一番小さな”ビーエム”と“ベンツ” 新型「1シリーズ」と「Aクラス」を比較する
2019.12.04 デイリーコラム先代「BMW 1シリーズ」の個性
2019年に実施されたフルモデルチェンジの中で、最も評価の分かれそうなのが「BMW 1シリーズ」だろう。「2シリーズ アクティブツアラー/グランツアラー」やMINI(の大型系モデル)と同じタイプのプラットフォームを採用し、駆動方式を従来のRWD(後輪駆動)からFWD(前輪駆動)に変更したからだ。
先代1シリーズは全長が4400mmを下回るコンパクトな5ドアハッチバックでありながら、FRレイアウトを採用していた。コンパクトなFRスポーツカーとしては、「マツダ・ロードスター」などが存在するが、後席用のドアを備えた5ドアハッチバックは貴重な存在だ。新型ではこの大切な個性が失われた。
駆動方式の違いに基づく商品の良しあしは、今では存在しない。しかし運転感覚の違いはあり、そこにこだわれるのも、輸入車を選ぶ価値のひとつでもあるだろう。駆動方式の違いがブランドやクルマ選びに関係ないとすれば、BMWでもアウディでもいいことになってしまう。あるいは日本車でも十分だ。
先代1シリーズは、市街地を普通に走る時でも、FRらしくボディーの前側が軽く感じられた。カーブの後半に差し掛かってアクセルペダルを踏み増していくと、次第に後輪へと荷重が加わり、車両を押し出す様子が明確に分かる。この運転感覚は「3シリーズ」などと基本的に共通で、フロントマスクのキドニーグリルと同様、BMWブランドの個性に通じていた。
トヨタの「シエンタ」と「スープラ」(共同開発だが)、日産の「デイズ」と「GT-R」に共通の運転感覚は見いだしにくいが、BMWの先代1シリーズと「Z4」にはそれを強く感じた。ファミリーレストラン的に多種多様な商品をそろえるトヨタや日産と、限られた品ぞろえで専門店化しているBMWとの違いだ。
ブランドによる運転感覚の違い
ただし新しい1シリーズも、FF車全体の中で見ると、FR的な運転感覚を巧みに表現している。やはり本質はFRとは異なるが、駆動輪と操舵輪が同じでも、駆動力のかけ方を工夫することで操舵感に影響が出にくくしている。過敏にならない範囲で操舵の正確性を高め、小さな舵角から車両の向きが正確に変わる。従来型1シリーズのユーザーが新型に乗り換えても、駆動方式の変更を意識したとしても、実際の運転に違和感は覚えないだろう。
また同じセグメントの「アウディA3」から新型1シリーズに乗り換えると、車両との一体感を重視するというBMWの個性を実感できると思う。A3は車両の反応が適度にマイルドで、リラックスできる運転感覚が特徴だ。2WDの場合は、滑りやすい路面で前輪が車両を引っ張ろうとする感覚がよく分かる。進行方向に向けて駆動力が働く安心感も特徴だ。昔からFFと4WDで歩んできたアウディと、FRからFFに切り替えたBMWとの対比が興味深く、ブランド選びの醍醐味(だいごみ)を味わえる。
そして「メルセデス・ベンツAクラス」は、ブランドの性格、運転感覚ともに1シリーズとA3の中間に位置付けられるが、峠道などを走ると1シリーズに近いと感じる。メルセデス・ベンツとしては車両の向きが軽快に変わり、カーブを曲がっている最中にアクセルペダルを戻すことで、進行方向をさらに内側へ向ける操作もしやすい。この傾向が強すぎると安定性を妨げることになるが、“持ち味”といえる範囲に抑えて運転の自由度を広げている。
似ているからこそ大切な個性
1980年代まではブランドによる運転感覚の違いが明確で、BMWは峠道などを機敏に走ると楽しく、メルセデス・ベンツは高速道路を巡航するのが得意だった。それが近年は車両の技術が進化して、どちらのブランドでも峠道から高速道路まで、自然な感覚で楽しく安定して走れるクルマが多くなった。
この進化に伴い、走行性能や運転感覚、乗り心地は、ひとつの方向に統合されつつある。その上でブランド表現の個性が求められている。
例えば操舵感は、小さな舵角から緻密に反応するのがBMW 1シリーズで、Aクラスはメルセデス・ベンツらしく少し穏やかだ。安定性の良しあしではなく、感覚的な違いがある。
インパネなどの内装も異なる。1シリーズの運転席に座ると囲まれ感があり、車両との一体感が得やすい形状だ。Aクラスでは、横長の液晶メーターパネルが2枚、メーターパネルの位置からインパネの中央部にかけて装着される。より未来的な仕上がりだ。
1シリーズの後席の足元空間は、FFになったことで余裕が生じた。以前はAクラスに比べて窮屈に感じたが、新型なら多くの人にとって不満はないだろう。
このように細かな違いはあるものの、FF化されたことで1シリーズは荷室や後席のスペースが広くなり、Aクラスだけでなく、他のCセグメントのハッチバック車との類似性が強まったといえる。その一方で、味付けの違いは今も明確に残している。ブランドの個性をいかに表現するかが、従来以上に大切になった。
またBMW、メルセデス・ベンツとも、今は拡大路線で車種ラインナップを増やしている。1980年代までのボディータイプはセダンとクーペ、一部のワゴンをラインナップする程度だったが、2000年頃からSUVが急増した。コンパクトモデルも増えて、BMWは前述の2シリーズ アクティブツアラーとグランツアラー、メルセデス・ベンツは「Aクラス セダン」に「CLA/CLAシューティングブレーク」をそろえ、さらにSUVの「GLA」という具合に細分化している。BMWにはMINIもある。
BMWやメルセデス・ベンツがコンパクトな車種を充実させると、当初は「400万円以下でベンツ(やBMW)が買える!」というような割安感が生じるが、次第にブランドの性格が一般化していく懸念がある。SUVも充実させながら、高級セダン時代に築いたブランド力の高さと求めやすさをいかに両立させるのか。今後は電気自動車の普及も絡み、プレミアムブランドは新しい時代に突入していく。
(文=渡辺陽一郎/写真=BMW、メルセデス・ベンツ、webCG/編集=藤沢 勝)

渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。 1985年に出版社に入社して、担当した雑誌が自動車の購入ガイド誌であった。そのために、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、車買取、カーリースなどの取材・編集経験は、約40年間に及ぶ。また編集長を約10年間務めた自動車雑誌も、購入ガイド誌であった。その過程では新車販売店、中古車販売店などの取材も行っており、新車、中古車を問わず、自動車販売に関する沿革も把握している。 クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。
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