ヤマハ・セロー250 アクセサリーパッケージ「TOURING SEROW」装着車(MR/5MT)
間違いのない選択肢 2019.02.23 試乗記 1年のブランクを経て、最新の排出ガス規制に対応して復活したヤマハのオフロードバイク「セロー250」に、新たにアクセサリーパッケージ「TOURING SEROW(ツーリングセロー)」が設定された。機能性の向上とワイルドなデザインを同時に満たす“和製アドベンチャー”の走りに触れた。ライトな和製アドベンチャー
ツーリングセローは、実にいいところをついているバイクだと思う。長年かけて熟成されてきたセローに、オプションパーツを4つ装着しただけなのだが、積載性と機能性が向上してワイルドな雰囲気もプラス。アドベンチャー系のマシンほどヘビーなイメージではないけれど、普通のツーリングなら、相当にタフな使い方をしても耐えられる。日本仕様のライトなアドベンチャーともいうべきマシンになっているのだ。
セローは、オンロードのハンドリングが軽快で、とても乗りやすいマシンだ。ウチの事務所にいる20代のスタッフがセローに乗った時「こんなに自由自在に操ることができるバイクは初めてだ」と感動していたくらい。ツーリングセローにもこの美点はそっくり受け継がれている。
高速道路などを使わず、一般道を走るのであれば、オンロードモデルよりもオフロードマシンの方が乗りやすいと感じるライダーは少なくない。上体が起きているために視界が広く、体の自由度が高いことに加え、タイヤが細くて重心が高いから、バイクを少し傾けてやるだけでも軽快に旋回していく。サスも柔らかいからバイク自体の動きがゆったりとしていて、これも安心感につながる。
オフロードの性能を追求して、サスのストロークが伸び車高が高くなりすぎたりすると、この乗りやすさは消えてしまうのだが、セローの場合はオフでの性能をソコソコに抑えているからバランスがいい。オフロードバイクの中でもオンロードでの走りやすさを確保しているマシンなのである。
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創意工夫して自分で楽しむ
サスストロークが極端に長くないため、シート高が低く抑えられていることもセローのポイント。しかし、体の大きなライダーにはこれがくせ者。ヒザの曲がりがきつくなるため、テスターの体格(身長178cm)だと長い時間のライディングでヒザがつらくなってくる。
シートも硬めなので体格が大きめのライダーは、もっとスポンジが厚くて柔らかいシートに交換した方がいいかもしれない。幸いセローには、オプションやアフターマーケットのパーツでいろいろなシートがラインナップされている。ハンドルも含め、いろいろと試して自分のポジションを作りあげていくことを楽しめばいいだろう。
ソフトなサスペンションは初期の沈み込みも多いから、体重のある人が乗ったり荷物をたくさん積んだりするような場合、リアサスペンションのイニシャルを調整して、正しい姿勢になるようにしておきたい。ただ、イニシャルの調整は車体の奥にあってちょっとやりにくいのが残念なところだ。
エンジンのパワーやトルクは十分。とても扱いやすいし高回転まで引っ張ってもストレスなく回っていく。ただ、残念なのは中速域からガラガラという感じのメカノイズが増えてきてしまうこと。エンジンのフィーリングに雑味が加わってしまうため、爽快感が今ひとつそがれてしまう。
低回転ではスロットルのレスポンスが良い。オフロードなどで元気に走ったりする時は思い通りに反応してくれて気持ちが良いのだけれど、渋滞にはまった時など、極低速からスロットルを開けると鋭くレスポンスし過ぎてしまうこともあった。ツーリングで疲れた時、渋滞にハマったりすると気になるかもしれない。もっとも自分のバイクとして乗り続けたら慣れてしまうくらいのレベルだが。
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全体としての完成度が非常に高い
今回の撮影では、ツーリング先で想定されるような比較的フラットなダートも走ってみたが、やはりこういう場所では250オフロードモデルの中でもセローは乗りやすい。足つきが良いのは滑りやすい路面で絶対的な強み。旅先で突然難しい悪路に遭遇しても、足をベタベタついたまま乗り切りことができるだろう。
総合的に見てみると、いくつか気になった点はあったものの全体的な完成度はとても高い。維持費や車格も含めて気軽に付き合うこともできる。はやりの“ラリー”とか“アドベンチャー”ではなく、あえて“ツーリング”という名前を付けたあたり、ヤマハの考えをうかがい知ることができる。イメージ先行の激しい装備ではなく、すべてが等身大で実用的ということなのである。
居酒屋に行くと「迷ったらコレ」という料理がメニューに載っていることがある。ツーリングセローは正しくアレだ。いろいろと迷った時に選んで後悔しないマシンである。
(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2100×805×1160mm
ホイールベース:1360mm
シート高:830mm
重量:133kg
エンジン:249cc 空冷4ストローク単気筒SOHC 2バルブ
最高出力:20ps(14kW)/7500rpm
最大トルク:20Nm(2.1kgm)/6000rpm
トランスミッション:5段MT
燃費:48.4km/リッター(国土交通省届出値)/38.7km/リッター(WMTCモード)
価格:61万9920円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
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