ルノー・メガーヌ プレミアムライン(FF/CVT)【試乗記】
ルノーを買う本当の価値 2011.06.08 試乗記 ルノー・メガーヌ プレミアムライン(FF/CVT)……268万円
5ドアハッチバックの「メガーヌ」がついに日本上陸。デザイン、装備、走行性能、あらゆる面で進化した新型の走りを試す。
コンサバティブな外観
モデルチェンジした「ルノー・メガーヌ」。3世代目となる新型は、欧州では2008年に代替わりしているため、すでにその姿をチェック済みという方も多いだろう。加えて、ルノー・ジャポンは昨年末、3代目メガーヌのスペシャルモデル「RS」を先に日本へ導入していることもあって、メガーヌ、すでに面は割れている。
ボディタイプは5ドアハッチバック1種類。シャシーは先代からのキャリーオーバーだ。「プレミアムライン」と「GTライン」という2グレードを設定する。
今回試乗したのはプレミアムライン。“プレミアム”と言いつつも安いほうで、事実上のベースグレードといえる。片やGTラインは1インチ大きな17インチタイヤ&ホイールを履き、サスペンションのスプリングレートが高く、それに伴って車高も1cm低いほか、外観もスポーティな仕立てとなっている。とはいえ、あくまでGT“ライン”であってGTではない。すなわちパワートレインにまで手が入れられているわけではない。
2グレードともに自然吸気の2リッターDOHCエンジンに、メガーヌ初のCVT(ジヤトコ製。6段マニュアルモード付き)が組み合わせられる。このパッケージは同じグループの日産やルノー・サムスンのいくつかのモデルにも搭載されている。
よく見ると先代に劣らず凝ったディテールが見られるものの、先代ほど彫刻的ではなく、コンサバティブな外観だな、というのが新型に対する第一印象だ。グレーのボディカラーにベージュのシートという組み合わせは、上品だが地味。ルノーといえば奇抜な外観に実用的な中身を仕込むのがうまいことで知られるメーカーのはずだが、今回は至極真っ当。「日産ジューク」あたりのほうがよっぽどルノーっぽい。
車内外ともにクオリティは先代より向上した。ボディ各パネルの合わせ目、いわゆるチリは等間隔でそろっている。居住空間は前後ともに十分。特にリアは先代より確実に広い。インテリアの質感も高く、プラスチッキーという印象はもうない。その昔、フランス車はダッシュボードがフロントガラスへ映り込むことに対してまったく配慮してくれなかったが、新型では気にならなかった。部分的に木目調パネルまで使われているが、これは果たしてメガーヌに必要だっただろうか。
静的質感は向上。では動的な質感はどうか。
メガーヌ的走りの楽しさ
伊豆スカイラインを知っている人は思い出してほしい。知らない人はGoogleマップで見るか想像してほしい。もうそろそろ一周しちゃうんじゃないこれ? と思えるほど長いコーナーの連続、アップダウン、無数のうねり……。そんなワインディングロードこそ、メガーヌがその真骨頂を発揮するシーンだ。念のため言っておくが、RSの話をしているわけではない。ノーマルモデルのことである。
具体的には、飛び込んだペースなりにボディがじわっとロールし、これくらいだろうと思って切ったステアリングの舵角(だかく)通りにクルマがコーナーをトレースしてくれる。気付けばすぐ後ろに営業中の「トヨタ・プロボックス」がぴったりついてきたりしているので、特別速いペースでコーナーを曲がることができているわけではないが、ひとつのコーナリングを終えた際の、思い通りできたという満足度が高い。不自然な挙動がないのだ。
どこに価値を見出すかは買う人の自由だが、国産車の豊富な日本で、大して見栄を張れるわけでもなく、女性に特別モテるわけでもない(人による)ルノーをわざわざ買う本当の価値は、この辺りの“(飛ばすことではない)走りの楽しさ”にあると思う。あ、そうそう、電動パワステを採用した新型のステアリングは軽い。
ドイツ勢、はっきり言えば「フォルクスワーゲン・ゴルフ」に比べてどうか? 今やゴルフも、高速走行時のスタビリティを重視するあまりタウンスピードで多少ゴツゴツするのを許す、かつての典型的ドイツ車の乗り心地からひと皮むけ、全体的に当たりのソフトさを身につけている。
メガーヌをはじめ現代のフランス車だって、先祖の「19」あたりがそうだったように、シートからスプリング&ダンパーまですべて柔らか仕上げ、おまけにボディも……という感じではなく、高速道路でもワインディングロードでも、しっかりとダンパーの仕事ぶりを感じられる。両国のクルマが似通ってきているのは確かだ。が、依然として同じではない。
乗り心地やハンドリングの面で近づきつつも、双方交わる一歩手前でとどまってアイデンティティを維持している。……ように思える。この先は好みの問題だろう。
シャシー性能は拮抗(きっこう)している。では動力性能はどうか。
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静粛性の高さが光る
ルノー自身がライバルとしてピックアップするゴルフや「プジョー308」が小排気量+過給エンジンを採用するのに対し、メガーヌは自然吸気の2リッターでライバルに対抗する。過給エンジンのライバルに比べ、最高出力はともかく、最大トルクの数値は控えめ。実際、0-400m加速や0-100km/h加速を計測すればゴルフ(1.4TSI)や308(1.6ターボ)に負けるだろう。ただし、日常的に使って不満に思うことはないはずだ。CVTがエンジン回転を効率の高いゾーンに保とうとするし、エンジン自体も自然吸気とはいえ2000rpmで最大トルクの9割近くを発生するため、発進でも追い越しでも望む加速が手に入る。ただし、燃費性能はライバルほどではないことが予測される。
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試乗後、車載燃費計は11リッター/100km、つまり9.1km/リッターを表示したが、ライバルはどう走っても10km/リッターを下回ることはまずない。経済的にはひと月1000km走ったって数百円の差でしかないだろうが、今や燃費数値は最高出力よりよっぽどユーザーにアピールするポイントなだけに、ここをアピールできないのはつらい。
同じセグメントのゴルフは257万円〜315万円。308は254万円〜309万円。後から出たメガーヌはプレミアムラインが268万円、GTラインが275万円と、思い切り意識した値付けとなっている。「シトロエンC4」もモデルチェンジ。256万円と299万円の2グレードで発売された。並べてみると、寝ても冷めてもクルマというわけではないけれど、だからといってなんでもいいわけじゃないという程度のクルマ好き、なおかつ子供がいる人にとっては、楽しくも悩ましい選択になること必至。
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メガーヌの試乗記なので少々肩を持つとしたら、他の2モデルに乗っている時よりも走行中の静粛性の高さが印象に残った。メガーヌ、相当に静かだと思う。ただ、もういい加減にリモコンドアロック用のスイッチを別体で付けるのはやめてほしい。せっかくのスマートなカードキー(これにもドアロックスイッチが備わるが、日本仕様では機能しない)が台無しだ。
(文=塩見智/写真=荒川正幸)

塩見 智
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