トヨタGRヤリス プロトタイプ(4WD/6MT)
トヨタは時々ヤリスぎる!? 2019.12.20 試乗記 「20年ぶりのトヨタの4WDスポーツ」をうたう「GRヤリス」が、間もなくベールを脱ごうとしている。エンジンパワーやボディーサイズなどのスペックが伏せられた中で乗ったプロトタイプモデルから感じたのは、“トヨタの本気”だった。ブレーキはポルシェ
2020年まで残りわずかという年の瀬に、一年で最大の衝撃を受けた。2020年に発売される「トヨタ・ヤリス」の高性能版、GRヤリスのプロトタイプに試乗したのだ。
ただし、用意された試乗車はたったの1台、これを路面の一部を散水車でウエットにしたクローズドコースで乗る。与えられた時間はわずか10分。急げ! 自分の順番になった瞬間、文字通り飛び乗る。
早速、新開発の1.6リッター直3ターボエンジンを始動する。窓を閉め切っていても、いかにもヌケのよさそうな排気音が耳に届く。重すぎず、軽すぎず、でもちょい重めかなというクラッチペダルを踏んで、シフトレバーを1速に入れる。そう、トランスミッションは6段MTだ。シフトレバーは東西南北、どの方向に動かしてもカチッとした手応えを伝える。シフトストロークも適切だ。
まずはアクセルペダルを踏まずに、アイドル状態でクラッチをつなぐ。特に気難しいそぶりも見せず、スーッと発進する。クラッチペダルの作動はスムーズだし、ミートポイントもわかりやすい。車両のスペックについては、エンジン排気量とターボ付きであること、あとは四輪駆動であるということ以外、ほとんど明かされていない。だからエンジンの詳細についても不明であるけれど、低回転域からトルキーであることは間違いない。
そこから踏み込むと、「コーン!」という乾いた音とともに気持ちよく吹け上がる。タコメーターの針は、3500rpmを超えたあたりから勢いが増し、同時に力感がみなぎってくる。音といい、回転フィールといい、元気なやつだ。慌てていたので記憶が曖昧ではあるけれど、レブリミットは7000rpmだったはずだ。そこまで一気呵成(かせい)に回る。そこで2速にシフトアップ。
クローズドコース内にはパイロンが置かれ、8の字旋回や定常円旋回などを行う簡易なジムカーナコースの設定となっている。ここを自由に走っていいとのこと。
気持ちよく加速してから、8の字旋回の入り口に向けてブレーキングして驚いた。ブレーキペダルの剛性感、地面に押しつけられるような減速感、そしてウエット路面でありながら盤石の安定感。目隠しをしてフルブレーキングをしたら、「このブレーキはポルシェです」と答えてしまうかもしれない。
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ボディーはBMW
8の字旋回の入り口でステアリングホイールを切り込んでまた驚く。ステアリングの剛性感がハンパなく、しかも路面からの情報を繊細に伝えるから、初めて乗るクルマなのに自信を持って切り込めるのだ。ステアリングフィールは抜群で、大げさに言うと右前輪がドライ路面、左前輪がウエット路面であることまでわかるような気がする。
ターンインは軽快で、そこから外側のタイヤがスムーズに沈み込んで、安定した姿勢で曲がっていく。足まわりはガチガチに固められているというよりも、しなやかにロールしながら、きれいなコーナリングフォームで曲がるイメージだ。8の字旋回の切り返しでもスムーズに荷重が移動して、安定した姿勢でクリアする。軽やかなのにどっしり安定しているという、好ましい矛盾が起こっている。
何周かグルグルしてから、ダイヤル操作で前後のトルク配分を変えてみる。ここまでは「ノーマル」で前後が60:40、これを「スポーツ」にして前後30:70へ。すると、定常円旋回の途中で、「ツツッ、ツツッ」とお尻が出る。でもアクセル操作とステアリング操作で容易に押さえ込めるあたり、クルマの素性のよさを感じさせる。
「トラック」にすると、前後配分が50:50に。ノーマルよりも旋回時に身軽さを感じる一方で、スポーツよりはお尻が出る速度が高くなる。開発陣によると、多くの開発ドライバーがトラックで最もいいタイムを出したという。なるほど、納得だ。
まずまずのスピードでコースを走りながら感じたのは、ボディー全体がガッシリしていることだ。鋼板にエンジンやサスペンションを取り付けた、というよりも、大きな金属の塊から削り出したように感じる。ただし走行フィールは軽やかだから、ここでも軽いのにガッシリしているという好ましい矛盾が起きている。
このボディーのソリッド感、目隠しして乗ったら「BMWです」と答えてしまいそうだ。
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モータースポーツからのフィードバック
降りてからチェックすると、タイヤサイズは225/40R18で、銘柄はミシュランの「パイロットスポーツ4 S」。カムフラージュされたボディーは3ドアで、そういえば新型ヤリスには5ドアのボディーしかないはずだから、GR専用に開発したものなのか?
ルーフ後端がぐぐっと低くなっているから、後席の居住性は期待できそうもない。かなり思い切った設計だ。フロントに目をやれば、ヘッドランプの形状は新型ヤリスであるけれど、グリルが大型化されて迫力が増している。
それにしても、どうしてこんなにファン・トゥ・ドライブなクルマが生まれたのか。開発陣によれば2つの大きな狙いがあるとのことで、ひとつはモータースポーツの経験からいいクルマをつくること。そしてもうひとつが、少量生産モデルでも利益が出る仕組みをつくることだったという。トヨタから楽しいクルマが減ってしまったのは、もうからないからつくるのをやめてしまったからで、その反省に立っているとのことだ。
まずモータースポーツの経験からいいクルマをつくるという点に触れると、ご存じのようにトヨタは2017年からWRC(世界ラリー選手権)に復帰している。2018年はマニュファクチャラーのタイトルを、2019年はドライバーズチャンピオンを獲得した。
WRCを戦ううえで、マシン開発と実戦オペレーションを担うトミ・マキネン・レーシング(TMR)から大いに学ぶところがあったという。
まずはWRCを走るヤリスの空力性能が低いことで、従来はリアスポイラーにほとんど風が当たっていなかったという。そこで新しいGRヤリスはルーフ後端を低くして、空力性能の向上を図った。
もうひとつ、ライバル比で30kgほど車体が重かったことも弱点だった。そこでドアとボンネット、バックドアをアルミにして、ルーフはカーボンにした。したがって、市販モデルの屋根は黒になるという。
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素の状態でローカルラリーに勝てる性能を
トヨタの開発陣の話で興味深かったのは、「20年間、スポーツ4WDをつくっていなかったから、開発する技術も評価する技能も残っていなかった」というくだりだ。20年前とは、おそらく1999年まで生産された6代目「セリカ」の「GT-FOUR」を指すのだろう。
そこで、まずは開発スタッフ全員が、スポーツ4WDのドライビングを特訓することから始めたとのことだ。
開発の目標は、「素の状態でローカルラリーに勝てるポテンシャルを備えていること」で、だれにでも買えるスポーツカーがつくりたかったとのこと。その目標をかなえるために、前述した空力性能の向上と軽量化のほかに、アンダーパネルの高剛性化やサスペンションのロングストローク化などに取り組んだ。
1.6リッターのターボエンジンについては、出力とレスポンスはもちろん、小型化と軽量化もポイントで、トヨタの社内調査では世界最軽量を実現したという。
また四輪駆動のトルク配分については、トラックモードで前後55:45なども試したが、結局50:50が雪道でもグラベルでも一番速かったという。
わずか10分間の試乗ではあったけれど、「20年ぶりの渾身の作です」という開発陣の言葉が納得できる仕上がりだった。気になるのはお値段。スペックも含めて、2020年1月10日に開幕する「東京オートサロン2020」で公表されるが、「サンキュッパ」あたりか。いや、ここでは期待を込めて、「サンヨンパ」と予想しておく。
(文=サトータケシ/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
トヨタGRヤリス プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:--mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター直3 DOHC --バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:--PS(--kW)/--rpm
最大トルク:--N・m(--kgf・m)/--rpm
タイヤ:(前)225/40ZR18 92Y/(後)225/40ZR18 92Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:--km/リッター
価格:--万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。