ、標準車より40PS高い292PSの最高出力を、6400rpmで発生するようになった。拡大
シャシーには専用のチューニングが施されており、前後のスプリングレートが標準車より約50%高められているほか、ショックアブソーバーやスタビライザーの剛性も上げられている。
シャシーには専用のチューニングが施されており、前後のスプリングレートが標準車より約50%高められているほか、ショックアブソーバーやスタビライザーの剛性も上げられている。拡大
動力性能については、0-100km/h加速が4.4秒、最高速が260km/hと公称される。
動力性能については、0-100km/h加速が4.4秒、最高速が260km/hと公称される。拡大

エレガンスもアルピーヌの本質

今回は直接比較試乗したわけではないが、おそらくA110と同じように走らせると、A110Sのほうはややアンダーステア気味に感じられるだろう。あの、よくできたミドシップだからこそ実現できた気持ちのいいニュートラルステアが、影を潜めてしまったと思うかもしれない。だがA110Sも、ブレーキを残すような運転をしてやるとズバッと素早くノーズをインへと引き込んでやることが可能だ。意図的にテールを振り出すこともできるが、そこからのコントロール性の高さはA110と変わらない。

開発テストのときに試したリアを粘らせるセッティングでは、こうはいかなかっただろう。タイヤも含め、シャシー全体で走りをつくり込んでいったので、スタビリティー方向へ振っても高いコントロール性を保てる、高度なバランスが実現したのだ。あまり攻め込まなければ適度な安定感・安心感があり、スキルが高ければ楽しんで振り回すことも可能。そして効率的にラップタイムを削り取る走りも得意になった。特に左右へ切り返すS字コーナーなどでの挙動が素晴らしく、テンポよく駆け抜けられる。

一般道でも走らせてみたが、乗り心地はさほど悪化していなかった。A110はデイリーユースでも快適なスポーツカーを目指して開発されたが、その考え方はA110Sでも受け継がれている。ただ速さやドライビングプレジャーを追い求めるだけではなく、エレガントで快適なこともアルピーヌの本質なのだ。

A110とA110Sのどちらがいいのか? と聞かれると迷ってしまう。サーキットに比べて速度域が低く、ブレーキングもそこまで強くはかけないワインディングロードだったら、A110のほうが舵の利きのよさが味わえて気持ちいいだろう。だが、走りのレベルが上がってくるとA110Sの俊敏性の高さとグリップ力が味方して、一体感が増してくるはず。“ワインディングベスト”を求めるならA110、サーキットも重視するならA110S。月並みだが、そういったところだろうか。

(文=石井昌道/写真=アルピーヌ/編集=堀田剛資)

1.9kgの軽量化を実現するカーボンルーフは、外観上のアクセントともなっている。
1.9kgの軽量化を実現するカーボンルーフは、外観上のアクセントともなっている。拡大
フルデジタルのメーターについては、標準車から変更はない。「ノーマル」「スポーツ」「トラック」の3つの走行モードに応じて、表示の内容やレイアウトが変化する。
フルデジタルのメーターについては、標準車から変更はない。「ノーマル」「スポーツ」「トラック」の3つの走行モードに応じて、表示の内容やレイアウトが変化する。拡大
標準車よりスタビリティーを高める方向のチューニングが施された「A110S」だが、コントロール性の高さは変わらず、S字コーナーなどではテンポのよい走りを楽しめる。
標準車よりスタビリティーを高める方向のチューニングが施された「A110S」だが、コントロール性の高さは変わらず、S字コーナーなどではテンポのよい走りを楽しめる。拡大
日本での価格は899万円。ボディーカラーが「グリ トネール マット」(写真)のもののみ939万円となっている。
日本での価格は899万円。ボディーカラーが「グリ トネール マット」(写真)のもののみ939万円となっている。拡大

テスト車のデータ

アルピーヌA110S

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4180×1798×1248mm
ホイールベース:2419mm
車重:1114kg
駆動方式:MR
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:292PS(215kW)/6400rpm
最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)/2000-6400rpm
タイヤ:(前)215/40R18/(後)245/40R18(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:6.5リッター/100km(約15.4km/リッター、NEDC複合モード)
価格:899万円/テスト車=--円
オプション装備:--
※価格以外は欧州仕様参考値

テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロード&トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

アルピーヌA110S
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