BMW X3 Mコンペティション(4WD/8AT)
SUVの皮をかぶったM3 2019.12.21 試乗記 「BMW X3 Mコンペティション」に冠された「M」の文字はだてではない。2tを超えるSUVボディーを“俊敏”に走らせるのに十分なパワーと、時に過剰とも思えるほどに引き締められた足まわりを持つその中身は、まさにスポーツカーと表現したくなる出来栄えだった。油断禁物
突然、ビクッと針路が乱れて驚いた。車線をはみ出しそうになってレーンキープアシストに引き戻されたのか(最近のBMWのアシストは強力だ)、と思ったがそうではない。のんびり流れる一般道を穏やかに走っていただけだ。そうだ、そうだった、これはそういうクルマだった。気を抜いていたわけではないが、周囲の環境に合わせて静かにスムーズに移動していただけなので、しかも視点の高いSUVだったために正直忘れていたかもしれない。これは本物の「M」であり、しかもハイパフォーマンス仕様の「コンペティション」なのだった。
それにしても、である。昔の車高の低いスポーツカーならいざ知らず、最近は高性能車であっても、路面の轍(わだち)やうねりに敏感に反応して、いわゆるハンドルを取られるという状態になるクルマはまずお目にかかれないのに、これは何というか、スパルタンなレーシングカーのようなむき出しの野性が時に垣間見えるようだ。常にナーバスでワンダリングに気を遣う必要があるほどではないが、注意を怠っていると、たまに「ボーッとしているんじゃねーよ!」と叱られてしまう。21インチタイヤとガッチリ引き締まったアダプティプMサスペンションを甘く見てはいけないということだ。
言うまでもなくX3は、今や「X1」から「X7」まで隙間なくそろうBMWのSUV(BMW流ではSAV)の中核車種。X3 MはそのX3の3代目にして初めての「M」バージョン、サーキット走行をも念頭に置いたという硬派な高性能モデルである。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
「M3」より先にデビューした新エンジン
X3とそのクーペ版兄弟車である「X4」に正真正銘の「Mモデル」が設定されるのは初めてのこと。しかもそれぞれにさらにパフォーマンスを追求した「コンペティション」もいっぺんに発売された。搭載される3リッター直6ツインターボエンジンは、これまでのユニットを踏襲したかと思いきや、実はこれが初出である。来年デビューと見られている次期型「M3/M4」にも搭載される予定の新エンジンだが、「M」の代名詞であるM3よりも先にX3とX4のMモデルに積まれてデビューしたというわけだ。最近のBMWはスタンダードの4気筒や6気筒エンジンについてもキャリーオーバーに見えて実は大幅にアップグレードされた新型ユニットを矢継ぎ早に投入している。世を挙げて電動化が叫ばれる中でも、ドイツ勢は内燃エンジンの進化を並行して推し進めており、厳格化されていくいっぽうのEU規制に対応するためであることはもちろんだが、パワー競争でも一歩も引かないという姿勢を明らかにしている。
X3 Mコンペティション用ユニットは、スタンダードのX3 M用エンジンより30PS強力な510PS/6250rpm、600N・m/2600-5950rpmを生み出す(最大トルクは同じ)。現行型「M3コンペティション」のS55型直6ターボエンジンは450PSと550N・m、ウオーターインジェクションを備えた限定モデルの「M4 GTS」用でさえ最高出力は500PSだったから、新しい6気筒ツインターボは最初からそれを上回る。BMWの6気筒ユニットとしてはこれまでで最強である。ちなみにGPF(ガソリンパティキュレートフィルター)は2個、触媒は4個備わるという。いやはや、そういう時代なのである。
爆発力は「M」そのもの
新しいS58型も最新世代のBシリーズモジュラーエンジンをベースにしているはずだが、ボア×ストローク(84×90mm)と2993ccの排気量はガソリンのB58型ではなくディーゼル版のB57型と同一だ。ブロックはベースユニット同様にクローズドデッキを採用、ピストンは鍛造強化型、シリンダー内側にはツインワイヤアークスプレーコーティングと呼ばれる処理が施されている。ドイツ御三家の高性能ユニットには常識となりつつあるこれは、スチールのシリンダーライナーの代わりにカーボンスチールをシリンダー壁に溶射してコーティングする技術で、呼び方はメーカーによって異なり、メルセデス・ベンツは同様の技術を「ナノスライド」と称している。また3Dプリンター技術を使ってシリンダーヘッドのコア(中子)を製作したという点も注目される。従来の鋳造法よりも複雑な形状のクーリングチャンネルやポートをより軽量に成形することができるという。冷却システムも潤滑システムもサーキットでハードな走行を繰り返しても音を上げない性能を持つとBMWは明言している。
トランスミッションはシフトスピード可変式のドライブロジック付きMステップトロニック8段AT、駆動方式は「M xDrive」と称する電子制御式4WDだが、「M5」のように完全後輪駆動を選択することはできないものの、駆動力配分は後輪寄りで、「スポーツ+」モードを選んでタイトコーナーからの脱出時に思い切ってパワーを与えればジリジリと後輪がはらみ出すことからも(アクティブMディファレンシャルも標準装備)このクルマが剽悍(ひょうかん)な性質を持つことが分かる。おとなしく流せば普通のX3と変わらずスムーズに従順に応えるが、フル加速すれば2tを超える車重ながら0-100km/h加速は4.1秒という爆発力を持つ。これは最新型「911カレラ」のスポーツクロノパッケージ付きと同等である。最高速はリミッターで250km/hに制限されるが、Mドライバーズパッケージを選べば285km/hまで引き上げられるという。
SUVと考えてはいけない
このどう猛なパワーが手綱を振りほどいてしまうことがないように、サスペンションは近ごろまれに見るというか、めったにないほどがっしり引き締まっており、金庫のように頑丈で重厚なボディーの動きを、グイグイ強引に押さえつけているような感触だ。ビシッバシッというラフなハーシュネスの類いはきれいさっぱり取り除かれてはいるものの、不正路面での上下動や段差での突き上げは明瞭かつかなり強烈であり、これでラフロードに乗り入れようとは端から思わない。路面によっては冒頭に書いたようにスパッと針路を乱すこともあるほどスパルタンだ。
サーキットを連続走行してもまったく問題ないタフな高性能がSUVに必要なのか、という疑問が頭の隅に引っかかって消えないままだが、文字通りSUVらしからぬパフォーマンスを秘めていることは間違いない。続々と参入するスーパーSUVに対抗するためにも必要なのだろうが、くれぐれもムチを入れる場合は注意してほしい。X3 Mコンペティションはその辺のSUVとはまったく別物、たけだけしいスポーツカーである。
(文=高平高輝/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMW X3 Mコンペティション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4730×1895×1675mm
ホイールベース:2865mm
車重:2030kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:510PS(375kW)/6250rpm
最大トルク:600N・m(61.2kgf・m)/2600-5950rpm
タイヤ:(前)255/40ZR21 102Y/(後)265/40ZR21 105Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:9.1km/リッター(WLTCモード)
価格:1394万円/テスト車=1429万7000円
オプション装備:ボディーカラー<ドニントングレー>(0円)/レザーメリノ×アルカンターラコンビレザー<ブラック/ミッドランドベージュ>(0円)/Mドライバーズパッケージ(33万6000円)/リアシートバックレストアジャストメント(2万1000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:4199km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:338.7km
使用燃料:42.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.0km/リッター(満タン法)/8.1km/リッター(車載燃費計計測値)
![]() |

高平 高輝
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。