第609回:「こんなクルマがあったのか!」 “自動車世界一”を占う国際試乗会の会場から
2019.12.11 エディターから一言 拡大 |
80人を超える各国代表のジャーナリストによって、さまざまな角度から“その年を代表する新型車”を評価・選出する、World Car Awards(通称:ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー)。その前哨戦となる試乗会に参加した、選考委員の河村康彦が気になったニューモデルとは?
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未来型ポルシェに手が伸びる
ワールド・カー・オブ・ザ・イヤーの表彰式は、毎年4月に開催されるニューヨークモーターショーで行われる。それに向けたプログラムのひとつである恒例の試乗会が、今年もロサンゼルスオートショーの会期に合わせ、ロサンゼルス郊外のパサデナ地区にあるホテルを基点に4日間にわたって開催された。
ちなみに、13カ国から50人の審査員、計23台の試乗車が集まった今回は、これまで6回を数えるロサンゼルス試乗会の中で最大規模とのこと。そんな中、審査員の末席に名を連ねる筆者も「日本ではなかなか乗れないモデル」を中心に、ここぞとばかりそのステアリングを握らせてもらった。
とはいえ、“おいしいごちそう”を目の前に出されれば、まずはそれに食いつきたくなるのというのが人情というもの。一目散に受付カウンターへと走ってキーを奪い取ったモデルは、よんどころない事情(?)によって国際試乗会への参加がかなわなかったポルシェ史上初の量販型電気自動車「タイカン」だった。
駆動用バッテリーを床下へと敷き詰めるのが通例のピュアEV。ただし、そんなパッケージングゆえ、多くの場合そのプロポーションは“ずんぐり型”にならざるを得ない……というのは、すでに存在するEVのデザインを思い浮かべれば、即座に納得のいく話だろう。
ところが、ホテル地下駐車場で対面したタイカンの第一印象は「うわぁ、低っ!」というもの。「これって『911』より低いんじゃないの!?」というのは、後で調べるとさすがに“気のせい”であることが判明したが、そのくらい低さが強調されているように感じられたのは間違いない。
“足”と“音”に注目のタイカン
これまでのセダンでは目にしたことのないそんなプロポーションに続いて衝撃だったのは、同じく経験をしたことのないその乗り味だった。今回の試乗車「タイカン ターボ」の場合、発表されている総出力は500kW(約680PS)にして、その0-100km/h加速タイムは3.2秒! 際立って優れた加速力の持ち主であることは予想がつく。
が、感動させられたのはそうした動力性能よりも、フットワークのテイスト。路面を問わずボディーの動きは完璧に制御され、特にフリーウェイ上ではこれまでどのようなモデルでも経験したことのないような“浮遊感覚”が顕著だった。そんな乗り味を表現するのに最適なワードは「マジックカーペット」だ! と思い知らされるに至ったのである。
加えれば、そんな走りの感動をさらに加速させてくれたのが、ポルシェ車としては初であるはずの“フェイクサウンド”。まず雑音を入念に消し去ったあとで吟味に吟味を重ねて開発されたに違いない加速時の音色は、いかにも「未来のクルマ」と思わせてくれるすこぶるエモーショナルなものであったのだ。
しかし、ここまでポルシェらしいと「パナメーラ」の存在意義が危うくなっちゃうよナ……と、正直なところそんな思いを抱きながら泣く泣くタイカンを返却すべく会場へと戻ったのだった。
タイカンにひとしきり感動したところで次に目をつけたのは、「ポルシェ718ボクスター」に「BMW Z4」、そして「トヨタ・スープラ」という派手なスポーツモデル3台。Z4とスープラにはすでに日本で触れていたものの、ボクスターは正式には「718スパイダー」と称する新開発の自然吸気4リッター6気筒エンジンを搭載するスペシャルモデル。当然ながら「乗りたい乗りたい!」と日本チームのメンバーの声が一致し、運よくこれら3台を同時に借り出すことに成功した。
比べれば違いは見えてくる
基点となるホテルを出発してまずはパサデナの街中を経由。そこからフリーウェイに乗って10分ほど北へ走ってインターを降りると、そこから始まるのがエンジェルクレスト・ハイウェイというカリフォルニア州でも屈指のワインディングロード。実は、自動車メーカーのテストや試乗会の舞台としてもたびたび用いられるそんなこのロケーションで3台をとっかえひっかえ乗ってみると、、何とも興味深いことに、同じスポーツカーでもその乗り味や狙いどころの違いが鮮明に感じられた。
ボクスターのラインナップの頂点に位置付けられた718スパイダーは、やはりまずはそのエンジンこそが売り物。5500rpmから8000rpmにかけての圧倒的なパワーの伸び感は、いかにもスポーツ性の高い自然吸気エンジンならでは。正直、これを味わってしまうと“標準仕様”の4気筒ターボエンジンは「音もフィーリングもポルシェ車らしくないナ」と感じてしまうほどだった。
もっとも、音に関しては、補器類からと思われる“雑味”が混じって聞こえてしまうのがちょっと残念。ミドシップモデルのサウンドは、981世代のフラット6が発する音色が一番だったようにあらためて思う……。
一方、基本コンポーネンツを共有することがよく知られるZ4とスープラについては、Z4の方がよりフラットで穏やかな乗り味であるのをはじめ「落ち着いた大人のオープンスポーツカー」を目指しているのに対し、スープラは「シャープな挙動が命の、見た目も走りもエキセントリックなスポーツクーペ」を目指していると明白に感じた。
ちなみに、今回の試乗車はいずれも直6エンジン搭載モデル。いかにもBMWの心臓らしいパワーフィールとサウンドが満喫できる点は、結果として車両全体に強い“BMWっぽさ”を与えることになっていて、スープラにとってはちょっと不遇なことかもしれない……とも感じられた。
マーケットの違いも実感
ところで、試乗会場には「マツダ3」と「マツダCX-30」という、こちらもすでに日本で触れたばかりのモデルも用意されていた。
それでも、「せっかくだから」とちょっと乗ってみると、走り始めて即座に、日本で乗ったモデルよりも加速がイイ! と感じられた。それは気のせいなどではなかった。アメリカ仕様に搭載される心臓は2.5リッターのガソリンエンジン。2リッター止まりの日本仕様よりも、力強い加速感が得られるのは当然だったのである。
ちなみに、CX-30の試乗車はアメリカ国内での調達が間に合わず、何と「メキシコ工場からの2700kmほどを自走してきた」という“産地直送”車。CX-30のアメリカでのローンチはロサンゼルスモーターショーのプレスデー初日。この試乗会はその直前に開催されたので、実はマツダ関係者は冷や冷やものだった……という裏話も耳にすることとなった。
さらに会場には、見慣れぬフォルクスワーゲン車が……と思えば、こちらは日本でも2020年1月に発売される(2019年11月27日発表)「Tクロス」。“WOB”=ウォルフスブルクのナンバーが着いた欧州仕様そのもので、ガソリンモデルだったので日本にも導入される3気筒ターボ付きの1リッターエンジン+7段DCTの組み合わせだ。
同じ“MQB”の骨格を採用することもあってか、その走りの雰囲気はまさに「ゴルフ」のSUV版というテイスト。差し当たり動力性能にも不足はないものの「アメリカにもリッターカーがあるんだ!」と感心させられた。が、後にフォルクスワーゲンUSAのサイトで検索をかけてみると、そこには該当するモデルは存在せず。全長4.11m、全幅1.76m級のSUV……というのは、日本では「ちょうどいい大きさ」でも、アメリカではやはり「需要がない」ということなのだろう。
韓国勢もあなどれない
ところで、毎度最新の韓国車が用意されるのも、この試乗会の特徴だ。このところますます“近くて遠い国”という雰囲気が強まり、もちろん日本に輸入されていないことによる興味もあって、今回も何台か目ぼしいモデルに触れてみた。
その中の1台が、コンパクトでボクシーなルックスが、かつての「トヨタbB」をほうふつとさせるキアの「ソウルEV」。容量64kWhのリチウムイオン電池を搭載し、航続距離は280マイル(約450km)。最高出力は201bhpというだけあって、見た目に反して(?)加速は活発。ラフなアクセル操作では簡単にホイールスピンするなど、「シャシーが追いついていない感」があるのは、くしくもライバルといえそうな「日産リーフ」のハイパワー版とそっくりだ。
そのネーミングゆえ(?)かつて“日本で最も有名な韓国車”となったヒュンダイの「ソナタ」は、なぜか大口を開けた不思議なマスクの持ち主へとフルモデルチェンジ。2.5リッターの4気筒直噴ガソリンエンジンにCVTを組み合わせたモデルをテストドライブしてみたものの、アクセル操作に対して妙にゲインの高い発進加速感が現れる動力性能や、バウンス挙動の激しい乗り味、微舵領域でのフィーリングが曖昧なステアリング等々と、その走りの仕上がりには「?」マークが並んでしまう結果になった。
一方、静粛性の高さやしなやかな乗り味で日本車の脅威になりうると感じたのは、「Telluride(テルライド)」という、車名の読み方が難しいキア発の最新SUVだった。
3.8リッターのV6直噴ガソリンエンジンと8段のステップATとの組み合わせによる走りは、静かでスムーズかつ上質。テスト車はオンデマンド方式の4WD仕様だったが、2WD=FWDモードへと切り替えても、ステアリングフィールが悪くなるような気配は感じられなかった。
短時間のテストドライブゆえじっくり使い込めたわけではないものの、カタログ上ではADASやコネクティビティーの充実度も、日本車に見劣りすることなく、高そう。「いつの間にやらここまでレベルを上げてきていたか」と、ちょっと驚かされた。
というわけで、日本に居るだけではなかなか分からないことが、一気に解明されることもあるのがこのイベントの魅力。果たして来年は、どんな“未知のモデル”に触れられるだろうか。
(文=河村康彦/写真=2019 World Car Awards/編集=関 顕也)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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