さらば“二輪二足”の名車! 千葉の山奥で「ヤマハ・セロー」の復活を願う
2019.12.23 デイリーコラム販売は好調なのに
2019年12月5日、日本全国の山男・山ガールを悲しみのどん底に突き落とすニュースが列島を駆け巡った。「ヤマハ・セロー250」国内向け生産終了のお知らせである。
セローといえば、素直なハンドリングに扱いやすいエンジン、コケそうになっても「おっとっと」で済む軽さ、“オフ車”としては異例なまでの足つきの良さで、幅広いユーザーに支持されるデュアルパーパスモデルだ。あまたのライダーを山へといざなった、偉大なるカモシカ。大型バイクみたいにイバりは効かないが、ユーザーフレンドリーで機能的で、ヤマハの良心の権化みたいな存在だった。
そんなセローが、生産終了。ショックである。そもそも現行型は、排ガス規制に対応すべく1年にわたる改修を経て、2018年夏に復活したばかりじゃないか。世知辛いご時世、もう山バイクで遊ぶような人も少なくなってしまったのね。……などと勝手に思っていたら、実情は全然違った。
おさらいさせていただくと、現行型のセロー250が登場したのは2005年4月1日のことで、当初の販売計画は年間3000台。デビュー効果が薄れてからは年間1000台ほどに落ち着いたが、2013年ごろから再び人気が高まり、2017年にはデビューイヤーを超える3500台を売り上げたという。生産休止もあって、2018年はやや販売が落ちたものの、復活後は再び台数を伸ばし、今日に至っている。
ならして見ると、ここ数年の年間販売はおよそ3000台。直近のセールスは前年比20%増。最終版たる2020年モデル「セロー250ファイナルバージョン」の販売計画は、年間4000台だそうな。ヤマハ・セロー、実は絶好調なのである。
では、なぜ生産終了となってしまうのか? その理由を探るべく、記者はファイナルバージョンの取材・撮影会へと赴いた。
「マウンテントレール」を理解してもらうために
会場となった千葉・大多喜のキャンプ場にて記者を出迎えてくれたのは、シカクいヘッドランプとカウルが目を引く、初代セローこと「セロー225」だった。
読者諸兄姉の中には詳しい人もおられるだろうし、浅学の私が説明するのもおこがましいのだが、そもそもセローは、当時の走行実験担当である近藤 充氏の主導のもと、1985年に世に送り出された。コンセプトは「マウンテントレール」。けもの道をたどり、沢を渡り、ひたすらに山を楽しむためのバイクだ。
その後の人気っぷりを思うに、当初からさぞバカ売れしたのだろうと思っていたが、実際にはそんなことは全然なかったという。なにせ当時は、レプリカモデルの全盛期。オンでもオフでも速いヤツが偉いという時代で、スペック的に突出したところのないセローは、インパクトがなかったのだ。そもそも、“山を楽しむためのバイク”というコンセプト自体が分かりづらいもので、開発にGOが出るまでに、近藤氏の企画は何度もポシャったという。
それでもセローがリリースされ、後に人気モデルとなったのは、たとえ言葉では良さを説明しづらいものであっても、体験すれば実感できる楽しさが確かにあったからだ。
近藤氏は試作車をこしらえると、開発関係者はもちろん、広報や宣伝の担当者も山に連れて行き、「走る・曲がる・止まる」に加えて「登る・下りる・転ぶ」まで追求したセローの魅力をみんなで共有。セローで行く山の楽しさや、山の頂から見た景色の美しさ、そこで飲むコーヒーのうまさを知った彼らが、今度は販売店やメディア関係者にその魅力を伝え、さらには感化されたジャーナリストやベテランライダーが、仲間とその楽しさを共有し……と、そういった具合にセローの魅力は世に広まっていった。
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間断のない改良が支えた35年
こうしてホームラン級のヒットモデルに成長したセローだが、「プロダクトに魅力があったから」というだけでは35年も続くバイクにはならない。クルマだって一緒で、ロングセラーには社会の変化、ユーザーの嗜好(しこう)の変化に合わせた進化が不可欠だ。
主だったところだけを大ざっぱに拾うと、1989年に待望のセルモーターが付き、1993年にはリアブレーキをディスク化。2005年のフルモデルチェンジで排気量が250ccに拡大し、2008年に燃料供給をフューエルインジェクション化。そして2018年には、先述の通り第3次排出ガス規制への適合が図られた。また、こうした改良に伴う重量増を抑えるべく、間断なく軽量化の取り組みもなされてきたという。
……とまぁ、文章にしてしまうと簡単なのだが、これら一つひとつの事例のウラには、エンジニアのミリ単位、グラム単位の試行錯誤があるわけで、例えば2018年の改良時には、排ガス規制への対応だけでも(1)キャニスターとO2センサーを付けよう→(2)ECUの端子が足りないから交換だ→(3)ECUが大きくなったから搭載位置を変えなきゃ→(4)マフラー近くに押しやられたバッテリーが熱害でグロッギー→(5)マフラーとバッテリーの間に断熱材を貼ろう……といったトライ&エラーがあったそうな。さらに、プレスリリースには記されていないが、実はエンジンのカムプロファイルや圧縮比も変えていたのだという。
この時には、法規に合わせたナンバープレートの取り付け角度の変更や、それに伴うリアまわりの再設計などもなされており、開発部の橋本貴行氏いわく「“あとチョット”の改良のはずが、スケジュールぎりぎりの開発、大手術になりました。……まぁ、外から見たら(そんな大改良とは)分からないんですけどね(笑)」とのことだった。
そんな橋本氏は、セローの改良について「セローではなく、お客さま第一」と説明する。「セローの改良は高性能化ではなく、お客さまの遊びに応じた進化・変化。セローは個性を主張するバイクではなくて、お客さまの個性を助けるバイクなんですよ」
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ディテールに見るロングセラーの重み
一通りの説明を聞き終え、ファイナルエディションの撮影に移る。当時のデザイナーが「セローは草食動物なので、やさしいデザインにしたかった」と語ったその車体には、現在のデザイナーである太田晴美氏が手がけた、新しいグラフィックが施されている。いわく「35年の時代感とお客さまへの感謝を表現したデザイン」。カラーリングは1985年の発売当時をほうふつとさせる赤と緑。フレームまできれいに塗装されているのがミソで、太田氏は「デザイナーと開発、生産が一緒になって実現したデザイン」と胸を張る。
ファイナルエディションであることを別にしても、セローのディテールには見どころが多い。ヘッドランプ下のパイプは、ひもを掛けて引っ張る際に掛け目が左右に寄らないよう、中央部が前に突き出ている。ハンドルグリップは柔らかいゴム製で、前下側にだけ“うね”をつけることで、グリップ性を高めながら手のひらにタコができるのを防ぐ。ささやかな造形に、長年のノウハウが垣間見られる。
これは完全に私見だけれど、セローは平成(おそらくは令和も)の御代(みよ)にはつくり得なかったバイクなのではないか。この30年で、メーカーは製品の開発にすっかり慎重になったし、当時よりさらにマーケティングが幅を利かせるようになった。いかに近藤氏が山に連れて行ったとしても、雄大な遠景を前に「今のはやりは○○っすよ」とか「プロモーションに使いやすい、キャッチーなトコロが欲しいっす」とかいうKYが現れることだろう。
しかし、本当にユーザーにとっていいものか否かは、広告のしやすさとは無関係なはずで、それこそ「コンセプトが分かりづらかったセロー」のヒット&ロングセラーが、それを証明していたと思う。セローはおおらかな時代と、会社の重役が一日中山で遊んで開発現場にリポートを届けたという(実話です)ヤマハの社風があればこそ実現したモデルなのだ。
こんな記事読んでないで、山へ行こうぜ
では、そんなセローがなぜ生産終了となってしまうのか? もったいぶって申し訳ないが、皆さんすでにお察しの通り、法規対応の問題である。ブレーキやら灯火やら、厳しくなるもろもろの規定に合わせるのが難しくなったからで、設計を共用する「トリッカー」ともども、その歴史に幕を下ろすこととなったのだ。
ただ、実のところ記者は、そんなに悲嘆にくれていない。きっと次期モデル、あるいは別名の後継モデルが登場すると思っているからだ。だってそうでしょ? 売れてるんですもの。みんなが欲しいと思うものを提供しないのは、商人道では悪である。
とはいえヤマハの関係者によると、今後の開発についてはホントに未定で、「お客さまの反応次第」とのこと。セロー愛にあふれる皆さまは、ぜひ最寄りのYSP(ヤマハスポーツプラザ)でファイナルエディションに触れてみてください。そしてそのままお買い上げ……というのはハードルが高いかもしれないけど、だったら「ヤマハ バイクレンタル」でキャンプ道具ごとセローを借りて(そういうサービスがあるのよ)、“お一人さまキャンプ”に出かけるのもいいかもしれない。私たちがバイクを楽しむことが、ステキな名車を後世につないでいくのである。
(文=webCGほった/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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