第610回:“滑らせる歓び”を会得せよ! 都心にほど近いBMWのブランド発信拠点でドリフト講座を受ける
2019.12.24 エディターから一言BMW M公認のトレーニングコース
2019年はモーターショーで沸いた東京のお台場地域に、BMWのブランド発信拠点「BMW Group Tokyo Bay(グループ東京ベイ)」がある。「1シリーズ」から「8シリーズ」、さらに「X1」から「X7」のそれぞれに複雑怪奇と呼べるほどのグレードラインナップがあり、さらに「Z4」や「M」モデルも抱えるBMWだが、ここにある試乗車はその大半を網羅しているそうで、顧客にとってはまことに心強い体験型ショールームだ。
しかし、BMWグループ東京ベイが誇るのは試乗車の数だけではない。いつも笑顔で迎えてくれる受付のお姉さんをはじめとしたスタッフ陣も自慢だろうが、それは全国津々浦々にあるBMWディーラーでも同じ。実はここには、Mモデルの開発を手がけるBMW M公認のトレーニングコースがあるのだ。
日ごろからイベントなどで活用されているこのトレーニングコースだが、2020年には一年を通じて楽しみなプログラムが用意されている。「お台場パワースライド」と名付けられたこの企画は、参加者が安全かつ気軽にドリフトを学べるようになっているのがポイントだ。
試乗車は「M2」「M3」「M4」のいずれかで、すべてBMWグループ東京ベイが用意してくれるというのがありがたいところ。プログラムは難易度順に「ゴールド」「シルバー」「ブロンズ」の3コースに分けられており、参加者は基本的にブロンズからスタート。検定試験に合格すればより上位のクラスにステップアップできるという仕組みだ。本格導入に先駆けて自動車メディア向けに開かれた先行体験会では、ブロンズコースを体験できた。
自分の意思で滑らせる
まずはタイヤを滑らせる講習を受ける。エレクトリックスタビリティーコントロール(ESC)をカットしたクルマをパイロンの左に止めて、ステアリングを右いっぱいに切る。滑りやすいようにコースには水が撒いてあるので、そこで思い切りアクセルペダルを踏むと、ズリッという音とともにパイロンを巻いてクルマがターンする。はた目には地味かもしれないが、乗っている本人にとっては自分の意思でタイヤを滑らせたという実感があって気分がいい。
ここでの目的はタイヤを滑らせて180度ターンすることであり、ブレーキ操作によって、正反対を向いたところでクルマを止めなければならない。ドリフト走行のできない私が断定するのは気が引けるが、ドリフトに最も大事な要素である(と思われる)「滑る」「止まる」がきちんと学べるようになっているのである(地味ではある)。
続いてはジムカーナコースを走る。もちろんやみくもに走るのではなく、あらかじめ設定されたターゲットタイムに近いタイムで走ることを目指す。このセクションではESCはオンにしてあり、タイヤを滑らせるような走りはタイムロスにつながる。これがどうしてドリフト走行の習得につながるのかというと、同じタイムを目指して繰り返し走ることで、正確な運転操作が身につくのだという。
この日に設定されたターゲットタイムは36秒。タイムを目指して……と聞くとノロノロと走るようなシーンをイメージされるかもしれないが、実際は全く違う。ストレートセクションではしっかりと加速し、ターンすべきパイロンの手前ではギュッと減速してステアリングをグルグルと回す……。もちろん個々の腕前の差はあるものの、私にとっては必死……とまではいかないが、一生懸命にスポーツドライビングをしなければとても狙えないタイムだった。3度のチャレンジのタイムはそれぞれ36秒、34秒、36秒(10分の1秒以下は切り捨て)。なかなかに誇れる記録だとは思うが、タイムを意識する余裕などはとてもなかったので、ターゲットタイムを設定したピストン西沢氏が素晴らしかったというべきだろう。
家族と一緒に
そして最後はインストラクターが運転するクルマに同乗して、ドリフト走行を体験する。プロの運転だからと言ってしまえばそれまでだが、面白いようにタイヤがツルツルと滑り、クルマがクルクルと向きを変える。乗っているだけで楽しいのは確かだが、ここではペダルやステアリングの操作の仕方を目で盗むのが、修行の道の正しい歩み方だろう。ドリフト走行中のドライバーに、その場で質問を投げかけられるというチャンスもめったにないものだ。
一連のプログラムは2時間程度で終わる。近くに住む人には無用の説明になるが、お台場地域には商業施設やアミューズメント施設などが数多く存在している。家族をこれらの施設に押し込み、自分はドリフトのレッスンを受けるというプランを立てるに、2時間はまさに絶妙な時間といえるのではないだろうか。午前中はそれぞれに楽しみ、昼食をともに過ごす。「じゃ、帰ろうか」とクルマを走らせ、最初の交差点をきれいなドリフトで曲がりたいところだが、こういうところでむやみにひけらかさないのが“真の使い手”だ(やってはダメです)。
お台場パワースライドは2020年の2月からスタート。偶数月の土曜と日曜のそれぞれに、午前と午後の2部制で開催される予定であり、参加可能な人数は各回あたり12人。料金は5000円で、これはピストン西沢氏の粘り強い働きかけにより、BMWグループ東京ベイが“出血覚悟”でのんだ金額だという(当初は1万円の予定だった)。1人で占有ではないとはいえBMWのMモデルを2時間酷使し、運転まで教えてもらう対価としては、格安といえるのではないだろうか。
参加資格は「Mモデルの既納客」「新規客」「体験希望者」「BMWオーナーファミリー」「クルマの運転にリテラシーを持ち、スキルアップを考えている人」と細かく規定されているようだが、よくよく読めば誰でも参加できるということ。お台場地域は東京駅や羽田空港からも近いので、遠くに住んでいる方でも興味があればぜひ。
(文と写真と編集=藤沢 勝)

藤沢 勝
webCG編集部。会社員人生の振り出しはタバコの煙が立ち込める競馬専門紙の編集部。30代半ばにwebCG編集部へ。思い出の競走馬は2000年の皐月賞4着だったジョウテンブレーヴと、2011年、2012年と読売マイラーズカップを連覇したシルポート。