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メルセデス・ベンツE350deアバンギャルド スポーツ(FR/9AT)

ディーゼルにも電気 2019.12.20 試乗記 河村 康彦 乗用車では日本初となる、ディーゼルエンジンベースのプラグインハイブリッドモデル「メルセデス・ベンツE350de」に試乗。燃費性能に優れるディーゼルと、ゼロエミッションを掲げるEVのいいとこ取りとうたわれるパワーユニットの出来栄えを確かめた。

ゼロエミッションは正義

例年は夏でも冷涼ゆえ“普通の家”にはエアコンなどないパリやロンドンなどの欧州都市部で、「生命の危機」が報じられる40℃級の最高気温を記録。水の都として知られるベネチアは「過去50年で最悪」とされる洪水に見舞われ、太平洋に浮かぶマーシャル諸島では水没による国家消滅への危機から、一部島のかさ上げを真剣に検討──と、いずれも「地球温暖化の影響」とされるニュースがかまびすしく聞かれた2019年が、間もなく終わろうとしている。

それもこれも、CO2に代表される温室効果ガスのせい……という解釈に対しては、「ホントに本当なの!?」とちょっと訝(いぶか)しく思う自分の気持ちもいまだ皆無ではないものの、このあたりを微に入り細をうがちつつ検証するとなると、もはや素人の手には負えなくなってしまう(?)のが現実。

かくして「そんな面倒なことまで関わっていられないヨ」という世界の多くの人にとっては、やはり排ガスそのものが悪者ということになる。端的に言えば、もはや「物を燃やす」ことはおろか、「飛行機で移動」したり「肉食を行う」ことすらも“悪”とみなされかねないのが、今という時代の空気であるのだ。

そんなタイミングゆえ、“エンジン車”が吐き出す排ガスも問題視されないはずがない。実際、今やガソリンであろうがディーゼルであろうが、排ガスを出すクルマはすべて悪者という考え方が支配的。唯一問題ナシと認められるのは、“テールパイプエミッション”が皆無の、要は電動化が図られたモデルのみという雰囲気だ。

本来ならば、「そこにチャージする電気をどのようにつくるか」が大問題。しかし、取りあえずそこのところは不問とし、走行時さえ排ガスを出さなければ「CO2排出量はゼロ」とカウントするのが、欧州地域における差し当たりの(ちょっとズルい)外部充電機能付きのモデル(プラグインハイブリッド車=PHV)に対する対応でもある。

2019年10月23日に東京モーターショーの会場で、日本導入がアナウンスされた「E350deアバンギャルド スポーツ」。乗用車としては日本初となる、外部充電が可能なディーゼルハイブリッドパワートレインを搭載している。
2019年10月23日に東京モーターショーの会場で、日本導入がアナウンスされた「E350deアバンギャルド スポーツ」。乗用車としては日本初となる、外部充電が可能なディーゼルハイブリッドパワートレインを搭載している。拡大
「E350deアバンギャルド スポーツ」には「AMGスタイリングパッケージ」に含まれるフロントスポイラーやサイド/リアスカートが標準装備される。
「E350deアバンギャルド スポーツ」には「AMGスタイリングパッケージ」に含まれるフロントスポイラーやサイド/リアスカートが標準装備される。拡大
外部充電用のソケットは、リアランプ下のバンパー部分に配置される。一般家庭に設置できる200Vの専用充電器で1.5時間、100Vの家庭用コンセントなら5時間でフル充電が可能。
外部充電用のソケットは、リアランプ下のバンパー部分に配置される。一般家庭に設置できる200Vの専用充電器で1.5時間、100Vの家庭用コンセントなら5時間でフル充電が可能。拡大
ガソリンエンジン搭載モデルと大きく印象が変わらない「E350de」のリアビューだが、トランクリッドのエンブレムとバンパーに設けられた充電リッドがハイブリッドモデルであること示している。
ガソリンエンジン搭載モデルと大きく印象が変わらない「E350de」のリアビューだが、トランクリッドのエンブレムとバンパーに設けられた充電リッドがハイブリッドモデルであること示している。拡大
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Eクラス選びはパワーユニット選び

というわけで特に昨今、欧州発のブランドから次々とローンチされるハイブリッド車は、EVとして排ガスゼロの状態で走行が行えるモードを備えることに対して手厚いインセンティブが受けられる、PHV一択という状況。そうした中にあって、メルセデス・ベンツが放った異色の存在がE350deだ。

このモデルの技術的な内容を、その車名から言い当てることは難しくない。そう、“d”の記号はディーゼルエンジンを搭載し、“e”の文字はそれが電動化されたモデルであることを示しているからだ。

より詳しく紹介すれば、搭載されるエンジンは“純ディーゼルモデル”である「E220d」用と基本を共にした、最高出力192PSの2リッター直4直噴ターボユニット。これに最高出力122PSと最大トルク440N・mを発生するモーターを含んだ9段ステップATが直列に組み合わされ、システム最高出力306PS、システム最大トルク700N・mを発生。トランクルーム内に積まれたリチウムイオン電池の容量は13.5kWhで、EV航続距離はWLTPモード時で最長50kmと発表されている。

メルセデス・ベンツ日本では「日本初のディーゼルプラグインハイブリッド乗用車」をうたうこのE350deと共に、同様のハイブリッドトランスミッションを2リッター直4ガソリンターボエンジンと組み合わせた「E350e」を同日に発表済み。こちらは、システム最高出力が320PSでシステム最大トルクが700N・m、EVとしての最長航続距離が51kmというスペックである。

かくして、現時点でのEクラスのパワーユニットは、ガソリン、ディーゼル、ガソリンハイブリッド、ディーゼルハイブリッドと実に多彩。さらには、排気量や気筒数の違い、2タイプのスタータージェネレーター装着の有無までを勘案すると、さながら「Eクラス選びはパワーユニット選び」と、そうも言いたくなる状況となっているのである。

「E350de」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4923×1852×1475mm、ホイールベース=2939mm。(欧州仕様車の数値)
「E350de」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4923×1852×1475mm、ホイールベース=2939mm。(欧州仕様車の数値)拡大
最高出力192PS、最大トルク400N・mの2リッター直4ディーゼルターボエンジンに、最高出力122PS、最大トルク440N・mのモーターを組み合わせる。
最高出力192PS、最大トルク400N・mの2リッター直4ディーゼルターボエンジンに、最高出力122PS、最大トルク440N・mのモーターを組み合わせる。拡大
試乗車には、前245/45R18、後ろ275/40R18サイズの「ピレリ・チントゥラートP7」タイヤが装着されていた。
試乗車には、前245/45R18、後ろ275/40R18サイズの「ピレリ・チントゥラートP7」タイヤが装着されていた。拡大
「E350de」では、排出ガスに尿素水溶液「アドブルー」を噴射して窒素酸化物(NOx)を削減する尿素SCR排出ガス処理システムを採用。フューエルリッド内にあるブルーのキャップを開け、アドブルーを補給する。アドブルーは約2万5000km走行ごとの補充が目安となる。
「E350de」では、排出ガスに尿素水溶液「アドブルー」を噴射して窒素酸化物(NOx)を削減する尿素SCR排出ガス処理システムを採用。フューエルリッド内にあるブルーのキャップを開け、アドブルーを補給する。アドブルーは約2万5000km走行ごとの補充が目安となる。拡大

ディーゼルハイブリッドゆえの課題

“第4世代”と定義されるコモンレール式の高圧燃料噴射システムや、幅広い運転領域で高い過給効果を得るための可変ジオメトリーターボを採用。さらには、DPF(ディーゼル微粒子フィルター)とSCR触媒コンバーターを統合させたシステムによる入念な排ガス処理を図ったディーゼルエンジンを電動化されたトランスミッションに組み合わせて用いるとなれば、その複雑怪奇ぶり(?)には誰だって「そんなパワーユニットが果たして違和感なくスムーズに動くのか……」と、ちょっと懐疑的にもなるはず。

ところが、「何か起こるのではないか!?」という少しばかり意地悪な気持ちとともに乗り込んだE350deは、実に拍子抜けするほど滑らかに走り始めた。

試乗会場や近くに充電設備がないことから、駐車場所でのアイドリングによる“チャージモード”でバッテリーへとエネルギーが蓄えられ準備された試乗車は、テストドライブへとスタートすると、ここぞ(?)とばかりにエンジンを停止。そこからは純粋なEVとして、エンジン車以上にスルスルと静かでスムーズな走りを味わわせてくれたのである。

“EクラスのEV”という初めての体験に感銘を受けつつ、こうしてすこぶる滑らかな走りを堪能していると、じきにバッテリー残量が低下して今度は“ディーゼルハイブリッド車”のモードへと移行することに。エンジンの始動/停止のたびに気になるショックを伴うわけではないものの、それでもエンジン稼働時にはその存在感が想像以上に主張される。そう思えたのは、それまでの静粛を打ち破るディーゼルならではのエンジン音が、やはりそれなりに意識されるから。エンジン稼働時と停止時のこうした大きな印象の違いは、ディーゼルエンジンゆえのガソリンハイブリッド車にはない課題であると思う。

「E350deアバンギャルド スポーツ」のインテリアは、下位グレードにおいてオプションとなる「AMGライン」が標準採用されている。
「E350deアバンギャルド スポーツ」のインテリアは、下位グレードにおいてオプションとなる「AMGライン」が標準採用されている。拡大
12.3インチサイズの液晶パネルを並べた「Eクラス」ではおなじみのメーター。カーナビや各種設定状況のほか、ハイブリッドシステムのエネルギーフローも表示される。
12.3インチサイズの液晶パネルを並べた「Eクラス」ではおなじみのメーター。カーナビや各種設定状況のほか、ハイブリッドシステムのエネルギーフローも表示される。拡大
「E350deアバンギャルド スポーツ」は、「AMGライン」と呼ばれる内装が標準装備となる。シートは前後ともステッチ入りナッパレザーの表皮で、マット仕上げの「ブラックアッシュウッド」トリムと組み合わせられる。
「E350deアバンギャルド スポーツ」は、「AMGライン」と呼ばれる内装が標準装備となる。シートは前後ともステッチ入りナッパレザーの表皮で、マット仕上げの「ブラックアッシュウッド」トリムと組み合わせられる。拡大
試乗車にはオプションの「エクスクルーシブパッケージ」が装備されており、リアシートにはヒーター機能が備わっていた。
試乗車にはオプションの「エクスクルーシブパッケージ」が装備されており、リアシートにはヒーター機能が備わっていた。拡大
 
EV走行からエンジン稼働走行への切り替え時にショックなどを感じることはないが、ディーゼルエンジン特有の大きめの音が発生する。
EV走行からエンジン稼働走行への切り替え時にショックなどを感じることはないが、ディーゼルエンジン特有の大きめの音が発生する。拡大
写真のアンビエントライトは紫色の設定だが、全64色から選択が可能となっている。
写真のアンビエントライトは紫色の設定だが、全64色から選択が可能となっている。拡大
後席の背もたれは40:20:40の分割可倒機構を備えている。リチウムイオンバッテリーが後席背後に設置されるため、背もたれを前方に倒した際は荷室との間に段差が生じる。
後席の背もたれは40:20:40の分割可倒機構を備えている。リチウムイオンバッテリーが後席背後に設置されるため、背もたれを前方に倒した際は荷室との間に段差が生じる。拡大
リチウムイオンバッテリーの設置により「E350deアバンギャルド スポーツ」の荷室容量は、「Eクラス」の非ハイブリッドモデルの540リッターに対して370リッターに縮小されている。
リチウムイオンバッテリーの設置により「E350deアバンギャルド スポーツ」の荷室容量は、「Eクラス」の非ハイブリッドモデルの540リッターに対して370リッターに縮小されている。拡大
「E350deアバンギャルド スポーツ」には、高速道路走行時にウインカーの作動によって自動で車線変更を行う「アクティブレーンチェンジングアシスト」を含む安全運転支援システム「レーダーセーフティーパッケージ」が標準装備される。
「E350deアバンギャルド スポーツ」には、高速道路走行時にウインカーの作動によって自動で車線変更を行う「アクティブレーンチェンジングアシスト」を含む安全運転支援システム「レーダーセーフティーパッケージ」が標準装備される。拡大

ディーゼル車とEVのいいとこ取り

パワーユニット固有の課題には気づいたものの、それでもひとつの製品としてはよくまとめられているなと思えたのは、このモデルの走りを純内燃機関搭載の既存のEクラスと比較してみても、違和感をほとんど抱かせない仕上がりだったからである。

実際ハイブリッドモデルにありがちな、ブレーキのペダルタッチに関する違和感は全くなく極めて自然な仕上がりだったし、空調の吹き出し温度がエンジンの稼働と停止によって変化してしまうといった、やはり一部ハイブリッド車でみられる事象も皆無。ただし、全く同様のアクセル操作を行った場面では、エンジンの稼働と停止によって得られる加速感が異なる印象は、ごくわずかながらも感じられることとなった。あくまでも、「そんなことも起こり得るかな?」と、相当に意地悪く観察した結果ではあったが。

一部装備が異なるため、完全な横比較とはいえないものの、このE350deと前述ガソリンPHVであるE350eの価格差は23万円。さらに、AMGスタイリングパッケージやナッパレザーを用いた本革シートは350deのみに標準といった差が加わるものの、ハイブリッドシステムを備えないE220dとの差は118万円にまで広がる。

さらに、あくまでも「理屈としては」というハナシになるが、パワーユニットにかくも複雑なシステムを用いるとなれば、それだけメンテナンスが複雑化し、さらに故障因子も増えていく……という可能性にもつながってくる。シンプルさこそがベストと考える人にとってE350deの“充実したメカニズム”は、相いれないものとなるだろう。

確かに実際に乗ってみれば、「ディーゼル車とEVのいいとこ取り」という貴重な雰囲気を味わえることは事実。だが、ここまでの“高コスト体質”の構造が、この先いつまでも続くとは思えないのも事実。“製品”としては見事に仕上げられている一方で、“商品”としてみた場合にはその複雑さと「高価なアイテム」同士の組み合わせゆえ、疑念をぬぐい切れないのだ。

さまざまなテクノロジーが集結した結果であると同時にまた、そうした成り立ちにこそすんなりとは“最適解”が出せない今という時代の複雑さをもイメージさせられる、そんな「最新で複雑」なメルセデスのセダンが、このモデルでもあるのだ。

(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)

テスト車のデータ

メルセデス・ベンツE350deアバンギャルド スポーツ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4923×1852×1475mm
ホイールベース:2939mm
車重:--kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:194PS(143kW)/3800rpm
エンジン最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/1600-2800rpm
モーター最高出力:122PS(90kW)/2500rpm
モーター最大トルク:440N・m(44.9kgf・m)
システム最高出力:306PS(225kW)
システム最大トルク:700N・m(71.4kgf・m)
タイヤ:(前)245/45R18 100Y/(後)275/40R18 103Y(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:--km/リッター
価格:875万円/テスト車=923万5000円
オプション装備:エクスクルーシブパッケージ(26万1000円)/パノラミックスライディングルーフ<はさみ込み防止機能付き>(22万4000円)

テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:517km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

メルセデス・ベンツE350deアバンギャルド スポーツ
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河村 康彦

河村 康彦

フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。

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