第34回:古都が呼んでいる(後編)
2020.01.25 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして![]() |
ガソリン大好きなアメリカンマッスルカー「ダッジ・バイパー」で目指すは京都! 片道450kmの旅の果てに記者が見たものとは? そして東京・武蔵野には無事に帰れたのか? 8リッターV10 OHVで行く、東京-京都無給油チャレンジの顛末(てんまつ)をリポートする。
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東海地方を一気に抜ける
(前回の続き)
遠州森町PAを出て天竜川を越え、いよいよ静岡から愛知に入る。ラリージャパンの開催エリアにも選ばれている新城を過ぎ、矢作川を越えると、長かった新東名ともここでお別れ。そこから先は伊勢湾岸自動車道だ。
今回の旅で使ったルート、最近はやりの高速道路ナンバリングでは「E1A」と言うらしいが、その中でも遠州森町を出てからの小1時間は、スケールのでかい風景の変化が本当に面白かった。山の合間を走っていたと思ったら、いきなりドーンと景観が開けたり、無機質な防音壁に外界から隔離されたり。
そして東海ICで防音壁が消えたと思ったら、今度は伊勢湾の工業地帯である。巨大なクレーンが居並ぶ埠頭に、ブサカッコイイ貨物船、化学コンビナートの巨大タンクと、不穏な煙突群。短時間ではあったものの、不健康な工場男子はその景色と鼻を突く化学臭を大いに楽しみ、そしておもむろにエアコンを内気循環に切り替えた。
木曽川の手前から対岸のナガシマスパーランドを見て、「東海最大のレジャーランドって、こんな工場地帯の中にあるの!?」と驚いたら、ちょうどその辺が愛知と三重の県境である。神奈川や静岡と比べて、愛知、短かったな。程なくして伊勢湾岸道も終わりを告げ、四日市JCTから新名神へ。そして新四日市JCTの手前で、ついに記者はその文字を目撃した。
「E1A 新名神 京都 大阪」
道路標識に記された“京都”の2文字に、もうそんなところまで来ていたのかと、ちょっと驚く。この、「もうそんなに走ったの?」という、あっけないような爽快なような不思議な感覚。これって、長距離が得意なクルマで遠乗りした時特有のズレ感というか、気持ちよさだと思うのだけど、皆さまいかがでしょう。
忍者の里で京都の味(?)を満喫
そんなこんなで、いつのまにやら旅も佳境。上洛(じょうらく)前の休憩にと、甲南PAにちょいと立ち寄ることにする。事前に道程を確認しておいたので大丈夫とは思うのだが、やっぱり「バイパーIoT化キット」(=スマートフォンとクレードルとUSBソケット)を組んで、ナビアプリを起動しておくことにしたのだ。高速道路で道を間違えたら面倒だし、下道に出た後であっても、路肩でスマホナビをセットしていたら交通の迷惑になるしね。
で、ついでに売店で飲み物を補給する。甲南PAは忍者の里としておなじみの甲賀市に位置しており、店内にもそれ系のお土産がずらり。しかしそれ以上に目を引いたのは、冷蔵棚にならぶ京都印のコカ・コーラだった。「いや、ここは滋賀県だろうがい」と、東京ディズニーリゾートと東京ドイツ村と新東京国際空港を擁する千葉県出身の記者が突っ込む。そしてあらためて、「思えば遠くに来たもんだ」と武田鉄矢的感慨にふけった。
かように旅情を呼び起こす京都コーラで一服しつつ、記者はここで、いったん甲南PAまでの走行距離をハジいてみることにした。「ここまで来たら京都に着くまで我慢しろよ」って話なのだが、どうにも気になることがあったのだ。首都高経由で東名高速に入るという“遠回り”も勘定に入れつつ、Googleマップで走行距離を計算。結果は424kmと出た。一方、現時点でのオドメーターは5万2511マイル。出発時は5万2263マイルだったので、ここまでの走行距離は248マイル。kmに換算すると399.1kmである。予想通り。やっぱり違う。なんとも微妙にズレている。
どちらが合っているのかについては議論もすまい。かたや世界を牛耳るGAFAの一角。こなた社外ホイールを履いたポンコツアメリカンである。そりゃGoogleが正しい。Googleさまが馬だと言ったら、鹿であろうと馬なのだ。というのは冗談だが、どちらが信頼できるかは言うまでもないだろう。まぁ、計測を全部スマホにまかせるのも味気ないので、面倒だけど今回は、2パターンの数字をもとに走行データを計算することにする。
予想外の大記録を達成
甲南PAを出てから走ること15分。高速区間最後の分岐となる草津JCTで京都・大阪方面にハンドルを切り、直後に現れる草津PAに滑り込む。なんでまたPAに入ったの? というと、適当に取り付けていたクレードルがポロリと落ちてしまったからだ。二度と外れないよう、万力のごとき力でツマミを締めて再出発。程なくして、ついに目的地最寄りの京都東ICにたどり着いた。
道程の9割を占める高速区間も、これで終わり。ここからはいよいよ京都市内である。で、料金所直後の分岐で早速びわ湖・比叡山方面へとミスコース。ナビを使っていてこのありさまなんだから、記者の方向音痴も大したものだ。
幹線道路を外れ、地元の方の視線を感じつつ裏路地を抜けて五条バイパスに戻る。あらためまして目指すは中京区吉野町。堀川五条の交差点でバイパーの長いハナ先を北に向けたら、ゴールまではあとわずか。堀川通りを走りながら、出発前にストリートビューで確認していたガソリンスタンドの姿を探す。やがて、並木の向こうに該当のスタンドを発見。通行人の切れ間を見て歩道を渡り、軒先にクルマを突っ込んで感動のゴールと相成った。
時計を見ると、時刻は12時10分。休憩含め6時間48分の冒険にしては、アッサリとした幕切れである。次来るときは、ウォークマンに『サライ』でも入れておくか。いや、『栄光の架橋』の方がいいかも。
せっかく京都まで来たのにしょうもないことを考えながら、休憩所にて缶コーヒーで一服。傍人の京言葉に無性に感動しつつ、記者はこれまでの走行履歴を整理することにした。もろもろの記録をもとにスマホの電卓アプリがはじき出した結果は、以下の通りである。
出発時のオドメーター:5万2263マイル(≒8万4143.4km)
到着時のオドメーター:5万2537マイル(≒8万4584.6km)
走行距離:441.2km(車載計準拠)/472km(Googleマップ準拠)
給油量:43.82リッター
参考燃費:10.07km/リッター(車載計準拠)/10.77km/リッター(Googleマップ準拠)
はんなり気分が、一気に吹っ飛んだ。
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燃費を気にするのもほどほどに
あまりのことに、しばし電卓アプリを凝視する。真っ先に思い浮かんだのは計算ミスだが、2度ほどハジき直しても結果は同じ。次いで記録メモの取り間違いを疑ったが、写真に写るオドメーターや、レシートの数字との間に齟齬(そご)はなかった。思わず天(実際には休憩所の天井)をあおぐ。
まじ? まじ? 8リッターV10 OHVでリッター10km超えって、これ、すごくないか?
正直なところ、草津PAで燃料計の針が4分の1を指していた段階で、無給油チャレンジについては勝利を確信していた。が、燃費が2ケタを記録するとはまったく予想していなかったのだ。そりゃそうだろう。だってバイパーですもの。しかし結果は上述の通り。もし東京オリンピック・パラリンピックに「アメ車でエコラン」という競技があったら、ぜひ記者を日本代表にしていただきたい。メダル獲得は間違いなしですぜ?
……とはいえである。今回のエコランが非現実的なものであったことは認めねばなるまい。エアコンやオーディオは遠慮なく使わせていただいたが、やっぱりアクセルの踏み方には無理があったと思うのだ。
前回も述べたことなのだが、なにせこのクルマ、トップギアだとガスペダルに足を掛けているだけで100km/hなのである。ほぼ6時間、同じような負荷、同じような角度で足を据え続けるさまを想像していただきたい。シビれますよ、比喩的な意味じゃなくて。旅の終盤に2度、3度とPAに駆け込んだのは、そうした理由もあってなのだ。
それにである。こんなクルマに乗っといて、ひたすら速度計&燃料計とにらめっこしてて何が楽しいか? 楽しかろうはずがない。今回の記録は、ひとえにわが右足の犠牲と尋常ならざる忍耐によってなし得たものなのだ。地球環境が気になる向きも、エコランはほどほどに。それが今回のツアーで得た教訓である。
明けて2019年12月22日。古都での1泊を自分なりに楽しませていただいた記者は、復路ではあまりエコランは気にせず、途中で1回給油するくらいの気分で帰路についた。しかし同日の空模様は雨。そしてわが相方はダッジ・バイパーで、タイヤはD1ドライバー御用達の「トーヨー・プロクセスR888R」である。結局、記者はアクセルを踏み込むことなく、前日以上に暴れるバイパーをなだめすかしつつ、450km先のわが家へと戻る羽目になった。
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やればできる子(?)なのよ
功徳を積んでいなかった前世の己を恨みつつ(もちろん現世でも積んでない)、雨の中をひた走ること6時間。あっちでズルズル、こっちでズリズリしつつ、どうにか武蔵野へと帰還を果たす。前日の夜明け前に訪れたのと同じスタンドでガソリンを給油していると、「……俺、ホントに京都行ったのかな?」と、なんとも不思議な気分になった。
もちろん京都に行ったのは紛れもない事実であって、それはカメラの中身とオドメーターの進み具合と、バイパーが食ったガソリンの量が証明している。そんなわけで、復路での走行データは以下の通りである。
出発時のオドメーター:5万2537マイル(≒8万4584.6km)
到着時のオドメーター:5万2815マイル(≒8万5032.2km)
走行距離:447.6km(車載計準拠)/475km(Googleマップ準拠)
給油量:53.81リッター
参考燃費:8.32km/リッター(車載計準拠)/8.83km/リッター(Googleマップ準拠)
最後に、往路・復路を合算した走行データを紹介させていただく。
出発時のオドメーター:5万2263マイル(≒8万4143.4km)
到着時のオドメーター:5万2815マイル(≒8万5032.2km)
走行距離:888.8km(車載計準拠)/947km(Googleマップ準拠)
給油量:97.63リッター
参考燃費:9.10km/リッター(車載計準拠)/9.70km/リッター(Googleマップ準拠)
以上が、今回の旅の記録のすべてである。
過去の給油履歴を見ると、燃費の高記録はなべて6.5km/リッター程度だった。それを今回、大きく更新したのだ。さしものバイパーも、旅程の9割が高速道路で、しかもろくにエンジンを回さなければこれくらい走るのだ。「バイパーは欲しいけどガソリン代が気になる」という皆さん(居るか?)、心配ご無用。遠慮なく清水の舞台からジャンプしてください。
ただし、普段使いでの実燃費がどのようなものになろうと、当局は一切関知しないので、あしからず。
(webCGほった)

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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