ランボルギーニ・ウラカンEVO(4WD/7AT)
スーパースターの日常 2020.02.14 試乗記 640PSにパワーアップしたV10エンジンをリアミドに搭載する「ランボルギーニ・ウラカンEVO」。富士スピードウェイ・レーシングコースでの全開試乗に続き、公道で初試乗。進化した4WDスーパースポーツの日常にフォーカスを当ててみた。数値では表せないV10の余裕と豊かさ
房総半島の山あいのパーキングスペースで、ランボルギーニ・ウラカンEVOはうずくまるように止まっていた。2019年初夏に富士スピードウェイの試乗会で圧倒的なパフォーマンスに感激して以来の再会だ。運転席に潜り込むように乗り込んでスターターボタンを押すと、5.2リッターのV型10気筒自然吸気エンジンが「フォン!」とひと吠え。猛牛は、甲高い咆哮(ほうこう)で歓迎してくれた。
「ストラーダ」「スポーツ」「コルサ」の3つのドライブモードは、エンジン始動時にはデフォルトでストラーダにセットされる。シフトパドルを操作しDレンジに入れ、ストラーダのまま走りだす。
この手のスーパースポーツを試乗する際には、パフォーマンスの一端を知るために、どうしてもがんばってアクセルペダルを踏みがちだ。けれども、今日に関してはそんな焦りに似た気持ちはない。なぜなら富士スピードウェイで怒涛(どとう)の加速も、240km/h近い高速域での安定感も、そしてそこからのフルブレーキングも体験しているからだ。実力は知っているから、リラックスした気持ちでアクセルとハンドルを操作することができる。
するとどうだ。カンエボ(と呼べるほど親しい間柄になった気がする)は、50km/hでワインディングロードを流しても楽しいスポーツカーだった。まず、5.2リッターのV10の音とレスポンスがいい。低回転域からトルクはブ厚く、アクセルペダルにほんのわずかに力を入れるだけで反応するレスポンスが楽しい。
ターボの技術は長足の進歩を遂げて、もはや「ターボラグ」という言葉は死語になった感がある。けれども大排気量の自然吸気エンジンの霊験はあらたか。タイムを計れば優れたターボエンジンとの差はないのだろうけれど、カンエボの自然吸気V10には数値では表せない余裕と豊かさがある。矛盾する表現ではあるけれど、「ゆったりした速さ」が心を震わせる。たとえて言うなら、アナログレコードの音と、デジタル機器の音の違いのようだ。
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理詰めでつくられた緻密さ
こんな具合に、エンジンの味わいをじっくり吟味できるのは、前述の通り富士スピードウェイで全開にした経験があるからだ。もしあの経験がなければ、どれだけ速いのか、どれくらい浮世離れしているのか、非日常を垣間見たくなる。けれども超絶の加速はもう味わっているから、今日はスーパースポーツの日常にフォーカスできる。
ワインディングロードを軽く流す程度だと、エンジン回転数はせいぜい3000rpm程度。ホントはここから先がおいしくて、「クォーン」と盛り上がって8000rpmに向けて「ギューン」と昇りつめる。でもそこは富士スピードウェイで体験して知っているから、3000rpmまでのドライバビリティーを味わうことに専念できる。すると、カンエボはハッとするような外観から想像するよりも、はるかに理詰めでつくられた緻密なマシンであることがわかる。
アイドル回転付近から豊穣(ほうじょう)という言葉で表現したくなるトルクを発生し、3000rpm以下でもアクセル操作にしっかりと反応する。加えて、やや演出過剰だとは感じるけれどエキゾーストノートは雑味のない澄んだものだから気持ちがいいし、前述したように得も言われぬ豊かさも感じられる。だからこのクルマで軽く流すのは、決して退屈な作業ではない。
ガツンと踏んづけていたサーキットではわからなかったけれど、ブレンボ製のカーボンセラミックブレーキのセッティングが丁寧だということもわかる。低速で扱っても、かっくんブレーキにはならず、踏力に応じてじわじわと制動力を発揮してくれる。240km/hからの驚異の減速Gを思い出しながら、でも日常の使い勝手もしっかりと考えられていることに納得する。
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ボディーサイズを忘れさせる
流す程度のスピードであってもドライブモードをスポーツやコルサにセットすると、エンジンは高回転域をキープするようになり、音もたけだけしくなる。とはいえ、房総半島の里山でバリバリいわすのもアレなので、ストラーダで流す。カンエボは、サーキットでは速いクルマだけれど、里山では利口なクルマだ。
利口なクルマだと感じるもうひとつの理由は、想像していたよりもはるかに一般道での乗り心地がいいことだ。もちろん640PSを受け止めるために、足腰はしっかりと鍛え上げられている。だから路面からのハーシュネスはびしっとくる。けれども、ただ硬いだけでなく、人間が膝を折り曲げてショックを吸収するように、カンエボの足まわりもしっかりと動いて衝撃を緩和していることが伝わってくるのだ。
ボディーに巌(いわお)のような剛性感があることも、乗り心地のよさにつながっている。ボディーがねじれたり歪(ゆが)んだりすることがないから、路面からの衝撃がだらだらと続かない。そして一度縮んだ足まわりがスッと伸びて、ボディーをフラットな姿勢に戻す。「ショックを受け止める」→「元に戻る」の一連の動きが素早くて、統制がとれているから、乗り心地が整っていると感じるのだ。
カンエボには「ランボルギーニ・ディナミカ・ヴェイコロ・インテグラータ(LDVI)」というシステムが備わる。アクセルやハンドル、ブレーキの操作、ドライブモードから、ドライバーがどんな操縦をしているかをシステムが認識。そしてアクティブサスペンションやタイヤにかかる駆動力から、車両がどんな状態に置かれているかを把握し、次に起こることを先読みしながら適切な車両セッティングに変更するのだ。
正直なところ、一般的なワインディグロードを走る程度だとLDVIや四輪操舵、四輪トルクベクタリングなどのハイテクがどれだけ効果を発揮しているのかはわからない。ただ、タイトなコーナーをくるっと難なくクリアすることで、全幅が2mに及ばんとするボディーサイズを忘れさせる。
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サーキット走行をセットに
富士スピードウェイで感心したことのひとつに、スポーツモードで試した定常円旋回がある。前後輪のトルク配分、左右輪のトルク配分、四輪操舵などを総動員して、旋回時にドリフト状態をキープしてくれるというものだ。あのとき、助手席に座った高木虎之介さんのアドバイスに従うと、大パワーで後輪を滑らせてコントロールする興奮を味わうことができた。
もちろん一般道では、通称“ドリフトモード”を楽しむことはできない。ただし、「あの味」を知っているのと知らないのとでは、一般道でのドライブの心持ちも大違いだ。あれだけの運動神経を備えたマシンを駆っていると思えば、おのずと気分は高揚する。
それは、加速性能や操縦性能についても言える。たとえETCゲートをくぐった後のほんの1.5秒しか加速を味わえないにしても、サーキットでその先を知っていればむちゃする必要はない。「ここからスゴいことが起こるんだ」と想像しながら、“エア加速”で楽しめる。ワインディングロードでも同様で、無理にタイヤを鳴かそうとすればとんでもない速度域に達してしまうのがカンエボだ。
というわけで、もしカンエボを購入する幸運に恵まれたのなら、それは信頼できるインストラクターについてのサーキット走行がセットであるべきだと感じた。一般道でこのクルマのパフォーマンスを満喫するのは現実的ではない。でも、サーキットで非日常の世界を体験しておけば、あたりまえの乗り方でもスーパースポーツが楽しめるのだ。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ランボルギーニ・ウラカンEVO
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4520×1933×1165mm
ホイールベース:2620mm
車重:1422kg(乾燥重量)
駆動方式:4WD
エンジン:5.2リッターV10 DOHC 40バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:640PS(470kW)/8000rpm
最大トルク:600N・m(61.2kgf・m)/6500rpm
タイヤ:(前)245/30ZR20 90Y/(後)305/30ZR20 103Y(ピレリPゼロ)
燃費:13.7リッター/100km(約7.2km/リッター 複合モード)
価格:3282万7601円/テスト車=3929万4831円
オプション装備:パールエフェクト<ボディーカラー>(159万6540円)/スマートフォンインターフェイス&コネクト(40万6780円)/カーボンセラミックブレーキ&ブラックキャリパー(15万0590円)/トランスペアレントエンジンボンネット&フォージドコンポジットエンジンベイ(67万7820円)/カーボンスキンパッケージ(45万1880円)/Aesir 20インチ鍛造アルミホイール<ダイヤモンドカット>(37万6640円)/タイヤ空気圧モニター<周波数315MHzハイレベルバージョン>(11万8140円)/ランボルギーニサウンドシステム(42万1740円)/マルチファンクションステアリングホイール<アルカンターラ>(11万2970円)/アンビエントライトパッケージ(12万8150円)/フロアマット<レザーパイピング+ステッチ>(7万5350円)/オプショナルステッチ<ステアリングホイール>(3万0140円)/コントラストステッチ(10万5490円)/電動シート+シートヒーター(36万1460円)/スタイルパッケージ<ハイグロスブラック>(22万5940円)/EVOトリム<スポルティーボアルカンターラユニカラー>(34万6390円)/ウインドスクリーンフレーム<ハイグロスブラック>(4万5320円)/防げんミラー(12万0450円)/リアビューカメラ(24万1010円)/刺しゅう入りヘッドレスト(11万2970円)/アドペルソナムエクステリア(40万6780円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:3414km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:278.7km
使用燃料:40.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.8km/リッター(満タン法)/7.1km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。